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(Q) 24時間クレアチニンクリアランスと同時ICGを実施について
 24時間クレアチニンクリアランスと同時にICGを実施しても検査成績に影響はないでしょうか。実際の測定系には相互に影響はないと思いますが、患者さんの体内代謝(クレアチニンの再吸収率の変化等)に関して影響を及ぼさないかどうかが不明です。また、24時間クレアチニンクリアランスの為の蓄尿中に化学療法を行なっても測定結果に影響はないのでしょうか? 抗癌剤としてタキソールを使用しています。(神奈川県 臨床検査技師 経験3年)

(A) 糸球体濾過率(GFR)の測定法として、標準法とされているのは、イヌリンクリアランスですが、その手技の煩雑さやイヌリン製剤の入手困難などの理由により、もっぱら内因性クレアチニンクリアランス法が用いられています。クレアチニンは、腎糸球体からほぼ完全に濾過され、乏尿時を除いて再吸収されないため、GFRの指標となるとされています。しかしながら、クレアチニンは近位尿細管からも分泌されているため、GFRを過大評価していることになります。
 近位尿細管でのクレアチニン分泌は、他の陽イオンと輸送路を共有しているため、抗潰瘍薬のシメチジンや抗アルドステロン薬のスピロノラクトン、尿酸排泄促進薬のプロベネシド、抗癌剤のトリメトプリムなどの薬物の服用で、クレアチニンの近位尿細管での分泌を抑制することが知られています。従って、これらの薬剤を使用している際には、クレアチニンクリアランスが低下します。
 さて、ご質問いただきました件ですが、質問で述べられておりますように、クレアチニンの測定は、Jaffe法では様々なものを非特異的に測り込んでしまうために、薬剤などの影響を受けることもあり得ますが、現在主流となってきた酵素法では、影響を受けることはほとんどなくなってきたといえます。
 また、我々の調べた範囲では、ICGや抗癌剤のタキソールでは、尿細管の分泌が低下する可能性示す資料はありませんでした。 ICGは肝予備能が正常であれば、数十分で胆汁中へ排泄されてしまうでしょうし、24時間蓄尿によるクレアチニンクリアランスの測定には殆ど影響されないと考えられます。また、タキソールでは副作用として腎機能障害がありますので、尿細管からの分泌低下によるもの(すなわち、GFRの低下がないクレアチニンクリアランスの低下)なのか、糸球体障害によるものなのかの判定は難しいと思います。
(参考文献)
大久保充人:血中、尿中検査値の評価。腎と透析35(増刊号「腎機能−その正しい評価−」):384-390,1993
(2001年9月26日 日本大学医学部臨床病理学教室 矢内 充)

(Q) 腹部エコーの教育について
  臨床工学士に腹部エコーを教育することの可否について教えて下さい。

(A) Q&Aにご質問いただいた件につき、回答します。
 まず、臨床工学士法という法律の中で(定義)第2条 この法律で「生命維持管理装置」とは、人の呼吸、循環又は代謝の機能の一部を代替し、又は補助することが目的とされている装置をいう。2この法律で「臨床工学技士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、臨床工学技士の名称を用いて、医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作(生命維持管理装置の先端部の身体への接続又は身体からの除去であって政令で定めるものを含む。以下同じ。)及び保守点検を行うことを業とする者をいう。
ということで、超音波装置は扱えないことになります。
(2001年10月9日 獨協医科大学越谷病院臨床検査部 森 三樹雄)

(Q) スピロヘータと確定できる抗原検査について
 お忙しい中申し訳ありませんが教えていただきたい事があります。先日、脳炎の患者が搬送されてきたのですが来院時に髄液検査等を行ったところ髄液細胞数は198/ulで分類は単核球優位値で蛋白は107mg/dl・糖58mg/dlで検血、生化学は問題無く、梅毒検査が陽性でRPR(+)・TPHA(+)でした。無菌性髄膜炎を疑ったのですが墨汁染色を髄液・全血に実施したところ螺旋状の菌体が染め出されスピロヘータと断定できない為、他の施設に検鏡していただいたところスピロヘータと回答をいただいたのですが、スピロヘータと確定できる抗原検査が無いため何か良い方法があれば教えて頂きたいのですが、宜しくお願いします。
 (大阪府 臨床検査技師 経験8年)

