(Q) 心エコーによる心筋重量の測定
現在、当院ではMモードで12 mm以上を心肥大と取っていますが、医師の要望でMモードで心筋重量を計る方法を検討しています。しかし、求心性心肥大では値は低くなり、心拡大でも異常値となることがあります。色々文献等を調べますが良い方法が見つかりません。また、正常値も正確にわかりませんので、できましたら教えて下さい。私自身としては、心肥大を見るのには心筋重量を測るより現在の方法が良いのではと考えています。他の施設では心肥大の評価はどのようにしているのかも知りたいので、分かりましたらお教え願います。(大分県 臨床検査技師)
(A)心肥大の観察として最も多く使用されているのは、ルーチンの検査では左室心筋の厚さを計測し中隔側、後壁側ともに12 mm以上を肥厚とするものです。一般的な心エコーの検査としてはこれで十分と思われますが、より詳しく心の状態特に心筋重量(体積)を計測する目的で、MモードまたはBモードを使用して、心筋重量が計測される場合があります。ルーチンの検査で行われる場合には前者が、特に興味をもった循環器の専門家がいる施設では後者が行われてます。心筋をmassとして計測すると、同じ心筋の厚さでも心腔が大きいほどその重量(体積)が大きくなり、肥大をより評価しやすくなる点で有利と考えられます。ただし実際に計測するとわかる通り、測定誤差が大きい点が問題とされ、断層像で計測される方法の方が推奨されていますが、煩雑な点が問題です。いくつかの論文を上げますので参考にしてください。
Daniel SR, et al.: J Am Coll Cardiol 1988; 12: 703-8.
Collins HW, et al.: J Am Coll Cardiol 1989; 14: 672-6.
Hammond IW, et al.: J Am Coll Cardiol 1986; 7: 639-50.
(2000年11月30日 谷口 信行 自治医大 臨床検査医学)
(Q) クレアチニン・クレアランス算定時の標準体表面積(1.48m2)について
日本人の体型が大型化している今日、1.48m2という標準体表面積は疑問が有ります。また、国際化が進んでいることも有り、人種や、出身国が日本以外の方に対してクレアチニン・クレアランス算定時に1.48m2をそのまま適用することに疑問を感じております。そこで質問ですが、
1.今後この値が見直される可能性があるのか
2.各国の標準体表面積値はいくらなのか
3.日本人であっても年齢別(20〜40歳台と、50〜70歳台など)別々の値を適用する方向にあるのか、
以上の点について御教示ください。(福井県 検査技師)
(A)まだ、最終報告がなされてはいなかったと思いますが、「日本腎臓学会腎機能(GFR)・尿蛋白測定委員会」による中間報告をもとに、回答させていただきます。
そもそも、体表面積の補正は、体表面積とクリアランス値が相関することから、腎機能の評価に用いられてきました。ご指摘のように我が国では、標準体表面積として1.48が用いられてきました。しかし、この体表面積は、1941年の藤本らの報告以来長年にわたって用いられていますが、最近の日本人(25歳)の体表面積は、男子で1.765、女子1.505となっており、体表面積で補正する場合は、国際的に用いられている1.73を用いることが多くなってきています。しかし個人の体表面積の増減とクリアランスの関係は報告されていないので、個々の症例の腎機能推移を見る際には、体重補正は必要ない、ともいわれております。ただし、小児においては、生後、急速に増加するが体表面積補正を行うと、2歳以降では成人に一致することから、成長期にある小児に対しては、体表面積補正(1.73を使用)は必要であるとされています。中間報告では、
1. 成人患者のクリアランス値の体表面積補正は、群間比較などの際には必要であ
るが、通常は用いなくとも良い。
2. 日本人の標準体表面積は、国際的に用いられている1.73 m 2とする
3. 15歳以下の小児では体表面積補正をする。
ということが、提案されています。
(2000年12月28日 矢内 充 日本大学臨床病理 臨床検査専門医、日本透析医学会認定医)
(Q) 糖尿病患者の神経伝導速度測定の質問
糖尿病患者で神経伝導速度を測定する際、1)どの神経を測定したらよいのでしょうか。また、MCV、SCVどちらで測定するのが望ましいのでしょうか。2)糖尿病患者では、速度、波形どのような変化が認められるのか。また、どの位の重症度で変化が認められるのか。以上について教えて下さい。(岐阜県 臨床検査技師)
(A)1) どの神経を測定したらよいのでしょうか。また、MCV、SCVどちらで測
定するのが望ましいのでしょうか。
基本的には下肢末梢から病変が進行すると考えたほうがよいと思います。というのは、体幹から遠いところほど障害されやすいからです。そこで、sural nerve SCVがもっとも影響を受けやすいようです。もちろんtibial nerve MCVも同時に測定して変化を捉えておくのがよいでしょう。
2) 糖尿病患者では、速度、波形どのような変化が認められるのか。また、どの位の
重症度で変化が認められるのか。以上について教えて下さい。
糖尿病患者では初期には最高速度のNCVは低下しません。ところがMCVなどでは多相性となります。つまり、障害された神経は速度が遅く、まだ障害されていない神経はほぼ正常の速度を保つからです。したがって多くの速度を持つ神経が反応して複雑な波形を形成することになるわけです。
最高速度を測定する基本的NCV測定法では初期の以上は捕らえられませんが、反応時間(持続時間)が延長することなどを十分に捕らえることが出来れば初期の異常を捕らえることも可能です。
(2000年12月6日 鳥取大学医学部臨床検査医学 下村登規夫 臨床検査専門医)
(Q) 高HDLコレステロールについて
健康診断でHDLコレステロールが120mg/dl以上の人が931人の女性の中に7人いました。HDLコレステロールの基準値には上限が設定されているときと上限がない場合とがありますが高HDLコレステロールの臨床的意義はどうなっているのでしょうか? (千葉県 臨床検査技師)
(A)諸外国で行われてきた多数の疫学調査では、HDLコレステロール値が高いほど動脈硬化症性疾患の発生が少なく、かつ長寿命であることが示されています。したがって国際的には、HDLコレステロールは高ければ高いほど良く、したがって上限値も設定する必要がないと理解されています。ところが最近になって、諸外国に比べわが国には高HDLコレステロール血症例の多いことがわかり、その原因がHDL代謝に重要な意味を持つコレステロールエステル転送タンパク(CETP)の欠損であることがわかりました。しかも、このCETP欠損例では寿命が少し短いことを示す疫学調査の結果が出てきました。
ただし、CETP欠損症は諸外国での報告例がほとんどなく、わが国に固有の遺伝子異常と思われます。そのためもあって、疫学調査の報告もまだ1つしかなく、結論を出せるような状態にはありません。かつ、高HDLコレステロール血症の総てがCETP欠損によるものとも限りません。したがって当分の間は、HDLコレステロールの上限値は定めることができませんし、その必要もないように思われます。
(2000年12月05日 岡田正彦 新潟大学医学部検査診断学教授)
(Q) 透析後のTP低下について
私の質問について、透析後に除水され、濃縮されTPは上昇する患者が理論的にマッチしていることは理解できました。それに対し、極まれではございますが、低下したりする患者がいることがあります。この患者はどう説明できるのでしょうか、教えてください。(臨床工学技士)
(A)再度のご質問ありがとうございます。
ご指摘のように、透析後にTPが低下する患者さんも現実にはいらっしゃいます。このような患者さんは、以下のように考えることが出来ます。
1.血管内の水分量(循環血液量)が透析前よりも増加している。
残存腎機能がまだ保たれており、除水量があまり多くないときに生じやすいのですが、透析液のナトリウム濃度が、血清よりも若干高めに設定されているため、血管内外の浸透圧格差が大きくなります。そのため、透析中に細胞外液や間質からの水の流入(plasma refilling)が除水量(すなわち、血管内より透析液に移動する水分量)よりも大きくなって血管内の水分量が透析前よりも増加するため、蛋白濃度はむしろ希釈され、TPが低下して見える、ということは考えられます。また、同様のことは、生食の補液、高張性食塩水(10%NaClなど)の注入が透析終了直前などに行われたときなど、にも起こり得ます。
2.サンプリングの問題(人為的な希釈)
統制後の採血はどの様に行っているのでしょうか?もし、動脈側の穿刺針からの採血であれば、回収中の静脈側に返血される生理的食塩水の一部が再循環して、検体の中に混入する、ということも考えられますし、返血終了後の静脈側の穿刺針から、ということであれば、注射器による十分なポンピングを行っていないために、やはり、洗浄用の生食の混入の可能性、を考えなくてはなりません。 上記、1、2、どちらの場合もおそらく、TPが低下する場合は、ヘマトクリットも低下しているはずです。もし、ヘマトクリットの低下を伴わない、という場合には、分析上の問題も考えなくてはならないでしょう。
(2000年11月30日 矢内 充 日本大学臨床病理 認定臨床検査医、日本透析医学会認定医)
(Q) 全血凝固時間廃止の説明
手術前の検査から全血凝固時間を除いて、APTTに替えると言う話があるのですが、 麻酔科の医師が 「それは困る」と言ってきました。どうにかして、医者を説得したいのですが、どうしたらいいのでしょうか? 時代の流れからなんて言えないですよね。参考になる資料、文献などありましたら、紹介していただきたいのですが。(不明)
(A)麻酔科の医師が「何が困るのか」、何の目的で全血凝固時間を要求するのか理由を聴いて下さい。その医師が「全血」という言葉だけを捉えて、検査の目的の意味を理解していないのではないでしょうか。麻酔科の医師の理由が漠然としたものであれば、全血凝固時間の以下の検査手順をまずは具体的に説明すべきでしょう。
全血凝固時間の場合、注射器を穿刺し、血液が注射器に流入した瞬間に時間の測定を始めます。血液を約3ml採取した後、あらかじめ保温しておいた試験管2本に各々1ml入れ、恒温槽中に3分間静置後、1本ずつ凝固するまでの時間、すなわち流動性が消失するまでの時間を測定します。以上の手順から判るように、手技の影響を受け易く、捉えている時間も大雑把なものです。主に内因系の凝固異常を捉えていますが、第VIII因子、第IX因子が10%以上の軽症例では正常値を示すことがあります。そして外因系の第VII因子欠乏症では正常になります。災害時などの試薬の入手が不可能な場合を除いて、感度と再現性のことを考えれば、APTTの代わりに敢えて全血凝固時間を行う利点はありません。もし全血凝固時間の問題点を指摘した文献を探すのであれば、この検査に代わって台頭してきた部分トロンボプラスチン時間(PTT)の当初のものから探されるとよいでしょう。
例えばLangdell,R.D. :Effect of antihemophilic factor one-stage clotting time, J.Lab.Clin.Med.,47:637-647,1953、もしくはRodman,N.F.: Diagnosis and control of the hemophiloid states with the partial thromboplastin (PTT) test, Am.J.Clin.Path.,29:525-538.1958を調べてみてください。
(2000年11月30日 腰原 公人 東京医大臨床病理 認定臨床検査医)
(Q) 後天性第VIII因子欠乏症患者のAT、α2PI低下について
後天性第VIII因子欠乏症の患者のインヒビター出現例において、ATIII、
α2PIが低下が見られました。これは、どのように解釈すればいいのでしょうか?
また、一般的におこり得ることなのでしょうか?(大阪府 薬剤師)
(A)第VIII因子に対する自己抗体が出現する基礎疾患としては以下のものが上げられます。慢性関節リウマチ、分娩後、悪性疾患(リンパ性白血病、悪性リンパ腫、固形腫瘍、薬剤性(ペニシリン、アンピシリン、フェニトイン、クロラムフェニコール)SLE、その他の自己免疫性疾患(側頭動脈炎、皮膚筋炎、潰瘍性大動脈炎、筋無力症、多発性筋炎、シェーグレン症候)、皮膚疾患(乾癬、天疱瘡、剥離性皮膚炎、遠心性環状紅斑)、気管支喘息、サルコイドーシス、呼吸不全、輸血、糖尿病、肝炎、高グロブリン血症、糸球体腎炎、多血症などがあります。また半数近くは基礎疾患が不明です。これらの疾患で出現するインヒビターはIgG4が優位で、抗原1分子に抗体1分子が結合し、抗原複合体は格子形成、高分子化をきたしません。機能的に単一に結合し、その活性を抑制しています。第VIII因子活性低下のみの現象では影響が及ばないAT、α2PIまでも抑制することは考えられません。むしろ肝機能障害や消費性の低下が基礎疾患から起きている可能性を考えるべきでしょう。
(2000年11月30日 腰原 公人 東京医大臨床病理 認定臨床検査医)
(Q) TTとへパプラスチンについて
トロンボテストがPIVKAの影響を受けて、ヘパプラスチンテストが影響を受けない理由と、トロンボテストがどのような形でPIVKAの影響を受けるのかについて教えてください。(広島県 臨床検査技師)
(A)経口抗凝血薬は肝でのビタミンKの代謝を阻害することによって、ビタミンK依存性の4つの凝固因子のN末端ペプチド鎖におけるγ−カルボキシグルタミン酸(Gla)の形成を阻害し、Gla形成以前の前駆段階の物質(protein induced by vitamin K antagonist, PIVKA)が蓄積します。PIVKA IIは、Xaによりトロンビンへの活性化を受けません。しかも正常な因子の作用と拮抗することで、抗Xaの作用を持つ異常プロトロンビン分子です。よって検体中のII,VII,X因子の凝固活性を総合的に評価するトロンボテストでは影響が見られます。
トロンボテスト試薬は内因子系を活性化する血小板第3因子(リン脂質)とウシ脳組織トロンボプラスチン試薬を混合し、これにウシの硫酸バリウム吸着血漿(I,V,VIII,XI,XII因子源)、カルシウムが含まれています。へパプラスチンテスト試薬はトロンボテスト試薬中のウシ脳トロンボプラスチンの代わりに兎脳トロンボプラスチンを用いており、これはPIVKAのX因子阻害作用の影響を受けにくいものです。さらに試薬量に対する検体量が5分の1になるために、検体中のPIVKAの影響は一層出難くなります。
(2000年11月30日 腰原 公人 東京医大臨床病理 認定臨床検査医)
(Q) DICにおける血小板とTATの相関
DICなどで、血小板の減少、TATの増加が起こる時、このふたつに相関関係があるのでしょうか。私は動物の実験で、ラットDICモデルをおこなっているのですが、きれいな相関関係がありません。ヒトについてはどうなのかと思って質問しました。(東京都 臨床検査技師)
(A)DICは感染症、悪性腫瘍、組織損傷、血管病変、ショックなどの様々な基礎疾患によって惹起されます。血小板の減少に関しては、臨床の場合は骨髄造血能、脾腫、出血性の消費などの要因も考慮しなければなりません。凝固活性化を鋭敏に捉えるTATなどの分子マーカーは、血小板数が減少する前のDIC準備状態ですでに動き出します。さらに病態が進行して、消費性凝固障害が加わったいわゆるDICの状態になって、血小板の減少が始まります。したがってこのステージ以降に、血小板数とTATの逆相関の検討できるわけです。しかしながら臨床の現場では、この時点ではすでに治療が開始されています。
Gandoらによって基礎疾患として重症感染症の関与が多いSIRS(systemic inflammatory response syndrome:全身性炎症症候群)においては、DICスコアとTATの相関が報告されています(superscript: 1)(superscript: ))。DICスコアは血小板数、FDP、フィブリノゲンといったマーカーを用いたスコアリングです。人間ではありませんが、三重大学第二内科の和田英夫先生のヒヒでの大腸菌(エンドトキシン)の投与実験では、投与24時間後に著明な血小板・フィブリノゲン・FDPの変化の見られたDIC群において、TATは投与2〜12時間後に著しく上昇したとのことです(superscript: 2))。
参考文献)
1) Gando Skameue T et al.:Participation of tissue factor and thrombin in posttraumatic systemic inflammatory response syndrome. Crit Care Med,25:1820−1826,1997.
