(Q)臨床検査技師が経食道エコーのプローブを操作することに、法律上の問題はないのでしょうか。(臨床検査技師)
(A)政令で定める生理学的検査には内視鏡、心電図の食道誘導、筋電図の針電極などは含まれておらず、臨床検査技師は実施できないことになっていますので、経食道エコーについても同様と考えた方がよいでしょう。相当心エコーの経験を積んだ臨床検査技師でも、あまり実施例はないようですので、すでに患者さんが飲み込んでいるプローブについても、操作は医師に任せて記録だけを担当する方が無難と思われます。
(1999年12月16日 認定臨床検査医 幸村 近(No.445))
(Q)心室中隔欠損症などの先天性心疾患を手術で治療した後でも、心エコーで奇異性運動が見られるのはなぜでしょうか。(臨床検査技師)
(A)右心系の容量負荷のために心室中隔の奇異性運動がみられる疾患で、手術により負荷がなくなったにもかかわらず奇異性運動が改善しないのは、心膜切開の影響と思われます。即ち手術の際、切り開いた心膜は通常再縫合しないため、心臓全体が振り子様に動いて見かけ上奇異性運動になる可能性が考えられます。また、術前の肺高血圧の影響で心筋障害が残存しているような場合には、中隔の動きの回復の遅れが関係している可能性もあります。
(1999年12月16日 認定臨床検査医 幸村 近(No.445))
(Q)心エコーで収縮末期から拡張期にかけて左房内に流入する、ドップラーで2峰性のインフローの示す血流が見られました。何が考えられるでしょうか。
(A)左房内に流入する血液ということで、肺静脈血流と思われます。条件良く記録されれば、収縮期に2つあるいはそれらが重なって1つと、拡張期に1つのピークのある波形で、拡張末期には心房収縮を反映する逆向きの血流が見える可能性もあります。左房圧が高いとき収縮期速度/拡張期速度は小さくなることから、心機能の指標ともなります。
(1999年12月16日 認定臨床検査医 幸村 近(No.445))
(Q)抗酸菌培養で4週目判定が陰性であったにもかかわらず、8週目判定が陽性、コロニー数7個でした。このまま結核菌陽性と報告してよいでしょうか。(鹿児島県 臨床検査技師)
(A)一般に抗酸菌の中でも、非定型抗酸菌は割と早く増殖しますが、結核菌は増殖に著しく時間がかかるので、ご質問のような事例は決して稀ではありません。このような場合に見落とすことがないように8週間も培養するのです。また、両者が混合感染しているような場合には、最初に非定型抗酸菌のコロニーが増殖してしまい、結核菌のコロニーが見落とされてしまう恐れもあります。
現在では遺伝子検査によるコロニーの同定や、検体から直接遺伝子増幅法で検出する方法が普及していますので、培養検査の技術的限界を補うために、これらの方法を併用して確認することが必要です。
ご質問にある事例はむしろ結核菌であることが強く疑われますので、臨床側にはそのように報告し、念のために遺伝子検査の実施をオーダーするよう勧める必要があります。
(1999年12月1日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)一定期間毎に細菌検査に関する統計資料をまとめ、それを治療に役立てれば、保険点数が加算されると聞きましたが、どのような資料を作ればいいのでしょうか。(愛媛県 臨床検査技師)
(A)ご質問の保険点数項目は、平成8年社会保険診療報酬の改定時に施行された院内感染防止対策に関する加算であると思われます。すなわち、厚生大臣が定める施設基準に適合し、院内感染防止対策が行われた場合は、1日につき5点加算できるというものです。
施設基準にはいくつかの要件があり、その(4)として「当該病院にある検査部において、病院内各病棟の微生物学的検査に係わる状況等を記した「感染情報リポート」が週1回程度作成されており、当該リポートがMRSA院内感染対策委員会において十分に活用されている体制がとられていることが望ましい。当該レポートは、入院中の患者からの各種細菌の検出状況や薬剤感受性成績のパターン等が病院の疫学情報として、把握、活用されることを目的として作成されるものであり、病院内各病棟からの拭き取り等による各種細菌の検出状況を記すものではない。」と記載されています。
感染情報リポートの具体的書式は定められていませんが、加算の対象となるためには「一定期間の細菌検査に関する資料をまとめ、それを治療に役立てる」だけでなく、前述のように「入院中の患者からの各種細菌の検出状況や薬剤感受性成績のパターン等が病院の疫学情報として、把握、活用されることを目的として作成する」と同時に、施設基準の他の要件も満たしておく必要があります。
(1999年11月29日 認定臨床検査医 熊坂一成(No.236))
(Q)照射血を輸血したときに患者さんが被曝する心配はないのでしょうか。(宮崎県 臨床検査技師)
(A)輸血用血液製剤専用の照射装置を購入し、輸血直前に照射する施設も増加してきました。また、日本赤十字社が血液製剤に放射線を照射してから出庫出来るようになったので、放射線照射装置を持たない施設でも、輸血後GVHD(移植片対宿主反応)発症の心配なしに輸血を行えるようになりました。このような状況の中で、医療従事者のみならず、輸血を受ける患者さんにも、ご質問にあるような疑問をお持ちの方がいらっしゃると思います。
これにお答えするには、放射能と放射線の違いを理解していただく必要があります。分かりやすく例えると、放射能とは電球で、放射線は電球から出てくる光と考えて下さい。電球を消すと電球自体は残りますが、そこから出ていた光はなくなります。これと同じように、放射線を照射した血液製剤に放射能が残ることはありませんので、それを輸血しても患者さんが被曝する事はありません。専用の血液製剤照射装置では、線源として
137Csを利用したγ線あるいはX線が使用されていますので、上記の説明の通り患者さんが被曝する心配はありません。
しかし、治療用放射線照射装置を使用した場合は少し事情が異なります。というのは、治療用リニアックを利用し、10MV-リニアックX線照射を行うと、血液製剤自体ではなく、輸血バッグが放射化(放射線を発生すること)する現象が認められています[1]。ただし、これによる残留放射能もきわめてわずかで、測定時のバックグラウンドの1.5から2倍程度なので、人体に対する害はほとんどないとされています。
以上のような訳で、放射線照射した血液製剤を使用しても、患者さんの被曝に関しては特に心配する必要はありません。
【参考文献】
- [1]
- 関根 広 他:血液照射の伴う輸血バックの放射化について、臨床放射線 41:915-918、1996
(1999年11月28日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244))
(Q)臨床検査技師を目指して勉強中ですが、生殖医療に興味があります。将来顕微受精等に従事することは可能でしょうか。(大学生)
(A)正確な統計はありませんが、顕微受精等の作業に携わっている臨床検査技師は、既にかなりの数に登っていると推測されます。今のところ従事者に関する法的な規制はありませんが、現在最も権威ある指針としては、平成4年1月に日本産科婦人科学会から「顕微授精法の臨床実施に関する見解」が会告として出されています。これによると実施者は専門医であることを条件とし、実施者のもとで実際に作業に従事する者を「実施協力者」と位置づけ、「本法の基礎的技術に十分習熟したもの」に制限し、実施者とともに氏名を登録することになっています。
いずれ何らかの法律が定められると予想されますが、従事者として、広範な医学的知識を持ち、無菌操作に慣れている臨床検査技師は、最も有力な職種と言われていますので、恐らく認められると考えてよいと思います。それに呼応して、専門技師制度なども整備されることになるでしょう。上記会告の掲載されている日本産科婦人科学会のホームページ(http://www.jsog.or.jp)などで、今後の社会的なコンセンサスの動向に注意してください。
(1999年11月19日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)酵素活性の国際単位の測定条件ついては「温度は必ず記載し、できれば30℃」と決められていますが、検査報告書に何の記載もない場合でも、37℃で測定されることがあるのですか。(東京都 試薬メーカー社員)
(A)ご質問にあるように、IUBMB(国際生化学・分子生物学連合、当時はIUB)は1964年に酵素の測定温度は30℃を標準とすることを定めています。
日本臨床化学会(JSCC)勧告法も酵素活性の測定温度を30℃と定めていますが、検査用測定装置のほとんどが37℃で測定を行うことから、インキュベーション温度のみを37℃に変更した勧告法が1992年にJSCC常用基準法(臨床化学, 23,335-340,1994 参照)として提案され、一般に採用されています。したがって現状では、通常の臨床検査の正常値の測定温度は、特に記載されていない限り37℃と考えて間違いありません。
実際の測定値と温度の関係は、温度が上昇すれば測定値も当然高くなります。37/30℃比は、酵素の種類や測定条件等によって異なりますが、他の条件が同一の場合で1.2〜1.7前後になるようです。
(1999年10月28日 認定臨床検査医 戸谷誠之(No.158)、国立健康・栄養研究所 廣田晃一)
(Q)最近話題になっているISO規格による認証は、やがて我々の検査室でも必須の条件となるのでしょうか。(栃木県 臨床検査技師)
(A)
■ISO9000シリーズについて
品質保証の国際規格として工業界では広く知られているもので、その主な国際規格には次のようなものがあります。
ISO 9000−1 品質管理及び品質保証の規格―第1部:選択及び使用の指針
ISO 9001 品質システム-設計、開発、製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
ISO 9002 品質システム-製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
ISO 9003 品質システム-最終検査・試験における品質保証モデル
ISO 9004−1 品質管理及び品質システム要素-第1部:指針
(日本語翻訳は(財)日本規格協会による)
■検査室に関連した国際規格について
臨床検査室の認定(accreditation)についての国際規格は出来ていません。しかし、それに対応するISO/IECガイド 25(JIS Z 9325)〔校正機関及び試験所の能力に関する一般要求事項〕があります。ISOガイド25の要求事項を満たしていると認証されるためには、ISO 9002を含むISO 9000シリーズに関連する要求事項に適合していなければなりません。しかし、これは工業分析機関を念頭に入れて作成されたもので、ヒトの検体を扱う臨床検査室にとっては十分ではありません。とくに分析前段階と分析後段階における記載に問題があります。そこで国際純正・応用化学連合(IUPAC)で臨床検査室向けに改訂を進めていましたが、その事業は1995年にISOの中に発足したTC212〔臨床検査と体外診断検査システム〕専門委員会に実質的に引き継がれ、現在ISO/DIS15189〔臨床検査室におけるクオリティマネジメント〕が公表され、2000年早々には最終国際規格案(FDIS)が公表され、近い将来そのまま国際規格(IS)となる公算が高くなりました。その内容は、基本的には、現在「臨床検査技師等に関する法律」で規定されている登録衛生検査所に要求されている精度管理指針と大きく異なっていません。
■日本の臨床検査室は国際規格による認定を受けなければ業務はできなくなるのか
登録衛生検査所以外の臨床検査室では、現時点では法的規定はありませんから業務を続けるのに国際規格による認定は必要ありません。しかし、臨床検査室の国際規格が次々と公表された場合に、わが国の監督官庁〔現在は厚生省健康政策局が所管)がどのような法的規制に踏み切るかによって情勢は異なってきます。現在でも、日本にある米軍病院からの検体検査依頼を受注するためには、アメリカ病理医会(CAP)などの認証機関から認証されていることを要求される場合があります。また、国際オリッピック委員会から正式にドーピング検査等を受注するためには、国際規格の要求事項を満たしているとの認定を取得することが要求されています。しかし、日本では国際規格に基づく臨床検査室の認証機関がありませんので、他の先進国の認証機関に申請しなければなりません。わが国でもそうした認証機関の設立が急を要する事態になっています。
■他の欧米先進国の状況はどうか
米国では、CLIA’88(臨床検査室改善改正法1988)が施行されて、すべての種類の臨床検査機関は国際規格に基づいて米国保健省から認定された認証機関による認定を受ける必要があります。ヨーロッパ連合内でも臨床検査の受注が自由化されますから、当然臨床検査室の認定を受けていなければ競争に負けてしまうことになります。オーストラリア圏では既に認証/認定システムが確立されています。アジア圏、例えばシンガポールなどの一部の検査室がオーストラリアの認証機関に申請するような動きがあります。わが国がこのまま臨床検査室の認証/認定システムの確立に及び腰になっている間に、アジア圏のマーケットは欧米の先進国の臨床検査センターに独占されてしまうでしょう。また、国立病院、国立大学の独立行政法人化が決定した現在、病院内検査室も登録衛生検査所に必要な登録をして、院内検査だけではなく、院外検査も受注しなければ生き残れなくなるでしょう。そうした厳しい競争に勝つためには、第三者認証機関による認定が不可欠になるでしょう。
(1999年10月18日 認定臨床検査医 河合 忠(No.22))
(Q)臨床検査技師になりたいと思っていますが、最近は需要が少ないと聞きます。臨床検査技師以外でこの資格が有利に働く職業はあれば教えて下さい。
(A)ご質問の内容は、これから臨床検査技師を目指そうという方だけでなく、現在臨床検査技師として働いている全ての方々にとっても、大変切実な問題となっています。医療費の削減が進み医療機関が経費節減を迫られる中で、臨床検査は真っ先にリストラの対象としてやり玉にあげられ、検査センターでも今年は新卒者に対する求人を取りやめる所が続出しているといった厳しい状況です。また測定作業については業務独占となっていないため、臨床検査技師の資格が採用時に評価されにくいという大きな問題もあります。
このような背景から、臨床検査技師ひいては臨床検査の将来に対しては悲観的な見方がある一方、意識改革によって新たな世界を切り開こうという動きもあります。私は検査の専門医として、高齢の患者さんが増え、医療が高度化し、かつ在宅医療が普及するという大きな変化の中で、臨床検査技師に対する社会のニーズは、今後飛躍的に大きくなると考えています。次の文章は、以前現役の臨床検査技師の方から受けた同じような質問に対する私のアドバイスです。あくまで私の個人的意見ですが、それを前提に参考にしてみて下さい。
ネット中心の時代になると、病棟や外来はもちろん、家庭や職場などに無数の診断用端末や生体センサーが配置され、いながらにしてリアルタイムに健康相談、介護援助、検診、問診、カウンセリングが受けられるようになります。ちょっと考えると便利なようですが、それらの機器が間違いなく動くようにチェックや保守を自分でやるとなると、とても大変です。ビデオの予約もできないお年寄りには不可能でしょう。
一方、検査部がなくなり、検査センターからもあぶれた臨床検査技師の方々は、見方を変えると、機械に強くてコンピュータが使えて患者に針を刺せる唯一の医療専門職でもあります。このような状況では、自ずとその役割は決まってきます。
すなわち、医療機関だけでなく社会全体にちらばったオンライン医療機器の調整、メンテナンス、取り扱い説明等の膨大な業務がその受け皿となり得るのです。もちろん就職先は病院でなくセコムなどになるかも知れませんが、受診者と機械をつなぐ大変重要な部分を担うことになります。
ただし、黙って成りゆきを見ていたのではそうはなりません。今回のケアマネージャーの受験資格を見ても、ぼんやりしていてはあっという間にバスに乗り遅れます。
法的・技術的問題をひとつひとつ解決し、実績を重ねないと認知は得られません。今からでも、院内の全ての検査機器のメンテを買って出て、管理情報を掌握し、検査前の説明、採血や簡単な負荷試験、結果の説明などは、全部検査技師が出前でカバーする位のことは始めておく必要があります。そのうえで「体外診断用機器管理士」とかなんとか勝手に資格をでっちあげ、業務を囲い込んでしまうという具合です。
技師会も政治団体を結成したのですから、この位のことは本気で考えてもいい時期でしょう。
(1999年10月5日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)透析施設で検査を担当していますが、よく測定するBNPについて教えて下さい。
(A)BNP(脳型ナトリウム利尿ペプチド;brain natriuretic peptide)はANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド;atrial natriuretic peptide)と同様に、心臓から分泌される強力なナトリウム利尿作用を有するペプチドホルモンで、前者は心室から、後者は心房から分泌されます。これらはうっ血性心不全、本態性高血圧あるいは慢性腎不全などで上昇しますが、その振る舞いには若干の違いが見られます。