(A) ご質問の文面では、この患者さんの梅毒病期(早期、晩期、無症候、先天)、梅毒治療歴(未治療なのか再感染なのか)、梅毒血清反応の定量値、年齢、性別、そのほか髄液・血液中にどのくらいの量のスピロヘータが検出されたのか、などの情報が記載されていませんので適切な回答ができないかも知れませんが、ご了承下さい。病期によっては組織に潜んでいることがあり、検出が困難となります。
 ご承知のように梅毒の病期は、第一期から第四期に分類され、第三期梅毒ではスピロヘータが血管、心臓、神経、脊髄、脳などを侵し、さらに第四期では神経系統を侵すといわれています。この患者さんは脳炎とありますが、梅毒によるものならば、晩期梅毒で感染からの経過は5〜10年以上と考えられます。
 神経梅毒を疑うときは髄液中の細胞数:リンパ球が4個/μL以上、総蛋白量: 40mg/dL以上、VDRL:陽性(過去の神経梅毒または現在の存在を示す)が診断の基本1)とされます。また、VDRLを日常検査として実施している施設は稀と思われますので、凝集法やTPHA法(確立した方法はありませんが、当検査部では希釈倍数10倍以上を陽性と判定しています)あるいはFTA−ABS法などの測定結果が重要になります。なお、髄液中の免疫グロブリンは低濃度であるため、ガラス板法やRPR法ではほとんど検出できないことが多いので、これらの方法での検出は推奨されておりません。ぜひ、髄液中のレアジン抗体もしくは抗Treponema pallidum(Tp)抗原に対する抗体の検出をお勧めいたします。もし、抗体が検出されれば、そちらで実施された墨汁染色(暗視野顕微鏡にて油侵で観察)による髄液・全血から検出された「螺旋状の菌体」はTpの可能性が高いと考えられます(ただし、コンタミがないものとして)。そのほか、髄液中のオリゴクロナールバンド(電気泳動で分離し染色する)の出現を確認することも1つの方法ですが、神経梅毒のほか髄膜炎、ウイルス性脳炎、多発性硬化症、亜急性硬化性全脳炎、その他膠原病などでも検出され特異度は高くありません。
 通常スピロヘータを確認する方法2)として、病変部位からの分泌物(漿液)などを用いて、直接鏡検法、暗視野顕微鏡検査、パーカーインク染色法などが推奨されています。第一期から第二期梅毒に有効です。髄液中のスピロヘータを検出する場合、数量的に非常に少ない時は、ミリポアフィルターなどで髄液を濾過してスピロヘータを濾過膜に付着させて収集するか、または濃縮した後、次のような方法で確認することが有効と思われます。必ずスピロヘータが収集できませんと下記の方法で検出できません。なお、詳細な操作手順は文献等を参考にして下さい。
1.パーカーインク法
2.間接蛍光抗体法
1) 髄液をスライドガラスに固定する
2) 梅毒感染ウサギ血清と反応させる(一次反応)
3) 洗浄
4) 抗ウサギFITC標識抗体と反応させる(二次反応)
5) 洗浄、封入
6) 蛍光顕微鏡による鏡検
梅毒感染ヒト血清でも可能ですが(その場合�Cは抗ヒト血清を用いる)、ウサギを用いた方が染色が鮮明とのことです。
3.直接蛍光抗体法
1) 髄液をスライドガラスに固定する
2) ヒト由来の抗Treponema pallidumFITC標識抗体と反応させる
3) 洗浄
4) 洗浄、封入
5) 蛍光顕微鏡による鏡検
 以上のような方法によって証明できると思います。2、3の場合、Treponema pallidumに対する抗体やFITC、ビオチンを標識したものがコスモバイオで輸入販売しております。なお、2の方法でヒト血清を使用すれば市販のFTA−ABSキット(日本凍結乾燥研究所)が応用3)できます。すなわち、キット中のTp末塗抹スライドの代わりに髄液を塗抹固定したものを使用するわけです。またPCR法などの遺伝子診断4)も文献上報告されていますがキットなどはまだ市販されていないと思いますので実用性に欠けます。
 冒頭にも述べましたが病期によってはスピロヘータを髄液や血中に見いだすことは困難です。また、非病原性のスピロヘータも体内にけっこう存在しますので、これらとの鑑別も必要となりますが、蛍光抗体法ですとTpに特異的に反応するため有用性が高いはずです。
1) 松本慶蔵、本間守男監訳:スピロヘータ.グラッドウォール臨床検査学 第IV巻微生物学 618-625,1985
2) 望月照次、中村良子:梅毒の検査.検査と技術 24,809-818,1996
3) 大谷道広,ほか:皮膚組織中のトレポネーマの検出.厚生省監修 微生物検査必携(第3版)H34-H46,1987
4) Burstain JME, Grimprel SA, Lukehart MV, etal: Sensitive detection of Treponema pallidum by using the polymerase chain reaction. J Clin Microbio l29: 62-69, 1991
(2001年10月15日 獨協医科大学越谷病院臨床検査部 森 三樹雄、柴崎 光衛)

(Q) 一般病院での炭疽菌同定法について
 一般病院でできる炭そ菌の同定方法を教えていただけますか。(東京 臨床検査技師 経験 15年)