2) 和田英夫:第44回SCC学術報告 subcommittee on DIC, 1998年度国際血栓
止血学会SCC 報告集:114−123,1999.
(2000年11月30日 腰原 公人 東京医大臨床病理 認定臨床検査医)
(Q) 乳児におけるヘパプラスチンテスト
当院では乳児の一ヶ月検診の際、ヘパプラスチンテストを実施しております。その際、足のかかとからヘパリン処理済の毛細管に採血しております。ヘパリン採血による血漿を用いて、アズウェルのオプション2で測定しています。この時検量線は、クエン酸ナトリウム採血による血漿用のものを使用いています。試薬はロシュ・ダイアノスティックス株式会社の複合因子測定試薬「RD」です。
先日ドクターから検査値が不安定であるという指摘を受けました。考えられる原因はヘパリン採血か、組織液の混入です。ヘパリン採血による血漿とクエン酸ナトリウム採血による血漿では、どのような違いがあるのでしょうか。また、ヘパリン採血はどのような影響を受けるのでしょうか。検量線はクエン酸ナトリウム採血による血漿用のものを使用したのでよいのでしょうか。現在、全血による測定を検討中です。他に良い方法があれば教えていただきたく思います。(愛媛県 臨床検査技師)
(A)ヘパリンはATの有する抗トロンビン、抗Xa作用を促進させるものです。すなわち活性型凝固因子を直接阻害しています。それに対してクエン酸ナトリウムは、血液凝固に必須な血液中のカルシウムと結合しその働きを抑えることで、抗凝固作用を発揮しています。3.2%クエン酸ナトリウムを用いて採血された検体とカルシウムが含まれているヘパプラスチンテスト試薬を混和することで、凝固が開始されるわけです。ヘパリン処理された毛細管での採血では、抗トロンビン作用が残ります。また組織液が混入しても結果は不安定になります。3.2%クエン酸ナトリウムを用いた静脈採血法が最も適しています。静脈採血ができない場合は、乳児の足蹠をメスで切開して、絞り出さずに毛細管を用いて採取しなければなりません。
(2000年11月30日 腰原 公人 東京医大臨床病理 認定臨床検査医)
(Q) 血液凝固検査で、動脈血を使用しない理由
血液凝固検査では、動脈血は一般的に使用されないということですが、どうしてなのでしょうか。(埼玉県 臨床検査技師)
(A)血液凝固検査に動脈血を使っていけない理由はありません。しかし動脈血採血は、静脈血採血に比較し痛みや出血の危険、動脈血栓の危険があり侵襲性の高い手技と言えます。従って、静脈血採血が可能であれば、あえて侵襲性の高い動脈血採血は行わないということなのではないでしょうか。
(2000年11月30日 細川 直登 日本大学臨床病理 臨床検査専門医)
(Q) 高Alp血症症例の診断
下記の検査を実施したのですが、診断に苦慮しています。GOT 49、GPT 24、ALP 380、γ-GTP 108、TG 221、血小板数38.6、蛋白分画(βグロブリン)12.1%、ALPアイソザイム(ALP1 6.5%、ALP2 64.2%、ALP3 29.3%)、腹部エコー異常なし、症状は特になし。以上のデータより考えられる疾患をご教示下さい。(不明)
(A)当該検査施設の基準範囲が不明のためALPなどは判断しにくい面があります。基準範囲の施設間差の大きい項目は範囲をお書き添えいただくと助かります。また、小児と成人では大きく違うことがあるため、このデータは成人のものと仮定します。一般的には、GOT(AST)は軽度の上昇、GPT(ALT)は上昇せず、γ-GTP (γ-GT)が上昇しておりALPも軽度の上昇をしていると考えると、軽度の胆汁うっ滞型の肝障害の存在が示唆されます。他のデータは、今回の項目どうしで組み合わせて特定の病態を判断するものではないと考え、単独で解釈します。
TGは食事の影響を著しく受けるため空腹時採血かどうかで判断が異なります。空腹時なら高いと判断できる値です。血小板は若干高めですが正常上限を少し上回るくらいの値と考えられます。
蛋白分画はTPが示されなければ判断は出来ません。また何故βだけなのか理解に苦しむ面もありますが、あえてTPが正常と考えるなら正常上限ほどでしょうか。
ALPアイソザイムはもとのALPがかなり高値でなければ臨床的には検査する価値はないのではないかと思われますが、これもあえて判断するなら、ALP2 (肝型)がALP3(骨型) に比して優位になっており成人だとしても軽度ですが胆汁うっ滞を示唆する所見とも解釈できます。
以上が今回お示しのデータから予想できることであり軽度の胆汁うっ滞がある可能性が示唆される以上のことは判断できません。従って疾患を明示することは困難で、あえて言えば軽度の胆汁うっ滞をきたす疾患の多くが当てはまると考えられます。
検査の解釈は、検体がサンプリングされたときの条件により変わるものや、様々な検査の組合せにより行うべきものが多数あります。また検査によって疾患の診断をする際は、予想される疾患の検査前確率が検査後の確率に大きく影響します。また予想される疾患に対する検査の感度と特異度を考慮し検査の項目を選択することが重要です。従って検査前にある程度鑑別疾患を予想し、その鑑別に有用な検査を選択することが必要になります。
残念ながら今回のご質問のようにかなり断片的なデータからは病態をあまりシャ
ープに描き出すことは出来ないとご理解下さい。
(2000年11月30日 細川 直登 日本大学臨床病理 臨床検査専門医)
(Q) VMAの異性体について
新生児代謝異常スクリーニングの精度管理しておられるDr. より「バニリルマンデル酸(VMA)には異性体が存在しているが生体内での比率を教えてほしい」との質問を受けました。血液中、尿中のどちらでも構いませんので教えてください。(東京都 臨床検査技師)
(A)VMAの基となる生体内物質であるエピネフリン(アドレナリン)はD型、L型の異性体がありますが、自然界にあるエピネフリンはL型です。従って、その代謝産物であるVMAもL型です。
文献; ハーパー生化学 原書19版 p.542 (丸善)
(2000年11月30日 細川 直登 日本大学臨床病理 臨床検査専門医)
(Q) アナフィラキシーショックに特異的な検査項目
臨床医からアナフィラキシーショックに特異的な検査項目は何かという質問
があり、
(1)血清IgE
(2)ヒスタミン遊離試験
(3)何らかのサイトカイン
(4)血中ヒスタミン濃度
等を候補として考えましたが、(1)(2)はアレルギーの検査として有効であってもアナフィラキシー状態には必ずしも特異的ではなく、また(3)に関してはその様なサイトカインが存在するか否か不明で、(4)に至っては測定可能かどうか分かりません。どのように回答すればよいでしょうか。(長野県 臨床検査医)
(A)アナフィラキシーはIgE抗体の関与するI型アレルギーによって生じ、その1症状として現れる蕁麻疹、血管浮腫は時に重篤な経過をとることがあります。
アナフィラキシーは、次のような経過で発症します。IgE抗体を産生しやすい遺伝的体質を有する人(≒アトピー体質)が抗原物質に暴露されると、感作されてこれに対するIgE抗体(=特異的IgE抗体)を産生することがあります。特異的IgE抗体は高親和性IgEレセプターを介して肥満細胞に結合します。このような状態で再度抗原に暴露されると、肥満細胞表面のIgE抗体が抗原によって架橋され、細胞が活性化されます。その結果、ヒスタミン、ロイコトリエン等のケミカルメディエーターが放出され、血管透過性亢進、毛細血管拡張、粘液分泌亢進、平滑筋攣縮などが惹起されます。これらの現象による症状が全身におよび、血圧低下や呼吸困難など重篤化したものをアナフィラキシーと称します。アナフィラキシーは抗原暴露後数分から30分以内に生じます。
前置きが長くて恐縮ですが、IgEではなくIgG抗体、免疫複合体、補体等が関与しても同様な症状を呈する事がありますので、患者さんが起こした症状が「確かにアナフィラキシーかどうか」をまず確認してください。アナフィラキシーの場合、原因となる抗原物質が存在します。しかも、反応は抗原暴露後ごく短時間で生じますから、原因の特定はそう困難ではないでしょう。主な原因物質としては、βラクタム環を有する抗生物質、ヨード造影剤、臓器・酵素剤、抗血清・ワクチン、筋弛緩剤、局麻剤、NSAIDs等の薬剤、食物、ハチやヘビの毒、ラテックスなどが挙げられます。
検査法としては、in vivo とin vitroの2つに大別されます。前者には常に「抗原再暴露の危険性」が伴っていることを銘記する必要があります。
in vivo検査
1)スクラッチ試験
抗原液(抗原によっては市販されていない)を皮膚に滴下し、針で掻把する。15分後に局所の発赤、膨疹を測定する。
2)皮内テスト
前腕内側に抗原液を皮内注射し、15分後に発赤、膨疹を測定する。
3)負荷テスト、チャレンジテスト
危険性大!
in vitro検査
1)アレルゲン特異IgE抗体の測定
RASTに代表される、血清中の特異IgE抗体を測定する方法である。偽陰性を呈する事があるので注意する。とくに、激しい症状を生じた直後は、特異的IgE抗体が消費されている可能性が高い。
従来のRASTより感度、特異度とも優れたものとして、CAP(ファルマシア・アップジョン)、SIST(シオノギ製薬)、alaSTAT(日本DPC)、QAS(富士レビオ)、MAST(日立化成)、LUMIWARD(シオノギ製薬)などがある。
2)血中ヒスタミン測定
血中半減期はわずか1〜2分なので、採血から測定まで迅速な対処が必要である。
3)試験管内ヒスタミン遊離試験
患者白血球に抗原を加え、遊離したヒスタミンを測定する。ルシカHRT等のキットが市販されている。
1)、2)、3)はいずれも検査センターで受託している。
サイトカインについては、炎症性サイトカイン(IL-1、IL-6、TNFα)やTh2型サイトカイン(IL-4、IL-5)の関与が考えられますが、現状ではアナフィラキシー診断上の有用性は乏しいと思います。
(2000年11月30日 村上純子 日本大学臨床病理 臨床検査専門医)
(Q) Duと弱いD(+)の違い
血液型の抗D検査で、Duの患者がいました。Duと弱いD (+)の違いについて教えて下さい。また、憶測なのですが、同じ人で2年前にはD (+)、今年はDuと変化することがあるのでしょうか。もし変化するならその要因も教えて下さい。(福岡県 臨床検査技師)
(A)抗D血清を用いた従来法で凝集を認めない場合は、間接抗グロブリン試験を行い、凝集(ー)ならD陰性、(+)ならDuとして分類してきました。Duのuは抗原性がD陽性に比して未発達、つまり"undeveloped"という意味です。近年、抗D血清としてポリクローナル抗D血清(PoAb)だけでなくモノクローナル抗D血清(MoAb)が用いられるようになり、これまでDuと判定された血球には、D抗原の量が少ない(つまり量的バリアント)血球と、一部のD抗原エピトープを欠損している(つまり質的バリアント)血球が混在していることが明らかになりました。
最近では、前者を「Weak D」、後者を「Partial D」と称して区別しています。ただし、D陰性と「Weak D」あるいは「Partial D」を判定するために行われる間接抗グロブリン試験は、相変わらずDu試験と呼ばれていますので混乱しないよう注意してください。
「Weak D」と「Partial D」を判別するためにはDu試験にPoAbとMoAbを併
用します。PoAb(ー)MoAb(ー)ならD陰性、PoAb(+)MoAb(+)ならWeak
D、PoAb(+)MoAb(ー〜±)ならPartial Dが疑われます。
「同じ人で2年前にはD(+)、今年はDuと変化することがあるのでしょうか。」というご質問ですが、D陽性とWeak Dの差は、D抗原の量の多少だけですので、日赤血液センターでは、半定量的な基準として、被検血球の被凝集価が、対照に比して4管以上差があるものをWeak D、4管未満のものをD陽性としています。ですから、血球の抗原量によっては、D陽性とWeak Dのボーダーラインケースで、時によりDu(Weak D)になったりD陽性になったりするケースがあるかもしれません。
さらに、Partial Dの場合には、使用したMoAbが、たまたま認識するエピトープを有する血球であればD陽性と判定され、認識するエピトープを有さず、反応しなければDu(Partial D)と判定される可能性もあります。
(2000年11月30日 村上純子 日本大学臨床病理 臨床検査専門医)
(Q) 神経生理検査と心エコーの教科書
筋電図などの神経生理検査と心エコーを担当する事になりました。これらの検査に関する分かりやすい教科書と、バックボーンとなるようなできるだけ分かりやすい医学書を探しています。できましたらご教示をお願いいたします。(福井県 臨床検査技師)
(A)医師の立場と技師では、判りやすいに差があるかもしれません。そこでそれぞ
れの分野を担当する当院の技師に推薦してもらいました。
神経生理学学的なものは、
入門書として
1. 脳波・筋電図検査の実際、日本臨床検査技師会ライブラリー 3,570円 (03-3230-0634に電話で注文)
ステップアップした人には
1. 筋電図検査の手引き 堀浩著 南山堂 5800円 1981年発行
2. 臨床脳波学 大熊輝雄著 医学書院 16000円 1991年発行
心エコーについては
入門編としては、
1. 心エコーのABC 日本医師会雑誌
また、はじめのうちは、普段持ち歩くのに便利な虎の巻として、
2. 心エコー法テクニカルガイド 木村満 HBJ出版
標準的な心エコーの教科書としては、
1. ◎臨床心エコー図学 吉川純一 文光堂
2. 心エコー図で診る 吉川純一 文光堂
3. 心臓超音波診断アトラス(成人編) 廣澤弘七朗
(2000年11月30日 谷口 信行 自治医大 臨床検査医学)
(Q) 下大静脈と大動脈の超音波検査
心エコー検査で腹部の下大静脈と大動脈を検査する目的と、判定基準を教えて下さい。(東京都 臨床検査技師)
(A)ルーチンの心エコーで腹部大動脈の観察を行なうことは多くありませんが、腹部に動脈瘤(含む動脈解離)が疑われる時、検査されることが多い。その直径は肝背側から腎動脈分岐部までは2 cm程度までとされる。なお、大動脈弁逆流の重症度を見るときに調べられることもあり、パルスドプラ法で逆流信号があれば重度と考えられる。大動脈の拡張がある場合は、限局性のものか(動脈瘤)、尾方にまでおよんでいるか(その範囲)、動脈内にflapがないか(動脈解離)を確認する。下大静脈は、肝背側で肝静脈とともに観察され、右不全、三尖弁閉鎖不全症で拡張が見られる。ただし、年齢により差があるためかはっきりした基準値が示しにくいのが実情である。そこで絶対的ではないが、最大前後径で15mm以上で、collapsibility(虚脱)が悪いものが問題とされる。collapsibilityは、呼吸性変化に変化する下大静脈の前後径で最小値が最大値の1/2以上(すなわちcollapsibility indexが0.5以下)の場合には右心不全などが考えられるとする判断法を用いている。通常は、計測しないでも呼吸変化がよく観察でき十分虚脱する(径0 mmまたはそれに近い)場合には問題なしとしてよい。
(2000年11月30日 谷口 信行 自治医大 臨床検査医学)
(Q) 結節から採取した穿刺液
この度整形外科の先生よりご質問を頂き、いろいろ調べましたがお答えしかねております。お忙しいところ恐縮ですが、ぜひ教えていただきたいと思いメールを送らせて頂きました。
内容は「長期の透析によって出来た手の結節の内容物の同定をしてほしいが検査できるか」というもので、質問頂いた先生はその成分はカルシウムではないか?とおっしゃっています。文献ではβアミロイドが組織に沈着するということは紹介されていますが、カルシウムについては特に触れられていません。今回は結節からとった穿刺液での提出でした。透析によって出来た結節についてそのような検査をする意義があるのでしょうか?
