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(Q)Kidd式血液型で表現型がJk(a-b-)となることはあるのでしょうか。また抗体スクリーニングにJk(a+b+)の赤血球が不適なのはなぜですか。

(A)Kidd式血液型は対立遺伝子JkaおよびJkbの発現物質に基づく血液型で、表現型は、Jkaのホモ接合の場合はJk(a+b-)、Jkbのホモ接合の場合はJk(a-b+)、ヘテロ接合の場合はJk(a+b+)となります。Jk(a-b-)は極めて稀ですが、大平洋上の島民の中に見られ、発現物質を作れないJk遺伝子のホモ接合か、あるいは何らかの抑制遺伝子の作用で生じると推測されています。
 Kidd式血液型に対する抗体、抗Jkaおよび抗Jkbは、最初の輸血では産生されても急速に減少してしまいますが、再輸血によって再び増加し、遅延型副作用を引き起こすことが特徴です。したがって反応が弱い場合や、過去に検出歴があるだけといった場合でも注意が必要です。
 また、抗Jkaおよび抗Jkbは、血球表面の抗原の量が少ないと反応を示さないことがあります。例えばJka抗原は、ヘテロ接合のJk(a+b+)ではホモ接合であるJk(a+b-)の半分の量しか血球表面に存在しないと考えられますが、抗Jka抗体が前者とは反応せず、後者だけに反応することがあり、これを「量効果」といいます。したがって抗体スクリーニングにヘテロ接合のJk(a+b+)の血球を用いた場合には、陰性であっても抗Jka抗体および抗Jkb抗体の存在を否定することはできません。
【参考文献】
[1]
Technical Manual of the American Association of Blood Banks
(1997年12月5日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244)、西堀眞弘(No.269))

 なお、日本ではJk(a-b-)は極めて稀とされていますが、もし見つかるとすれば、不規則性抗体スクリーニング、あるいは交差適合試験での抗Jka抗体、抗Jkb抗体の存在が発見のきっかけになると予想されます。抗体陽性者に対しては抗Jka抗体、抗Jkb抗体を用いた抗グロブリン試験でJka、Jkbを両方とも持っていないことを確認します。しかし、市販の判定用抗血清は力価の弱いものが多く、この方法では凝集が認められないこともあります。従って、Jk(a-b-)であることを確実に判定するためには、吸着解離試験を行なう必要があります。

【参考文献】
[1]
河瀬正晴:V.不規則性抗体検査、(輸血検査のすべて) Medical Technology 22(7、臨時増刊号):561-575、1994
(1997年12月31日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244))


(Q)尿中のメタネフリンの基準値(mg/day)が、0.12 - 0.49(S社)、0.14 - 0.46(B社)、1.3未満(米国M社)、0.30 - 0.27(臨床検査提要第26版)と検査会社や文献により異なっているのはなぜですか。(神奈川県 臨床検査技師)

(A)尿中のメタネフリンはカテコールアミンの代謝物です。メタネフリンに限らず、尿中のカテコールアミンおよびその代謝物の基準値は、施設によって異なっているのが実情です。その理由は大きく2つあると考えられます。
 ひとつは測定方法による違いで、高速液体クロマトグラフィー法とRIA法では濃度の測定値が異なります。また検体の前処理や保存の方法によっても測定値が影響を受けます。
 ふたつめは、基準値を求めるために必要な24時間蓄尿を、多数の健常人を対象に実施するのが容易ではないこと、また個人間変動、個人内変動が大きく、摂取する食物にも大きく影響も受けることなどが、報告者によって値が異なる原因と考えられます。
(1997年12月31日 認定臨床検査医 中井利昭(No.188))


(Q)血液塗抹標本を作製する際、塗抹後の乾燥は自然乾燥と強制乾燥のどちらが良いでしょうか。(臨床検査技師)

(A)自然乾燥では室温や湿度の影響を受けやすく、形態、染色性にばらつきが生じる原因になります。また細胞の伸展が悪いため、細胞の同定が困難な場合が多くなります。したがって、強制乾燥により細胞を良く伸展させ、核の形態が判断し易い状態で観察することが大切です。これにより、特に異型リンパ球や芽球(白血病細胞)、ATL細胞などの同定が容易になります。
(1997年12月19日 認定臨床検査医 安藤泰彦(No.218))


(Q)好中球は成熟すると分葉していきますが、細胞化学的にどのような変化が起こるのですか。また過分葉が臨床的に問題になるのはなぜですか。(臨床検査技師)

(A)好中球は、骨髄芽球、前骨髄球、骨髄球まで、4〜7回の分裂を繰り返しながら増殖、成熟し、それ以後は細胞分裂なしに、後骨髄球、桿状核球、分葉核球の順に成熟して行くと考えられています。分葉の際にどのような細胞化学的変化が起こるかについては、まだよく分かっていません。正常な場合には、分葉数は2〜3核が最も多く、5核がわずかに認められます。6核以上の分葉は過分葉と呼ばれ、核酸代謝障害を意味する病的現象(巨赤芽球性貧血、骨髄異形成症候群などで見られる)と診断されます。
(1997年12月19日 認定臨床検査医 安藤泰彦(No.218))


(Q)血液塗抹標本上のリンパ球は透明な細胞質のものや、濃い青色の小さいリンパ球など様々ですが、リンパ球の形態自体に何か臨床的な意味があるのでしょうか。(臨床検査技師)