(A) 炭疽菌同定法は下記のようになる。
検査材料:喀痰、膿、糞便
培養: 使用培地, 血液寒天培地, BTB乳糖寒天培地, チョコレート寒天培地(喀痰のみ)
染色: グラム染色:グラム陽性大桿菌
検体塗布培地を37℃ over night 培養
集落の観察:溶血(−)、巨大・R型のコロニーが見られる。
このコロニーについて
 グラム染色:グラム陽性の大桿菌
 レシチナーゼテスト:(+)
 パールテスト:(+)
 運動性:(−)
を確認すればBacillus anthracisと考えられる。
 汚染の強い検体は、60℃位、30分加温した検体も同時に培養した方が検出率が上がる。
 レシチナーゼ反応は、マンニット食塩培地に5%の割合に卵黄を加えた培地を作っても用いるとよい。食塩耐性、卵黄反応陽性。
 パールテスト:String−of−pearls test:寒天培地中にpenicillin Gを10U/ml含むものを作製して菌をうえる。真菌のスライドカルチャーのように。3〜4時間37℃にて培養後、カバーグラスをかけて観察する。Bacillus anthracisは溶菌して丸い顆粒状になる。他の菌は桿菌の状態のままとなっている。
 運動性は:液体培地で3〜4時間、37℃で培養後、スライドグラスでカバーグラスをかけて観察する。時間があればSIM培地も用いられる。最も注意するのはBacillus cereusとの鑑別である。運動性・溶血性がある。
 API 50 CHB培地が日本ビオメリュー株式会社から発売されていますが、新聞報道によると、一般病院には市販しないことになっています。理由はわからないのですが、数量が足りないことによるのか、または国立感染研究所などの特定な機関にのみ配布されているのかも知れません。
(2001年10月15日 東京慈恵会医科大学 臨床検査医学講座 町田 勝彦)

(Q)HCV-PCR 法と HCV-抗体の結果の解離について
 HCV-PCR法とHCV-抗体の結果の解離について教えていただきたく存じます。患者は82才女性で、輸血歴あり(77才で total hip replacement)。以前他院にてHCV+を指摘されたものの当院ではHCV(-)(定性的、クロマト金コロイド法でした。精査のためにHCV-PCR法と第2世代HCV-抗体検査を依頼したところ、前者RT-PCRでは<0.5KIU/mlと陰性、しかし第2世代HCV-抗体(EIA)では1.4と陽性でした(共にSRLにて)。ちなみに患者のLFT(liver function test)はWNLです。可能性としてひとまず
1:HCV感染既往はあるものの、carrierであり血中HCVはほとんど存在しない。
2:抗体検査が疑陽性であり、HCV感染は成立していない。
の二つを考えてみました。しかし本当にこの解釈でいいのか、そしてまた他の解釈があるのか、他にすべき検査はあるのか、などについて教えていただければ幸いです。 (群馬県 大学院博士課程学生)

(A)ご質問の症例についての解釈は基本的に質問者の解釈で良いと存じます。ただし、解釈の1を確認する意味ではHCV RNAを定性法で確認した方が感度が高いのでより良い判定になるでしょう。
(2001年9月11日 東京医科大学臨床検査医学講座 福武勝幸)

(Q)検査報告用紙のあり方について
 今、本院では全館的オーダリングを試案中です。迅速検査部門の検査データは、検査システムとインターフェースを介し、オーダリングシステムに送信し、オーダリングサイドのデータは約13ケ月保存の形式で開始する予定です(つまり臨床サイドからは13ケ月のデータはみることができます)。なお検査システムではMOにてすべての検査データは保存しておりますが、迅速には検索し閲覧することはできません。そして現在、外来については再来時発行など各種パターンで、一方入院は退院時サマリーとして検査データを打ち出しカルテに貼付するように指導する予定です。ところが、ある科の医師からデータは媒体に保存してあるし、画面で見えるし、また各自が自由に経時的にプリントアウトもできるから検査科からの検査報告は必要ない(ペーパーレス)と強硬に主張しております。私はカルテの基本からして、また医療保険制度上、電子カルテでないので、必要と思っておりますが、検査報告用紙のあり方について御教授いただければ幸いです。 (検査医会・学会会員)

(A)オーダリングシステムを行っている聖路加国際病院では、検査部から報告書の発 行はしておりません。検査デー夕の検索は各医師が端末から自分で行っております。
(2001年8月30日 聖路加国際病院  村井哲夫)

(Q)「基準値」と「基準範囲」について
 医師国試問題公募用、問題作成手引きではTCの基準範囲は120〜250、欄外に動脈硬化学会の提案の220以上が高脂血症とあります。この為に、基準範囲を220までと定めている施設が多々ありそうです。私の大学もそうです。これでは正規の基準値ではない筈です。この現象に対する、多くの施設での実情と、基準値を大切にする本学会の、姿勢を教えて下さい。 (兵庫県 認定臨床検査医)