また、当社では手根管症候群の患者さんの滑膜組織にβアミロイドの沈着があるか調べるために免疫染色をして偏光観察していますが、その他の材料(例えば手にできた結節の組織)、方法でβアミロイドの証明ができますか。(福岡県 臨床検査技師)
(A)長期の透析によって出来た手の結節ということですが、このような状態で手などに結節を形成してくるとすれば、よく見られるものに(1)tumoral calcinosisと結節形成は少ないものの結合組織に沈着することの多いB2-microglobulin 由来のamyloid (B2MG amyloid)があります。(2)では穿刺で液状物として得られることはありませんので、(1)である可能性が高いと考えます。事実、質問者は「その成分はcalciimではないか」と書いておられます。Tumoral calcinosisは原因不明として大きな関節部(trochanteric or gluteal region や肩)に出現することが多いものの、その他の部位(手、足、膝)にも発生します。また腎不全患者においても同様の場所に同様の物質の沈着を見ることが知られており、tumoral calcinosis resulted from chronic renal failure と呼ばれています。その他、secondary hyperparathyroidism で見られることがあります。沈着物はhydoroxyapatite と考えられており、組織学的検査では暗紫色の顆粒状物質の沈着巣からなり、時に周囲に異物型巨細胞が取り巻いています。組織学的にはこの組織像を見ることだけで診断されます。もちろん、化学的分析を行っても良いと思います。Tumoral calcinosis は、一般に限局性の病変で、腎不全であれば腎不全のみの治療されすれば、本病変に関しては、切除で治療は完了です。Amyloidosisであれば透析膜を変えたり、腎移植を考慮する必要があります。このままの状態ですと全身性のamyloidosisになって予後不良です。
第2点のご質問「手根管症候群の患者さんの滑膜組織にB2MG amyloidの沈着があるか調べるために免疫染色して偏光観察していますが、その他の材料、方法でB2MG amyloidの証明が出来ますか」ですが、どのtypeのamyloidであれ、まずcongo red染色やdirect fast scarlet染色、Thioflavin染色などで染め陽性であり、これに偏光をかけることでapple greenの birefringenceが得られることで確認する必要があります。これによってamyloidの沈着ありと判定されます。このamyloidがB2MG typeのamyloidであることを証明するためには、免疫組織学的にB2MGを染めなければなりません。これが陽性であれば、B2MG由来のamyloidとされます。免疫染色材料での偏光はあまりよくありません。一方、免疫組織学的にB2MGがamyloid fibrilになっていることをみるためにp-componentを平行して染めることがあります。つまり、p-componentはamyloid線維が形成される際には、必ず必要とされるもので、これがその他のamyloid前駆物質が引き付けてamyloid fiberにしていると考えられており、いずれのタイプのamyloidosisでも見られます。ただ、免疫組織学的にはp-componentは弾性線維にも陽性となるため判定には注意を要します。いずれにせよ、滑膜組織以外のものでも、これらの方法で証明できます。
(2000年11月30日 川崎医科大学 病理学 教授 真鍋 俊明)
(Q) 施設基準の免疫学検査
検体検査管理加算(I)に関する施設基準の免疫学検査について、ABO式血液型、Rh(D) 式血液型、クームス試験(直接・間接)が実施できる体制にあることとなっていますが、以上3点の検査に必要な検査試薬は、最低何を用意すればよいでしょうか。不規則抗体スクリーニング用血球試薬は、必要でしょうか。一応、次のとおりに揃えようと思っています。
・ABO式血液型
・抗A血清、抗B血清、A1血球試薬、B血球試薬
・Rh(D)式血液型
・抗D血清、Rh−hrコントロール
・クームス試験(直接・間接)
・クームス血清、クームスコントロール、インキュベーション、メディウム、不規則抗体スクリーニング用血球試薬
(佐賀県 病院勤務 臨床検査技師 経験年数13年)
(A)「ABO式血液型、Rh(D) 式血液型、クームス試験(直接・間接)が実施できる」ということであれば、抗体スクリーニング用血球試薬はそろえる必要はありません。しかし、輸血が施行されている施設でしたら、輸血前検査としてABO式血液型、Rh(D) 式血液型、交差適合試験だけでなく抗体スクリーニングも実施していただきたいと思います。そのためには、抗体スクリーニング用血球試薬ならびに不規則抗体同定用血球試薬が必要です。
また、ABO式血液型のウラ試験実施時には、できればO血球もあった方がよいと思います。O血球に凝集がないことを確認する目的です。寒冷凝集、連戦形成、汎凝集反応、不規則抗体の存在(ウラ試験で反応するのは主としてIgMですが)などでO血球にも凝集が見られる場合は、A血球、B血球の反応態度をそのまま判定できないことがあります。抗体スクリーニング用血球は、ウラ試験のO血球に使用できます。
(2000年11月20日 村上純子 日本大学臨床病理 認定臨床検査医)
(Q)現在、当院では骨髄穿刺の際、技師がベッドサイドまで行ってその場で細胞数用の希釈をメランジュールで行い、塗抹標本を作製し、残りの検体は、病理のクロット標本としてホルマリン固定を行っています。一部の施設では、骨髄液も抗凝固剤入りの採血管に採取し、標本を作製していると聞きました。その際の注意点を教えて下さい。(大阪府 臨床検査技師)
(A)ご質問にあるように、通常骨髄像検査は、抗凝固剤を用いずに実施するのが原則ですが、抗凝固剤によって骨髄液の凝固を阻止して塗抹標本を作製したり、細胞数の算定をメランジュールを用いて行う施設もあります。一方、骨髄像の判定や観察ができる医師や技師が減少しており、骨髄穿刺、塗抹標本作製をその施設で行っても、判定は他の検査施設に依頼する病院も多くなってきました。また、塗抹標本を作製し検査施設まで搬送するのではなく、骨髄液そのものを抗凝固剤入りの試験管で搬送することも行われるようになりました。
このような抗凝固剤を用いた骨髄液による骨髄像検査を実施するときの注意点としては
1. 通常は血液一般検査に用いるEDTA-2K入りの試験管を用いるが、採取した骨膵液を2〜3ml以上いれないこと。(凝固してしまいます)
2. 細胞形態に種々の変化を防止するため、なるべく短時間で標本を作製すること。
3. 特殊染色を行うときにはできれば抗凝固剤を使用しない方が好ましいが、ペルオキシダーゼ、ズダンブラック、鉄染色、PAS染色などは短時間の保存では大きな影響は受けない。
4. クロット標本は作りにくいため、必ず圧挫標本(spicule smear method)を普通の塗抹以外に作製しておく。
などがあげられます。
そのほか細かい注意点はいくつかありますが、要は抗凝固剤入りの採血管を用いてもなるべく短時間の保存で検査を行うことが重要です。
(2000年11月20日 認定臨床検査医 土屋 達行(No.244))
(Q)私は解剖介助の名の下に、実際には解剖そのものを行っていますが、このような行為は法律に違反しないのでしょうか。また解剖介助の手当が1100円ときわめて低額ですが、厚生省や技師会の考えを教えていただきたいと存じます。(新潟県 病院臨床検査科勤務 臨床検査技師・細胞検査士)
(A)病理解剖指針(厚生省健康政策局長、健政発第693号、昭和63年11月18日)において、病理解剖医の責務の指針が示されています。即ち、「病理解剖医は自ら死体の切開及び臓器の摘出を行わなければならない。なお、臨床検査技師、看護婦等医学的知識及び技能を有する者(以下「臨床検査技師等」という。)が解頭等に際し、その一部の行為につき解剖補助者として解剖の補助を行う場合には、病理解剖医は、死因叉は病因及び病態を究明すると言う病理解剖の目的が十分達せられるよう、これらの者に適切な指導監督を行わなければならない。また、血液等の採取、摘出した臓器からの肉眼標本の作製や縫合等の医学的行為については、臨床検査技師等以外を解剖にかかわらせることのないよう十分注意しなければならない」となっています。この指針は、臨床検査技師は病理解剖医(病理医)の指導のもと解剖介助を行いうることを示しています。しかし、あくまで建て前としては病理医の指導監督で行うべきことと規定しています。
また、解剖介助の手当ての金額の妥当性については、施設間の格差がかなりあるようです。また、介助手当ては厚生省や技師会が直接関わるべき問題ではないように思われます。いくつかの施設の解剖介助手当てを以下に示しますので参考にして下さい。
A病院(中規模市中病院)日祭日出勤(解剖があった場合) 6500円
日祭日オンコール(自宅待機) 3500円
夜間剖検介助(5:00以降) 7000円
B病院(大学付属病院) 日祭日出勤(解剖があった場合)11500円
日祭日オンコール(自宅待機) 5500円
夜間剖検介助(5:00以降) 11000円
C病院(市中大規模病院)解剖手当て(平日昼夜を問わず)1500円/体
オンコール手当て(解剖がない場合)1000円
夜間、休日勤務(別途算定、基本給により異なる)
(2000年10月27日 認定臨床検査医 根本 則道(No.344))
(Q)透析後のデータを見る採血はいつ採取すればいいのでしょうか。理想的には透析終了後10分ほどたってからシャントとは逆の腕から採血すべきかと思いますが、現状では難しいと思います。現実的にどのタイミングでどのように採血すればいいか、シングルニードルの場合と2本刺しの場合について教えて下さい。(石川県 臨床検査技師)
(A)透析後の採血に関しては、何が「理想」的なものか、というのは非常に難しい問題です。透析後というのは非常に不安定な状態であり、細胞内外での水分や尿素の移動はその後約1時間かけて定常状態になりますし、クレアチニンの場合はさらに長い時間が必要です。ご質問の点ですが、このようないわゆるリバウンドを無視した、透析直後の血液中の状態を把握するためには、時間をおくことは不要と思われます。透析後にシャントの反対側からとるのも一法でしょう。しかし現実的には、患者さんにさらに針を刺して採血するのは抵抗があるのではないかと思われます。
患者さんに負担をかけないで採血するには、回路からの採血が良いのですが、静脈側の回路からでは全く無意味ですし、動脈側の回路からでは、静脈側に返血された血液の混入(recirculation、再循環)が問題となります。そこで推奨するのは、すべてが返血された後に、静脈側の穿刺針のみ残し、20ml程度の注射器を接続して、何回かシリンジ内で血液を静かにポンピングした後、検体の採取を行う、という方法です。これであれば、反対側からの採血を行わなくてもほぼ同等の効果があります。シングルニードルの場合も同様の方法で可能です。
(2000年10月27日 認定臨床検査医 矢内 充(No.473))
(Q)食生活がレニン活性と高血圧に及ぼす影響の差を見るため、2年前の定期健診時の空腹時に採取した血液を使って、血漿レニン活性を測定しても問題ないでしょうか。またEDTA入りの全血を放置後採取した血漿、あるいは血清を用いて測定しても問題ないでしょうか。(愛知県 公衆衛生学 看護婦、大学院3年)
(A)レニンは、体位や塩分摂取量に大きく影響されることが知られております。特に体位の問題は重要であり、そのため、立位と臥位基準値を変えている施設もあります。条件を一定にするため、採血時には、30分以上の安静臥床後の採血が一般的には推奨されています。また、日内変動もあり、早朝に高く、夕方に低くなります。このような点をふまえますと、健康診断時での採血によるレニンの測定では、高血圧と食生活の関連、よりも採血時の要因の方が大きな因子として反映されてしまう可能性があります。
血漿レニン活性の場合、採血からの分離までの24時間までは、室温放置にても測定値に影響を及ばさず、血漿の冷凍結保存では1ヶ月までは測定値に大きな変動を及ぼすことはないと報告されています。しかし、年単位で保存されたものに関しては、少々問題があるかもしれません。ただし、EDTA入りの全血を凍結保存したものでは、溶血してしまっていますので、血漿の分離は不可能と思われます。また、私の調べた範囲では、血清ではやはり、低値傾向を示すという報告が大部分でした。
(2000年10月27日 認定臨床検査医 矢内 充(No.473))
(Q)透析後のTPが透析前のTPより増加するのはなぜですか。
(A)ひと言でいうと、血液が濃縮されるためです。慢性腎不全による透析患者さんでは、透析導入後1年くらいの間をのぞいて、尿量の減少が見られ、最終的には無尿に近い状態になります。このような場合、透析終了後から次の透析までに、摂取した水分のうち、本来は尿として排泄されるべき水分量が体内に蓄積することになります。血液透析では、体内に蓄積した尿素やクレアチニンなど、いわゆる尿毒症物質の除去の他、透析間でたまった水分の除去も行わなくてはなりません(除水)。そのため、血管内での水分の濃縮が起こり、見かけ上TPの上昇が見られます。すなわち、この上昇は血液中の蛋白の絶対量が増加するわけではありません。その他ヘマトクリットなども透析後には上昇しますし、血圧の低下なども血管内の水分が除水されるために起こる現象です。
(2000年10月27日 認定臨床検査医 矢内 充(No.473))
(Q)24時間クリアランスに直すと非常に大きな値を示す患者がいます。身長169.0cm、体重73.0kg、ピクリン酸法U-CRE 284mg/dl、酵素法U-CRE 289mg/dl、血清CRE 0.74mg/dl、尿量2200ml/day、24Ccr 676.8で、1カ月前もほぼ同様の結果でした。どのような原因が考えられますか。
(A)ご質問の内容から、貴施設におけるクレアチニンクリアランスの結果全体が高値傾向を示しているものではなく、ある特定の患者さんのみが異常な高値を示している、という前提でお答えします。
測定上の問題点として、酵素法による測定では、蓄尿中に防腐剤であるアジ化ナトリウムが入っている場合は、クレアチンを測りこんでしまうために、高値になります。さらに、アンモニアの影響も受けるため、正誤差を生じている可能性があります。一方、ピクリン酸法(Jaffe法)では、真のクレアチニンは4分の3程度であり、4分の1程度はアセトン体やアスコルビン酸などによる影響で非特異的な反応を含んでいると言われています。
しかし本症例では、その両者で同じような値をとっており、両者に同時に正誤差が生じる可能性は低いと考えられます。
この患者さんの場合、2回とも尿量は2000ml以上あります。この結果より算出される24時間あたりのクレアチニン排泄量は、それぞれ6.4g/day, 7.4g/dayでとなり、体重60kgの人であったとしても、100mg/kg/dayと非常に大きな値となってしまいます。このような場合には、測定上に問題がないとすれば、蓄尿がきちんと行われているかどうかのチェックが必要です。例えば、すべての尿ためずにその一部を蓄尿しているような場合は、一部が正確に取れていない可能性があり、また、全量をためる場合でも、完全排尿した後に蓄尿を開始することなどを患者に確認する必要があります。
(2000年10月27日 認定臨床検査医 矢内 充(No.473))
(Q)クレアチニンクリアランスに必要な体表面積の求め方がよく解りません。現在DuBoisの式による表を使っているのですが、小児など表に当てはまらないことがあります。簡単に求められる計算式があれば、教えて下さい。
(A)一般的にはご存じのDuBoisの式が体表面積の算出に広く用いられており、以下のような計算式で、表されます。
体表面積=0.007184 x BW(kg)^0.425 x Ht(cm)^0.725
この式は非常に古い式ですが、現在でもいまだに使用されており、この計算式をもとに、体表面積を求める表も作成されています。確かに小児では、表に入らない場合もありますが、この場合は計算式を用いて計算する必要があるかもしれません。私の知っている範囲では、「小児ICUマニュアル」(26ページ、宮崎正夫監修、田中義文編集、永井書店刊)に小児用の体表面積の表があります。
(2000年10月27日 認定臨床検査医 矢内 充(No.473))
(Q)重心動揺検査の導入を検討中ですが、臨床的意義および検査結果の解釈について教えてください。(群馬県 臨床検査技師)