特にうっ血性心不全ではANPと比較しBNPの増加率が著しく大きく、より鋭敏な指標として用いられます。逆に、透析後に減少する割合は、ANPと比較しBNPでは僅かです。
測定法はRIAまたはEIAが用いられ、運動により増加するので、早朝安静臥床でトラジロール入りEDTA-2Na試験管に採血し、直ちに冷却遠心して血漿を分離、凍結保存します。
なお、詳しくは下記の文献を参照して下さい。
【参考文献】
- [1]
- 辻野元祥、平田結喜夫:心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)、脳型ナトリウム利尿ペプチド(hBNP).日本臨床 53巻 1995年増刊号 広範囲血液・尿化学検査、免疫学的検査(中巻) 737-740、1995
(1999年10月5日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)検査報告書への記名につき、何か決まり事はあるのでしょうか。特に輸血検査では問題だと思うのですが。(臨床検査技師)
(A)衛生検査所、いわゆる臨床検査センターにおいては、検査結果の報告に関する事項は関係法規により定められています。すなわち検査結果の依頼元への報告にあたっては、(1)検査依頼書に照らし、患者氏名、検査項目等の必要事項が報告書についてチェックされていなければならず、(2)検査・測定年月日、(3)及び検査・測定責任者又は苦情処理担当者の氏名が明記されていなければなりません。また(4)検査・測定を外部委託している場合は、検査結果の報告書に最終委託先の名称を記載することになっています。最終委託先の正式な名称を検査項目ごとに報告書に記入できない場合は、委託元が最終委託先の名称を理解できるような措置がとられていれば、記号等により表示させることもできます。
なお、衛生検査所では、委託元ごとに検査結果の写しを整理し、必要に応じて検索ができるように作成された「検査結果報告台帳」や、問合せ及び苦情の内容に応じて、原因究明及び改善処置が記載され整理された「苦情処理台帳」を作成しなければなりません。これらの台帳の保存期間は、各作業日誌と伴に少なくとも2年間の保存が義務づけられています。
診療所や病院内の検査室については、このような台帳類に関する法的な規制は現在のところありませんが、検査記録の保存(record-keeping)は、検査室マネジメントの重要な一部であり、米国ではガイドラインが整備しています。すなわち、犯人探しという見地ではなくて、本当に信頼される高品質の検査を保障するために、検査・測定年月日、検査・測定責任者又は苦情処理担当者の氏名を明記すべきであると考えられます。
特に輸血前検査については、どんなに慎重に行おうとも、100%安全な輸血を実現することはできません。輸血事故あるいは輸血に関連した副作用(避けようのないものも含めて)が起こってしまった時に、検査施行者が検査伝票に自分の名前があるのはイヤだと考えるのは、心情的には理解できます。
でも、100%安全な輸血はないからこそ、そこに至る経過について、責任の所在を明らかにするべきなのではないでしょうか。「責任者」を明らかにするというのは、検査施行者を明らかにするということではありません。「臨床検査技師は、医師の指導監督、指示ないし具体的指示のもとにその業務を行うもの」とされているのですから、責任者は医師であるべきです。
病院の規模や検査室の体制など、それぞれに事情が異なると思われますが、回答者の所属する駿河台日大病院では、輸血に関連して行われた検査の責任はすべて輸血室々長にありますので、伝票には輸血室々長の印鑑を押しています。一部の報告書には、検査施行者として技師のサインを併記していますが、責任者はあくまでも輸血室々長です。
【参考文献】
- [1]
- 臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行について(昭和61・4・15 健政発622 各都道府県知事宛 厚生省健康政策局長通知)、第3章 登録及び指導監督基準 第3節●検査業務に関する事項、第5節●検査外部委託に関する事項、第6節●検査結果の報告に関する事項、衛生検査所組織運営規定準則 第3章 業務 (検査結果の報告)第13条、検査における精度管理-関係法規、監修 厚生省健康政策局医事課、p.25-53、東京:新企画出版、1986
- [2]
- Henry, J. B. & Kurec, A. S. : Reporting / Laboratory Information System [LIS], Retention of Reports / Slides, Quality Assurance / Quality Control, POSTANALYTICAL STAGE, 1 The Clinical Laboratory: Organization, Purpose,and Practice, In: Clinical Diagnosis and Management by Laboratory Methods, 19th edition (Ed, by Henry, J. B.), Philadelphia, London, Toronto, Montreal, Sydney, Tokyo, W. B. Saunders Company, A Division of Harcourt Brace & Company, 33-34, 1996
- [3]
- 吉岡尚文:輸血検査に関する法令と判例.Medical Technology 22:664-668、1994
(1999年10月4日 認定臨床検査医 熊坂一成(No.236)、村上純子(No.370))
(Q)Rh(-)の妊婦が出産後投与を受ける抗D免疫グロブリンは、次回妊娠したときの抗体スクリーニング検査に影響しないのでしょうか。(臨床検査技師)
(A)ご質問にある抗D免疫グロブリン(RhIg)は、分娩時に母体血中に混入した児由来のRh(D)+赤血球を除去する目的で投与されます。抗D抗体の産生を予防するために必要なRhIgの量は、Rh(D)+赤血球1mlに対して約20μgです。通常RhIg1バイアルは250μgですから、Rh(D)+赤血球12.5mlまで対応できるわけです。
Rh(D)不適合輸血に対してRhIgを投与したケースの報告では、Rh(D)+赤血球はRhIg投与後3日以内に除去され、投与された抗D抗体(RhIg)は6ヶ月後には完全に陰性化しています。Rh不適合妊娠例に対するRhIg投与量は少量ですし、次の妊娠までには時間がかかるわけですから、その時点での抗体スクリーニング検査に影響する可能性はまずないと考えてよいでしょう。
【関連Q&A】
- [1]
- Rh(−)の産婦さんにグロプリンの注射を打つとき、母体血の間接クームスと臍帯血の直接クームス試験はなぜ必要なのですか。(http://www.jaclap.org/consult1999.html#19990817a, 1999.08.17)
(1999年10月4日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)Rh不適合妊娠による新生児溶血性疾患に対する交換輸血には、どのような血液製剤を用いればいいのか教えて下さい。(臨床検査技師)
(A)Rh不適合妊娠による新生児溶血性疾患に対する交換輸血の目的は、
(1)感作された赤血球を除去する
(2)母親由来の抗体を除去する
(3)ビリルビンを急速に除去する
の3点です。
従って、交換輸血に用いる血液は、Rh(D)抗原を持たず(Rh(D)−)かつ母親の血清と適合している必要があります。母親の血清中に抗D抗体以外の不規則抗体が存在しないことが確かであれば、小児科の教科書には、「児とABO同型でRh(D)−の採血後3日以内のヒト全血を放射線照射後に白血球除去フィルターを通して用いる」と記載されています。
しかし実際には、条件に合ったヒト全血を短時間で入手するのは困難です。また、地域によっては、ヒト全血というものが既に幻の製剤になっています。そこで最も合理的なのは、「O型Rh(D)−の赤血球MAPとAB型新鮮凍結血漿」を準備することだと思います。この場合、交換輸血によって血小板が低下し、血小板製剤を輸血する必要が生じます。この血小板製剤については、「児とABO同型でRh(D)−」のものを入手します。特に児が女児である場合には必ず「Rh(D)−」を用いるべきです。
(1999年10月4日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)濃厚赤血球と新鮮凍結血漿の依頼があり交差適合試験を行ったところ、次の結果が得られました。
生食法 ブロメリン法 クームス法
主 副 主 副 主 副
1 − +W〜− − 3+ − 3+
2 − +W〜− − 3+ − 3+
3 − +W〜− − 3+ − 3+
自 − 3+ 3+
不規則性抗体を調べたところ、抗E抗体が存在し、直接クームスはIgGとC3C4が(+)で、解離試験で特定できる抗体は見つかりませんでした。汎凝集反応と考えていいのでしょうか。またこれらの投与は可能でしょうか。(埼玉県 臨床検査技師)
(A)生食法の副試験に弱い凝集が見られる点については、IgGであっても、非常に抗体量が多ければ凝集がみられる可能性はあります。ただし、汎凝集反応と考えた場合、自己血清が陰性であるという点が不合理です。残念ながら回答者の施設ではこのような経験がなく、十分なお答えはできません。
輸血の可否については、解離試験の結果から不規則抗体はないものと考えられますから、ブロメリン法あるいはクームス法における副試験の凝集が、自己対照と比較して同等ないしそれ以下であれば、可能と判断してよいと考えます。
また新鮮凍結血漿の投与については、懸念がない訳ではありませんが、その適応は複合性凝固障害に限られ、例えば肝硬変等による肝臓の合成能低下に基づく複数の凝固因子の低下、あるいは他の薬剤でコントロールできない非代償期のDICなどの場合には、他に代わる方法がなく投与せざるを得ないと思います。即ち、新鮮凍結血漿はどうしても必要な症例にのみ投与するのです。
(1999年10月4日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)輸血歴のない男性でも不規則抗体のスクリーニング検査が必要である理由を教えて下さい。
(A)ABO血液型のなかで、A型のヒトの抗B抗体およびB型のヒトの抗A抗体を規則抗体といい、それ以外の抗体はすぺて不規則抗体といいます。従って、ABO血液型のなかでもA
2型のヒトの抗A
1抗体や、cisA
2B
3の抗B抗体は不規則抗体です。またP
2のヒトが自然抗体として保有する抗P
1抗体や、輸血・妊娠によって産生された抗D抗体も不規則抗体です。
輸血歴のない男性に、抗体スクリーニングで不規則抗体が検出される例としては、(1) 抗P
1、抗Le
a、抗Le
bなどの自然抗体、(2) 血液型不適合妊娠等により母親が血液型物質に対する免疫抗体(lgG)を有していて、妊娠中に胎盤を通じて胎児に移行し、生後1〜2ケ月間検出される場合、(3)血漿分画製剤中に不規則抗体が混在し、それが投与により移行する場合(ABO抗体で溶血の報告例がある)などがあります。
というわけで、輸血歴のない男性にも不規則性抗体が存在する可能性があるので、抗体スクリーニングは必要です。
(1999年10月4日 認定臨床検査医 竹中道子(No.235))
(Q)輸血実習用に部分凝集を呈する血液を作ることはできないでしょうか。(臨床検査技師)
(A)使用範囲をcell typingに限定すれば可能です。
(例)A3を想定して、A血球とO血球をそれぞれ3回以上洗浄し、適当な割合で混合する。凝集しない血球も一部凝集塊の中に取り込まれるので、O型血球を60〜70%にすると、抗A試薬と反応させたときに半分ぐらい凝集しているように見える。
その他の血液型も目的に応じて作ることは可能ですが、抗原性が各々異なるため、採血日や作成日を揃えないと、思った通りのmix fieldにならないこともあります。また、熱心な学生がfree ce11を分離して吸着乖離するなどの精査を希望した場合には当然対応できません。
(1999年10月4日 認定臨床検査医 竹中道子(No.235))
(Q)低温反応性抗体保有患者への輸血適合血の選び方について教えて下さい。(臨床検査技師)
(A)一言で言うと低温反応性抗体は無視して構いません。低温反応性抗体のみであれば、特に因子の選択をせず、37℃で抗グロブリン法または酵素法による交差適合試験を行い、適合血を輸血します。低温および37℃のどちらでも反応する抗体(方法によっては低温域での反応を引きずっている可能性もありますが)には、該当因子のないを血液を選択し、37℃で交差適合試験を行います。
[補足説明]
低温反応性抗体の扱いは、時代とともに変化してきました。アメリカでは1960年代から70年代には全ての抗体を検出し、反応する抗原のない血液を選択していたようですが、1977年にGiblettが「冷式同種抗体一すなわち抗A
1、抗P
1、抗M、抗N、抗Le
aなどによりin vivoで溶血が起こったことはない。20年間にわたり100万単位以上の輸血が行われたが全く問題は起こっていない」[1]と報告したことを受けて、室温相での交差試験は1978年ころから省略されるようになりました。
日本では1980年代にはいってからも、低温反応性抗体に対して該当因子のない血液だけを輸血していました。回答者は、「低温反応性抗体は無視して良い」との講演を聞いて驚き、Le
a-b-の選択が不要なら作業の大幅な効率化が可能と考え、室温のみで反応する抗体は無視して適合血を選択し、輸血血液の因子をすべて記録したうえで、輸血後の患者の経過観察をするという作業を数年間続けた結果、該当抗原陽性血を輸血された患者でも、溶血が起こらないという事実を自ら確認しました[2]。
Gafrattyは1991年、輸血学会のパネルディスカッションで、低温反応性抗体は無視して良いと講演しました[3]。これを契機に、日本の低温反応性抗体の扱いが変わり始め、37℃における交差試験を判定基準にする施設が増えてきました。女子医大でも同じような検討を行った後[4]、1998年からLe
aを含む低温反応性抗体を無視して輸血しています。
これまで低温反応性抗体による適合血の選択を実施していた施設が今後その方針を変更する場合、各々の施設で事前に安全性を実証するのは負担が大きいので、変更後暫くの間、該当抗原陽性血を輸血された患者に溶血(患者の血算、LDH、ビリルビン、直接抗グロプリン試験などを指標に)等の問題が生じないことを、継続的に確認すれば問題ないと考えます。
医療機関内の委員会等で検討する場合には、平成11年6月10日に厚生省医薬安全局長から都道府県知事宛に出された通達「血液製剤の使用指針及ぴ輸血療法の実施に悶する指針について(医薬発715号)」の別添2「輸血療法の実施に関する指針」の中の次の記述を根拠にすれば、他の委員の納得を得やすいと思います。
V.不適合輸血を防ぐための検査(適合試験)
2)交差適合試験
(1)輸血用血液の選択
交差適合試験には、患者とABO血液型が同型の血液(以下、ABO同型血という)を用いる。さらに、患者がRho(D)陰性の場合には、ABO血液型が同型で、かつRho(D)陰性の血液を用いる。
なお、患者が37℃で反応する臨床的に意義のある不規則抗体を持っていることが明らかな場合には、対応する抗原を持たない血液を用いる。
(2) 術式
交差適合試験には、患者血清と供血者血球の組み合わせの反応で凝集や溶血の有無を判定する主試験と患者血球と供血者血清の組み合わせの反応を判定する副試験とがある。主試験は必ず実施しなければならない。
術式としては、ABO血液型の不適合を検出でき、かつ37℃で反応する臨床的に意義のある不規則抗体を検出できる間接抗グロブリン試験を含む適正な方法を用いる。
なお、主試験が陽性である血液を輸血に用いてはならない。
上記通達は、(財)血液製剤調査機構編集「血液製剤の使用にあたって」(薬事日報社から420円で発売の予定)のなかに掲載されています。
なお、平成元年に厚生省健康政策局長通達として出された「輸血療法の適正化に関するガイドライン」にも低温反応性抗体の取り扱いについて全く同じ記述があるので、上記書籍の入手が困難な場合はそちらを参照してください。
【参考文献】
- [1]
- Giblett, E. R. : Blood group alloantibodies: An assessment of some laboratory practices. Transfusion 17:299, 1977
- [2]
- 竹中道子、他:冷式抗体保有者への不適合輸血について.臨床病理 33:332、1985
- [3]
- Garratty G. : Abbreviating pretransfusion (compatibilty) testing 「What are the Risks?」.日輸血会誌 37:687-69, 1991
- [4]
- 濱田貴子、他:冷式抗体保有者への輸血用血液選択時に冷式抗体を無視することの当否.日輸血会誌 44:27-32、1998
(1999年10月4日 認定臨床検査医 竹中道子(No.235))