(A)日本臨床検査医学会として「基準値」、「基準範囲」について公式の見解を出したことはありませんが、臨床検査情報学専門部会や日本臨床検査医会などで活発に議論されていますので、それらの議論をまとめると以下のようになると思います。
基準範囲Reference Intervals
 1970年代からIFCC(International Federation of Clinical Chemistry)の委員会でReference Values, Reference Intervalsの考え方が提案されていましたが、それをほぼ全面的に踏襲して米国のNCCLSが1992年に提案指針C28-Pを出版してから世界中で広く認識されるようになりました。その後、NCCLSは2回の改定を重ねて最新版は NCCLS Document C28-A2 [How to Define and Determine Reference Intervals in the Clinical Laboratory; Approved Guideline - Second Edition (2000)]です。これには定量検査における基準範囲の設定方法について述べているに過ぎません。この内容は、既に広く認識されていますので詳細は省きますが、要するに厳密に選ばれた基準個体の集団について、通常95%の個体が示す上限値と下限値により規定された測定値の範囲とされています。したがって、基準範囲を示す場合には(1)基準個体についてその選び方、種類(性、年齢、生活習慣などを含めて)及び対象個体数、(2)測定方法と条件、(3)測定値の統計学的処理方法、などを付記することになっています。 したがって、血清総コレステロールの基準範囲120〜250mg/dlとする場合には、それを求めた条件を付記することが必要です。
さて、この考え方が日本で普及した経緯について触れておきます。平成2〜4年度厚生省老人保健事業推進費等補助金に基づく「老人の臨床検査の正常値に関する調査研究班」(主任研究者:河合 忠)において、会議の冒頭に『正常値とは何か?』について大議論が起りました。そこで、筆者が海外での動向を紹介したところ全班員の賛同を得ましたので平成5年3月に当研究班による公開フォーラムを開催し、さらに臨床検査関連学会等で議論して頂いた結果、NCCLSの考え方に基本的に合意を得ることができました。その後、医師国家試験出題基準作成委員会に筆者が委員として加わっており、他の委員の賛同も得られましたので厚生省医師国家試験出題基準(平成9年度版)では、正常値、正常範囲という言葉を削除し、新しく基準値、基準範囲という言葉が採用され、急速に医学界に普及して行ったわけです。
 ところで、Reference Intervalにどのような邦訳語を付けるかが問題になりましたが、既に一部の臨床検査専門家(初めて使ったのは、当時東京都立駒込病院検査科に勤務されていた飯田陽子医師との説があります)によって「基準範囲」が使われていましたし、「参考範囲」または「参照範囲」ではNCCLSの意図を十分に反映できないということで、基準範囲に落ち着いたわけです。
基準値 Reference Values
 さて、もう一つの基準値については、いろいろな解釈があって一部混乱を来たしているようですので、NCCLSやISO(国際標準化機構)で多くの国内外の臨床検査専門家との交流を通して得られた見解を改めてここにまとめることにします。基準値には、Analytical reference valueとBiological reference valueとがあって、ISO文書では明確に区別しています。 明らかに使用目的が異なりますので、両者を混同することはほとんどありません。ここで問題とされているのは、Biological reference value(生物学的基準値)ですので、以後ここでは単に基準値と表現します。
 基準値は、さらに広義に使われる場合と狭義に使われる場合があります。狭義に使う場合は、基準個体(健常個体)について得られた測定値を意味しています。広義の場合と区別するために、とくにhealth-associated reference value(“健康”基準値)と呼ぶ場合があります。この種の基準値を集団について求め、一定の統計処理を行って求めたのが「基準範囲」です。ということは、集団についてみると、すべての基準値が基準範囲に含まれるわけではなく、基準値の5%は基準範囲から外れることになります。
 「広義の基準値」は、文字通り、特定の臨床的目的で意志決定をするために基準となる測定値をすべて含み、しばしば「病態識別値」とか「臨床的意志決定値」とも呼ばれています。すなわち、日本動脈硬化学会が決めた高脂血症の診断基準値(例えば、他にリスク因子をもたない人については、男女を問わず血清コレステロール値が220mg/dl以上(≦))、高尿酸血症の診断基準値(血清尿酸値が7mg/dl<)、などが含まれます。その他、治療目標値、パニック値、陽性カットオフ値、なども含まれます。したがって、血清総コレステロール値「220mg/dl以上」というのは、高脂血症の診断基準値の一つであって、決して基準範囲とは関係ありません。ちなみに、120〜220mg/dlとしている施設があるとしますと、二重の誤りを犯していることになります。もともと基準範囲の上限ではありませんし、220mg/dlという数値は高脂血症に入ります。その上、2001年6月から日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患の予防と治療のためのガイドライン」が改訂されて、血清総コレステロール値については、≧240mg/dlを高TC血症、≧220mg/dlを境界域高TC血症としています。
 基準範囲やさまざまな病態識別値を含めた一覧表を作成するときには、全体の表題は「基準値一覧」とするのが正しいと思います。その中に基準範囲(○○○_△△△)が含まれ、学会などが提案する診断基準値、治療目標値、などもその旨を明記して一覧表にすべきでしょう。
 過去50年にわたって、臨床検査関係者のたゆまぬ努力によって、多くの検査項目についての測定値の施設間差が著しく改善しているのに、基準範囲や基準値の設定に問題があるとすると、臨床的判断に大きなバラツキを生ずることになります。是非、臨床医も、医療関係職の方も、臨床検査専門家も、基準値について正しい認識をもって、正しい診断情報を効率的に利用するよう努力すべきでしょう。
(2001年8月21日 国際臨床病理(ICP)センター所長 河合 忠)