(A)重心動揺検査は直立姿勢時の重心の位置を経時的に記録し、直立姿勢の制御機構や平衡機能の解析、めまいあるいは平衡機能異常の診断および経過観察に用いるものです。重心動揺計の規格および標準的検査法は日本平衡神経科学会により定められたものがありますので、詳しくは下記文献[1]をご覧下さい。
【参考文献】
- [1]
- 日本平衡神経科学会編:平衡機能検査の実際 第2版、南山堂 1992
(2000年10月15日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)産婦人科から出てくる血算で、自動血球装置のIMチャンネルで幼若顆粒球を示すフラグを示す事が多く、念のため血液像をみてみると、正常者では考えられない割合で幼若顆粒球が見られます。ただ単に造血機能が亢進しているためなのか、妊婦には髄外造血が起こっているのか、本当に骨髄の疾患なのか、教えてください。(群馬県 臨床検査技師)
(A)残念ながら、検体の臨床的な背景が不明ですので、具体的な解答は困難です。一般的には、標本で幼若球が有るとの事ですので、IMのフラッグは正しい情報を伝えている事になります。検査室では検体のその結果だけを伝えることでその責任は終わることになりますので、その後は医師の方で考える必要があります。産婦人科といっても産科と婦人科により、また病院の診療背景で判断の結果が大いに異なります。唯ひとつ言えることは、妊婦で一般的に髄外造血が起こると結論づけるのは危険であるということです。
(2000年10月15日 認定臨床検査医 巽 典之(No.387))
(Q)近頃インフルエンザの疑いで受診される患者の中に血小板が増加してる人が多いのですが、インフルエンザと何か関係があるのですか。(熊本県 臨床検査技師)
(A)二次性血小板増多症は種々の病態で起こりえますが、感染症の時もそうです。特に急性相反応性蛋白質が増加するような急性期には、インターロイキン-6をはじめとする炎症性サイトカインの作用により血小板増多が認められることはよくあることです。40-60万/μl程度であることが大部分で、100万/μlを越えることはまずありません。従って、インフルエンザにおいても当然血小板増多は起こりえますが、他の感染症と比較して特にこれが起きやすいとする報告はないと思います。実際、MEDLINEで、infuenzaとthrombocytosis(thrombocythemia)を掛け合わせて検索しても、該当する文献はありませんでした。インフルエンザと血小板増多に特異的な関係を考慮する必要はないと思われます。なお、二次性血小板増多症の大部分は予後良好でこれに対して治療が必要になることはほとんどないことを付け加えておきます。
(2000年10月13日 認定臨床検査医 矢冨 裕(No.371))
(Q)複数の施設によるミニサーベイのレポート資料として、ツインプロットグラフ上に等確率楕円を描きたいのですが、表計算ソフトを利用して作成できないでしょうか。(岩手県 臨床検査技師)
(A)StatFlexというソフトを使い、表計算ソフトのデータを貼り付けますと、自動的に相関図上に等確率楕円を描いてくれます。http://www.StatFlex.net/にあるホームページでお試し版(無料)をご請求下さい。保存機能以外の全機能を利用できます。
なお、ご自分でプログラムされる場合は、次のような方法で、y=の形で通過点を連続的に求めることができます。Visual Basic による楕円上のx座標からy座標を求めるプログラムを例示します。計算には、x,yの分布の平均値(mx,my)、標準偏差(sx,sy)、相関係数rを指定し、かつ信頼区間確率Pに相当する、自由度2のχ2分布の値(chi_val)を指定します。例えば、P=0.95のとき、χ2=5.99などとなります。この関数を、xを小刻みに動かして、それに相当するy1,y2を求めて下さい。
'*********************************************************************
' xを順に指定して、yを返す関数
' x : 計算したい値
' y1, y2 : xに対するyの値、大小2つ求まります
' mx, my : x, y の平均値
' sx, sy : x, y の標準偏差
' r : 単相関係数
' chi_val : χ2値
' 戻り値:計算できたときは0を、できないときは-1を関数の戻り値とする
' Program by K Ichihara( Kawasaki Medical School ) 2000.10-07
'*********************************************************************
Function Ellipse( x, y1, y2, r_mode, mx, my, sx, sy, r, chi_val ) As Double
Dim X, k ' X,は標準化値
y1=0
y2=0
X=(x-mx)/sx ' x を基準化
If X*X >= chi_val Then
Ellipse=-1
Exit Function ' 値無し
End If
k = Sqr( (1.0-r*r)*( chi_val - X*X ) );
y1 = (r*X + k)*sy + my
y2 = (r*X - k)*sy + my
Ellipse=0
End Function
'*********************************************************************
(2000年10月9日 認定臨床検査医 市原 清志(No.182))
(Q)今回の改訂で検体検査管理加算(I)および(II)が設定されましたが、より高水準の検査が求められるべき(II)該当の施設においてのみ、ブランチラボやFMS方式にかかわらず算定できるような形になったのは、なぜでしょうか。(病院検査科勤務 臨床検査技師)
(A)厚生省等からの正式な回答ではなく、あくまで私の個人的な見解としてお答えします。
「検体検査管理加算(II)」は昨年度まであった「検体検査管理加算」であり、 200点から220点に増点しましたが、これは元々ブランチラボやFMS方式などと無関係に算定できたものです。これを行政として変更するにはそれなりの理由が必要なので、恐らく従来通りとの解釈ではないかと推察します。また今回「検体検査管理加算 (I)」が新規収載された背景には、新たに院内検査を評価しようとの行政の意図が窺われるので、このこと自体は、院内検査に従事する者としては喜ばしいことだと思います。
さらに、「検体検査管理加算(II)」を算定できるほとんどの施設においては、入院患者には(II)を、外来患者には (I)を算定していると考えられますので、敢えて入院患者の検査だけをブランチラボやFMS方式で実施することは少ないでしょう。加えて (II)を算定できる施設は大変少ないので、全体から見た影響も少ないとも言えます。
ただし、(I)と(II)の違いは「臨床検査を専ら担当する常勤の医師が1名以上いること」だけですので、ブランチラボやFMS方式をとっている施設では、医師がいるだけでなぜ(II)が算定できるのか、という点だけに注目した場合、私にはその理由は分かりません。
(2000年10月6日 認定臨床検査医 渡辺 清明(No.297))
(Q)血液塗抹標本で、異型リンパ球の割合はどの程度で臨床的意義があるのでしょうか。また逆に、どの程度であれば健常人にも認められるのでしょうか。(大阪府 大学病院検査部所属 臨床検査技師 経験年数半年)
(A)解答の前に貴方の施設では白血球塗抹標本をどの様に作成しているのか、そしてどの様に分析しているのかを明確にする必要があります。具体的には採血直後にウェッジ法で塗抹乾燥し、ギムザ染色法を実施し、観察は至適部位を選定しているのか、倍率はどうか顕微鏡の種類はどうか、そして異型リンパ球の出てきた標本の臨床的背景、全血算はどうであったかなどを検討した上でその異型リンパ球の妥当性を決定しなければなりません。さら重要なのは観察する技師のリンパ球分析能力がどうかです。米国のNCCLS-H20-Aでも個人能力評価を重視しています。すなわち技術的問題、検体特性、そして個人特性を総合するべきでしょう。例えば末梢血には可成りの数の幹細胞が流れています。
異型リンパ球は反応性リンパ球ですから個人の環境で出現は当然大きく変動する事になりますので常に一定比率流れていると判断出来ないことになります。自動白血球分類は電気的あるいは光学的性状の分析ですのでギムザの分類には一致しない細胞が出現するのは当然です。
(2000年10月5日 認定臨床検査医 巽 典之(No.387))
(Q)前日の午後(pm15:00〜18:00)の活動状態を反映する指標として、「夜間・早朝尿」の17-OHCS、17-KS-Sを測定したいと思います。この採尿の方法として、ある論文に「就床前排尿し、起床時採取」とありましたが、
(1)夜中に排尿したくなったとき、この尿は捨てて起床時のみ採取すればよいのか、夜中の分も蓄尿するのか
(2)起床時の採取時は、中間尿でなく、出始めから出終わりまで全量採取をすると考えて良いのか
(3)クレアチニン比で表示するので、尿量の確認は不必要で、全量採取したもの(蓄尿または起床時全量)の一部を検査すれば良いのか
という点が不明ですので、教えて下さい。(大学研究者)
(A)順番に沿ってお答えします。
(1)就寝後から朝まですべての尿をためる必要があります。つまり、夜中にでた尿も蓄尿することが重要です。
(2)起床時の尿は、全量を採取します。中間尿だけではありません。起床時に採取した尿も夜中の蓄尿に加えます。
(3)尿量の確認は不要です。蓄尿の一部(約80ml)を容器に移して提出します。
[註]なお本検査は、住金バイオサイエンスでも受託しているようです。詳細はそちらにお問い合わせ下さい。
(2000年9月28日 認定臨床検査医 池田 斉(No.277))
(Q)セラチアによる院内感染対策ついて質問します。(1)セラチアが検出されたとき、治療の必要性はありますか。また入院・外来・高齢者による違いはありますか。(2)院内の環境調査、職員検診の必要性はありますか。(3)消毒の必要性はありますか。(東京都 臨床検査技師)
(A)具体的にお答えする前に、セラチアの病院感染対策の基本について一般的に説明しておきます。
1.感染対策の基本は、接触感染防止(contact precaution)です。手洗い、血管内カテーテル・尿カテーテル等の無菌操作がポイントとなります。
2.ペニシリン系、第1・第2世代セフェム系(CMZ,CTM)、SBT/CPZに耐性であり、一部の第3世代セフェム系(CTX)、新キノロン系およびアミノ配糖体にも耐性株が出てきています。日大板橋病院では、分離菌株の90%以上でカルバペネム系(IMP/CS)に感受性があります。ただし、無症状の患者からセラチアが分離された場合、即ちセラチアの保菌者に対し、カルバペネム系薬剤を使用することは、耐性菌の出現防止の立場からお勧めできません。
3.消毒剤に耐性を示す菌株もあり、塩化ベンザルコニウムがセラチアに汚染されていたために、病院感染(院内感染)の原因となった例もありますので、同一容器への消毒剤の継ぎ足し使用はおやめ下さい。
多数の死者が出たために現在マスコミ等で騒がれていますが、セラチアに対する病院感染対策の基本はスタンダード・プレコーションであり、MRSAや緑膿菌と同じレベルで十分です。
(1)セラチアが検出されたのみでは、治療の必要性はありません。あくまでも、臨床症状を重視した判断を優先して治療を行います。
(2)院内の環境調査、職員検診の必要性はありません。
(3)環境調査をすれば、院内の湿潤した場所からこの菌が分離される可能性はありますが、消毒の必要はありません。埃をためない、また湿潤した場所を残さないといった、通常の清掃を徹底することが大切です。
ちなみに回答者の所属する病院では、この1年間、ひと月に10例から20例前後本菌が分離されており、外科系のドレーン、喀痰、尿からの分離例が約60%を占めています。また本菌による敗血症死亡例が多発しているわけではありませんが、分離菌株の多い病棟や診療科においては、患者の詳しい臨床情報の提供を含む疫学調査を依頼することがあります。大切なことは、特に血液からの分離菌について、セラチアに限らず、病院内で特定の菌が増加していないかどうかを、常に監視できるシステムを作ることです。
【参考文献】
- [1]
- セラチアによる院内感染ついて、東京都微生物検査情報(話題)第20巻12号(http://www.tokyo-eiken.go.jp/biseibut/1999/tbkj2012.html、参照日:2000年6月29日)
- [2]
- 高橋 孝行:セラチア、エンテロバクターによる病院感染とその対策.治療82増刊号 124-128、2000
(2000年7月6日 認定臨床検査医 熊坂 一成(No.236))
(Q)EDTA-2K、EDTA-3Kの採血管がありますが、使い分ける必要のある検査項目があれば教えて下さい。(岡山県 臨床検査技師)
(A)EDTA-2KとEDTA-3Kの採血管は、主に血球数算定、血小板数算定、白血球分類(フロー法)、末梢血液塗抹標本など、一般的な血液検査用検体の抗凝固剤として用いられているのは周知の通りです。さらに特殊検査としてシクロスポリン、真菌DNAなどの検査でも使用されています。
EDTA-2KとEDTA-3Kは化学的性状、分子構造、抗凝固作用の性質などの観点から見て、特に使い分けをする必要はありません。ただし、1%水溶液中においてEDTA-2K・2H2OのpHが4.5〜5.0であるのに対し、EDTA-3K・2H2Oでは8.2〜8.7と大きく異なります。このpHの差は赤血球のサイズに多少影響し、特にミクロヘマトクリット法で差異が生じると言われています[1]。しかし、臨床的に問題となる程度の影響は認められません。
また、EDTA-2KとEDTA-3Kの比較検討をおこなった種村らの報告[2]によると、血球数算定、血小板数算定、白血球分類について相関、経時変化ともに差異は認められなかったとされています。したがって一般血液検査の抗凝固剤としてEDTA-2KとEDTA-3Kどちらの採血管を使用しても問題はありません。
【参考文献】
- [1]
- Narayanan S:臨床検査における採血用抗凝固剤の影響、臨床病理、特集103:73-80、1996
- [2]
- 種村邦子他:プラスチック製真空採血管「ベノジェクトII」の基礎検討、機器と試薬、15(3):441-449、1992
(2000年6月25日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 鳥山 満)
(Q)尿中亜硝酸塩の試験紙法におけるアスコルビン酸の影響について調べ、反応原理はわかったのですが、どの過程が妨害されるのかがわかりません。教えてください。(大学生)
(A)尿試験紙の反応原理にはジアゾカップリング反応、過酸化水素を反応させる方法、過酸化物を用いる反応を利用した方法がありますが、アスコルビン酸はこれらの反応に負誤差を与え、偽陰性の原因となります。亜硝酸塩の場合は次のジアゾ反応がアスコルビン酸により妨害を受けます。
[亜硝酸塩+アミン化合物(アルサニル酸)→ジアゾニウム化合物]
なお、判定値に及ぼすアスコルビン酸の影響を極力おさえるため、製造メーカではスティックごとにアスコルビン酸濃度チェック用試験紙を設けています。
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 川村 憲弥)
(Q)トロポニンT2より感度が良いと言われているトロポニンT3は、全国的にどのくらい普及しているのでしょうか.また基準範囲を教えて下さい。(栃木県 臨床検査技師)
(A)まずトロポニンT(TnT)試薬の改良の経緯について説明します。トロポニンT2とT3は各々試薬の世代を意味しています。第一世代試薬で使用した抗体は骨格筋TnTとの交差反応が0.2%程度あったため、腎障害や骨格筋傷害でTnTが高値を示すとの報告がありました。
そこで、第二世代試薬では抗体を変更し、心筋TnTにのみ反応する試薬に改良されました。測定値の互換性を保つために、第一、第二世代試薬ともウシ心筋由来TnTをキャリブレータとして使用していました。しかし、高値検体の希釈直線性の不良が報告され、それがウシ由来TnTを使用していることに起因することがわかりました。
そこで、第三世代試薬ではヒトリコンビナント心筋トロポニンTをキャリブレータに使用し、その結果、特異性や正確性、直線性などが改善されました。
さて、トロポニンT3についての全国的な普及率は、製造元によると現在約90%が第三世代試薬を使用しているとのことです。またトロポニンT3の基準範囲については以下に示す通りです。
・基準範囲 0.01ng/ml以下(健常者220例を対象)