(Q)血液型や交差適合試験の生食法において、室温で反応させるかどうかの判断と、最低限の反応時間について教えて下さい。(臨床検査技師)
(A)抗体は種類によって反応温度域が異なり、IgG抗体は37℃で反応し、IgM抗体は室温で反応するため、輸血関連検査では抗体の種類がわかっている場合は、それぞれに適した温度を選択し、不明の場合は両方の温度で反応させます。
なお、室温とは通常15〜25℃を意味します。今では冬であっても室温が15℃以下になったり、夏でも35℃になるような検査室はないと思いますが、空調の性能によって実際の室内の温度はさまざまに変化するので、注意が必要な時代もありました。
(1) ABO血液型
室温で反応させる。オモテ検査で用いる抗A、抗Bはヒト由来あるいは動物を免疫して得たIgM抗体、あるいはモノクローナルIgM抗体である。反応時間は取扱説明書に従うが、Tube法であれば原則的には直後遠心で良い。スライド法では多くの試薬が2分以内に反応するようになっていて、それ以上長くおくと乾燥による誤判を起こすことがある。
ウラ検査は正常抗体として持っているIgM抗A、抗Bを検出する。抗体価は個人差が大きいので、必ず試験管法を用いるが、これも直後遠心で良い。
(2) Rh血液型
Rh型判定用試薬は従来は人由来IgG抗体であったが、現在はモノクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体と人由来抗体のブレンドが増えている。モノクローナル抗体はIgM、IgMとIgGのブレンドが主である。
反応条件はメーカーの使用説明書に従うが、試験管法では直後遠心して判定、スライド法では2分後に判定する。
(3) 交差適合試験
輸血副作用の原因となる抗体はIgG抗体なので、必ず37℃で反応させる必要がある。交差適合試験を生食法で実施する目的は、血液型の最終確認であり、直後遠心で良い。
(1999年10月4日 認定臨床検査医 竹中道子(No.235))
(Q)2才男児で血小板数の著しい減少と巨大血小板を認めます。鑑別診断を教えて下さい。(臨
床検査技師)
(A)
【巨大血小板を呈する症例】 巨大血小板は、直径8〜10ミクロン以上を呈する血小板のことで、通常小リンパ球大以上の大きさです。巨大血小板を呈する症例は、ベルナール・スーリエ症候群(Bernard-Soulier Sundrome : BSS)とメイ・ヘグリン異常症(May-Hegglin Anomaly : MHA)が代表的ですが、その他には、血小板型フォン・ウイルブランド病(platelet type-von Willebrand Disease : vWD)やストレージ・プール病(Storage Pool Disease)やモントリオール血小板やアルポート症候群などの先天性血小板機能異常症で出現すると報告されてます。その他原因不明の症例もあると言われてます。
【鑑別診断】 巨大血小板を呈するときは殆どの症例で、血小板減少を呈しますが、血小板減少の程度は比較的軽いと報告されてます。従って大血小板が出現し易い特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic Thrombocytopenic Purpuda : ITP)との鑑別が問題となります。ITPは除外診断ですので、他の疾患を否定することが肝要です。
BSSは、出血傾向を呈することで疑われ、血小板数は5〜8万位が多く、時に2〜3万の症例もあります。確定診断には、血小板表面マーカーをフローサイトメトリーで測定することが簡便で有用です。血小板膜糖蛋白GPIb/IX/V複合体(CD42)が減少もしくは欠損していることで診断可能です。表面マーカーが検索出来ない施設では、血小板凝集能のリストセチン凝集(RIPA)が欠如していることで、強く疑うことが出来ます。この場合、血小板数が少数であっても正常対照の血小板数を合わせて比較することで判定が可能です。リストセチン濃度を1.2mg/mlまたは1.5mg/mlを凝集惹起物質として使用すると良いと思われます。
出血傾向が殆ど見られない場合、比較的頻度の高い疾患は、メイ・ヘグリン異常症です。生血の末梢血塗抹標本で、好中球のデーレ小体を見つけることで診断可能です。
大血小板が多い症例では、家族性血小板減少性紫斑病も鑑別する必要があります。血小板型vWDは、血漿中のvWF:AGやvWF:RCoをの低下やRIPAの低下していることで判別可能です。その他の異常症は稀ですが、他の先天性奇形を伴う症例が多いので、全身の検索が必要です。
【参考文献】
- [1]
- 川合陽子:血小板膜糖蛋白分析 広範囲血液・尿化学検査免疫学検査 ―その数値をどう読むか― 日本臨床 増刊号 750:696〜701、1999
- [2]
- 川合陽子:血小板凝集および形態異常を示す症例 Medical Technology 21:959-966,1993
(1999年9月29日 認定臨床検査医 川合陽子(No.316))
(Q)海外では国際単位が中心なので換算に困っています。対処法と日本など各国の今後の普及の見通しを教えて下さい。(フィジー 医師)
(A)単位の国際標準化については、1968年から各国においてSI単位の批准が始まり、我が国も1999年10月末で工業等産業界は全て変更を完了する事になっています。しかし、医療関係は日本医師会が医師への徹底が遅れていると言う理由で、延期を申し入れているところです。
我が国では準備段階として、日本臨床病理学会と日本臨床化学会がそれぞれに協力して換算表やノモグラムを作成しています。換算表は日本臨床病理学会の学術雑誌「臨床病理」46巻845-852頁(1998年)にこれまでの経緯と共に掲載されています。
主要国の状況をまとめると、米国、ドイツ、日本はまだ固有の表示単位です。米国では一時SI単位化が進み始めたのですが、一般の臨床医からの根強い反発で中座している状況です。ドイツでは、旧東独系の地域で既にSI単位を使用しているところもあるようです。また中国では都市間に格差がありますが、一応SI単位へ変更中と言うことです。我が国の状況は上記両学会が具体的に動き始めてはいますが、現在は停滞している状況です。残念ながら今後の見通しはまだたっていない状況です。
(1999年9月20日 認定臨床検査医 戸谷誠之(No.158))
(Q)貧血を来さない疾患の患者なのに、入院すると1〜2か月の間にヘモグロビンが1〜2g/dl低下傾向を示す方が多いように思います。なぜでしょうか。(栄養士)
(A)貴院では検査のための採血はどのくらい行っているでしょうか。よく見られるのがそのための失血による貧血で、俗に「採血性貧血」と呼ばれています。また喫煙者の場合には、入院中禁煙がきちんと守られれば、血液中のCOHb%が減り末梢の酸素供給が良くなるために、ヘモグロビンが低下する可能性があります。あるいは、ストレスによる多血傾向が背景にあった場合には、入院によってそれが是正される可能性も考えられます。
なお、入院したすぐあとにヘモグロビンの低下が見られる場合には、採血時の体位の違いが原因です。貴院でも外来患者は坐位で、入院患者は早朝に仰臥位で採血していると思います。仰臥位では坐位と比較して血液中の水分を血管外に押出す重力の影響が少ないために、血漿水分量が増えて血液が5〜10%ほど希釈されます。外来でヘモグロビン15の患者さんは、入院したとたんに14前後になるのが当然なのです。赤血球の他にも総蛋白など血管内の寿命が長い成分で一般的に認められる現象です。
(1999年9月15日、1999年9月20日、1999年9月23日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269)、山口一郎(No. 294)、清水 章(No. 306))
(Q)HIVの抗体検査が第3世代まで開発されてきたのは、p24などの対応抗原が変異しやすいからでしょうか。(薬剤師)
(A)HIVにはI型とII型があり、p24は前者のgag遺伝子の産物であるコア蛋白です。HIV感染ではまずp24抗原が陽性になり、次いで抗p24抗体、抗gp160、抗gp41抗体の陽性が続いた後、再びp24抗原が増加します。HIV抗原の検出法には、p24抗原に対するモノクローナル抗体を用いたEIA法があり、HIV感染の初期に用います。HIV抗体の検出には、わが国ではPA法がよく利用され、両方の型を検出することができます。
抗体のスクリーニング検査法は、gag、pol、envなどの各遺伝子領域の産物に対して産生される抗体を検出するものですが、当初は感度が低く偽陽性が出やすいという問題がありました。この偽陽性は、gag領域の遺伝子産物(p24、p17)に非特異的な部分があることが原因なので、より特異性を高めるために、env領域のリコンビナント抗原を用いた第2、第3世代が開発されました。なお、私の知る限りp24の変異が大きいというような報告はありません。
因に、大きな構造的可変性を示す抗原としては、env遺伝子産物であるgp120/gp160が知られていますが、ウイルス表面にあり免疫賦活活性が高いことから、ワクチン開発に利用されています。
(1999年9月6日 認定臨床検査医 巽 典之(No.387))
(Q)新生児のPIVKAの血中濃度を測定する意義を教えて下さい。(埼玉県 臨床検査技師)
(A)肝臓で作られる凝固因子、特にプロトロンビンの合成にはビタミンKが不可欠ですが、ビタミンKが不足すると、そのために出来損なった凝固因子、すなわちPIVKA(Protein induced by vitamin K absence)が血中に増えてきます。
新生児ではビタミンKが不足しやすく、凝固因子が十分に作れないために出血傾向を呈することがよくあります。そこで新生児に出血傾向が疑われる場合には、ヘパプラスチンテスト、プロトロンビン時間、APTTなどの基本的な凝固検査を実施し、これらの値が延長している場合、直ちにビタミンKを投与します。これにより通常は凝固検査の値が改善しますが、それでも改善しない場合には改めてPIVKAを測定し、低値を示した場合には、ビタミンKの欠乏とは考えにくいので、肝臓自体の障害による凝固因子の産生低下を疑います。
(1999年9月3日 認定臨床検査医 今福裕司(No.377))
(Q)ペットから人間にBウイルスが感染したと聞きましたが、詳しく教えて下さい。また他にはどのようなウイルスに注意が必要でしょうか。(大阪府 臨床検査技師)
(A)Bウイルスついて以下にまとめておきます。
1)病原体
Bウイルスは、マカク属のサルに常在するヘルペス科ウイルスのサルアルファヘルペスウイルスである(健康なサルに潜伏感染していて、ストレスなどで再活性化していることがある)。
2)感染経路
実験室、動物園あるいはペットのマカク属サルとの接触(咬傷、擦過傷)及びそれらのサルの唾液、粘液とヒト粘膜との接触(とびはね)、針刺し事故などの経過があること。空気感染は起こらない。
3)応急処置
応急処置が大切で、傷口、眼、粘膜などをよく洗う。
4)潜伏期
3日〜3週間。
5)臨床症状
潜伏期の後、創傷部の水疱、しびれ、発熱、頭痛、神経麻痺、脳炎などの熱性・神経性症状が出た場合にはBウイルス病を疑う。
6)診断
(1) 病原体の検出: 臨床検体(咽頭ぬぐい液、脳脊髄液、咬傷部、擦過部位の生検組織など)からのウイルス分離と中和試験による確認など。
(2) 病原体の遺伝子の検出: PCR法など。
(3) 病原体に対する抗体の検出: ドットブロット法、ELISA法など(ヒトではHSV-1、2とBウイルスの抗原性は交差するので、従来の抗原抗体反応系(免疫蛍光法等)は使用できない)。実際は、高感度で再現性に優れ他法に比し簡便な、不活化Bウイルス抗原を用いたELISA法が用いられる(サルの血清については、国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センターで検査可能)。
7)治療
高レベル危険の場合は、アシクロビルまたはガンシクロビルの投与。
8)報告
感染症新法(第4類)により7日以内に最寄りの保健所へ届け出る(第12条による報告義務)。報告のための基準は、診断した医師の判断により、症状や所見からBウイルス感染症が疑われ、かつ、病原体診断(PCR法)や血清学的診断(ELISA法)がなされたもの。
9)感染予防
ウイルスは外傷部、結膜、唾液からウイルスが分離されることから、これらの部位の治療の際には必ず手袋をする。またマスク、眼鏡等により粘膜を保護する。
また、主なウイルス性人畜共通感染症は次の通りです。
疾患名 │自然宿主 │ 発生要因
───────┼─────┼─────────────────────
ラッサ熱 │マストミス│都市化による病原体接触機会の増加
───────┼─────┼─────────────────────
エボラ出血熱 │ 不明 │未知、先進国ではミドリザルの輸入
───────┼─────┼─────────────────────
マールブルグ病│ サル │1967年アフリカミドリザルの腎を扱った
│ │ 研究者に発症
───────┼─────┼─────────────────────
Bウイルス病 │ サル │上記参照
───────┼─────┼─────────────────────
デング出血熱 │ サル │移住、都市化による環境衛生の劣化
───────┼─────┼─────────────────────
ハンタウイルス│げっ歯類 │異常気象による生態系の変化
肺症候群 │ │アウトドアライフによる感染げっ歯類への接近
(1999年8月27日 認定臨床検査医 中村良子(No.241))
(Q)ニューメチレンブルー染色で、網赤血球の網状物質と、ハウエル・ジョリー小体あるいはその他の紛らわしい小体との見分け方を教えて下さい。
(A)ハウエル・ジョリー小体はDNAで構成される核断片ですから、その染まり方は白血球核と同じで、非常に薄くしか染め出されませんので、容易に区別できます。ただし、Heinz小体はニューメチレンブルー染色で網状物質よりやや淡い青色に染まり、区別できないこともあります。疑わしい場合は、ブリリアント緑で染色すると、Heinz小体だけを染めることができます。
(1999年8月26日 認定臨床検査医 巽 典之(No.387))
(Q)唾液中コルチゾールの測定キットの入手方法を教えて下さい。
(A)唾液中のコルチゾール(saliva cortisol)の測定は、簡便で非侵襲的な検査として最近外国で注目を浴び始めています。当初は血清中のコルチゾール測定キットが流用されていましたが、現在では唾液用として低濃度域を測れるように感度を改良したキットが発売されています。ただし日本ではまだ一般的に普及しておらず、扱っている会社もありません。
以下にキットの種類と製造元をまとめておきますので、詳細については直接お問い合わせ下さい。
Coat-a-Count RIA Kit
Dignostic Products Corp., Los Angels
a coated tube assay for cortisol adapted for use with saliva
the Pantex, Santa Monica, CA
double antibody cortisol RIA modified for use with saliva
the University of Minnesota Hospital Endocrinology Laboratory, Minnesota
Magic Cortisol RIA kit
the Corning, Walpole, MA
a coated-tube assay
Dr Kirschbaum, Universitat Trier, Dietrichstrasse 10-11 54290 Trier, Germany
(1999年8月25日 認定臨床検査医 中井利昭(No.188))
(Q)術中迅速細胞診にはまだ標準操作法がないようですが、指針となる方法があれば教えて下さい。(臨床検査技師)
(A)最近、腹水の術中細胞診の検体が増加しており、これについての質問や疑問が増えているように思います。通常の術中細胞診はこれまでも行われているので、問題になっているのは腹水または腹腔洗浄細胞診の取り扱い方でしょう。これらの検体が増えた理由は最新の「胃癌取り扱い規約」の中で、術中腹水または腹腔洗浄液の細胞診の実施が定められたからです。以下、私たちの施設でやっている方法を中心に説明します。
1.遠心法: しっかり遠心するため2000回転・3分でやっています。
2.固定法: 湿固定と乾燥固定で固定液や方法はルチン法と同じです。ただ固定時間は当然短く30秒から1分位です。細胞を落とさないためにスプレーした方がいいですが、それだけ時間がかかります。細胞の剥離を防止するためにシランやMASコートスライドを使用することをお勧めします。
3.染色法: パパニコロウ染色とギムザ染色をやりますが、前者の場合、各染色過程が30秒位で、10分以内で鏡検できます。ギムザ染色の替わりにディフクィックを使ってもよいでしょう。免疫染色は癌細胞の確認にはいいのですが、迅速向きではないので使用していません。必要な症例を選んで後日実施しています。細胞を落とさないように、染色操作を静かにすすめることも大事です。