(Q)臨床検査項目分類コードについて
 当院では、現在オーダリングの準備を進めております。オーダリングに当たり、臨床検査項目のコードを日本臨床検査医学会臨床検査項目分類コードを利用したいと考えております。HPを拝見しましたが、現在掲載されておりますコードは第10回改訂(JLAC10)・第1版です。現在採用されている検査項目でJLAC10では、対応できていない項目もあります。
III.「項目コード」の改訂において
現在、新規の検査項目が毎年40〜50件導入されている。これら分類コードについては、年6〜8回開催予定の本委員会でコードを決定し、その結果をとりまとめた上で適宜「臨床病理」誌上にて公表する予定である。との記載がありますが、
1. 検査項目コードの改訂作業は行われているのでしょうか?
2. 改訂作業の結果報告がございましたら掲載紙あるいは内容をお教えください。
3. 今後の改訂予定などもわかる範囲でお教えください。
4. 新規項目について改訂作業までの仮コードの付け方などルール化されたものがありましたら、お教えください。
5. また、6桁運用コードの提案がなされておりますが、運用コードについては、系統づけた拡張が困難であると個人的には考えておりますが、学会方針としては、今後の標準化を15桁(結果は17桁)コードを中心に進められるのか、あるいは6桁運用コードを中心に進められるのかについてもお教えいただければ幸いです。 (大阪府 臨床検査技師)

(A)学会への質問にお答えします。
1.検査項目コードの改訂作業は行われているのでしょうか?
答:3ヶ月に一度程度の新規項目の収載等の改定作業を行っています。
2.改訂作業の結果報告がございましたら掲載紙あるいは内容をお教えください。
答:日本臨床検査医学会のホームページ、ならびに学会誌「臨床病理」に掲載する予定です。
3.今後の改訂予定などもわかる範囲でお教えください。
答:前述の通り、3ヶ月に一度程度の改定作業を定期的に実施します。
4.新規項目について改訂作業までの仮コードの付け方などルール化されたものがありましたら、お教えください。
答:分類コードとしてあるように、意味あるコードを作成しています。その中心は大分類、中分類であり、その分類が行われたのち、さらに委員会で最終コードの妥当性が討議されて、承認される仕組みです。したがって、大、中分類をよくみて頂ければその概要がつかめます。
5.また、6桁運用コードの提案がなされておりますが、運用コードについては、系統づけた拡張が困難であると個人的には考えておりますが、学会方針としては、今後の標準化を15桁(結果は17桁)コードを中心に進められるのか、あるいは6桁運用コードを中心に進められるのかについて
答:コードはあくまでも17桁です。6桁を作成することについても議論がありましたが、一般ユーザーのためにあえて作成したものですが、ある程度拡張しえるゆとりを持って作ったはずです。
(2001年7月13日 日本臨床検査医学会会長 櫻林郁之介)

(Q)抗生物質カナマイシンについて
偽血小板減少検体への対応として、硫酸Mg、過剰量EDTA、FC管などありますが、他の病院では抗生物質カナマイシンを添加しているとききました。どういう機序でカナマイシンが有効なのか、また、カナマイシンに至った経緯を教えて下さい。硫酸Mg、過剰量EDTA 、FC管についてもお願いします。ちなみに私の施設では「テオフィリン」を用いていますが、今まで偽血小板減少について「テオフィリン」にふれた文献をみたことがありません。ご存知でしたら教えて下さい。そして、今のところ「偽血小板減少の詳細な機序は解明されておらず」となっているようですが、どの程度まで解明されているのでしょうか。どうぞよろしくお願いします。
(Q-1)偽血小板減少者用抗凝固剤としてカナマイシン加EDTA塩に至った経緯、 どういう機序でカナマイシンが偽血小板減少者に対しで有効なのか?
(Q-2)硫酸Mg、過剰量EDTA についてもお願いします。
(Q-3)偽血小板減少について「テオフィリン」にふれた文献
(Q-4)偽血小板減少の詳細な機序は、どの程度まで解明されているのでしょうか (宮城県 臨床検査技師)