・カットオフ値 0.1ng/ml(急性心筋梗塞患者576例をROC曲線より算出)
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 川村 憲弥)
(Q)精度管理用血清を凍結乾燥品から凍結液状品に変える場合、溶解後再凍結は可能なのか、冷蔵保存でどのくらい安定があるのか、あるいはどんな点を気をつけたら良いでしょうか。また管理血清を総合的に扱った文献があれば教えてください。
(A)凍結乾燥品のモニトロールから凍結液状品のQAPトロール1X、2Xへ変更する場合を例にとってお答えします。
後者は冷蔵で4日間の安定ですので、再凍結せず添付文書の通りに使用する事をお勧めします。添付文書に記載されている注意に従って下さい。参考までに、メーカで再凍結融解試験を行った結果を示します。
○検討項目:AST,ALT,LD,CK,ALP,AMY,P-AMY,LAP,γ-GT,CHE,TG,T-Cho,F-Cho,HDL-C,PL,β-Lipo,GLU,T-BIL,D-BIL,UN,CRE,UA,TP,ALB,Ca,IP,Fe,Mg,CRP
○結果
1)再凍結して-35℃で60日間保存の場合は、当日融解と比較して±5%以上差がある項目はありませんでした。
2)再凍結して-25℃で60日間保存の場合は、当日融解と比較して±5%以上差がある項目は2Xで、D-BILが5.2%低下しました。
3)再凍結して家庭用フリーザーで60日間保存の場合は、当日融解と比較して±5%以上差がある項目は1Xで、ALPが6.9%上昇、CRPが7.1%上昇、HDL-Cが7.2%低下しました。また、2Xではβ-Lipoが6.2%上昇、T-BILが12.0%低下、D-BILが18.9%低下しました。
次に、気を付ける点を以下にまとめておきます。
1)使用直前に転倒混和すること。直射日光を当てないこと。
2)開封後、使用時以外はキャップを閉めてこまめに冷蔵庫に入れること。
3)-40℃や-80℃に保存した場合は室温30分で融解しない場合があるので、完全に融解したことを確認してから使用すること。
参考文献を以下に示します。文献[9]と[10]は管理血清の一覧です。
【参考文献】
- [1]
- 花房尚文:凍結および凍結乾燥による蛋白質の変性、蛋白質核酸酵素、22:301-309、1977
- [2]
- 佐々木弘子、本間淳子:各種管理血清におけるCreatine Kinase活性の安定性とその日常精度管理への応用、臨床病理、18:104-110、1985
- [3]
- 堀田正敏、前畑英介:管理血清の選択法 第2法、衛生検査、11:1471-1477、1989
- [4]
- 栢森裕三、他:液状管理血清EXA liquid 5の評価、臨床検査機器試薬、13:669-713、1990
- [5]
- 大森敏子、他:ヒトプール血清を凍結乾燥した場合の性状変化について、39:1597-1602、1990
- [6]
- 佐藤正人、他:凍結低粘張度液状管理血清の安定性、医学検査、40:1146-1150、1991
- [7]
- 鳴海正毅、他:外部精度管理における凍結乾燥コントロール血清の安定性に関する研究、医学検査、43:1767-1772、1994
- [8]
- 江角幸夫、他:液状管理血清の安定性についての評価、臨床検査機器試薬、20:708-714、1997
- [9]
- 宇治義則、岡部紘明:検査と技術、20:1039-1041、1992
- [10]
- 市販管理試薬一覧、Medical Technology、22:912-915、1994
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 川村 憲弥)
(Q)電解質測定に用いられるイオン選択性電極(第4級アンモニウム塩、バリノマイシン、クラウンエーテル)について教えて下さい。(長野県 臨床検査技師)
(A)第4級アンモニウム塩は、窒素原子に4個の炭化水素残基と1個の酸基との結合した化合物をいい、一般式ではR4NX(Rはアルキル基、アリール基など、XはCl、Br、I、SO4などの酸基)となります。この物質をイオン交換体とする電極を第4級アンモニウム電極といいます。
電解質と水との相互作用が関与する多くの現象において、イオンの種類による影響は、離液順列と呼ばれる次のような一定の順序に従います。
SCN->I->ClO3->NO3->Br->Cl->CH3COO->SO42-
この順列は各イオンと水分子との結合力の強さを表わしています。上位にいくほど疎水性が高く、下位にいくほど親水性が高くなります。第4級アンモニウム基に対する選択係数も、ほぼこの順列に従います。従って、I-やBr-が存在するとCl-に影響を与えることになり、ハロゲン系薬物を投与された患者血清を測定する場合には正の影響を受けることになります。電極膜に固定されたイオン交換基(第4級アンモニウム基)は副イオン(Na+、K+などの陽イオン)を排斥し、対イオン(Cl-、SO42-などの陰イオン)を近づけて平衡に達します。簡単にいうとI-やBr-の方が易動度が大きく、第4級アンモニウム基が引き付け易いからです。
陽イオンに対するイオン選択性電極では、バリノマイシンやクラウンエーテルなど、電気的に中性なニュートラルキャリア(非イオン性のイオン輸送担体)を感応物質として用います。K+に対するバリノマイシンは36員環の大環状構造を持ち、その径はK+のイオン半径とほぼ同じです。バリノマイシンのカルボニル基とのイオン−双極子相互作用により、K+をその中心に包み込むように錯体を作ります。この錯体の安定性が高いほど、選択性が高いと言うことになります。また、Na+で良く用いられるビス型は2つのクラウンエーテル環を持ち、Na+をサンドイッチのように挟むことにより選択性を上げています。
【参考文献】
- [1]
- 石橋 信彦:イオン電極およびその応用.イオン電極と酵素電極、7-21、鈴木 周一編、講談社、東京、1981
- [2]
- 山口 重雄:イオン選択性電極装置.実践臨床検査機器マニュアル、212-232、桑 克彦編、サイエンスフォーラム、東京、1985
- [3]
- 岡 正太郎:高分子電解質イオン電極.高分子機能電極、193-198、高分子学会高分子錯体研究会、学会出版センター、東京、1983
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 川村 憲弥)
(Q)測定系に対するビリルビンの影響を調べるとき、なぜ抱合型と遊離型の両方を使ってチェックする必要があるのですか。(長野県 臨床検査技師)
(A)ビリルビンが測定系に影響を与えるメカニズムは多種多様ですが、大きく分けると色調と化学的な反応性によるものです。抱合型ビリルビンと遊離型ビリルビンの最大吸収波長は若干異なり、抱合型ビリルビンの最大吸収波長は約460nm、遊離型ビリルビンでは約450nmに吸収ピークを持っています。また両者の還元力は一般的に抱合型ビリルビンが強く、遊離型ビリルビンはそれほど無いといわれています。一般に反応系にペルオキシダーゼを用いた方法では還元物質により負の影響を受けやすいといわれています。この測定方法を選択している項目では、還元力の強い抱合型ビリルビンの方が遊離型ビリルビンの影響より強く出る例が多いようです。患者の病態により増加する抱合型と遊離型の割合はさまざまですので、両方について調べておく必要性があります。
【参考文献】
- [1]
- 大沢 進:妨害物質試験法(ビリルビンについて).第5回 臨床化学夏季セミナー資料集、209、1985
- [2]
- Interference Testing in Clinical Chemistry.NCCLS Document EP7-P、Vol.6(13)、1986
- [3]
- 中 甫:干渉物質の影響とその試験法.QAP NEWS、No.39、2-8、1989
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 川村 憲弥)
(Q)レジオネラ菌の検査で、臨床検体の血清抗体価、抗原蛍光染色、PCR、尿中抗原を受託してくれる施設はないでしょうか。(北海道 臨床検査技師)
(A)エス・アール・エルで血清抗体価を受託しています。Legionella尿中抗原検出法、直接蛍光抗体法、血清抗体価測定などの検査について詳しくは、下記の文献を参照して下さい。わかりやすく解説されています。
【参考文献】
- [1]
- 小出 道夫:Legionella症.臨床検査、42:523-528、1998
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 叶 一乃)
(Q)現在、昭和ディスクを使用しています。今後NCCLS拡散法に変えたいのですが、どのような検討をしたらいいのですか。また、センシディスク法とKB法ではどちらがいいのですか。
(A)下記の文献を参照して下さい。また、検討を行うときは既知の臨床分離株に併せ、標準菌株も実施すると良いと思います。現在では、標準菌株は簡単に入手可能です。当院では多くはMIC法で感受性検査を行っていますが、一部菌種によってセンシディスク法を使用しています。
【参考文献】
- [1]
- 小栗豊子:感受性ディスク法、検査と技術増刊号、17:878-883、1989
- [2]
- 河喜多龍祥著:薬剤感受性検査、105-112/134-139、1987、近代出版、東京
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 叶 一乃)
(Q)結核の感染対策のため、検査従事者にツ反を実施することになりました。最低限どの検査科の職員に対し実施すべきでしょうか。(北海道 臨床検査技師)
(A)検査科による感染の危険性の差にかかわりなく、現状把握という意味から全員実施すべきです。それが困難であれば、少なくとも生菌を扱う危険率の高い細菌検査科所属の職員は実施すべきです。
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 叶 一乃)
(Q)クラミジア感染症について、最新の検査方法ならびに治療法について教えて下さい。
(A)二重増感発色法を用いたEIA法によるChlamydia抗原測定法があります。原理は抗原となるクラミジア属共通の抗原性を示す細胞壁成分(LPS)に対するモノクローナル抗体をマイクロタイタープレートに固相化させ、LPSと反応させます。次にアルカリフォスファターゼ標識抗LPS抗体を反応させ基質を添加するとNADが産生されます。さらに発色増感液を加え呈色反応を増強し、吸光度測定により判定します。この他、感度の高い方法としてPCR法がありますが、これは特定の部位のDNA増幅をし対応するプライマーを選択することで様々な検査に応用できます。治療にはテトラサイクリン系、マクロライド系抗生物質が使われます。
【参考文献】
- [1]
- 納富 貴、他:二重増感発色法を用いたEIA法によるChlamydia抗原測定の基礎的検査.感染症学雑誌、72:45-53、1998
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 飯草 正実)
(Q)学校の実験で大腸菌の温度耐性を調べているのですが、75℃で一日培養しても僅かですが生きていました。通常の低温殺菌は68℃で15分間ですが、これでは不十分ではないでしょうか。(高校生)
(A)病原細菌の多くは60〜65℃、30分の加熱で死滅します(大腸菌は60℃、10分)。低温殺菌は牛乳の殺菌によく用いられますが、これは牛乳に含まれていることがある牛型結核菌をはじめ、容器や牛乳に混入している恐れのある少量の細菌に対してのみ有効な方法です。通常75℃、15分で大腸菌はほぼ殺菌できますが、細菌の濃度が高かったり、菌塊のまま殺菌すれば、この条件では不十分と思われます。
【参考文献】
- [1]
- 岡田 淳、設楽 政次、他:微生物/臨床微生物学.医歯薬出版、1999
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 飯草 正実)
(Q)男性尿にディデルライン桿菌様の菌が見られることがありますが、どのような可能性が考えられますか。(山口県 臨床検査技師)
(A)Lactobacillus spと同様の形態を示す細菌で男性の尿に見られる可能性があるのは以下の通りです。
- Corynebacterium sp(細長くまっすぐまたはわずかに湾曲、皮膚・粘膜に存在)
- Bacillus sp(大きな桿菌、自然界に広く分布)
- Mycobacterium smegmatis(=恥垢菌、抗酸性でやや湾曲またはまっすぐな桿菌、包皮に存在)
- Propionibacterium sp(多形性の桿菌、皮膚に存在)
【参考文献】
- [1]
- 岡田 淳、設楽 政次、他:微生物/臨床微生物学.医歯薬出版、1999
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 飯草 正実)
(Q)以前途上国において塗抹標本のみで膣内細菌感染を判定していたとき、ディデルライン桿菌も考慮していましたが、どの程度参考になるものなのでしょうか。(山口県 臨床検査技師)
(A)ディデルライン桿菌はLactobacillus acidophilus主体とする数種のLactobacillus spの総称です。ですから、ここではディデルライン桿菌のかわりにLactobacillus spという用語で使います。Lactobasillus spは産生する乳酸により膣内を酸性にし、膣内の清浄度を維持しています。しかしLactobacillus spは思春期前や閉経後に消失するため膣の自浄作用が保てなくなります。よってLactobacillus sp優勢のときは、他の有害細菌の増殖が抑制されます。また成人の膣内にはLactobacillus sp以外にStreptococcus、Staphylococcus、Bacteroides、腸内細菌群、Candida等の菌種が含まれるためLactobacillus spの多少にかかわらず、菌量を考慮した上で細菌感染の有無を報告します。
【参考文献】
- [1]
- 岡田 淳、設楽 政次、他:微生物/臨床微生物学.医歯薬出版、1999
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 飯草 正実)
(Q)今使っている腸内細菌科用のグラム陰性桿菌同定キットの精度に疑問があるのですが、客観的に比較検討した文献があったら教えて下さい。
(A)腸内細菌科の同定キットの検討については、下記の文献を参照して下さい。また、キットの検討を行なうときは既知の臨床分離株に併せ、標準菌株も実施すると良いと思います。現在では、標準菌株は簡単に入手可能であり、当院では一部にIDテストEB-20を使用しています。
【参考文献】
- [1]
- 小栗豊子:細菌の同定キットならびに迅速同定法.臨床検査 臨時増刊、27:1369-1377、1983
(2000年6月13日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 叶 一乃)
(Q)第3世代の抗原を用いたEIA法でHCV抗体が疑陽性となるのはどんな場合が考えられますか。また、輸血、針刺し事故以外のHCV感染経路を教えてください。現在35歳以上の検診者を対象にHCV抗体検査を行っていますが、抗体陽性者が多いように思います。(神奈川県 臨床検査技師)
(A)第3世代のキット(NS5領域を含むキット)はスクリーニング検査として使用されているため、感度を重視して作製されています。反面、特異度は犠牲になっている面があります。疑陽性の原因としては、抗生剤等の薬剤が知られていますが、実際には微小のフィブリン塊による場合が最も多いと思われます。また疑陽性ではありませんが、第3世代のキットでは過去に感染し既に治癒されている方でも検出されます。過去の感染例では、しばしば判定保留域に留まる例も多く見受けられます。
感染経路については、現段階ではまだ判明していません。検診者で陽性が多いのは、HBcAbと同様に過去の感染者を拾っているためと思われます。ちなみに、BcAbは治癒後5年から30年間陽性となっていた人でも陰性化することがありますが、C型肝炎の罹患による第3世代HCV抗体は消失しません。
(2000年6月5日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 藤代 政浩)
(Q)輸血検査用パイロット血液や抗体スクリーニング用赤血球における赤血球抗原の保存性や添加物によるアーチファクトについて教えて下さい。(東京都 臨床検査技師)