4.判定法: 癌細胞が多数、集塊で出ている場合は問題ありません。難しいのは癌細胞が中皮と紛らわしい結合をする場合と、孤立性に出現する場合です。逆に中皮細胞が活動性の場合も注意が必要です。鑑別の仕方は成書や文献を参照して下さい。癌細胞が極端に少ない場合がありますので見逃さないようにしましょう。
5.誤判定の原因: 少数例の見落としは論外としても、癌細胞と中皮細胞の区別が難しい場合や、細胞の変性が強い場合に誤陽性・誤陰性が出やすいです。また、標本の作製技術が悪い時や、心に余裕がない場合、判断を誤ることがあります。平常心でよい標本を判定することが大事です。難しい例については無理に結論を出さなくてもよいでしょう。臨床との話が通っていれば、「詳細は後日に」ということでよいと思います。自信をもって「難しい」と言えるようになりましょう。
6.腹腔洗浄細胞診: 生理食塩水で洗浄するので、変性が強く、通常の腹水の細胞像とは異なってきます。特に、染色性が変化して癌細胞の特徴が弱くなったり、細胞が膨化変性したりします。対策としては採取後できるだけ早く処理することと、遠心した後の沈渣に正常ヒト血清を一滴加えるとよいという報告もあります。
以上です。大事なのは、条件のよい標本で落ち着いて判定することです。上記の「規約」も術中標本を作製せよと書いてあるだけで「迅速診断」せよとは言ってません。迅速の必要性がどれくらいあるのかを臨床と話し合う必要があるでしょう。腹水迅速細胞診の方法は、施設によって異なっていますので、これに対する適切な標準化が必要な時期に来ていると思います。
(1999年8月25日 認定臨床検査医 水口國雄(No.143))
(Q)自動解析心電計では紙送り速度をいくら調節しても、QTc延長という診断が出やすいように思いますが、何故ですか。(臨床検査技師)
(A)デジタル心電計は、0.5msecで電位差をサンプリングし、2msecごとに電位差の平均値を求め、これを記録している機種が多いようです。そして、この2msecごとの記録を基に自動診断を行っています。自動診断の演算処理はすべて心電計のメモリ上で行われ、紙送り量は、この演算に一切関係しません。ですから、いくら紙送り量を調節してもこの問題を解決することには繋がりません。
したがって、この質問は、「人による診断とデジタル心電計による自動診断とでは、QT時間延長の所見をとる頻度に差があり、デジタル心電計の方が多くとるのではないだろうか?」と言うのが、より正確な表現になると思います。
この原因は、T波の終点を同定する難しさにあると思われます。これは、人の診断においても個人間または同じ個人でも診断した時間により差がでるものではないでしょうか?デジタル心電計は、波形データを2次微分して各波の始点終点を同定していますが、目視で同定が難しいものは、いくら演算処理を施してもやはり難しいものでしょう。多くのデジタル心電計は、各波の始点終点を表示するモードを有していますから、あなたの施設とデジタル心電計との間でT波の終点の同定に差があるか否か比較検討してみてはいかがですか。
(1999年8月23日 認定臨床検査医 須賀龍治(No.286))
(Q)検査報告書にある「乳び、溶血、色調」はどのように解釈したらよいのでしょうか。
(A)「乳び、溶血、色調(主として黄疸)」は、いずれも本来は血清の肉眼的性状変化を示す所見です。「乳び」はカイロミクロンおよびVLDLの増加を、溶血はヘモグロビンその他の赤血球内成分の混入による汚染を、色調はビリルビン、その他の色素成分による着色を意味します。いずれも、比色測定に原理をおく血清生化学検査では測定系に対して影響を与える因子として重要であり、干渉物質として直接・間接に反応を妨害して異常反応の原因となることがあり、また溶血ではLDH、GOT、Kのように赤血球内に高濃度に含まれる成分の偽高値の原因となります。
これらの血清所見は、従来は肉眼による観察によりその程度を報告書に半定量的に記載して上記のような現象のwarning messageとするのが一般的でした。しかし、臨床検査の自動化の流れとともに、血清生化学多項目自動分析器に、これらの所見を検査項目と同時に測定し「血清情報」として出力できる機能が付加されてきました。筆者の施設で利用している自動分析器では黄疸(ビリルビン)を505/480nm、溶血(ヘモグロビン)を600/570nm、混濁(乳び)を700/660nmで2波長比色測定し、演算により"I"(Icteric)、"H"(Hemolytic)、"L"(Lipemic)の3つの測定値が得られるようになっています。メーカー指定のパラメータを利用した場合、I=10はビリルビン20mg/dl、H=10はヘモグロビン500mg/dl、L=10は吸光度Abs0.5に相当する所見とされています。
検査報告書に記載されている「乳び、溶血、色調」の情報はこれらの測定値を利用しているのですが、その数値自体を検査結果の解釈の上で有効に利用するのは以下のような理由で極めて困難です。
(1)自動分析器の出力する数値は標準化されていない相対値にすぎず、パラメータの指定によりどのような数値にもでき、また、報告にあたってどう表現するかも施設によりさまざまである。
(2)これらの干渉要因による妨害程度は項目、測定系ごとに異なる。(測定系の導入時に溶血、乳び、黄疸の影響を確認しており、干渉を受けにくい測定系が選択されるのが一般的ではある。)また、干渉を起こしうる程度の妨害要因(特に乳び)が認められた場合に、それを除去して再測定を行っているかどうかは施設により異なる。
(3) 溶血程度(Hチャンネル数値)とLDH活性のような赤血球内成分増分とは概ね比例関係にあるものの、例えばLDH単独高値のような場合に、溶血のみをその原因とは判断できない例があり、悪性腫瘍の見逃しなど重大な結果につながる危険がある。
検査実施施設が医療関連サービスマーク認定施設であれば、上記の(1)、(2)に関する「標準作業書」、各検査項目に対する妨害についての「導入検討資料」を請求すれば確認できます。しかし、多くの報告書にこれらの所見(特に溶血)が記載されている場合、解釈に苦慮するより、防止対策を行う方が適切と考えます。軽度の溶血は検査センターへ全血で長時間搬送を行えば不可避です。最も容易な防止策は良質な血餅分離剤入り試験管を用い、搬送前に遠心することです。これは全血保存による他成分の変化を防止する上でも有効です。この点を含め検査実施施設の担当者(精度管理担当者が望ましい)とご相談されることをおすすめします。
【参考文献】
- [1]
- 日立製作所:7350/7450形自動分析器取扱説明書、1990
- [2]
- 三宅一徳:採血法、検体の採取法、取扱い方.臨床検査技術学、9、医学書院、14-44、1998
(1999年8月18日 認定臨床検査医 三宅一徳(No.283))
(Q)「緊急臨床検査士」の試験対策に役立つ本があったら教えて下さい。
(A)残念ながら、「緊急臨床検査士」の受験者用の試験対策の本はありません。そもそも、この試験は一般病院で24時間対応の当直制がわが国でも定着したことを踏まえて、当時、「一般臨床検査士資格認定試験」と呼ばれていたものを「緊急臨床検査士資格認定試験」と改称し、幅広い分野(一般検査、生化学検査、血液検査、血清検査、輸血検査、生理検査)で緊急検査の実技(知識も含む)をできる技師を養成し、認定することを目標にしております。ですから、「緊急臨床検査士」の試験対策本があっても、その本の知識だけを勉強しても合格しません。日頃行っている技師としての自分の技術を磨いてください。自分が不得意な分野の技術は身につくよう反復練習をして受験することが大切です。
試験範囲は学会事務所に問合せるか、日本臨床病理同学院のホームページ(
http://square.umin.ac.jp/ccpj/)の緊急試験実施要綱の第l4回(関東)第l5回(関西)認定試験をクリックし、さらに「9.緊急試験係より送付する書類」の中の試験範囲をクリックすると見られます。また、特殊臨床検査士資格認定試験制度をクリックすると目的、定義などが書いてあるので、これもご覧ください。
(1999年8月17日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45))
(Q)Rh(−)の産婦さんにグロプリンの注射を打つとき、母体血の間接クームスと臍帯血の直接クームス試験はなぜ必要なのですか。
(A)Rh D陰性の母親がD陽性の胎児を妊娠した場合としてお答えします。
D陰性の母親がD陽性の胎児を妊娠すると、妊娠中あるいは出産時に子から母親へ移行するD陽性の赤血球によって母親に抗D抗体が産生されるために、第2子以降は新生児溶血性疾患を来すことが知られています。これを予防するために、出産後に抗D抗体を母親に投与し、母親に移行した胎児赤血球を破壊して抗原性を失わせ、抗D抗体発生を予防する方法が行われています。この抗D抗体がご質問にあるグロブリン注射(抗D人免疫グロブリン)です。
抗D人免疫グロブリンの用法には、Rh式血液型のD(Rho)陽性(直接クームス試験陰性)の胎児を分娩したD(Rho)陰性(間接クームス試験陰性)の産婦に分娩後遅くとも72時間以内に投与すると記載されています。従って、母体血の間接クームス試験、臍帯血の直接クームス試験を実施して、双方とも陰性であることを確認してから投与しなければなりません。
クームス試験陽性、すなわち抗D抗体をすでに産生してしまっている母体に抗D抗体を投与しても無意味なことは以上のことからおわかりいただけると思います。ただし、抗D人免疫グロブリン投与後、母親の血液中に一過性に免疫抗体が検出されることがありますので、母親が抗D抗体を産生したかどうかを確認するため、投与後に間接クームス試験を行う場合、判定には注意が必要です。
【参考文献】
- [1]
- 遠山 博 編・著:輸血学 改訂第2版、中外医学社、東京、1989
- [2]
- 中村幸夫 訳:症例で学ぶ輸血、近代出版、東京、1994
- [3]
- 日本医薬品集、薬業時報社、東京、1998
【関連Q&A】
- [1]
- Rh(-)の妊婦が出産後投与を受ける抗D免疫グロブリンは、次回妊娠したときの抗体スクリーニング検査に影響しないのでしょうか。(http://www.jaclap.org/consult1999.html#19991004g, 1999.10.04)
(1999年8月17日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244))
(Q)リンパ球サブセット解析でCD3弱陽性細胞がみられましたが、ATL抗体は陰性でした。他にどのような疾患が考えられるでしょうか。
(A)今のところ文献的には、以下の3つ以外にあまりまとまった報告はありません。
1)Tリンパ球系の造血器腫瘍
(Ginaldi L. et al.: Diffrential expression of CD3 and CD7 in T-cell malignancies: a quantitative study by flow cytometry. Br. J. Haematol., 93(4):921-7, 1996.)
この文献によりますと、細胞あたりのCD3抗原量は、正常のTリンパ球(CD3抗原量:124±25×10
3)と比較して、61例のTリンパ球系の白血病のうち、Sezary症候群を除く全てのTリンパ球系白血病で減少していた。T-ALL 30±21×10
3、ATLL 38±31×10
3、T-PLL 92±47×10
3、GLL(granular lymphocyte leukemia) 95±21×10
3。
2)HIV感染者
(Ginaldi L. et al.: Altered lymphocyte antigen expression in HIV infection: a study by quantitative flow cytometry. Am. J. Clin. Pathol., 108(5):585-92, 1997.)
30例のHIV陽性者のリンパ球サブセットの検索において、CD3・CD4・CD8抗原量が減少しており、一方CD2は増加している。
3)正常の末梢血リンパ球サブセットにおけるTリンパ球抗原量の変化
(Ginaldi L. et.al.: Differential expression of T cell antigens in normalperipheral blood lymphocytes: a quantitative analysis by flow cytometry. J. Clin. Pathol., 49(7):539-44, 1996.)
疾患ではありませんが、正常人のリンパ球において、CD3抗原量はCD8 陽性リンパ球よりもCD4 陽性Tリンパ球上の方が多い。また、CD4リンパ球の中では、CD4+CD7−サブセットの方がCD4+CD7+,CD8+CD7+リンパ球よりもCD3抗原量は少ない。
以上の文献は、いずれも同じ報告者による発表で、抗原量の増減をまとめた文献はそれ程多くありません。従来、細胞表面マーカーは、陽性細胞の<比率>の増減についてのみ検索されることがほとんどでしたが、これからは今回の質問にあるような<抗原量>の増減について調べる必要があると思いますし、それによってより詳しい解析が可能になると思われます。ただ、注意すべきは、フローサイトメトリー上での蛍光強度の増減は、実際の抗原量の増減に加えて、細胞サイズの増減も加味して考えなければならないことです。
(1999年8月16日 認定臨床検査医 中原一彦(No.308))
(Q)有機溶剤健康診断の結果2,5-ヘキサンジオンが高値の作業者が見つかりました。どのように対処したらよいでしょうか。
(A)お答えとしては、ACGIH(American Conference of Govermental Industrial Hygienists)の生物学的暴露指標(BEIs)の利用上の決定事項に関する勧告が世界的に見て一番妥当なものと思われます。そのレポートを、労働科学研究所の原・花岡・山野・中明氏が共訳されております。掲載の許可を戴きましたので、以下に内容を御紹介します。参考にして下さい。ここでは、ACGIHが勧告している1998年度の生物学的暴露指標について、利用上の注意事項などを添えて紹介しています(原文は、American Conference of Govermental Industrial Hygienists: 1997 TLVs and BEIs (
Threshold
Limit
Values and
Biological
Exposure
Indices), ACGIH, 1330, Kemper Meadow Drive, Cincinnati, OH 45240-1634.)。
1.前文および注意事項
生物学的モニタリングは作業者の化学物質曝露を評価する一手段として労働衛生を実践する中で有効に利用されている。一方、作業環境モニタリングは、作業場環境中化学物質濃度の測定を通じて化学物質の吸入曝露を評価するために行い、TLVはその評価基準値として利用されている。
生物学的モニタリングは特定された時間に、作業者の生体試料中に存在する適切な測定対象物を定量することによって作業場に存在する化学物質曝露の全てを評価するために行う。生物学的曝露指標値(BEIs)はその際の評価基準値として利用する。
測定対象物質は化学物質そのもの、あるいはその代謝物、あるいは化学物質から生じた可逆性の物質を利用する。測定は曝露作業者の呼気、尿、血液、その他の生体試料を集めて行うが、生体試料の選択、試料採取時間がポイントで、測定が最近の曝露の程度を評価するのか、毎日の曝露の平均をみるのか、慢性的な蓄積曝露をみるのかの判断も必要になる。
BEIsは労働衛生を実践する中で、潜在的な健康阻害物質を評価するための指標となる値であって、測定対象物質曝露に対応したレベルを表し、TLV-TWA濃度を吸入曝露した健康な作業者から得た結果を基に考えている。
BEIsは有害曝露か否かを厳密に弁別するものではない。生物的な変動は健康阻害の増加なしにBEIを越す値を示すこともある。しかし、作業者から得た生体試料の測定値がBEIを持続的に超えるような状況、あるいは生体試料中測定対象物濃度の大部分がBEIを超えるような作業場があれば、この原因が追究されなければならないし、曝露を減らす行動がなされなければならない。
BEIsは1日8時間、週5日間曝露に適用する。しかし、薬物動態と薬物動力学をもとに作業変更時のBEIを推定することができる。BEIsは非職業性曝露評価、水質汚染の安全性の評価に直接あるいは変換要因を考慮した場合でも適用してはならない。BEIsは職業疾病の臨床診断、有害影響の評価に利用してはならない。
各BEI勧告値は曝露の強さと作業者の生物学的影響との関連、化学物質の吸収、排泄、代謝に関する研究成果をもとに定めている他、曝露の強さと測定対象物の生物学的レベル、あるいは生物学的レベルと生体影響との関連に依拠している。
これらの関係は人での実験やフィールド研究で確認されている。一般的にいって、動物実験からはBEIsを確立するのに適切なデータは得にくい。しかしBEIsが通常TLV曝露時間に関係し、また、TLVが動物実験による量−反応関係に依拠していることはBEIが間接的に動物実験に依拠することにもなる。
実施
生物学的モニタリングは環境モニタリングと相互補完的なものと考えるべきだが、環境モニタリングだけで判断するよりも、より適切な情報が得られる場合に実施すべきである。また、生物学的モニタリングは環境モニタリングの確認、保護具の効率的な検査、経皮吸収および経口摂取の大きさ、非職業性曝露の確認のために使用すべきである。