(A)(A-1)偽血小板減少が初めて観察された日が明らかで、発現前後の各種臨床処置も明らかな例を調べたところ、多くの症例で発現の1週間前ごろより手術による感染予防のための各種抗生物質投与が行われていた。このため、投与された抗生物質がハプテンとして抗原性を獲得し、産生された抗体が偽血小板減少を引き起こすと仮定し、投与されたものと同種の抗生物質とEDTA塩の混和物を偽血小板減少者用抗凝固剤として使用し、中和反応により血小板集塊を形成しなくなるかどうか検討した。その結果、投与されたものと同種の抗生物質を添加した抗凝固剤では血小板集塊形成阻止効果は認められなかった。しかし、カナマイシン投与歴がない多くの症例で、カナマイシンを添加した抗凝固剤では明らかな集塊形成阻止効果を認めた。カナマイシンはアミノグリコシド系抗生物質の1種であるが、他の多くのアミノグリコシド系抗生物質も偽血小板減少による血小板集塊形成を阻止し、さらに一旦形成された血小板集塊をただちに離散させる効果を示した。この血小板集塊形成阻止および集塊離散効果の機序についてはいまだに不明のままである。一旦形成されていた血小板集塊を、添加によりただちに離散させることから、偽血小板減少を引き起こす因子にカナマイシンが競合的に結合している可能性が示唆される。アミノグリコシド系抗生物質と偽血小板減少の関連が明らかになれば、偽血小板減少における血小板集塊の形成機序の解明に大きな手がかりを与えるものと考えられる。
(A-2)硫酸Mg添加では、Ca2+濃度が関連しているものと考えられている。過剰量EDTA添加では、血小板表面陰性荷電の増加により血小板集塊形成を阻止して いるものと考えられている。(FC管は詳細を知りません)
(A-3)テオフィリン加ヘパリンを抗凝固剤として用いた文献を下記に示す。
O Ohnuma, Y Shirata, K Miyazawa:Use of thephylline in the investigation of pseudothrombocytopenia induced by edetic acid(EDTA-2K). J Clin Pathol 44:915-917, 1988.
嶋崎明美、加藤忠彦、尾崎由基男:臨床血液:35(6):529-534,1994
(A-4)偽血小板減少の詳細な機序について未解決部分としては、1)それまで偽血小板減少を示さなかったヒトがどんなきっかけで偽血小板減少を示すようになるのか(偽血小板減少者の発生)、2)偽血小板減少における血小板集塊形成がどのような機序で起こるのか(偽血小板減少における血小板集塊形成)、3)それまで偽血小板減少を示していたヒトがどんなきっかけで偽血小板減少が消失するのか(偽血小板減少者の消失)が挙げられる。2)については、さらに、(1) 集塊形成しやすい血小板があるのか。(2) どのような外的条件で起こるのか。(3) 血小板のどの部位が重要なのか。(4) 可逆的反応なのか。(5) 血小板間に働く力は。(6) 血小板間に存在する物質は。(7) 阻害する要素は。(8) 患者血清成分は集塊形成に関与するのか。(9) 発生頻度について。などがさまざまに議論されている。
 ある程度解明されていると思われる点は、1)担癌患者、抗生物質投与者に多いとされ、健常人にも認められる。2)(1) 古い血小板ほど集塊形成しやすい。(2) 体温程度で最も強い集塊形成を示す。(3) GPIIb/IIIa結合部位が重要と考えられている。(4) 短期的には可逆的であるが、次第に不可逆的な反応を示す。(5) 激しい撹拌により集塊形成が弱まる。(6) 免疫グロブリンと考えられている。(7) 過量のEDTA塩、杭血小板薬、抗生物質、抗GPIIb/IIIa抗体などが挙げられている。(8) 健常者血小板と偽血小板減少者血漿をEDTA存在下で反応させると血小板集塊形成が高頻度で起こる。(9) 0.03-1.9%。
 現在では、血小板膜上のCa2+イオンがEDTA塩による強力なキレート作用により 修飾を受け、膜表面性状が変化するため血中の凝集素と反応する説がつよく疑われている。
 問題点としては、1)発現前後の臨床処置を調べた文献が少なく、もっぱら既往歴を中心に調べられている。2)偽血小板減少そのものの本態が明らかでないため、得られた血小板集塊が偽血小板減少のものと同一であるかの検証が困難である。
文献:Susumu Sakurai, Ichiro Shiojima, Takeshi Tanigawa, Kazuhiko Nakahara: Aminoglycosides prevent and dissociate the aggregation of platelets in patients with EDTA-dependent pseudothrombocytopenia. Br J Haemat 99:817-823,1997.
(2001年04月03日 東京大学医学部附属病院検査部  櫻井進、中原一彦)
 

(Q) ホルマリンの廃液の処理法
 当施設では組織固定用にWAKOの20%緩衝ホルマリン・マイルドを使用しています。使用済み廃液は業者に引き取ってもらっています。資料によると水酸化カルシウムを加えることで、下水に流すことが出きるとのこと。早速試してみましたが、全く着色しません。臭気は1週間ほどで大分とれたみたいです。資料には20%ホルマリン水となっていましたが、当施設で使用している20%緩衝ホルマリン・マイルドとは、どう違うのでしょうか? 何か良い方法があれば教えてください。再生も考えましたが、装置が高価なためちょっと無理なようです。(富山県 臨床検査技師)