(A)パイロット血液には抗凝固剤(クエン酸ナトリウム)やブドウ糖などが入っています。とくに抗凝固剤が原因で、フィブリンの析出が生じ凝集反応の解釈を妨げることがあり、補体の活性化の不規則同種抗体も見逃されることになります。
抗体スクリーニング血球の保存には、血球膜と抗原性を保つためにアルセバー液の3%浮遊液とし、細菌汚染を防止するために各種の抗生物質が加えてあります。そのため調製後、45日間各血球の感度、安定性、寿命は高度に維持されています。しかし、抗原の種類によっては必ずしも有効期限内であっても安定とはいえません。アーチファクトについては、特にP1、Lea、Leb抗原は不安定なため凝集を見逃すことがあり、使用の際には十分注意をする必要があります [1]。
【参考文献】
- [1]
- 河瀬正晴:輸血検査マニュアル、106 、北欧社、1994
(2000年6月2日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 中島あつ子)
(Q)ブロメリン処理血球の物理的特性とアーチファクトについて教えて下さい。(東京都 臨床検査技師)
(A)ブロメリン処理血球の物理的特性について:ブロメリンは、赤血球膜に作用してシアル酸やN-アセチルニューラミン酸(NANA)を含んだglycopeptideを遊離します。そのためブロメリン処理血球は、赤血球膜上のシアル酸が減少し負に荷電し赤血球のゼータ電位が低下します。その結果血球相互間の距離が縮まり、IgG抗体が赤血球と架橋し凝集を起こします。
アーチファクトについて:抗原構造の一部分としてN-アセチルニューラミン酸をもつM抗原やN抗原は、ブロメリンによって破壊されるため、抗Mや抗N抗体は検出されなくなります。また、シアル酸を除去することによって、血球が寒冷性抗体、特に抗I自己抗体をよく吸着するため、反応温度が低下すると、抗I自己抗体による非特異反応が出現しやすくなります。
【参考文献】
- [1]
- 河瀬正晴:輸血検査マニュアル、115 、北欧社、1994
(2000年6月2日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 中島あつ子)
(Q)血液型および不規則性抗体スクリーニングの検査を行うとき、血清と血漿の反応性の違いについて教えて下さい。(東京都 臨床検査技師)
(A)血液型および不規則性抗体スクリーニング検査は、原則として採血後72時間以内の新鮮な血液を使用するように、日本臨床衛生検査技師会マニュアルに明記されています。
血液型(A,B,O)およびRh0(D)の検査については、IgMの反応でありまた室温で十分に凝集するため、検体は血清または血漿が使用可能です。注意点として、血液型のウラ試験に血清を用いた場合、自家調整のウラ試験用血球試薬で溶血反応を呈する場合があります。この際には、被検血清を不活化(56℃ 30分)して再検査します。Rh0(D)検査については、自己血清(血漿)を用いる場合、室温が15℃以下では寒冷凝集による自己凝集に注意します。
不規則性抗体スクリーニング検査は、主にIgGとIgMの反応を検出しますが、補体の活性化によってのみ検出される不規則同種抗体も存在しうるので、検体を不活化してはなりません。また血漿を用いると、フィブリンの析出やCaイオンのキレート結合によって凝集反応を妨げることがあり、補体の活性化によってのみ検出される不規則同種抗体も見逃されることになります。
【参考文献】
- [1]
- 「日臨技輸血検査標準法」改訂委員会:輸血検査の実際「ライブラリーIV」、8-56、日本臨床検査技師会、東京、1997
(2000年6月2日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 中島あつ子)
(Q)汎凝集反応の原因、判定時の注意、Cad抗原・Tkレセプター・Tnレセプターとの関係について教えて下さい。(東京都 臨床検査技師)
(A)汎凝集反応(polyagglutination)とは、赤血球が成人の大部分に反応する状態のことで、異常反応のひとつです。大部分の血清に対して凝集することから、よく血液型のオモテ試験とウラ試験の不一致による誤判定の原因となります。
細菌やウィルス感染症が原因の場合、赤血球膜の糖脂質や糖蛋白質に細菌やウイルスの酵素が作用し、赤血球膜が変性して本来表面に現れていない抗原レセプター、即ちTh抗原やTk抗原が露出するために凝集がおこります。これは一過性のものです。
溶血性貧血、血小板減少症など血液疾患が原因の場合、体細胞の突然変異により、赤血球表面にTn抗原が露出するためにおこると考えられています。これは永続的なものです。その他の原因として、遺伝的なCad、NORなどによるものがあります [1]。
凝集の強さはさまざまです。赤血球が血清中の抗体とは無関係に、同じ程度の凝集反応を呈するときに注意しなければなりません。また輸血の際は、血漿成分を極力取り除いた赤血球製剤を使用する必要があります [2]。
【参考文献】
- [1]
- 大久保 康人他:免疫血液学(輸血)の知識、162-163、近代出版、東京、1992
- [2]
- 認定輸血検査技師精度協議会カリキュラム委員会 編集:スタンダード輸血検査テキスト、94、医歯薬出版、東京、1999
(2000年6月2日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 中島あつ子)
(Q)重合アルブミンを用いた間接クームス法と通常の間接クームス法では、前者の方が感度がよいと考えられるのに、交差適合試験において後者のみ凝集が見られる例がありました。どう考えればよいでしょうか。(埼玉県 ブランチラボ勤務)
(A)交差適合試験は、臨床的に重要な抗体、つまり見逃した場合、副作用をおこす確率の高い抗体を検出するためのものです。そのため3法としては、生食法・ブロメリン法・間接抗グロブリン法、2法としては、ブロメリン法・間接抗グロブリン法の組合わせが適切と考えられます [1]。
赤血球凝集反応に重合ウシアルブミンを加えると、第一段階として不規則抗体を取込む働きをし、第二段階として赤血球のゼータ電位を低下させることにより、検出感度が高まるとされています。重合ウシアルブミンクームスが感度が高いと考えるのは、妥当だと思われます [2]。
重合アルブミン間接クームスに凝集がないにも関わらず、通常の間接クームス法で凝集が見られた原因として、最も考えられることは、高力価の寒冷凝集素の存在です。寒冷凝集反応の場合、37℃に加温しても凝集がほぐれなかったり、加温後、反応温度範囲がひろがったという報告がされています [1]。
【参考文献】
- [1]
- 田村 真他:免疫血液学(輸血)の知識、105、近代出版、東京、1992
- [2]
- 河瀬正晴:輸血検査マニュアル、113-115、北欧社、1994
(2000年6月2日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 中島あつ子)
(Q)西アフリカで、未治療で無症状の妊婦のRPRとTPHAがともに陽性という例を経験しましたが、梅毒が自然治癒することがあるのでしょうか。一方、小児は梅毒を発症する例が多かったのですが、これは親が不顕性感染であっても、小児には感染しやすいということでしょうか。(山口県 臨床検査技師)
(A)梅毒は放置していても自然治癒するといわれています。津上の報告の中でオスロー大学のBoeck教授の報告例と大阪万代診療所の例が紹介されていましたので、その部分を抜粋しました。「Boeck教授は、梅毒患者に対し駆梅剤を用いず対症療法のみを行った結果、6〜7割に後遺症を認めず、その半数は血清反応も陰転化して自然治癒の経過をとった。また、大阪万代診療所の例では過去7年間の初診患者約5,000名の80%はすでに低い抗体価になっており、戦後砒素剤療法を受けた655人と同年代の過去無治療グループ2,750人の抗体価は大差なかった。また、こられのうち心血管系などに後遺症のある患者は少数であったが、オスロー大学の例では心血管梅毒23 %、神経梅毒14%が認められた」。このように自然治癒した報告がされています。
先天梅毒は母親から胎児への垂直感染が原因です。先天梅毒でも無症状で血清反応のみ陽性の例もあります。母親の感染時期によっても胎児への影響は異なります。妊娠初期に感染すると、流産になる確率は高くなります。日本では妊婦検診で梅毒検査が行われています。血清反応が陽性の場合、IgM-TPHAで早期梅毒であるかの確認が行われ、治療が的確に実施されています。また、新生児梅毒についても臍帯血のIgM-TPHAを測定し治療の有無を判断しています。したがって、小児梅毒で臓器に後遺症を残すような例はまれといえます。小児梅毒の発病率は、母親の感染時期に影響されると考えられます。また、成人に比べ免疫ネットワークが十分確立していない小児では、発症率も高いと思われます。
【参考文献】
- [1]
- 津上久弥:梅毒の治療.皮膚科MOOK、4、79-89、1986
- [2]
- 植村一郎:近年における婦人の梅毒について.モダンメディア、35、589-601、1989
(2000年5月29日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎 光衛)
(Q)HBs抗体を粒子凝集法(PA法)で検査を行っている施設はどのくらいありますか。また、この方法を自動的に処理する装置にはどのくらいのニーズがあるでしょうか。(東京都 製造業勤務)
(A)HBs抗体をPHA法、PA法などのいわゆるマイクロタイター法で測定している施設数は約20%前後と思われます。
マイクロタイター法が一般的に普及し始めてから約30年になります。現在でも梅毒検査、HBs抗原や抗体検査、抗HIV抗体検査など感染症関連検査を中心に広く利用されています。マイクロタイター法が急激に減少することはないと思いますが、しかし、徐々に減少していることも事実です。EIA法や化学発光法などの自動化法や簡便な目視法であるイムノクロマトグラフィー法への移行が原因です。このような現状で、マイクロタイター法の自動処理装置を開発されても、需要が少ないと思われます。あるメーカではだいぶ前からCCDカメラを用いた判定機を発売しています。しかし、検査センターや一部の施設以外、一般的に普及していないようです。
以上の点から需要はあまり期待できないと考えられます。
(2000年5月29日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎 光衛)
(Q)免疫学的検査装置の開発・製造を行う場合、国または県の認可および開発担当者に求められる資格について教えてください。(東京都 製造業勤務)
(A)免疫学的検査装置は、薬事法で規定する医療用具に該当すると思われますが、医療用具を業として製造又は輸入販売する場合は、薬事法の規定に基づき、厚生大臣又は都道府県知事の許可を受ける必要があります。しかし、ご質問のように開発段階の試作品等の製造については、国又は県の許可は必要ありません。
医療用具を業として製造する場合は、薬事法第12条に基づき、その製造場所(製造所)について厚生大臣又は知事の許可を受ける必要があります。免疫学的検査装置のような検査用器具を新たに製造しようとする場合には、その製造所所在地の都道府県知事に医療用具製造業の許可の申請を行います。
免疫学的検査装置の開発担当者の資格について、薬事法による規制は特にありません。
(2000年5月29日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45))
(Q)梅毒血清反応のTP抗原測定系に於いてTPHAが陰性化せず陽性反応を示しつづける例がありますが、なぜですか。また新感染症法の「報告のための基準」で、「無症候梅毒ではカルジオリピンを抗原とする検査で16倍以上かつT.pallidumを抗原とする検査が陽性のもの」とありますが、16倍以上の根拠とTP抗体価が不要な理由を教えてください。(臨床検査技師)
(A)早期に駆梅療法をすれば、TPHAでも陰性化するといわれています。顕性梅毒では、未治療期間が長ければ、治療してもTPHA陽性が長期間続きます。他の感染症でも獲得免疫として長期間抗体が検出されるものは多く、T.pallidum(TP)に対する抗体に限ったことではありません。細胞性免疫系で免疫記憶細胞が長期にわたり存在すると考えられます。また、抗体保有者に2次感染が起こると、ブースター効果により早期にTP抗体が初感染ピーク時の5〜10倍ほどに上昇します。
TPの主要抗原と考えられているのは15、17、47kDaの細胞膜蛋白で、TPHA法、FTA-ABS,イムノクロマトグラフィー法、ラテックス凝集反応、EIA法で測定している抗体はこれらの抗原に対する抗体が主と考えられています。われわれはリコンビナント抗原(15-17、47kDa)を用いたイムノクロマトグラフィー法により200例のTPPA法陽性血清を測定しました。その結果、192例(96%)は15-17と47kDaの両方に、7例は15-17kDaに、1例は47kDaと反応していました。抗体価の相関(順位相関)は(n=30)0.89と良好でした。ラテックス試薬による自動化法でも抗体価の相関は0.68程度です。もちろん、TPPAで高くイムノクロマトで低い検体もありますが、極端なものではありません。また、治療による抗体価の推移をTPPA法やTPHA法およびイムノクロマトでみたことはなく断定はできませんが、方法によって大きな差はみられないと思います。TPPA法やTPHA法と比べイムノクロマトで低値のものは治療開始当初から低く、それが持続すると思われます。
以上のように,いずれの方法でも捉えている抗体はそれほどに差はなく、特定の抗原のみに産生される抗体は反応性も弱いと思います。したがって、治療後長期間に渡りTPHAが陽性となる場合、一部の抗原に対する抗体のみが高力価を維持することは稀と考えられます。もし、そのような場合は、試薬に含まれる抗原量が少ないと抗体過剰となり、TPHA法やTPPA法では各希釈血清の反応像において、弱い凝集が3,4管あるいはそれ以上に続くという現象が見られる可能性があります。
厚生省の感染症報告義務疾患の診断基準に「無症候梅毒ではカルジオリピンを抗原とする検査で16倍以上陽性かつT.pallidumを抗原とする検査が陽性のもの」とあります。無症候梅毒では、臨床症状はみられないがSTSが16倍以上であれば治療することが望ましいとされています [4]。治療済み梅毒との区別や治癒判定基準(8倍以下)、BFPの可能性、過去の膨大なデータやCDCのガイドラインなどを参考に16倍という数値が決められたと思われます。また、TPHAはSTSに比べ特異性は高いですが、抗体価は治療と一致しませんので、陽性であればよいとの判断ではないでしょうか。
【参考文献】
- [1]
- 水岡慶二:血清診断法.STD 臨床と細菌(臨時増刊)、137-142、1984
- [2]
- 津上久弥:梅毒の治療:皮膚科MOOK、4、79-89、1986
- [3]
- 望月照次、中村良子:梅毒の検査.検査と技術、24、809-818、1996
- [4]
- 伊東文行、本田まり子、新村眞人:性感染症診断・治療guide line 梅毒.日性感染症会誌、10、14-16、1999
(2000年5月29日、2000年6月5日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎 光衛)
(Q)補体のcold activationを疑うときになぜ血漿中のCH50を測定するのですか。
Caの影響はあるのでしょうか。
(A)cold activation(クリオグロブリンなどが低温での活性の引き金になると考えられている)は、肝疾患やHCV抗体陽性者に頻度が多いことが知られています。稲井らの報告では低温保存において、C4、C2の活性低下が原因としています。EDTAはCa2+をキレートするのでC4の活性を抑制します。また、ヘパリンでも同様の作用があります。このように、EDTAやヘパリンを加えて得られた血漿は、保存による活性化が抑えられ、cold activationを起こしにくくなります。ただし、100%防げるわけではなく、検体によってはcold activationが多少進行する場合もあります。
cold activationを疑うときは、同一患者の血清と血漿の補体価を同時に測定し、血漿>血清となることで確認できます。また、血清分離を37℃で速やかに行い、低温に保存したものと値を比べる(37℃>低温)ことや、C3やC4の蛋白量を測定することも1つの方法です。
【参考文献】
- [1]
- 稲井真弥:病気と補体.代謝.12(臨時増刊号):331-337、1975
- [2]
- 稲井真弥、安田玲子:補体価測定法.CLINICAL LABOLATOLY、233-238、1977