BEIsが示されているからといって、生物学的モニタリングを実施する必然性はない。労働衛生の実務者はモニタリング方法についての専門的な知識を得る必要がある。このドキュメントは有用な基礎情報を提示している。
データの解釈
生物学的モニタリングの測定結果を理解する際、個々人および同一曝露状況であっても生体試料中測定対象物質レベルは個々に相違する。この相違は呼吸量、血液動態、身体構成、排泄器官の機能、化学物質代謝に関与する酵素活性によって生じる。多数の試料が、変動する個々の影響要因を減少させるのに必要といえる。
生物学的モニタリングは環境モニタリングの結果を裏付けることになるが、得られた結果間に相違がある時には全体の曝露状況を注意深く検討する必要が生じる。曝露の強さは、作業者の生理機能レベルと健康状態(例えば基礎体力、食事(水分、脂肪摂取)、酵素活性、体液組成、年齢、性、妊娠、薬物治療、疾病)、職業性曝露(身体負荷量、曝露強度の変動、皮膚曝露、温度、湿度、吸排気の状況と作業者の位置関係、他の化学物質との共合曝露)、環境曝露(社会ならびに家庭での汚染、水および食品汚染)、個人の生活スタイル(仕事後の活動、個人的衛生事情、仕事と食生活、喫煙、アルコール・薬物摂取、家事による曝露、趣味あるいは他の作業場での化学物質曝露)、方法論理的問題(試料の汚染、試料採取中の低下、貯蔵と分析、選択した分析法の問題)によって変動する。これら様々な要因についてはそれぞれの状況に応じて評価しておく必要がある。
薬物、汚染物質あるいは他の化学物質曝露は職業性の曝露の強さと生体試料中測定対象物質レベルとの関係に影響を及ぼし、加えて、対象物質濃度のみならず代謝の変更あるいは対象物質の排出にも関連する。これら要因の影響に関しては解説書を参照すればよい。
生体試料は曝露に応じて採取すべきで、十分な注意を必要とする。つまり、化学物質の分布、排泄あるいは代謝物、さらに化学物質曝露によって生じる生化学的変化、それらは助力学的事象である。従って、リストに挙げたBEIsは、特定の時期に試料採取が行われた場合にのみ適用できる。
実験室での精度管理は、分析エラーの減少と測定結果のバイアスを考える上で重要となる。
BEls表に関するコメント
表には化学物質、測定対象物質類、試料採取法、試料採取時期とBEIsが表示されている。その他、必要事項が注に示されている。
測定対象物質
表にはすべての対象物質のBEIを示しているがそれらは十分な基礎資料をもとにBEI委員会が決めたもので、実践にあたっては専門的な判断が必要で、測定対象物はモニタリングの目的に適った指標を利用すべきである。
生物学的試料
尿、呼気、血液試料が推奨される。それぞれの試料には試料中測定対象物質レベルに影響を及ぼす変動要因が含まれる。他の生体試料の毛、爪について現時点では勧告しない。
尿分析
尿分析では尿量の変動が最も重要である。尿への排出割合の測定は通常は最も正確な情報を提供するが、正確な一定時間中の定量的な採尿はほとんど不可能である。すなわち、単なる濃度測定は曝露の情報を提供するが、尿量の変動によって定量性は弱められる。排泄が尿量に依存する物質のBEIsはクレアチニン排泄量で補正する必要がある。ただし、拡散によって排泄されるいくつかの物質のBEIsについてはこの補正は適当ではなく、濃度で表される。高度に希釈または濃縮された尿試料は通常モニタリング用試料には適さず、新たに試料を採取すべきである。原資料が非常に濃い(比重>1.030、クレアチニン>3g/L)か薄い(比重<1.010、クレアチニン<O.5g/L)場合は目的とする物質の排泄メカニズムが変化している可能性があり、測定の信頼性は低い。
呼気分析
時間による濃度の急速な変化が決定的である。さらに、呼出している問にも濃度は変化する。したがって終末呼気(肺胞気)の採取か、混合呼気がは明確にされなければならない。一般的に、曝露中の終末呼気中の濃度は混合呼気中より低く、曝露後の混合呼気中濃度は終末呼気中の約2/3になる。又呼気試料は肺機能に変化のある作業者では適切な試料ではない。
血液分析
血漿/赤血球比と血液構成成分中の測定対象物質の分布が測定結果に影響することがある。従って、全血、血漿、血清あるいは赤血球かは明確にされなければならない。蛋白結合測定対象物質は分析法を選択する際に十分考慮する。揮発性物質の測定するために採血した場合は、肺での摂取や排出による動脈血と静脈血の濃度差を考慮しなければならない。とくに表示がなければ、揮発性物質のBEIsは静脈血に関するものであり、毛細血管血には適用されるべきではない。
試料採取時期(Timing)
測定対象物質のレベルが急激に変化する場合や蓄積のある場合、サンプリング時間は非常に重要となる。試料採取時期は化学物質とその代謝物の採取と排泄割合、生化学的変化の持続牲などを基礎にして得た条件が表中に示されている。
- 試料摂取時期が“作業前"(「曝露なしで16時間後」を示す)や“作業中または作業終了時"(「曝露時間の最後の2時間」を示す)の場合は、半減期が5時間未満の物質である。これらの物質は体内蓄積はなく、タイミングに関しては曝露と曝露後の関係にだけ重点を置く。
- 試料採取時期が“週の始め"(「曝露なしで2日後」を示す)あるいは“週の終わり"(「4-5日間の曝露後」を示す)の場合は、5時間以上の半減期をもって排泄される物質である。これらの物質は体内蓄積がある。したがって、試料採取時期は以前の曝露が関係する。排出が多様である物質では、作業週での曝露と同様に、作業日の曝露に関して考慮される。
- 試料摂取時期が"常時"あるいは“任意''の場合は、排出の半減期が非常に長く、体内蓄積が年を越えて生じ、ある物質では一生涯続く。2週間の曝露後、いつでも試料摂取ができる。
生物学的モニタリングのデザインとBEIの解釈の前に“Documentation of Threshold Limit Values and Biological Exposure Indices, 6th edition,1991"に必ずあたることが必要である。予期しなかったような値がでた場合には1回の測定ではなく・複数回のサンプリングによる測定に基づいて対処しなければならない。
2.生物学的曝露指標表(BEIs)
表中に示した記号は、上記したものの他は以下のとおりである。
Sc:同一の集団でも、化学物質の作用に対する感受性が増加していることが考えられることを示す。したがって、そのような状況を放置するならば、勧告されたBEIによって、それを防ぐことはできない。
B:測定対象物質が、日常的に職業性曝露を受けない人の試料にもかなりの量で存在することを示す。したがって、バックグランドレベルがBEI値に含まれている。
Nq:生物学的モニタリングの実施が考慮されるべきであるが、不十分なデータのために・特異的なBEIが決定されていない。
Ns:非特異的な測定対象物質であることを示す。そのため、他の化学物質曝露後にも検出される。このような非特異的検査は使用方法が簡便で特異的検査法より曝露との相関が高く、有効利用できる。このような場合は、特異的だが定量姓の劣る測定対象物質のBEIでは確認テストとして利用できる。
Sq:測定対象物質が化学物質曝露の指標となるが、測定結果の解釈が不明確(半定量的)であることを示す。定量的検査が実用的でなければスクリーニングテストとして、または定量的検査が特異的でなく、測定対象物質の元の物質に疑問がある場合には、確認のための検査として利用すべきである。このような場合は、確認のための検査、あるいはスクリーニングテストのBEIsは記載されていないが、これまでに正常値の情報が提示されているものもある。例えば、呼気中の吸入された化学物質の測定である。コリンエステラーゼやメトヘモグロビンのように、いくつかのスクリーニングテストのためのBEIsは、非曝露集団で観察されたレベルの上限(又は下限)とされている。
以上の事柄を踏まえた上で、猶 BEIが高値なら、次は環境モニタリングの結果との相関を調べ相関があるようであれば職場環境の改善勧告を事業主に出すべきでしょう。
<参考>
ACGIHのTLV-TWA値、BEIs値は下記の通りです。
化学物質名及び指標 | 試料採取時期 | BEIs | TLV-TWA |
n-hexane 尿中 2,5ヘキサンジオン 終末呼気中 n-hexane |
作業終了時 |
5mg/g Cr (Ns) (Sq) |
50ppm |
ちなみに日本では交替勤務中に採取した終末呼気中 n-hexane のBEI 値は40ppm、交替勤務終了時に採取した尿中 2,5ヘキサンジオンのBEI値は 5mg/lとなっています。TLV-TWA 値はACGIHと同じ 50ppm です。
(1999年8月8日 認定臨床検査医 堀川龍是(No.311))
(Q)将来臨床検査の仕事をしたいのですが、今の学科では臨床検査技師試験は受けられません。やはり資格は必要でしょうか。(大学生)
(A)現在の法律では、採血や生理検査などを行うには臨床検査技師の資格が不可欠ですが、いわゆる検体検査(血液や尿を取り扱う化学検査など)は臨床検査技師の資格がなくても、医師の指導があればできることになっています。しかし、現実には病院検査室は臨床検査技師の資格がない人は採用しません。ただし一部の検査センターで、こうした資格の無い人を採用し、検体検査の仕事をさせている場合があります。この場合、学歴は関係ないようですが、こうしたことは望ましいことではありませんし、今後次第に減ると思います。
また特定の専門領域で高度の技術を持っている場合には、検査センターの研究・開発部門などで、受け入れられる可能性はありますが、それには、それなりの実績が必要です。
従って、今後は資格が無くて検査業務に就くことは、難しいと考えたほうがいいでしょう。
(1999年8月8日 認定臨床検査医 保崎清人(No.214))
(Q)将来臨床検査技師になりたいのですが、専門的なことで身につけておくべき事は何かありますか。(高校生)
(A)今から特に専門的なことで身につけておくことはありませんが、受験科目と関係なくても、専門の基礎となる生物、化学、物理の単位をとり、よく勉強しておくといいでしょう。
その他、語学(英語)、情報科学(コンピュータ)、分子生物学(遺伝子など)などに関心を持っておくといいと思います。
(1999年8月8日 認定臨床検査医 保崎清人(No.214))
(Q)臨床検査技師として公務員試験を受け、県や都の病院に勤めたいのですが、勉強の方法を教えて下さい。(学生)
(A)東京都の例で説明します。臨床検査技師および衛生検査技師資格を持つ人のための東京都の公務員試験には、I類(4年制大学卒、衛生検査)とII類(短大卒、臨床検査)があります。試験は教養試験と専門試験があります。教養試験は受験者が、公務員にふさわしい教養と社会的常識を備えているかを試験するもので、日ごろから培われた教養と常識が物をいうと思います。広い視野を持ち、社会の仕組み理解している人が強いと思います。
ご質問の試験勉強の方法とは、この試験の勉強方法を聞かれていると思いますが、あえていえば、試験範囲、問題例(試験案内に掲載)をみて、新聞を良く読み、政治、経済、法律、医療などに関する基本的な事項を理解しておくことでしょう。なおこの教養試験は5枝択一式で50問中40問解答で、問題集も市販され受験者向けの予備校もあります。
専門試験は国家試験の勉強と同じでいいと思いますが、5枝択一式試験と別に論述試験もあるので、論理的かつきちんとした文章を書く練習をしてください。以上は東京都の例ですが、試験の内容は各都道府県により若干異なりますので、それぞれの人事委員会事務局に問い合わせて下さい。
(1999年8月8日 認定臨床検査医 保崎清人(No.214))
(Q)未熟児用の保育器の加湿器の水から、非病原性の非発酵菌が検出されました。実務的な対処法を教えて下さい。(東京都 臨床検査医)
(A)結論から申し上げますと、加湿器内の蒸留水の交換と定期的な消毒、回路の消毒を行えば、病院感染上問題になることはありません。
ご承知と思いますが、緑膿菌を含む非発酵菌は水生菌で、加湿器にも生息しやすい菌種です。ご質問の例では、加湿器を消毒し、蒸留水を交換すればよいと思います。それでも心配ならば消毒後細菌検査を行って下さい。
一般論としては、加湿器を病室に設置するのは推奨されません。環境から雑菌が入り込むと増殖し、細菌をまき散らす恐れがあるので、注意が必要です。
(1999年8月4日 認定臨床検査医 岡田 淳(No.145))
(Q)Pseudomonas aeruginosaのメタロβラクタマーゼの検出方法を教えて下さい。(長野県 臨床検査技師)
(A)残念ながら、一般の検査室で酵素学的にメタロβラクタマーゼのみを選択的に検出する方法はありません。
研究室レベルでは、細菌細胞の破砕により得られる粗酵素液と、基質としてイミペネムを用いて分光光度計により酵素学的に検出します。また、酵素をタンパク質として調べる場合には、等電点電気泳動で分析します。いずれも、キレート剤(EDTAなど)で処理したものとしないものについて、βラクタマーゼ活性を比較します。
耐性遺伝子の塩基配列を利用してPCR法やDNAプローブ法で耐性遺伝子を検出する方法もありますが、P. aeruginosaについては明確な産生酵素も耐性遺伝子も判明していないと思われます。一部の学者がPCR法でblaIMP遺伝子の検出を行っておりますので、いずれ簡便な方法が考案されるものと考えられます。
(1999年8月4日 認定臨床検査医 岡田 淳(No.145))
(Q)外注委託した検査について判断料の算定は可能でしょうか。(東京都 団体職員)
(A)第2款検体検査判断料D026検体検査判断料の部分の注釈として、「(1)検体検査の点数については、実施した検査の検体検査実施料とその検査が属する区分(尿・糞便等検査判断料から微生物学的検査判断料までの6区分)の検体検査判断料とを合算した点数を算定する(平成6.3.16保険 発25)」とあります。
このため、実施料の算定がなければ判断料の算定もできないものと解釈します。
(1999年7月27日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45))
(Q)肉眼的所見がM・J分類でM1の喀痰からMRSAが103〜104CFU/mlとほぼ一定して検出され、口腔内常在菌も肺炎の所見も見られない方がリハビリテーションを受けることになりました。管理上特別な配慮が必要でしょうか。(北海道 臨床検査技師)
(A)ご指摘の患者さんの検査結果からは次のことが考えられます。
(1) 喀痰の肉眼的所見がM・J分類のM1(全く膿性部分のない粘性痰)であることから、この喀痰は細菌検査に供するには品質的に不適切と判断されます。この所見はグラム染色結果(炎症細胞を認めない)とも一致します。しかしながら、それが繰り返されているようですので、この患者さんはもともと膿性痰を排出する状態にはないと推測されます。臨床的にも肺炎像を認めないということですから、MRSAの感染局所での増殖や排菌によって周囲への有意な汚染源となることは、考え難いと判断してよいでしょう。
(2) 菌量は10
3〜10
4CFU/mlということですので、日常報告される定性的な菌量にしておよそ少数〜1+のレベルです。また、口腔内常在菌が同時に検出されないということは、現在もしくは近い過去に抗生剤の投与を受けていた可能性が考えられます。すなわち、抗菌剤投与による菌交代現象を伴ってMRSAが持続検出されている(保菌)状態です。この状態は病院環境から離れてからも(退院後)1〜2ヶ月間は続く可能性がありますので、自然消失(検出感度以下、<10
2 CFU/ml)するのを待ってリハビリを開始することは実際には非現実的と考えられます。患者さんのQOLの観点からもタイミングを逸することなくリハビリを実施すべきと考えます。ただし、このようなMRSA保菌者の場合に注意すべきことは、MRSAが口腔内の他にも、鼻腔や腋窩など常在菌の多い部位で通常の常在菌と置き換わっている可能性がある点です。そこからMRSAが拡散して、四肢の皮膚にも少数ながら分布しているとみなすべきでしょう。
これらのことを踏まえた上で、他の患者さんへの伝播を避ける工夫や対応が必要です。たとえば、リハビリ前の手洗いや使用後の器具のアルコール消毒の実施、日常的に咳が出る場合にはマスクを装着して頂くなど、患者さんの状態に応じて臨機応変に対応されるとよいと思います。
(1999年7月23日 認定臨床検査医 松野容子(No.327))
(Q)アルカリフォスファターゼ(ALP)だけが異常低値を示す場合、何を考えればよいでしょうか。(愛知県 臨床検査技師)
(A)ALPが単独で低値を示す場合は先天性のhypophosphatasiaが考えられます。重症のものは小児期より骨あるいは歯に異常をきたしますが、軽症例では無症状で成人になります。まだ症例数が少なく、詳しいことは分かっていないので、特に処置せず経過観察をするだけでよいと思います。
また現時点で関連の症状がないのであれば、患者さんには無用の不安を与えることがないように説明する必要があります。
【参考文献】
- [1]
- Sato S. Matsuo N. Genetic analysis of hypophosphatasia. Acta Paediatrica Japonica. 39:528-532, 1997.