(A)20%緩衝ホルマリン・マイルドに消石灰を加えても、文献にあるように液が着色して糖に変化しないのはなぜか,という質問ですね。質問者も言っているように、文献のホルマリンは20%の通常のホルマリンです。この場合は100mlのホルマリンに対して3gの消石灰を加えることで液が褐色に変化し、ホルムアルデヒドはほとんどなくなってしまいます(文献1)。しかし他の文献によると10%中性緩衝ホルマリンでは、ホルマリン臭はなくなるが、着色の程度が悪くホルムアルデヒドはなかなか減らないようです。20%液ならさらに反応が遅くなると思われます。その理由は緩衝剤が反応を邪魔してホルムアルデヒドが糖へ変化しないためと考えられています。反応が早く進むためにはpHが弱アルカリ側である必要があるので、もしも液のpHを弱アルカリ側に変えられれば反応することでしょう(文献2)。武藤化学から新しく発売された簡易ホルマリン処理剤ホルムクリーンは、緩衝ホルマリン系も処理できるそうです。当施設ではまだ試していませんが、廃液業者に頼むよりも若干安価です。これは通常の消石灰法と異なり、沈殿物がなくpHも5,7,7〜8に調節でき、処理時間は2時間と短く、短時間での廃液が可能です。武藤化学に訊いてみるとよいでしょう。
参考文献
1.江尻晴博ら:消石灰を用いたホルマリン廃液処理法.病理技術,1998 56:7-8
2.高橋勝美ら:ホルマリン廃液処理に関する基礎検討―消石灰による糖合成反応の 利用.臨床検査,1998, 42:1695-1697
(2001年2月5日 水口 國雄 帝京大学医学部附属溝口病院 臨床病理科 臨床検査専門医)
 

(Q) 気管支肺胞洗浄液の細胞数算定方法
 気管支肺胞洗浄液の細胞数算定方法を教えてください。(千葉県 臨床検査 技師)

(A)気管支肺胞洗浄(Bronchoalveolar lavage, BAL)液中の細胞数算定法という質問ですが、せっかくの機会ですので、BAL液の処理法も含めて説明します。BAL液の処理法には様々な方法が開発されていますが、処理法が違うと結果が変動することが指摘され、このため1990年に厚生省特定疾患研究班によりガイドラインが作成されました。その内容は以下の通りです。
A.BAL液の採取法
一回注入量50mlで3回洗浄する(総量150ml)方法が標準とされています。第1液は汚れが多いので棄てるという施設もありますが、ガイドラインではファルコンチューブに回収した全液量を検査材料とします。採取後1時間以内であれば室温保存も可能ですが、できるだけ早く処理することが推奨されます。採取したBAL液を二枚重ねのガーゼで濾過し粘液等を除去します(BAL原液)。
B.細胞数計測
細胞計測法には次の二つの方法があります。
1.BAL原液のままで処理する方法
BAL原液は細胞密度が低いので、通常の赤血球計算盤では細胞数を正確に算定できません。このためFuchs-Rosenthal計算盤を用います。やり方は、濾過したBAL液200μlにチュルク液400μlを加え、赤血球を溶解させてから計算盤に流し込み、2チェンバー内の有核細胞をカウントし、その平均値を出します。これを1ml当たりの細胞数に換算(X×104/mlで表す)します。
2.BAL液を遠心する方法
BAL液を240Gで10分間遠心し、沈渣に緩衝液またはRPNI液(細胞培養液)を1ml加え再浮遊させ、これを白血球用メランジュールで目盛り1まで吸い、さらにチュルク液を11まで吸って白血球カウントと同じ要領(通常のBurker-Turkの計算盤を用いる)ですべての有核細胞を4視野カウントします。B.スライド標本作製細胞の種類を分類するスライド標本作製法には、細胞遠心法・細胞沈降法・フィルター法・塗沫法などがありますが、前二者を標準法としています。塗沫法では引き終わりにマクロファージが集まるため推奨できません。遠心する場合、遠心器を事前に4度Cに冷却しておきます。細胞遠心法にはサイトスピン法とオートスメア法があり、いずれも細胞数を1〜2×105/ml程度に調整し4度Cで70〜90Gで5分間遠心します。遠心後、上清は生化学検査に使用するかもしれないので冷蔵庫に保存します。沈渣は2回洗浄し再遠心後、沈渣をよく攪拌して塗抹標本を3〜4枚作成します。そのうち1〜2枚を15〜30分間自然乾燥させギムザ液2倍希釈のMay-Grunwald GiemsaまたはWright-Giemsa染色標本とし、残りは未染標本として保存します。染色標本は光顕で500〜1000個の細胞を数えて、細胞腫類の比率を算定します。
(2001年2月5日 水口國雄 帝京大学医学部附属溝口病院 臨床病理科 臨床検査専門医)
 