(2000年5月29日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎 光衛)
(Q)当院では稀に院内供血者輸血を実施しますが、供血者のHBVのスクリーニングについて、
・HBs抗原だけでなくHBc抗体も検査に加えるべきか
・その場合、HBc抗体陽性例全てを供血適応外とすべきか
・また、どの検査法を採用すべきか
についてご教示ください。(大阪府 臨床検査技師)
(A)供血者の検査にHBc抗体を加えるべきです。
HBc抗体は、HBV感染早期から出現しHBVキャリアで高抗体価を示します。低抗体価の場合は過去の感染を示します。しかし、HBs抗原陰性でHBs抗体陽性であっても、HBc抗体陽性の場合は、血中もしくは肝組織中にごく微量のHBVが存在する危険があります。ということは、低抗体価でもHBc抗体陽性ならば供血者として「不適」とするのが妥当です。
日赤血液センターで実施されている検査は、ABO血液型、Rho(D)抗原、不規則抗体スクリーニング、HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体、HCV抗体、HIV1,2抗体、HTLV-I抗体、梅毒血清反応、ALT(GPT)です。院内供血者でも同様な検査が必要ではないでしょうか。供血者の感染症検査では、検査によって高感度な測定法が要求されます。特にHIV抗体検査ではWindows periodが問題になり、抗体検査の限界が指摘されています。日赤ではNAT法を導入するなど、安全な血液の供給に努力しています。また、「血液製剤の使用にあたって」の中に血液センターからの供給体制が整っている場合、特別な事情がない限り院内供血者による輸血は行うべきではないとあります。家族や知人が供血者といえども感染のリスクは同じです。できれば、医師と話し合ってできるだけ日赤の血液を用いた方がよいと思われます。
【参考文献】
- [1]
- 丸山念之:HBVのウイルスマーカー.メディコピア、39、204-207、1999
- [2]
- (財)血液製剤調査機構 編集:血液製剤の使用にあたって 第2版、1999
(2000年5月29日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎 光衛)
(Q)免疫電気泳動法の原理がどうしても分かりませんので、教えていただけないでしょうか。(学生)
(A)免疫電気泳動は、電気泳動法にて血清中の蛋白成分の分画を行い、次に二重免疫拡散法により蛋白成分の同定を行います。電気泳動法の原理はセ・ア膜を用いた蛋白分画と同様です。免疫電気泳動では支持体に寒天平板を用います。緩衝液はベロナール緩衝液(pH8.6、μ=0.05)を使用します。簡単な手技と原理の説明をします。
寒天平板に血清を塗布し、その平板を泳動槽のプラス電極槽とマイナス電極槽の間を橋渡しするように置き、一定の強さの電流を流して泳動します。アルカリ性であるベロナール緩衝液中の血清蛋白はマイナスに荷電しているため、寒天の中をプラス電極側へと易動します(電気泳動現象:荷電量と電場の強さに比例)。この時、ベロナール緩衝液の分子は寒天の中をプラス電極からマイナス電極の方向に流れます。これを電気浸透現象といいます。蛋白はこの流れに逆らって移動することになります。それぞれの蛋白は、固有の等電点を持ち、アルブミンなど等電点が低いものはプラス電極側へ強く引かれます。等電点が高いグロブリンなどは、逆にマイナス電極へ電気浸透で流されてしまいます。一定時間泳動を行うとプラス側から順にアルブミン、α1、α2、β、γのそれぞれの分画に分離されます。血清塗布点がちょうどβ分画になるように、寒天に加えるアガロースを調整すると、きれいに分離できます。実際には泳動を取り巻く複雑な因子が関与しています。支持体への蛋白の吸着や分子ふるい効果、緩衝液のイオン強度、ジュール熱などが挙げられます。
次に寒天に作った溝に抗血清を流し、15〜16 時間静置します。蛋白(抗原)と抗血清(抗体)は、拡散して抗原・抗体反応が起こります。ちょうど最適比の場所に沈降線(不溶性の抗原・抗体複合物が白い沈殿物として確認される)が形成されます。寒天は網の目構造になっているため、分子量によって拡散距離がそれぞれ異なります。分子量の大きいIgMやα2マクログロブリンなどは、拡散速度が遅いため抗血清の溝から遠くに沈降線が形成されます。アルブミン分画ではトランスサイレチン、アルブミン、α1分画ではα1アンチトリプシン、α2分画ではα2マクログロブリン、セルロプラスミン、ハプトグロビン、β分画ではトランスフェリン、ヘモペキシン、β1C・β1A、γ分画ではIgG、IgA、IgMが主要な沈降線として現れます。沈降線はその太さなどで、おおよそ量の増減がわかります。重要なポイントは多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症の際にみられるM成分(M-bow)の発見です。
【参考文献】
- [1]
- 大谷英樹、河合忠:免疫電気泳動法(第2版)、医学書院、東京、1997
- [2]
- 〆谷直人、大谷英樹:M蛋白の検出と検査の進めかた、検査と技術、19、27-32、1991
(2000年5月29日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎 光衛)
(Q)全自動血球計から排出される廃液を直接下水へ流すのは問題ではないか、と医療監査で指摘されたのですが、どう対処すればよいでしょうか。(臨床検査技師)
(A)法的な質問なので廃棄物処理法に基づいて説明します。産業廃棄物には一般的な産業廃棄物と特別管理産業廃棄物があります。一般的な産業廃棄物とは事業活動から生じたもので、かつ、廃棄物処理法が定める19種類(燃え殻、汚泥 、廃油 、廃酸、廃アルカリなど)に該当する廃棄物をいいます。また、爆発性・毒性・感染性などの性状を有して、人の健康や生活環境に被害が生じるおそれがある廃棄物は、特別管理産業廃棄物として特に厳重に規制されています。今回の質問である全自動血球計から排出される廃液は血液などの検体が含まれているため、特別管理産業廃棄物の感染性廃棄物に含まれると思われます。しかし医師の判断で感染の危険性がないと判断された場合は感染性廃棄物として処理する必要はなく、産業廃棄物の廃アルカリとして処理されます。いずれの場合でも産業廃棄物として慎重に取り扱う必要があります。処理方法については事業者が自らの責任で処理施設を整備し処理する場合と専門業者に委託して処理する場合があります。いずれも事業者は最終処分まで適正に処理をすることが必要です。よって貴院の施設長と十分に相談し解決して下さい。
(2000年5月23日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45)、獨協医科大学越谷病院臨床検査部 鳥山 満)
(Q)検体検査管理加算に必要な検査適正化委員会の運営規定について、具体的に教えて下さい。(佐賀県 臨床検査技師)
(A)社会保険研究所発行の「点数票改正点の開設(通称白本)」(定価4000円)のP.763に「検体検査管理加算(1)、(2)及び血液細胞核酸増幅同定検査の施設基準に係る届出書添付書類(様式11)」が記載されております。(「特掲診療料の施設基準に係る届出書(添付2)」はP752)
これらの届け出は、今まで各都道府県知事への届け出であったものが、今年度より社会保険事務局へ届け出ることとなりましたので、詳しいことを問い合わせをするのであれば、各都道府県の社会保険事務局に問い合わせて下さい。
臨床検査の適正化に関する委員会の有無については、「委員会の運営規定を添付すること」となっております<厚生労働省(組織再編)[参考資料]>。「議事録を添付すること」とは記載されておりませんが、届け出後の監査で運営されているか否かを確認するために議事録の提出を求められる可能性が大です。
運営規定の内容は見本はないのですが、次のように考えたらよいと思います。運営規程は本来各医療機関の実情に合わせて作成されるべきものであり、既に検査委員会が設置されている場合等の事情によりその内容も異なるので、適宜内容を変更して作成する必要があります。
また、委員会規程を含め設置基準全体が適合しているかの判断は、各地方社会保険事務局に委ねられるものですので、必ず管轄の社会保険事務局にご確認してください。尚、届け出は4/16までとなっており、それ以降の場合は5月以降のレセプトから算定できることとなっておりますので注意して下さい。
(2000年4月14日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45))
(Q)登録衛生検査所に対する国際的認証制度の見通しについて教えて下さい。(大阪府 製薬会社勤務)
(A)まず、今後、保健医療行政がどのように変革するかによって大きく異なります。そこで、現状の医療行政がほぼ現状のまま続くと仮定して回答いたします。
1.登録衛生検査所の国内における認定制度
登録衛生検査所については、「臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律」の中で、検査室の質的管理に関する指針が示されており、それに沿った業務を進めることになっています。日本医師会による『外部精度管理調査』に代表される外部精度管理調査に参加することが義務付けられています。法律では、厚生省の指導によって、各都道府県がほぼ2年に一度の立ち入り調査を含む査察を実施していますが、行政指導に留まっており、罰則等は適用されません。しかし、検査室の認定/認証を受けなければ検査の受注を出来ないと言うものではありません。ただし、現在、財団法人医療関連サービス振興会が実施する査察/審査に合格すると認定証およびマル適マークが発行されていて、大部分の登録衛生検査所は認定証を取得しています。これを取得していることを前提に競争入札に参加させる医療機関も少なくありませんので、国内ではマル適マークの取得が必要となるのが実態でしょう。しかし、これはわが国だけに通用する認定/認証であって、国外では認知されていません。もちろん、ISO登録とは全く関係がありません。
2.登録衛生検査所のCAP認定制度
専門家グループが自主的に臨床検査室の認定を実施するシステムとしては、College of American Pathologists(アメリカ病理医会)が長年実施してきたものが最大級で、もっとも有名です。CAP認定制度は、米国保健省のHealth Care Finance Administration(HCFA、保健医療財政局)により公認されている制度の一つですが、その他にもいくつかの公認された認定制度があります。こうした公認の認定制度により認証された検査室のみが政府管掌医療保険からの報酬支払いが認められており、これに追従する民間医療保険会社も増えています。
日本国にある米軍病院では、米国の方式に倣って、少なくともCAP認定またはそれに準ずる認定を取得していることを外注の条件として提示しています。したがって、大手の登録衛生検査所のいくつかはCAP認定を取得しています。今後、他の近隣諸国に駐留する米軍医療施設からの受注を希望する場合には、どうしてもCAP認定を取っておく必要があります。その仲介をするInternational Medical Accreditation(IMA)プロジェクトが、在日米国企業によって遂行されています。すなわち、CAP認定を取得するためには、事前に検査室のマネジメント方式を改善し、2年間程度の準備が必要であるために、IMAがそれを支援するわけです。
3.登録衛生検査所のISO認証制度
ある大手の民間検査センターが国際オリンピック委員会からドーピング検査を受注するにあたって、ISO認証を取得することを条件として提示され、何年かの準備期間を経て取得した例があります。しかも、臨床検査室のISO認証を実施する認証機関がわが国には未だ設立されていません。したがって、オーストラリアのNational Association of Testing Authorities(NATA)から認証を取得しました。工業分野では、既にわが国でもこうした認証機関がいくつかあり、それらの認証機関を認定する公的な機関としては財団法人日本品質システム審査登録認定協会(JAB, The Japan Accreditation Board for Quality System Registration)があります。
上記の場合を除くと、現在の日本国内では、ISO認証を取得しなければならない法的義務はありません。しかし、いくつかの登録衛生検査所がISO 9000シリーズ(品質管理)またはISO 14000シリーズ(環境管理)に基づく認証を取得している場合がありますが、あくまでも自発的に行っているわけです。その最も大きな理由は、(1)ISO認証を取得することで企業に対するイメージアップに繋がること、(2)認証を取得する準備過程で企業内の管理体制の改善が期待できること、そして(3)その結果として企業の効率的経営に結びつくこと、などです。
4.登録衛生検査所の認証についての展望
現在、ISO/TC212〔臨床検査と体外診断検査システム〕専門委員会では、『臨床検査室のクオリティマネジメント』に関する国際規格(ガイドライン)が準備中で、2000年末までには公開される予定です。これは、従来の工業分野でのISO9000シリーズに準じており、臨床検査室の特性を考慮した内容になっています。これが公開されると、その規格内容を満たしているかどうか(適合性)を検証する臨床検査室の認定/認証制度が導入されることになるでしょう。一旦国際規格が制定されると、世界貿易機関(WTO)の申し合わせで、国内規格に優先することになり、世界各国はその国際規格を導入するよう努力するでしょう。とくに、ヨーロッパ連合では各国間の障壁がなくなるわけですから、臨床検査所業務についても当然国際競争が激しくなり、ISO認証取得が受注競争のために必須となると予想されます。もし、わが国が臨床検査受託の面でアジア圏での主導権を握ろうとすると、ISO認証取得が不可欠の要素となるでしょう。日本国内では、医療行政の改革が進み、米国のCLIA'88に準じて、保険診療報酬を受け取るためには、公的な認証を取得した臨床検査室での検査に限定するようになれば、必然的にすべての臨床検査室が公的な認証を取得せざるを得ないことになります。現在、厚生省内ではそのような動きは未だ公表されていません。
公的な認証制度はどのようになるかは厚生省が決定することになりますが、global harmonizationの立場から当然ISO認証制度が第一に考慮されるのではないかと推定されます。CAP認定制度は、臨床検査の専門家の間では高い評価を受けていますので、その導入の可能性もあります。ただ、米国内でもいろいろ意見があります。CAP認定制度とISO認定/認証制度はしばらく共存するであろうが、いずれはISO認定/認証制度に集約していくのではないかとの意見もあります。専門的な審査内容については、現在のところ、CAP認定制度に軍配が上がるでしょう。しかし、両者の最も大きな違いは、CAP制度は仲間同士での審査であり、ISO制度は第3者機関による審査である点です。今後、国内外の動向を見極めて、わが国での臨床検査室認証機関を早期に設立する必要があると思います。
(2000年4月5日 認定臨床検査医 河合 忠(No.22))
(Q)尿沈渣の結晶がEDTAを加えると消える理由を教えて下さい。(東京都 臨床検査技師)
(A)尿沈渣の検査において、無晶性塩が大量に析出し尿沈渣観察の重大な障害になる場合があります。このような場合に、他の沈渣形態にあまり影響を及ぼさず無晶性塩のみ溶解させる方法として、沈渣に対してEDTA生食(0.4%)を10mlまで添加し、混和後再遠心する方法(文献1-2)が用いられています。
尿沈渣に見られる無晶性塩の代表として、無晶性リン酸塩(アルカリ性下)と無晶性尿酸塩(酸性下)があります。無晶性リン酸塩は、リン酸と尿中に排泄される電解質との塩の混合物と考えられますが、その大部分がCa塩であると考えられます(文献3)。そして、CaはEDTAと安定なキレート化合物を形成しやすいため(文献4)、無晶性塩は消失すると考えられます。
ちなみにシュウ酸Ca結晶などは、沈渣観察の障害になることは少ないですが同様にEDTA生食により小型結晶などは溶解してしまいます。
無晶性尿酸塩の構成要素については、Na、K、Ca、Mg、NH3などとの塩が含まれると考えられますが(文献5-6)、尿酸塩は本来水溶性であり、EDTAを含まない生食のみでも溶解することが知られています(文献3)。
【参考文献】
- [1]
- 稲垣勇夫:尿沈渣検鏡における無晶性塩類成分の妨害除去法、臨床検査 26(9)1085, 1982.