(1999年7月6日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)INR表示の導入を検討中ですが、未だに試薬間差が解消されていません。どう対処したらよいでしょうか。(臨床検査技師)
(A)経口抗凝固療法の国際的管理指標にすべく、PT−INRはWHOが主導し普及に努めています。しかし、INRについてはこの世界の趨勢に対し日本では遥かに遅れた状況にあります。例えばトロンボテスト・オーレンが欧州の一部でしか利用されていないにも拘わらず、日本ではPTよりも普遍的であり、それをPTに変更する施設が未だに多くないことからも、日本の臨床家の頑固さが窺い知れます。
INR表示標準血漿が添付する検量線やISIはあくまで参考値です。測定しようとする機器・試薬によって固有ISI値は微妙に変わります。INRはベキ乗ですので、固有ISIの僅かの差が比較的大きな差をもたらします。このことから施設間差が生まれます。
以前我が国ではISIが2.5位の試薬が盛んに用いられてきました。これはISI値が高いほど再現性の良い安定した値がでるためですが、一方で施設間差が収拾できないほど大きくなっていました。そこでISBT-WHOは数年前からISIが2.0以下の試薬への転換を進めてきました。そして一昨年からISIが1.7以下の試薬にするように勧告基準を改め、究極的には1.0近くに持って行くようにしています。残念ながら現在の日本では、ISIが1.0〜2.4と幅広い多種の試薬が市場に出回っています。このことから理想と現実のギャップは非常に大きくなっています。
このような背景にあって、回答者は断念することなくINRの普及を図りたいと考え、検査センターの方々にお願いした結果、数社がPT値と同時にINR値を報告されるようになったものの、まだ最終目標には到達していません。試薬種のISIの多様性のため、現段階ではINR値は施設間差の解消に余り役立っていませんが、同一施設内で継続的に同一試薬で患者の経過観察をするのには大いに役立つ筈です。
もしINRの院内実施をされたなら、測定秒数の値が大きく変わるため一時的に混乱を来すかも知れませんが、ISIが1.0近辺の試薬に思い切って変更されることをお奨めします。ただ基準値の早急な変更は、臨床側の協力がなければ不可能でしょう。
(1999年6月23日 認定臨床検査医 巽 典之(No.387))
(Q)冠動脈疾患で心不全に陥った患者の心エコーで、左房から左室、左室から大動脈へと流れるエアー様の所見を認めました。何が考えられますか。
(A)エアー様とはどのようなエコーをいうのか、はっきりしませんので、まずこのエコーの性状を知る必要があります。輝度の大きさはどの程度か?数は?流れに逆流またはうっ滞はなかったか?などです。
高輝度のエコーが流れに乗って移動していたとすると、エコー源になる可能性があるものとして、ガスと血栓または、流速が遅い部分で認められるエコー(連銭形成等)が考えられます。後者は、流速が遅い部分でしか観察できませんが、凝固系の変化を伴う場合にはより観察されやすい印象があります。例としては、左房内のもやもやエコーもこれに当たると考えられ、健常者の肝静脈でも時々観察されます。
ガスについては、従来右心系にはガスを混入した造影剤が多く用いられていましたが、健常者で観察されることはなく、消化管の壊死に伴う門脈内のガスが知られています。その初期には門脈内に高輝度のエコーが認められたとの報告があったように思います。
最後に血栓についてですが、左心系の血栓は、心房細動などで左房内にできることはよく知られていますが、通常観察できない程度の小さいものも、頭部のパルスドプラ法で検出されることがあります。これはHITS(high intensity transient signals)と呼ばれる小さい血栓で、心臓術後、心房細動などの心疾患で高頻度に観察されます。
以上述べたうちのいずれかが考えられると思いますが、一般的にはガスが存在する可能性は低く、低流速の状態で起こったとすると、小さい血栓が出現したものを観察した可能性が考えられます。
(1999年6月21日 自治医科大学臨床病理学 谷口信行)
(Q)ホルター心電図の記録時間の計測値と実測値を使って、異なるメーカーの機器間で精度管理を行うことはできますか。(北海道 臨床検査技師)
(A)ホルターの記録および解析は、同じメーカーの機器を使用するのが原則となっています。回答者の施設において、フクダ電子社製(SM-28は1.00mm/secのテープスピード)、フクダME社製、日本光電社製のレコーダで記録したテープを解析した経験がありますが、フクダ電子社製レコーダでは最高40分程度のずれがありました。この時間のずれは、記録時の温度、キャプスタンやピンローラの摩耗と汚れ具合、モータのゴムベルトの伸び具合、そして電池の状態とメーカー間差により大きく変動すると考えられます。アナログレコーダを用いる以上これらの影響は避けられず、たとえ同じレコーダでも その時の条件で全く異なった結果になるのはやむを得ない思われます。
こうした理由からパルスによるタイムコードが記録されますが、記録機器のタイムコードを正確に読みとることのできない解析装置について、日差変動を管理することには無理があると思われます。
現実的には、マルケット社製の解析装置がフクダ電子社製のレコーダに対応する可能性は低いと思われます。ただし、日本でのマルケット販売担当である日本光電社製のレコーダには対応しているようです。したがって正確なデータを重視するならば、異なるメーカーの機器の混用は避けるべきだと思われます。
精度管理を行うならば、一定のVoltageで正確な時間間隔の合成QRS波形を生成するデジタルのテストパターン等(安価のものもあります)を使用してレコーダに記録させ、実際の記録時間と解析装置の出力する記録時間を比較したり、レコーダヘッド・キャプスタン・ピンチローラの汚れや、レコーダヘッドの帯磁による出力波形の電位の低下などをチェックするのが一般的と思われます。
(1999年6月21日 自治医科大学臨床病理学 谷口信行)
(Q)生化学検査で総ビリルビンのみ異常を示す場合何が考えられますか。また絶食による影響ではどの程度の異常値を示すでしょうか。
(A)総ビリルビン(Bil)増加例で、AST、ALT、LD、ALP、γGTなどの肝胆道系酵素に異常を認めない場合、教科書的には体質性黄疸をまず鑑別すべき検査所見です。
体質性黄疸のうち、間接Bil優位に軽度の増加(多くは総Bil値 3mg/dl以下)を呈する Gilbert症候群は人口比2〜7%と高頻度に見られる病態であり、健診など偶然の機会に見いだされ、ビリルビン増加以外に検査所見の異常や臨床症状を認めない例の多くは本症候群と考えられます。
体質性黄疸には、ほかに間接型優位により高度のBilの増加を呈するCrigler-Najjar症候群(CNS)、直接型優位のDubin-Johnson症候群、Roter症候群がありますが、いずれも Gilbert症候群に比してまれな病態です。CNSには新生児期に核黄疸を呈する重症型(CNS-I型)が存在しますが、これを除くといずれも予後良好な病態で積極的治療を要しません。
しかし、肝・胆道系酵素の正常のみでは他の病因による黄疸を完全には否定できないことに注意する必要があります。例えば、ALPとγGTPは個体の健康時の変動幅に比して個体差が大きく、集団の基準範囲は主として個体差を反映します。したがって、両者が基準範囲内の値であっても患者個人の値としては肝外・肝内胆汁うっ滞による異常値であることがあります。また、逸脱酵素であるAST、ALT、LDは進行した肝硬変では肝細胞の減少のため基準範囲に止まる例がしばしば認められます。したがって、壮年以降に初めて見いだされた例や有症状例ではその他の臨床検査所見や腹部超音波検査などによる除外診断が必要と考えます。 絶食による血清Bil増加は健康人でも認められる現象です。その機序は必ずしも明確ではありませんが、Bilの産生増加と排泄低下の両者が関与するとされます。体質性黄疸のうち、UDP-gluculonyltransferase(UGT)の活性低下を示すGilert症候群とCriglar-Najjar症候群II型では、絶食時にBilクリアランスの低下を主体とした著明なBil増加(fasting hyperbilirubinemia)が認められ、低カロリー試験として診断に用いられます。低カロリー試験では400Cal/日食を2日間摂取し、前値の2倍以上Bil増加を認める場合陽性と判定します。健康人や溶血では増加は2倍以下とされています。
なお、近年Gilbert症候群はUGT遺伝子のpromoter領域またはコード領域の遺伝子変異が原因であることが見いだされており、末梢血を用いた遺伝子診断も可能になっています。しかし、遺伝子変異陽性や前述の低カロリー試験陽性は、その他のBil増加要因の関与を否定できる所見でない点に注意する必要があります。
【参考文献】
- [1]
- 足立幸彦他:体質性黄疸.日本内科学会誌.86: 574-581, 1997
- [2]
- 中西敏夫他:Fasting hyperbilirubinemia. 日本臨床(別冊 領域別症候群シリーズ) 8: 427-429, 1995
- [3]
- Rundenski AS, Halsall DJ.: Genetic testing for Gilbert's syndrome: how userful is it in determining the cause of jaundice?, Clin Chem.: 44: 1604-1609, 1998
(1999年5月28日 認定臨床検査医 三宅一徳(No.283))
(Q)次の例では自己抗体並びに不規則抗体の存在が考えられますが、設備のない施設ではどのように検査を進めたら良いのでしょうか。(臨床検査技師)
ブロメリン法 1 2 3 4 対照
1+ 0 1+ 1+ 1+
PEGクームス 1+ 0 w+ 1+ 2+
直接クームス
IgG 2+ 広範囲 2+、 C3d 0、対照 0
(A)自己抗体と不規則抗体の存在が同時に疑われる際には、ZZAP溶液を用いる方法が適していると思います。設備は、遠心器と恒温漕があれば大丈夫です。
ZZAP溶液は、ジチオスレイトール(DTT)とフィシンの混合液です。 ZZAP溶液 0.2mol DTT 2.5ml
1%フィシン 0.5ml
0.1mol PBS(pH 7.3) 2.0ml 1)血球沈層(4〜5回洗浄)1容とZZAP溶液2容を混合し、37℃30分放置した後、生理食塩水で3回洗浄する。→赤血球の抗体を解離。
2)処理血球2容と自己血清1容を混合し、37℃30分放置した後、3000rpm/3〜5分遠心する。→血清中の自己抗体を自己血球が吸収。
3)上清を用い抗体の同定を行う。→不規則抗体の同定。
4)沈層を用い、再度抗体解離し抗体同定を行うことができる。 各種抗体解離法の特徴に関しては、日本臨床衛生検査技師会ライブラリーXII、「輸血検査の実際」の抗体解離試験の項を参照してください。
(1999年5月25日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)次の例で、本当にブロメリン非特異反応であるのか確認する方法を教えて下さい(臨床検査技師)
ブロメリン法 1 2 3 4 対照
w+ w+ w+ w+ w+
(A)交差適合試験をブロメリン法で行うと、自己対照を含め全ての組み合わせで凝集をみることがあります。頻度は検査件数の0.5%程度と云われています。ブロメリン非特異反応鑑別のめやすとしては
*自己対照と本試験の凝集の強さが同じくらいかどうか?
*本試験の全て(例えば、オーダーされた本数は1、2本分であったとしても、交差適合試験を10本くらい行ってみる)に凝集反応がみられるかどうか?
*凝集の強さはみな同等かどうか?
を見れば、おおよその見当がつくものです。
その上での対策ですが、ブロメリンのメーカーやロットを変えたり、濃度(酵素活性)を変えても反応態度が変わり参考になります。また、確かに、血清をブロメリン処理した自己血球で、非特異反応が見られなくなるまで吸収する方法はあります。しかし、通常のブロメリン法より熟練を要しますし、それより何より以下の理由でお薦めしません。なぜなら、
*クームス法で交差適合試験を行えば、ブロメリン非特異反応と考えられる凝集は見られなくなる
*かなりの時間と労力を費やしてまでブロメリン法に固執するべき必要性がない
からです。抗E抗体などの免疫初期抗体検出にはブロメリン法が有効ですが、不規則抗体が絡んでくれば、複数セットした交差適合試験の凝集結果に強弱が見られます。どうしてもクームス法ではだめで、ブロメリン法でなければ見落としてしまう、臨床的に重要な不規則抗体があるとは思えません。
なお、ブロメリン吸収の操作法については、日本臨床衛生検査技師会ライブラリーXII、「輸血検査の実際」のブロメリン2段法を参考にしてください。
(1999年5月25日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)寒冷凝集反応が疑われましたが、このような確認法でよいのでしょうか(臨床検査技師)
生食法 1 2 3 4 対照
(室温15分) 1+ 1+ 1+ 1+ 1+
37度C15分 0 0 0 0 0
―
ABO(うら) A1 B
(室温15分) w+ 4+
37度C15分 0
(A)よいと思います。37℃10〜30分加温で、凝集反応は消失するか、減弱します。
(1999年5月25日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)臨床検査技師志望ですが、遺伝子検査の今後の見通しと、遺伝子関連の大学院について教えて下さい。(大学生)
(A)1)病院の遺伝子検査の今後の展開
分子生物学の進歩と解析技術の開発により可能となった遺伝子検査は、今日、日常検査として定着し、従来検査にない新たな検査情報として、様々な形で診療に貢献しています。さらに、ヒトのゲノムを解析するプロジェクトの成果は、予想をはるかに上回り、2003年には完了します。その結果、30億個の全塩基配列と染色体上の10万個のヒト遺伝子の構造とが明かととなります。遺伝子検査は、感染症、悪性腫瘍、遺伝性疾患(成人病を含む)の診断、治療から予防まで有益な情報を提供でき、診療効率向上、診療の質の向上、計画的医療に遺伝子検査が果たす役割は多大です。これら疾患の原因遺伝子の変異の検出を容易にする遺伝子チップ技術など解析技術の進歩にも目覚ましいものがあります。今後、診療における遺伝子検査の重要性は、ますます高まると考えられます。
近年、病院内で遺伝子検査が行なわれるようになった背景には、技術革新とともに保険診療上の経済性の確保があります。すなわち、平成6年度以降、結核菌、C型肝炎ウイルスやクラミジアなど感染症の遺伝子検査項目が保険収載されたのに続き、平成10年度には悪性腫瘍の遺伝子検査として初めて造血器腫瘍核酸増幅同定検査が保険収載されました。しかしながら、病院内で遺伝子検査を実施できる施設は必ずしも多くありません。平成8年に日本臨床衛生検査技師会が実施した全国アンケート調査によると、遺伝子検査を一部でも実施している施設は、213/2437 (8.7%)でした。病院内で行なわれている遺伝子検査の現状は、多くは感染症が対象で、悪性腫瘍、遺伝性疾患の遺伝子検査は、まだ一部(5-10%)の機関でのみ行われています。病院検査室で遺伝子検査に十分対応できない大きな理由の一つは、近年、医療経済は厳しさを増しており、多くの病院では、検体検査部門の省力化を図る中で、遺伝子検査を新たに導入するための設備投資、人員確保に経済的余裕がない実情があるためです。病院検査室で対応できない遺伝子検査は、検査センターが受託しています。これから数年間は、病院検査室での遺伝子検査の展開には、特に保険診療上の経済性の確保および検査効率、精度保証に重要な技術革新が大きく影響すると考えられます。 2)遺伝子検査従事における大学院進学の意義
遺伝子検査に携わるための大学院進学の意義は、将来どのような臨床検査技師を目指しているか、どのような職場を選択するかによって異なります。病院検査室において遺伝子検査による診療支援には、ニーズに応じた検査体制の構築、診療に必要な検査情報としての加工が大切で、このため遺伝子解析技術と臨床病態に精通した人材育成が必要です。また、遺伝子検査の従事には、感染症検査、血液検査、染色体検査など遺伝子以外の従来検査も広く知り、個々の遺伝子検査の位置付けを理解し、診療効率に貢献することが大切です。この点では、人材として大学院進学は必ずしも必須では有りません。ただし、大学付属病院などでは、新たな検査技術の開発や評価を行なうため、特に遺伝子検査の従事には研究的素養は大切です。最も重要なことは、希望どおり遺伝子検査に従事できる病院検査室を捜し確認することです。
病院以外で遺伝子検査に携わる職場として検査センター、試薬・製薬会社、研究所、教育機関などがあります。配属部署によっては、遺伝子検査に専念でき、また、遺伝子診断を基礎的なレベルで取り組む機会が多くあります。その際、検査技術の開発、教育・指導などに研究的な素養が必要で、大学院における高度先端的な研究の経験は役に立つと考えられます。 3)遺伝子検査に進むための大学院
遺伝子検査に携わるための分子生物学、遺伝学の大学院としては、医療系学部の大学院、特に付属病院の診療と連係した医学部の大学院をお勧めします。これらの大学院では、医療領域の応用科学としての分子生物学、実際の患者診療における遺伝子検査を学ぶ機会が多いと考えられます。医療系の大学院(修士過程)は、東海大学大学院医学研究科、慶応義塾大学大学院医学研究科、筑波大学大学院医科学研究科、大阪大学大学院医学研究科、北里大学大学院衛生学研究科などがあります。詳細は医学歯学系大学院案内(東京図書)を参照して下さい。募集要項に指導教員の指導テーマが掲載されていますので、興味のあるところに実際に見学に行き、指導教員から話を直接聞くとよいでしょう。
【参考文献】
- [1]
- 医学歯学系大学院案内. 高久史麿監修、東京図書編集部編、東京図書、東京、1998.