(Q) 肝機能と赤血球恒数の関係
 肝機能が悪く総ビリルビンが高値の方で、赤血球恒数MCHが36pg以上、MCHCが36%以上になるのはなぜですか?また、高ビリルビンの場合、血算計での赤血球の溶血不良が原因でMCHやMCHCが高値になることがあると聞いたことがあるのですが、溶血不良がおきればHbの値は真の値よりも低値となり、MCHやMCHCも低値になるのではないかと思えるのですが、いかがでしょうか。(東京都 臨床検査技師)

(A)赤血球恒数のうちMCH(mean corpuscular hemoglobin), MCHC(mean corpuscularhemoblogin concentration)はそれぞれ、MCH (pg) =10 x Hb/RBC、MCHC (%) = Hb/Ht、の数式で示されます。
 自動血球計測装置ではRBC (上式では10/mm3)、Hb (g/dl), Ht(%)が実測されて、その値から各指標が算出されます。
 これらの実測値で最もビリルビン高値(20〜30mg/dl程度)が影響を受け易いのがHbです。Hbは赤血球を溶血させて、溶液中のヘモグロビンを化学的にシアンメトヘモグロビンなどに変換して適切な波長(シアンメトヘモグロビン法では540nm)の透過光の減少(吸光度)を指標に測定されます。ビリルビンの色素はヘモグロビン同様に、この波長の透過光を減少させる(吸光度を上昇させる)影響があります。このために、ビリルビン高値では、Hbが高く測定されてしまうために結果として赤血球恒数の中でMCH, MCHCが高値となってしまうのです。
 自動血球計測装置では主として低浸透圧溶液の中に赤血球をさらすことで溶血させて、そのHbを測定するわけですが、肝機能が悪く総ビリルビンが高値である人の検体中の、target cells (標的赤血球), thin cells (菲薄な赤血球)などの中には、低浸透圧でも溶血し難い赤血球があります。そのような溶血されにくい赤血球の割合は、全赤血球に対して少ないために、壊れなかったHbが差し引かれてHb低値を示すことは少なく、むしろ、残った赤血球による濁度(溶液の濁り)が吸光度への影響を及ぼす、つまり、濁りによる吸光度の減少(吸光度の増加)がおこることの方が多いのです。結局、Hbが偽性上昇してビリルビン高値の時と同様にHbの値は真の値よりも高値に、MCH、MCHCは誤って高値となってしまいます。蛇足ですが、同様にMCH, MCHCが誤って高値になる(偽性上昇する)原因には、Hbの偽性上昇をきたす他の場合、つまり、著しい乳び血清(中性脂肪1,000mg/dl以上)、クリオグロブリン、白血球数が5万/ml以上や、ヘマトクリットの偽性低下をきたす場合(ただし、MCHCのみ:赤血球凝集、小赤血球、試験管内溶血など)がありますのでご注意ください。
 参考文献:第4章血液検査、p272〜5、臨床検査法提要(第31版)金井編、 金原出版。
(2001年1月31日 自治医科大学臨床検査医学教室 久保信彦 臨床検査医)
 

(Q) ABO式血液型試験
 36歳の初産婦の(輸血歴なし)ABO式血液型を調べたところ表試験抗A血清(4+) 抗B血清(2+) A1レクチン(−) 裏試験A1血球(−) B血球(1+) O血球(−)と言う結果を得て、判定保留となりました。こういう場合どのように考えればよいのでしょうか。教えてください。(徳島県 医師)

(A)オモテ試験、ウラ試験の結果から、血液型はcisA2B3と考えられる。cisA2B3 は3点について知っておく必要がある。
1.血清学的反応
抗A,抗Bともに弱く反応するAB型で、血清中にある種の抗Bをもつ亜型である。分泌型では、唾液中に型物質としてA,B,Hが認められるが、現行の方法ではA・B型転移酵素は検出できない。輸血が必要な場合は、存在する不規則抗体との反応を考慮して血液製剤と血液型を選択する必要がある。この症例では抗B抗体が認められるので、A型の赤血球製剤(MAP血)を選択する。
2.遺伝的背景
通常「AB型とO型は親子たりえない」といわれるのは、ABO血液型が第9染色体長腕の相同染色体上に存在するA、B、O3つの対立遺伝子の組み合わせで、Mendelの法則に従って遺伝するためである。cisAB型は遺伝的に興味深く、代表的なcis A2B3はA,B遺伝子が同一染色体上に乗って(cis-position:遺伝子型A2B3/O)遺伝していると考えられ、cis A2B3からO型の児が生まれることがある。DNA解析により同定できる。
3.cisAB型は、地域偏在性があり、徳島県出身者に最も多く、次いで石川県、香 川県に多く報告されている。
(2001年01月04日 竹中 道子 東京女子医大・輸血科 臨床検査専門医)

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