- [2]
- 稲垣勇夫:尿沈渣中の無晶性塩類の除去法、検査と技術 13(10)963,1985.
- [3]
- 三宅一徳:尿沈渣中リン酸塩の除去と形態変化、Medical Technology 21(9)261,1993.
- [4]
- 斎藤一夫:新しい錯体の化学,第1版.東京:大日本図書、1986. p123
- [5]
- 高橋二美子、伊藤機一:無晶性塩の除去とそれによる影響、臨床検査 34(6)762-3,1990.
- [6]
- Graff L:A handbook of routine urinalysis, 1st ed. Philadelphia: JB Lippincott, 1983 .p90
(2000年4月3日 認定臨床検査医 今福 裕司(No.377))
(Q)先日、輸血のために不規則性抗体スクリーニング試験を行ったところ 次のような結果がでました。
1 2 3 Di 自己
アルブミン 1+ w+〜− w+〜− 1+ −
クームス法 − − − − −
何故こんな結果になるのかを教えてください。(大阪府 臨床検査技師)
(A)クームス法では明らかに陰性なのに、アルブミン法で凝集反応が見られ、しかも、型特異性を示さない・・・このようなケースでは、連銭形成が強く疑われます。
おもな不規則抗体の反応様式についてはMedical Technology vol.22 p.580をはじめ、様々な一覧表が示されていますが、クームス法よりアルブミン法でよく検出されるという不規則抗体はみられません。
また、上記のアルブミン法での反応態度を見ると反応の強弱はあっても型特異性がない汎血球凝集が疑われます。反応温度は37℃ですので、寒冷凝集はあり得ません。ふだん、輸血の検査に従事している方なら、アルブミン法では連銭形成が生じやすいことを経験的にご存じのことと思います。血球によって反応の強さには強弱があり、とくに自己対照で弱いものです。
このような場合は、スライドグラス上に血球と血清を反応させた溶液を一滴滴下してカバーグラスをのせ、顕微鏡で見てください(その際は、コンデンサーを下げる)。血球が面と面で重なり合った連銭が確認できると思います。
正しく行われたクームス法で陰性であれば、臨床的に意義のある不規則抗体を見落としている可能性はかなり低いはずですし、輸血した結果、不規則抗体に基づくトラブルを生じる可能性は「極めて低い」でしょう。
(2000年3月25日 認定臨床検査医 村上 純子(No.370))
(Q)レジオネラの尿中抗原検出法の意義、測定キットおよび保険上の扱いを教えて下さい。(岡山県 臨床検査技師)
(A)レジオネラの検査のうち現在保険適用は培養のみです。
抗原については、血中濃度は尿中の1/30-1/100にとどまるため、現在市販されているキットでの検出は困難で、診断のための抗原検出には尿が有用です。抗菌薬投与後でもある程度の期間は陽性となりますが、持続期間は不定で、数日から1年以上陽性となることもあります。
現在外国で3種の尿中抗原検出用キットが市販されていますが、日本では市販されていません。
(1) Binax Legionella urine antigen EIA kit
(米国 Binax社:アスカ純薬取り扱い)
(2) Biotest Legionela Urine Antigen EIA Kit
(独 Biotest社:ビオテスト在日事務所)
(3) Binax NOW Legionella
(米国 Binax社:アスカ純薬取り扱い)
(1)は最初に実用化され、Legionella pneumophila血清型1のみを検出します。(2)はLegionella属全体を検出するとされています。(3)はLegionella pneumophila血清型1のみを検出する迅速診断キットです。また(1)(2)は3時間を要し分光光度計を使用しますが、(3)は15分で終了し器具は不要です。
なお、呼吸器検体や胸水中の抗原量は低く、菌体を直接検出するキットが海外にありますが感度は低くなります。詳しくは、下記文献にレジオネラの特集が組まれていますのでご覧下さい。
【参考文献】
- [1]
- 臨床と微生物 vol.25 N0.1 (1998年1月号)
(2000年3月20日 認定臨床検査医 山口 惠三(No.372)、東邦大学医学部微生物学教室 小林 隆夫)
(Q)トレッドミル運動負荷試験で発生した事故の頻度や種類の統計はありますか。(大分県 臨床検査技師)
(A)トレッドミル運動負荷試験での事故とは、急性心筋梗塞の発症、心室頻拍・心室細動などの緊急処置を必要とする重症不整脈などが考えられます。私の所属する施設では、トレッドミル全例に医師が付き添っており、特に事故の統計はとっていないので、ご質問に対する直接のお答えはできません。ただし、担当の医師によれば、彼が担当しているここ数年事故は起こっていないが、それ以前一度心室頻拍があったということです。この期間の例数は1000例を超えていますので、頻度的には0.1%未満程度と考えられます。したがって適応を正しく選べば事故の確率は極めて低いと思います。
実際には、検査をオーダーする医師は不安定狭心症など運動負荷のリスクが高い患者に運動負荷試験を実施しないこと、検査室はそのような患者に検査の指示があった場合には必ず主治医に確認すること、すなわち禁忌を避け、また負荷検査の中止基準を守ることが重要でしょう。
(2000年3月12日 認定臨床検査医 幸村 近(No.445))
(A)下記論文をご覧ください。トレッドミル運動負荷試験60万余件につき死亡1件、心筋梗塞14件などの調査結果が詳細に解説されています。
【参考文献】
- [1]
- 武者春樹、他:運動負荷試験における事故に関する検討 ―全国107施設調査結果―.心電図 17(1):21-28、1997
(2000年3月13日 認定臨床検査医 山口 一郎(No.294))
(Q)心エコーのTei indexとは何ですか。(群馬県 臨床検査技師)
(A)Tei indexとは鹿児島大第一内科の鄭(てい)忠和教授が提唱した左室機能の指標で、Doppler index ともいわれるものです[1]。左室の収縮能と拡張能を総合的に反映するという特長があり、等容収縮期(ICT)と等容拡張期(IRT)の和(ICT+IRT)を駆出時間(ET)で割ることで得られます。ドプラ上のパラメータとして、ICT+ET+IRT は transmitral flow で僧帽弁が開いていない時間(t)として得られ、ET は LV outflow から測定できますので、Tei index=(t−ET)/ET となります。
文献上、実際の値は健常人では0.37±0.08で、拡張型心筋症(DCM)の患者群では0.85±0.32と高く(p<0.001)、また長期予後(生存率)を左室駆出率(EF)よりもよく反映することが示されています[2]。
【参考文献】
- [1]
- Tei C: New non-i nvasive index for combined systolic and diastolic ventricular function. J Ca rdiol 1995;26:135-136
- [2]
- Dujardin KS, Tei C, et al: Prognostic value of a Doppler index combining systolic and diastolic performance in idiopathic-dilated cardiomyopathy. Am J Cardiol 1998;82:1071-1076
(2000年3月12日 認定臨床検査医 幸村 近(No.445))
(Q)コレステロール関連検査の年間件数と売り上げを教えて下さい。(内科医)
(A)脂質関連の年間の日本での売り上げは、実績値ではなく99年度の見込みですが、次の通りです。
Tch :110,590千件 2,820百万円
TG :115,970千件 4,175百万円
HDL−C: 95,440千件 3,242百万円
LDL−C: 15,303千件 505百万円
(2000年3月9日 認定臨床検査医 櫻林 郁之介(No.82))
(Q)採血後サンプルを宅急便等で遠隔地に送るという行為につき、何か規制はありますか。(内科医)
(A)検体を遠隔地に宅急便輸送することに特に違法性はありません。また、届け出の必要もありません。もちろん、漏れ出る様な梱包を避けることは言うまでもありません。
(2000年3月9日 認定臨床検査医 櫻林 郁之介(No.82))
(Q)バンコマイシンの血中濃度をモニターする際知っておくべきことを教えて下さい。(大阪府 臨床検査技師)
(A)
I 定常状態
薬剤の投与をくり返すと薬剤の吸収と排泄(代謝も含む)がある時点でつりあって、あるpeak濃度とtrough濃度(次回投与直前の濃度)の間で一定の幅で変動する状態をさします。半減期の5〜6倍経過後に達すると考えられています。
II バンコマイシン
1.抗菌力
バンコマイシンはグリコペプタイド系の抗生物質であり,好気性,嫌気性のグラム陽性菌に対して,抗菌力を示します。グラム陰性菌に対しては無効です。作用機序は細胞壁合成必要なペプチドグリカン前駆体と構造が近く,β-lactam剤と同様にペプチドグリカンの合成を阻害します。
2.体内動態
経口投与では,ほとんど吸収されないので,TDMの対象となりません。
点滴静注した場合は,ほとんど代謝を受けず24時間以内に約85%が腎から排泄される腎排泄型の薬剤です。半減期は年齢差があり新生児6-10時間,乳児4-5時間,小児2-3時間,成人4-6時間です。腎障害があった場合は延長するので,高齢者では成人より長くなります。
3.定常状態
成人で半減期の5倍とすると投与開始から2-3日後に到達します。
4.採血
副作用(adverse effect)の防止には,trough濃度の測定が重要です。一日2回の投与とした場合,定常状態を考慮すると,投与開始3日目の点滴開始直前が一回目の採血となります。投与開始日に検査依頼をする医師は定常状態に関する知識に欠けていると検査室から判断されることになります。peak濃度は分布相(臨床薬理でいうα相)を考慮すると点滴終了後1-2時間後となります。
5.血中濃度(中毒域)
trough濃度で30μg/ml以上が中毒域とされています。peak濃度はあまり測定されていませんが、60μg/ml以上は中毒域とされています。
6.adverse effects
腎毒性はtrough濃度と関係しますが,発生率は5%以下と報告されています。
第VIII神経に関連して,目眩,耳鳴,聴力低下が報告されています。
Red Neck syndromeと呼ばれるヒスタミンを介する過敏症がありますが、点滴速度を落とすことで予防可能です。
その他として,静脈炎,白血球減少,好酸球増多などが報告されています。
7.解析software
Windows及びMacintoshのExcelで動くVCM-TDMを利用できます。問い合わせ先は塩野義製薬医薬情報本部VCM係(Tel 06-6458-5861内線678,FAX 06-6454-0126)。
(2000年2月16日 認定臨床検査医 西園寺 克(No.234))
(Q)キシロース吸収試験の尿検体の扱いと検査時の注意を教えて下さい。(福岡県 臨床検査技師)
(A)尿を検体とする場合、冷蔵庫保存で2日間、冷凍すれば長期間安定であると言われています。
なお、小腸粘膜の機能を調べる検査としては、特異性および感度が必ずしも十分でないとの意見もあり、嘔吐時、空腹を守れなかった時、各種の薬物投与、腹水あるいは腎機能障害によっても測定値は低くなるので、データの判断には注意が必要です。
詳しくは下記の文献を参照して下さい。
【参考文献】
- [1]
- Todd-Sanford Clinical Diagnosis By Laboratory Methods 15th edition, 914-915 (Davidson and Henry Saunders), 1974
- [2]
- グラッドウオ-ル臨床検査学 第1巻臨床化学、263-264および587-588(玄番昭夫・荒木仁子)、医歯薬出版、1984年
(2000年2月16日 認定臨床検査医 佐藤 豊二(No.305))
(Q)FMS契約時に、病院側から業者にどのような要求を呈示すればいいでしょうか。
(A)FMS(Facility Management ServiceあるいはFacility Managed System)には、業者側が検査システムを含む検査設備・消耗品一切を、医療機関が人・施設を分担して検査部門を共同運営する形態が増えてきています。初期投資や経常コストを軽減できる反面、人件費は変わりなく、業務内容が制約されるデメリットもあります。業者との交渉でポイントになるのは、(1)検査収入の分配比率および(2)機器や試薬の選択です。いずれにせよ比較的うまくいっているところ、あるいは断念したところさまざまなので、導入に当たっては、各施設に実情を直接問い合わせ、自施設の状況と併せ十分に比較検討する必要があります。
なお、最近では業者との契約を工夫することにより、病院所属の検査技師の身分を保証したうえでブランチラボ方式を採用する施設もあるので、下記文献や以前のQ&Aなどを参考にされるとよいでしょう。
【参考文献】
- [1]
- 村井 哲夫:中央検査部ブランチ化の問題点.第18回日本臨床検査医会総会講演会記録
(http://www.jaclap.org/labcp/v018n1t001.html)
【関連Q&A】
- [1]
- FMSの導入に当たって注意すべき点を教えてください。(http://www.jaclap.org/consult1998.html#19980323a)-1998.03.23
(2000年1月25日 認定臨床検査医 村井 哲夫(No.140))
|