(1999年4月30日 認定臨床検査医 宮地勇人(No.369))
(Q)髄液細胞数の精度管理を行うのに、当直業務にも適用できるいい方法はないでしょうか。(大阪府 臨床検査技師)
(A)髄液の細胞の多核と単核の分類の精度管理については、形態検査の精度管理として「眼合わせ検査」を実施されてはいかがでしょうか。方法は患者検体を用い、日常業務の合間などに同じ検体を担当者全員で検査し、技師間差の有無を把握します。とくに当直業務担当者は必須で、定期的に繰り返して行うことにより一層の効果が期待できます。とくに形態検査は技師間差が大きく、精度管理が必要であるにもかかわらずほとんど実施されていないのが現状です。最近では信頼性の保証されていない検査は臨床検査ではないといわれ、精度管理を日常業務の一環として考え、積極的に取り入れていくべきであると思います。
また、当直時に細胞数が多い検体については、リコールを遠心後、沈査成分をスライド硝子に塗抹(引きガラス法により塗抹)し、保存してはいかがでしょうか。
その他の手段として、髄液の細胞は保存経過時間とともに崩壊しますが、すべてがそうとは限りませんので、日勤者が朝出勤した時点で、当直分の確認をされるのもひとつの手段と思います。
(1999年4月26日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)尿沈渣に見られる扁平上皮細胞に付着している細菌について教えて下さい。(島根県 臨床検査技師)
(A)ご質問の細菌は、大部分がDoderlein桿菌で、扁平上皮細胞に寄生していると考えられます。女性の尿中に認められることが多く、これは扁平上皮細胞中のグリコーゲンを栄養源にして、常に膣内のpHを酸性に保ち、細菌感染による炎症を防いでいます。ちなみに、トリコモナス原虫が寄生すると、扁平上皮細胞中のグリコーゲンを横取することにより、膣内のpHが酸性からアルカリ性に傾き、他の細菌の増殖による炎症を引き起こす原因となります。
(1999年4月5日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)尿沈渣に見られる脂肪顆粒細胞と、脂肪顆粒を含有している子宮内膜細胞や前立腺由来細胞は区別が可能でしょうか。また白血球の脂肪変性にはどんな意義があるのでしょうか。(島根県 臨床検査技師)
(A)一般に脂肪顆粒細胞とは、子宮内膜細胞や前立腺由来細胞(どちらも組織由来は円柱上皮)に限らず、移行上皮細胞や扁平上皮細胞、尿細管上皮細胞など由来に関わらず、脂肪成分を含有している細胞を意味します。
このなかで、脂肪顆粒細胞との鑑別が必要なものは、尿細管上皮細胞由来の卵円形脂肪体です。卵円形脂肪体はネフローゼ症候群など、持続性蛋白尿を認める疾患などで認められ、重要な尿沈渣所見の一つに挙げられます。したがって、脂肪成分を含有している細胞のなかで、卵円形脂肪体以外のものは脂肪顆粒細胞として問題ないと思います。ただし、由来がわかるようであれば、その組織由来の判定結果(尿細管上皮細胞、移行上皮細胞など)を報告したほうが臨床的に有用です。
白血球の脂肪変性は、残念ながら真の意義は分かっていませんが、おそらく細菌等を貪食し役割を終えて死亡した後の変化と思われます。
(1999年4月5日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)無晶性リン酸塩円柱の中に無晶性リン酸塩結晶が見られる場合の意義は何でしょうか。(島根県 臨床検査技師)
(A)リン酸塩や尿酸塩が円柱の外にも見られる場合は、尿排出後にpHや温度、塩類濃度などによって析出したものと考えられます。しかし、円柱内にのみ見られる場合は、円柱が生成された尿細管腔での析出が考えられます。尿細管腔で塩類や結晶が析出すると、尿細管腔を閉塞し、腎不全ときには結石症を引き起こす原因となるので、これらは大切な所見です。特に、高尿酸血症の合併症として見られる、尿酸結晶の腎への沈着による腎不全は重要です。
(1999年4月5日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)尿沈渣に見られるウイルス感染細胞は、免疫不全の患者にも認められますが、区別は可能でしょうか。(島根県 臨床検査技師)
(A)ご質問のウイルス感染細胞とは、ポリオーマウイルス感染を示唆する細胞を指していると思います(尿沈渣検査では、ウイルスの同定を行っていませんので、ウイルス感染細胞とは言い切れません)。この細胞は、膨化した核と変性の著しい細胞質が特徴で、移行上皮細胞や尿細管上皮細胞由来のものがあります。化学療法、放射線治療、ステロイド療法などを受けている患者にも認められ、ウイルス感染を示唆する考えられています。また、残念ながら出現機序はよく分かっていませんが、一般に免疫力が低下している場合に認めることが多いとされます。
なお、異型細胞という用語もありますが、明らかに良性である場合には、多用すべきでないと思います。「異型細胞=癌細胞」と認識している医師が大部分ですので、混乱を招く恐れがあります。
(1999年4月5日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)一般検査における脂肪球と脂肪顆粒の違いについて教えて下さい。(島根県 臨床検査技師)
(A)脂肪球とは、大小不同の球状で光屈折がみられる油滴状の成分です。このなかで臨床的意義が高いものは、ネフローゼ症候群などでみられる尿細管上皮細胞由来の脂肪球です。そのほか扁平上皮細胞由来の脂肪球(扁平上皮細胞が脂肪変性を起こしていると細胞質より放出された脂肪球を認める場合があります)や、性器などに塗ったクリームや塗り薬が尿中に混入する場合もありますが、これらの場合は臨床的意義に欠けます。また、尿沈渣標準法でいう脂肪顆粒という表現は、おもに脂肪顆粒を含有する上皮細胞を指し、脂肪球とは異なります。
ちなみに、ネフローゼ症候群などでみられる卵円形脂肪体や脂肪球の生成機序は、糸球体での血漿蛋白の透過性亢進によりアルブミンが通過する際、リポ蛋白も濾過され一部は尿細管で再吸収されます。再吸収されたリポ蛋白は尿細管上皮細胞中で代謝され、コレステロールやコレステロール・エステルが生成され脂肪球として細胞に沈着します。これが細胞から放出され脂肪球となり、この細胞が脱落したものが卵円形脂肪体となります。
(1999年4月5日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)トロンボテストとプロトロンビン時間を同時測定した場合、いずれか1項目しか算定できないと聞きましたが、なぜでしょうか。(臨床検査技師)
(A)一般に、保険適応の可否は各支払い基金の判定基準によりますので、都道府県によって異なる可能性があり、一概には言えません。また、実際には査定する医師の見解により異なる場合もあるので、レセプトを出してみないと削除されるかどうかはわかりません。
ただし、保険診療報酬における検査の包括化の中で、検査の臨床的意義が類似する複数項目(2〜5項目)を実施した場合については、厚生省により具体的な検査項目を指定して種々の制限がつけられるようになりました。お問い合わせの項目の組合せも、この制限により1項目しか算定できないことになっています。
なお、制限の具体的内容は、日本臨床検査医会ホームページに「包括項目一覧表」として掲載されていますので、ご参照ください。 日本臨床検査医会ホームページのアドレス:<
http://www.jaclap.org/>
(1999年3月21日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)解熱剤を飲んだ患者さんで、血清ビリルビンが正常なのに、尿ビリルビンが陽性となりました。薬剤の影響と考えてよいでしょうか。(大阪府 臨床検査技師)
(A)尿ビリルビンの検査は、ジアゾ反応を利用した方法と酸化反応を利用した方法があります。日常の検査では前者の方法による試験紙法が広く用いられています。このジアゾ反応は特異性が高く、反応に直接干渉する薬剤は少ないのですが、一般に酸性下でピリン系、サリチル酸製剤は青色、フェノチアジン系薬剤は赤〜赤紫色に発色するため、判定を誤らせる原因となります。また、アスコルビン酸、亜硝酸塩は反応を阻害し偽陰性の原因となります。なお、ビリルビンは光によりビリベルジンに変わりますが、ビリベルジンはジアゾ化されないためジアゾ反応では陰性となります。したがって、検査は新鮮尿で実施することはいうまでもありません。
尿中にビリルビンが認められるのは、直接ビリルビンの血中濃度が増加した場合に限ります。種々の病態により肝・胆道系が障害を受け、血中のビリルビンが増加すると尿中へ排泄され、尿中ビリルビンが陽性となります。ご質問では、血中ビリルビンは正常であり、また、患者は薬剤を服用しいることから、薬剤またはその代謝産物による異常発色または異常反応の可能性が高いと思われます。患者さんは解熱剤を飲んだということですが、解熱鎮痛消炎剤には、ピリン系やサリチル酸製剤があり、これらの影響が考えられます。
(1999年3月16日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)末梢血液像においてATL様の異形リンパ球がみられましたが、HTLV−I抗体は陰性でした。標本作製時に変形した可能性はあるでしょうか。(大阪府 臨床検査技師)
(A)ATL様の異型リンパ球、すなわちクローバー様の核の変形を示す細胞が認められた場合、リンパ球のうち非常に多くの細胞がこのような形態を示す場合はATLを疑う必要があります。また、悪性リンパ腫が白血病化したときに、腫瘍細胞が核の変形したリンパ球として、末梢血中に認められることもあります。
一方、抗凝固剤と血液を混和して放置すると、疾患の有無とは関係なくこのような核の変形を示すことが知られています。通常、血液一般検査に用いる抗凝固剤はEDTA塩ですが、EDTA塩と混和して放置したのちに塗抹標本を作製するとリンパ球の核はこのような変形を示すことがあります。私が行った実験では、供血者によって、このような核の変形を示すまでの時間が異なり、短い人では採血後1時間くらいで変形を示す人もいます。逆に長時間、EDTA塩を加えて保存(1日以上)してもリンパ球の核に変形を来さない人もいます。従って、EDTA塩を抗凝固剤として混和した血液中で核の変形を示す理由は、単にEDTA塩と接触していた時間だけで起こる現象ではないようですが、その本当の理由は判明していません。その他のクエン酸などの抗凝固剤でも同様な変化がおこります。
治療用薬剤でリンパ球の核が変形することはほとんどありません。
本来のリンパ球が核の変形を示していたのか、採血後に起こった変化かを鑑別するためには、抗凝固剤を加えないで血液塗抹標本を作製して観察する必要があります。抗凝固剤を加えない標本でリンパ球の核の変形が認められないときは、骨髄穿刺を行う必要はありません。しかし、このようにして作製した標本でも核の変形を示すリンパ球が多数認められるときには、悪性リンパ腫などの白血病化、あるいは骨髄浸潤を検索するための骨髄像検査を行う必要があります。
(1999年3月16日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244))
(Q)72歳の男性で血液像に単球が25%〜45%見られ、貧血以外特に所見がなく、骨髄は有核細胞数が30万でした。何を考えたらよいでしょうか。
(A)末梢血における単球の増加には、大きく分けて反応性の増加と腫瘍性の増加があります。
反応性の単球増加では、感染症で結核、ブルセラ症、亜急性心内膜炎、腸チフス、水痘、麻疹、原虫感染症であるマラリア、カラアザールなどが知られています。また、骨髄抑制からの回復期(化学療法後)などでも一過性に単球増加が見られることがあります。その他、SLEなどの膠原病や、潰瘍性大腸炎、サルコイドーシスなど種々の疾患で単球の増加を来すことがあります。
腫瘍性増加では、急性骨髄単球性白血病(FAB分類でのM4)および急性単球性白血病(FAB分類でのM5b)で形態に異常のある単球の増加が特徴です。また、慢性骨髄単球性白血病(FAB分類でMDSの一分類であるCMML)では末梢血で1x10
6/l以上(1000/μl以上)の単球増加が診断基準の一つになります。したがって1000/μl以上の単球増加が認められたときにはCMMLも考慮する必要があります。
反応性の増加との診断は除外診断となりますので、上記にあげた種々の疾患を除外する必要があります。ただし、単球増加の原因は特定できないことも少なくなく、そのような場合には定期的な血液一般検査と血液像検査により、血液系の悪性疾患が顕在化してこないかどうかを経過観察する必要があります。
本症例では、骨髄像検査も実施されていますので、芽球の増加や、巨核球、赤芽球系、顆粒球系にも形態変化がなく、単球の増加もないとすれば、急性骨髄単球性白血病(FAB分類でのM4)あるいは急性単球性白血病(FAB分類でのM5b)は否定できると思います。しかし、高齢で貧血が認められること、年齢的に見て骨髄は過形成と思われることから、MDS(特にCMML)を疑うような血液一般検査所見(大球性貧血、汎血球減少症など)や血液形態の変化があるかどうかを確認して、注意深く経過を追う必要があると考えます。
(1999年3月16日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244))
(Q)HIV抗体検査の結果がPA法128倍陽性、ウエスタンブロット法でp24のみ陽性となり、HIV抗原は陰性でした。どう解釈したらよいでしょうか。(長野県 臨床検査技師)
(A)結論から言いますと、「陰性」つまり非特異反応による偽陽性と考えられます。その理由は、
(1)PA値が2週間動いていない(感染初期であれば上昇傾向を示し、またその後であれば通常1万倍以上の高値を示すはずである)。
(2)HIV抗原陰性(抗原検査はHIV1、HIV2の両者を検出できる)。
(3)ウエタンブロット法でHIV2 p24のみ陽性は、判定基準によれば陽性根拠とはならない(しかもHIV2患者は本邦では現在までに海外からの渡航者1例のみである)。
(参考)ウエタンブロット法の判定基準
施設名 陽性の判定基準
―――――――――――――――――――――――――――
CDC(米国) p24, gp41, gp120/gp160のうちの2本以上
FDA(米国) p24とp31に加えてgp41またはgp120/gp160
WHO gp41, gp120, gp160のうちの2本以上
使用キットや施設によって判定基準は異なりますが、判定保留となるのは、殆どの場合HIV感染のない非特異反応とされます。特にp24、p55などの単独バンドは、抗ゼラチン抗体などによる非特異反応の場合が見られます。ただし感染初期や、セロコンバージョンの初期あるいは末期にも見られることがあるので、注意が必要です。判定保留の場合は、1か月ほど時間を空けて再検査を行います。ウエスタンブロットの特異的バンドが増えたり、各バンドが濃くなれば感染初期と考えます。一方バンドのパターンに変化がなく、かつ該当する期間内にハイリスクな行為がないことを確認できれば、陰性と判定します。
自己免疫疾患患者、頻回受血者、妊婦または経産婦などの検体、あるいは長期保存、凍結融解の反復または凍結乾燥を行った検体では、抗HIV抗体が偽陽性を示すことがあります。また15か月未満の小児では、感染者でなくても、母親から移行した抗HIV抗体により陽性を示すことがあります。
ご質問の症例では、スクリーニング検査のPA法で128倍と比較的低い値ですので、まず抗p24抗体による吸収試験で非特異反応かどうかを確認してください。あるいは、EIA法によるスクリーニング検査で抗体陰性を確認してもよいと考えられます。
なお、どんなに感度の良い検査でも、感染から抗体陽性になるまでの、いわゆるwindow periodがゼロになることはないので、今回非特異反応と判定されたとしても、必ず時間をおいて再検査し経過を追う必要があります。
(1999年3月3日 認定臨床検査医 中村良子(No.241))
(Q)肺癌検診に有用な腫瘍マーカーや適切なcut off値について教えてください。
(A)結論から言うと、肺癌検診の検査として適切な腫瘍マーカーは今のところ見つかっておらず、らせんCTなどの画像診断が最も有力な方法と考えられています。相対的には、新しい検査であるサイトケラチン19フラグメント精密測定(シフラ、非小細胞癌)やガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP、小細胞癌)は以前のものと比較し陽性率がよいといわれていますが、早期癌のスクリーニングに有効というデータはありません。
またcut off値の設定には、ある値を設定したときの真陽性率と偽陽性率とともに、受診者の有病率を知る必要があります。例えば発見したい疾患の有病率を0.1%とし、あるcut off値における真陽性率が50%、偽陽性率が2%であったとき、10000人の受診者のうち真陽性者は10000×0.1%×50%=5人、偽陽性者は10000×99.9%×2%=200人となり、陽性者205人のうち疾患を有している人は2.4%しかおらず、かつ有病者の半数を見落とすことになります。cut off値を高くすれば真陽性率は改善しますが、同時に偽陽性率も高くなるため、ますます陽性者に占める真陽性者の割合は低くなってしまいます。
実際には偽陽性率は分からないことが多く、また真陽性率はこの例よりも低いと考えられますので、cut off値をどのように設定しても、補助診断として価値があるかどうかについては、判断が分かれるところです。また検診後の精密検査は通常保険診療で行われますが、最近そのコストの増大が健保組合の収支悪化の一因としてクローズアップされつつありますので、費用対効果比への配慮も必要と思われます。
(1999年2月24日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))
(Q)低血糖発作について、(1)血糖の低下スピードと意識障害発生のタイミング、(2)低血糖による脳細胞の障害機序について教えてください。(大阪府 臨床検査技師)
(A)健常人では血糖値が低下してくると、低血糖が進行して重症にならないように特徴的な”防御反応”が段階的にみられます。血糖値が70 mg/dl 以下になると、まずグルカゴンとエピネフリンが分泌され、次いで成長ホルモンさらにコルチゾールの順に分泌の増加が起こって、血糖を維持しようとします。さらに、血糖値が 60mg/dl 以下になると頻脈、動悸、発汗、振戦などの交感神経系の刺激症状が出現し始め、さらに、50 mg/dl 以下になると中枢神経系の症状として、もうろう状態、行動異常、記銘力の低下、などの意識障害、けいれん発作も起こり始めます(”neuroglycopenia”という)。
このように、血糖値の低下と臨床症状との対応が画然としているのは、一重にヒトの大脳においては、エネルギー供給源としての、アミノ酸からの糖新生や脂肪酸の酸化などのメカニズムがなく、血中からのグルコース供給に100%依存していることに由来するためです。従って、理論的にはグルコースの供給がなく血糖値が 60 mg/dl 以下になれば、神経活動(意識など)は数分以内に、つまり、神経細胞内に貯蔵されているATPが減少する時間内で速やかに低下します。
急激な血糖降下は中枢で認識されて、副腎髄質からのエピネフリン分泌が亢進して、交感神経系の症状が発現し、肝臓からのグリコーゲンの分解と糖新生が起こり血糖が上昇しやすいのですが、このような交感神経系症状は緩徐な血糖降下では起こりにくく、いきなり中枢神経症状を来すことになります。
また、糖尿病患者などでは低血糖「症状」を起こす血糖値が糖尿病のコントロール状況によっても異なることがあります。すなわちコントロール不良例では比較的高めの血糖でも低血糖をきたし、低めにコントロールされていて、しばしば低血糖を起こしている場合は、かなり低い血糖でも症状が起こしません。それは、視床下部での血糖低下に対する認識が鈍化していることによるのかも知れません。さらに、血糖が常時低めで、しばしば低血糖をくり返していると、中枢神経(血液-脳関門の中枢側)において糖輸送担体(Glut 2)の発現が増加して、乏しいグルコースを優先的に取り込もうとする、一種の”適応現象”が、低血糖の感知を遅らせている可能性も指摘されています。 皮肉にもこの生命維持のための”適応現象”が、前述の”防御反応”を伴わない、いわゆる「無自覚性低血糖」という、生命を危機に陥れる現象を引き起こす原因にもなっています。「無自覚性低血糖」は、糖尿病性神経障害による自律神経障害があって、交感神経系症状が起こりにくい症例においては、容易に起こることになります。 (1)血糖降下速度や、それによる症状の出方には、個々の症例で大いに異なり、定量化して数式で表すことは出来ません。血糖降下速度を決定するのは、インスリン量(内因性または、インスリン注射量)、インスリン注射の場合は、その種類(速攻型か、中間型か)、注射ルート(皮下、筋肉、静脈)、タイミング(食事との関連)や皮下での吸収速度、末梢組織でのインスリン感受性、肝のグリコーゲン含量、交感神経機能、グルカゴン、エピネフリン、成長ホルモン、コルチゾールなどの分泌能、消化管の吸収能、さらにはその日の運動量、気温、前後の食事摂取量などの多くの因子が個々の場合で異なるからです。
ただし、健常人において早朝、空腹時に速効型インスリン 0.1 U/Kg を静注し、15分間血糖をモニターした場合(短時間インスリン耐性試験)には、血糖値の降下率(K ITT)は4〜5 mg/分 とされています。 (2)低血糖、とくに血糖値が50 mg/dl 以下になると、脳(中枢神経)が障害され、30 mg/dl 以下では昏睡に至ります。この状態が続くと、24時間後にはCT 検査で、大脳皮質の広範なlow density area が認められ、一見多発性脳梗塞に類似した像を呈します。この状態は、4日後まで拡大し、16日目になってようやく消失します。MRI では、23〜82日頃まで広範な大脳皮質の萎縮が、とくに側頭葉、頭頂葉に認められます。
大脳皮質のこのような変化は、神経樹状突起などの選択的な神経細胞死によって起こり、神経細胞死はapoptosisではなく、necrosisであるとされています。そのメカニズムとして、グルコースの供給がないことに由来する、細胞内酸化還元電位の酸化へのシフト、鉄代謝の低下、カルシウムイオンの細胞内への流入、細胞内アルカローシス、などから神経細胞から惹起される、興奮性アミノ酸(exitatory amino acids;アスパラギン酸、グルタミン酸など)の放出によるという、いわゆる”exitotoxic”説が提唱されています。放出された興奮性アミノ酸は、細胞間液に浸透して、前述の神経細胞の、NMDA(N-Methyl D-Asopartate)受容体との結合を介して、それを興奮させ、ついには死に至らしめる、というストーリーです。また、低血糖による脳(中枢神経)障害は、脳血流がむしろ増加すること、ダメージの速度が虚血の場合よりも速く進行することなどの点で、脳梗塞などの虚血性の病変とは異なります。
(1999年2月12日 田港朝彦(香川医科大学臨床検査医学講座))
(Q)糖尿病患者等の尿沈渣には悪性細胞に似た異型細胞を認めることがありますが、出現の機序と悪性細胞との見分け方を教えてください。(兵庫県 臨床検査技師)
(A)ご質問のように、炎症(大食細胞など)、結石症(多核細胞など)、ウイルス感染(封入体細胞、多核細胞、ポリオーマウイルス感染を示唆する細胞など)、放射線治療(相互封入像、多核細胞)などの物理的・化学的作用により、尿沈渣中の非腫瘍性の細胞が異型性を示すことがあり、これを良性異型細胞といいます。
糖尿病やHIV患者、白血病、骨髄移植後患者など、免疫力が低下している患者に見られるのは、移行上皮細胞や尿細管上皮細胞が、ヒトポリオーマウイルスの感染によって異型細胞となったものが多いようです。ただし、必ずしもこれらの患者に特異的ではありません。形態的には、1)膨化した核、2)変性の著しい細胞質を特徴とし、N/C(核/細胞質)比が大きくなるために、癌細胞と類似する場合があります。そのため細胞診ではデコイ細胞(癌細胞と間違いやすい「おとり」細胞の意味)といわれています。
悪性異型細胞(癌細胞)との鑑別は、核内構造をよく観察することにより可能です。悪性異型細胞(移行上皮癌)では大部分の細胞で核異型(クロマチンの増量、核小体の肥大や数の増加、核形の不整、N/C比の増大など)を認める場合が多いのに対し、ウイルス感染細胞はクロマチンの増量などは認めません。またSternheimer染色を施すと、ウイルス感染細胞の核は膨化しているため内容物が青白く(いわゆるすりガラス状に)見えるので、一層鑑別しやすくなります。
(1999年2月12日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)尿、脳脊髄液および穿刺液の蛋白および糖の定量測定において、検体の遠心分離は避けるべきでしょうか。(島根県 臨床検査技師)
(A)髄液中の糖は、細胞数や細菌数の多い検体では解糖作用により著しい減少を示します。したがって、検体は速やかに遠心し上清を用いて検査をします。また、最近ではこれらの生化学的検査(蛋白や糖の分析)は、自動分析器を用いることが多く、有形成分が多いとサンプリングノズルの詰まりを引き起こす原因にもなります。検査には遠心後の上清を用いることをお勧めします。
(1999年2月6日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)尿細管上皮等、わずかな数でも異常とされる尿沈渣所見は、標準法の強拡大1視野当たり(HPF)ではなく、弱拡大1視野当たり(LPF)で表現した方が臨床的に有用ではないでしょうか。(島根県 臨床検査技師)
(A)上皮細胞は正常でも生理的な剥離によって1日約100万個の細胞が尿中に排泄されています。これを尿沈渣にしてみると強拡大(400倍)で5〜10視野に1個程度は認めます。したがって、扁平上皮細胞(とくに女性の場合、外陰部からの混入があるため)を除いては、これ以上の排出は、まず異常剥離によるものと考えられます。一般的には強拡大で各視野に1個以上(1〜/HPF)ある場合を病的意義があると判断します。
表現方法については、LPFとHPFを混在して用いると臨床での結果の解釈に混乱を招く可能性がありますので、標準法に従いHPFで統一されることをお勧めします。
(1999年2月6日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)尿の浸透圧を測定する際、遠心後でないと測れない検体がありますが、遠心操作によるデータへの影響はないでしょうか。(島根県 臨床検査技師)
(A)浸透圧の測定は氷点降下法による測定が一般的であり、測定セルの内壁に汚れがなければ、浮遊物を含む尿とそれを遠心して取り除いた尿の測定結果には殆ど差は認められません。しかし、塩類が大量に存在する尿を測定すると、測定セルの汚れが進むに従い、流路系の詰まりによって氷晶形成ポイントが不安定になり、測定値のバラツキの原因となることがあります。検体尿の温度が下がると塩類が析出する場合があり、浮遊物の多い尿はできるだけ遠心後、その上清を測定するようにしてください。
ちなみに、ヘモグロビン尿は理論的に考えた場合、溶血した血球中の電解質の影響を受けることになりますが、実際には1%の溶血を想定しても3mOsm/kg程度のプラス誤差に留まり、臨床的に無視できる範囲となります。
(1999年2月6日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院中央臨床検査センター 野崎 司)
(Q)交差適合試験のクームス法にて、主試験、副試験、自己対照全てで陽性、不規則抗体も全てで凝集が見られ判定不能でした。どのように対処すればよいでしょうか。(臨床検査技師)
(A)ABO式の表・うら検査とRh(D)の判定には問題がなかったとしてお答えします。
交差適合試験のクームス法陽性(副試験:患者赤血球+日赤血血清、主試験:患者血清+日赤血赤血球)、自己対照陽性(患者赤血球+患者血清)、しかも不規則抗体が全てで凝集が見られ判定不能(患者血清中に存在する抗体が型特異性を示していない)ということから、おそらく患者さんは直接クームス試験、間接クームス試験両方陽性の溶血機転を有しているものと推察されます。網赤血球、ハプトグロビン、間接ビリルビン等の検査データを確認してみて下さい。
もし、自己免疫性溶血性貧血のような疾患が強く疑われるのであれば、輸血を行っても効果が限られますので、循環機能に異常が出ない程度を目標に、必要最低限の輸血に止めた方が宜しいでしょう。この場合、交差適合試験が自己対照に比較して同等以下であれば、輸血「可」と判断します。輸血に用いる製剤は、少しでも凝集が弱いものから選択して下さい。
自己免疫性溶血性貧血かどうかはっきりしないという時は、患者さんの赤血球を用いた抗体解離試験を行い、型同定を試みるのも一法です(もちろん自己免疫性溶血性貧血であっても、念のための施行は可)。解離液でも型特異性が見られないのであれば、自己抗体である可能性が非常に高いと思います。まれに、複数の不規則抗体を有している場合もありますが、その場合には、検査法ごとの反応の態度に何らかの型特異性が見られるはずです。
この患者さんに妊娠・分娩歴や輸血歴があって、自己抗体とともに不規則抗体が存在している可能性が否定しきれない場合には、抗体解離した自己赤血球で、血清の自己抗体を吸着した上で、あらためて血清中の抗体同定を行うことも考えられますが、煩雑ですし、必ずしも理論通りにはいきません。
いずれにしろ、交差適合試験は自己対照に比較して判定します。凝集が自己対照と比較し同等かそれ以下であることが重要です。
(1999年1月28日 認定臨床検査医 村上純子(No.370))
(Q)血小板の基準値は施設によって少し異なりますが、公的機関等で認定されたものはないのですか。
(A)現在のところ、血小板数の基準値について、臨床病理学会あるいは臨床化学会などからの提言等はないようです。基準値の設定は、以前は各施設で健常成人の血小板数を測定し、95%の健常人が入る値を設定していました(N数はまちまちですが、50〜300名位)。しかし最近では、健常成人の定義があいまいである等の問題提起がなされたため、参考書の基準値を導入する施設も少なくありません。施設によって基準値が異なるのはこのためです。
血小板減少症の定義は、一般的に教科書的には、10万(100 x 10
9/L)以下と記されてます。また、血小板数を自動分析装置で測定するときの精度は機種によって異なりますが、異なる機種による機種間誤差は10%程度と考えておいた方が良いと思います。
参考として、文献に記載されている基準値を下に示します。
○血小板数の基準値(単位:SI; x 109 /L, conventional units; x 103 /ml)
1)日本臨床衛生検査技師会血液正常値設定委員会編 130〜369
2)米国:Wintrobe's Clinical Hematology 男女共に 150〜440
(Coulter S) 147〜412
(Tschnicon H1) 147〜422
3)臨床検査法提要 直接法 140〜340
Brecher-Cronkite法 160〜430
4)臨床検査ガイド '98 男性 131〜362
女性 130〜369
5)慶應義塾大学病院 150〜350
以上のように本邦では13万〜37万としている施設と15万〜35万としている施設が多いようです。米国とは上限が大きく異なりますが、その理由は不明です。
(1999年1月15日 認定臨床検査医 川合陽子(No.316)))
(Q)薬剤感受性試験において、小児用のセットを組む場合の注意点を教えてください。
(A)薬剤感受性試験において通常使用される、代表的な薬剤(即ちNCCLSのガイドラインあるいは日本の自動機器に採用されているもの)についてお答えします。小児といっても年齢によって様々ですが、使用に適さない薬剤としては、代表的なものにテトラサイクリン系(TC、MINO)があります。これはCaイオンと結合して歯、骨に沈着するために、歯牙の着色、エナメル質発育不全、骨発育不全を起こす可能性があるので、特に8才未満の小児には投与しないことが勧められています。
特に未熟児、新生児で問題を起こす可能性があるものとして、CP(血中濃度が増加して循環虚脱の下に死亡した例がGray baby syndromeとして報告されている)、STおよびCTRX(アルブミンと競合的に結合し間接ビリルビン濃度を上昇させ、核黄疸を引き起こす可能性がある)などがあります。キノロン系の多くでは、幼弱動物で実験的に関節障害や軟骨障害が起きる可能性が指摘されています。
その他にも、使用経験が少ないため等の理由で、小児への安全性が未確認とされている薬剤があります。日本医薬品集98-99では、CVA/TIPC、CETB、CFMT、CZOP、キノロン系の多く、MEPM、TEIC等です。また未熟児、新生児に対する安全性が未確認とするものは数多くあります。
一方、小児に適しているものとして、小児用の剤形(小児用細粒、小児用細粒、ドライシロップ)が用意されている経口剤には、CVA/AMPC、CCL、CPDX、CDTR、CFDN、KM、CAM、NFLX、FOM等があります。
【参考文献】
- [1]
- 日本医薬品集98-99、薬業時報社
- [2]
- 新小児薬用量、診断と治療社(H7)
- [3]
- 小児科診療61、補冊、1998年
(1999年1月11日 認定臨床検査医 今福裕司(No.377))
(Q)食後血糖値による糖尿病の診断基準がありましたら教えてください。
(A)食後の随時血糖は、空腹時血糖とは異なり、食事の内容やその日の身体状況(消化管の状態など)に依存し、再現性に乏しいので、他の値との比較が困難です。したがって、客観的、意図的、実験的な診断ないしは判定には不向きです。
一般的に、健康人の血糖の日内変動は、約90mg/dl(5mmol/l)から約160mg/dl(9mmol/l)の範囲に限定されており、また従来の知見からも、食後200mg/dl以上なら、糖尿病の可能性が非常に高いものになります(もちろんmg/dl以上であり、かつ糖尿病の症状があれば、経口糖負荷試験をしてはなりません)。しかし、食後随時血糖の値を、経口糖負荷試験で客観的、意図的に決められた糖尿病の診断基準に対応づけるのは、根本的に無理があります。
従いまして、随時血糖がどの位の値のとき二次健診(経口糖負荷試験を含む)の対象とするかは、その健診をされる組織が、どの程度の二次健診が可能か、予算と人的資源等、何より対象集団の特徴をご考慮の上で決められることでしょう。
なお、わが国の糖尿病学会においても、「糖尿病の分類と診断」に関する見直しが行われており、その経過が糖尿病第41巻臨時増刊号2(平成10年12月14発行)に掲載されておりますので、ご一読をお勧めします。
(1999年1月11日 認定臨床検査医 熊坂一成(No.236))