(A)正常末梢血リンパ球には、小型で(直径8〜10μm)細胞質の幅が狭いもの、中型で(10〜12μm)顆粒球よりやや小さいもの、大型で(12〜16μm)細胞質の幅が広く、辺縁が不規則、円形または楕円形の核を有するものなど、さまざまな形態のものがあります。そして、大型で、細胞質内に粗大なアズール顆粒を有するリンパ球をlarge granular lymphocytes(LGL)と呼びます。また、リンパ球を機能の面から、T-cell、B-cell、Natural killer cell(NK-cell)、などと分類しますが、今のところライト・ギムザ染色による形態面からこれらを区別することはできません。ただし、LGL分画にNK-cellの活性の殆どが含まれることは確認されています。
 ウイルス感染症、特にEBウイルス感染による伝染性単核症の時には、大型で細胞質の好塩基性が強く、幼若リンパ球、形質細胞あるいは単球に似た、いわゆる異型リンパ球が認められ、診断に役に立ちます。
 最近モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーにより、リンパ球表面マーカーの検索を行って、T-Cell(61〜85%)、ヘルパー/インデューサーT-cell(28〜58%)、サブレッサー/サイトトキシックT-Cell(19〜48%)、B-cell(7〜23%)、NK-cell(10〜20%)などと分類することが可能になり(リンパ球サブセット検査)、種々の病態におけるリンパ球サブセットの変化が検討されています。
(1997年12月19日 認定臨床検査医 安藤泰彦(No.218))


(Q)C.pseudodiphtheriticumは抗酸菌ではないにもかかわらず、Ziehl-Neelsen染色で陽性に染まることがありますが、これによる偽陽性を防ぐにはどうしたらよいでしょうか。(臨床検査技師)

(A)本来、Ziehl-Neelsen染色は抗酸菌の検出を目的としており、MycobacteriaやNocardia spp.で陽性になります。これら抗酸菌の菌体壁にはクリスタル紫や他の塩基性色素などの菌体内への浸透を阻止するミコール酸(脂肪酸)が含まれています。そのため、色素の浸透性を高めるためZiehl-Neelsen染色では加熱操作が加えられます。
 C. pseudodiphtheriticumも菌体壁にミコール酸を持っていることが知られています。さらにCorynebacterium属は、グラム陽性桿菌の中でもDNAやrRNAの塩基構成が抗酸菌と類似しています。このように菌体壁や菌体の類似性により、ある条件下で陽性に染まると考えられます。偽陽性の原因として最も考えられるのは、菌体壁の染色液浸透性に影響を与える加熱温度や加熱時間ですので、この点を考慮し、再度染色してみることが必要です。
(1997年12月18日 認定臨床検査医 古田 格(No.77))


(Q)C.diphtheriaeを検出する培地および毒素試験について試薬の入手法等につき具体的にご教示ください。

(A)現在、C. diphtheriaeの培地は需要が少ないので、限られたメーカーからのみ供給されており、レフレル培地としてバイオリューバイテックや極東製薬から市販されています。使用法は商品説明書に従ってください。なおジフテリア菌はレフレル培地で他の菌よりも速やかに増殖して、乳白色の集落を形成し、ナイセル染色を行えば、異染体がよく認められます。
 毒素産生テスト(毒素原性テスト)の基礎培地は自家製になりますが、培地組成は次の通りです。
  • プロテオーゼ ペプトン 20g
  • 酵母エキス 1.0g
  • 塩化ナトリウム 2.5g
  • 寒天末 15.0g
  • 精製水 1000ml
(検査法)精製水に上記成分を溶解し、pHを7.8に調整。120℃、15分加熱滅菌後、50℃ぐらいに保ち、これにウマ血清を2%の割合に加え、十分混和する。滅菌濾紙片を9×1.5cmくらいの大きさのたんざく形に切り、これに500単位/mlのジフテリア抗毒薬をしみこませる。ウマ血清を加えた基礎培地を約20mlペトリ皿に流し、まだ十分に固まらないうちに、抗毒素をしみこませた濾紙片をペトリ皿の中央部で、寒天内に沈める。寒天培地を固め表面を十分に乾燥させる。レフレル培地の斜面部培養菌を白金耳でとり、濾紙片と直角に交わるように平板上に画線塗抹する。1枚の平板で4〜5株の菌を検査できるが、対照として既知の毒素産生株を加えておく。34度から37度で24〜72時間培養すると、毒素産生株では濾紙片から両側数mmのところに、ほぼ45度の角度で毒素と抗毒素反応による沈降線(白色のすじ)が見られる。
 なお、ヒツジ血清、ウマ血清は千葉血清(Tel:0473-72-3571)で購入可能です。現在、国内ではジフテリア抗毒素は需要が無いので市販されていないようです。少量を研究用に望まれる場合は、大阪大学微生物研究所、細菌毒素学分野の杉本先生におたずね下さい。
(1997年12月18日 認定臨床検査医 古田 格(No.77))


(Q)Type & Screenで輸血が必要になった際、簡易法による交差適合試験だけで出庫できるのは何単位程度まででしょうか。(東京都 臨床検査技師)

(A)正確にお答えするには、Type & Screenをどのように実施しているのか。その他病院の規模、年間手術数、使用血液の種類と単位数、貴病院におけるMSBOS(C/T比、即ちcrossmatch/transfusion比も必要です)、さらに輸血業務をどのような部署で誰が担当しているのか、輸血の管理をする専任医師がいるかどうかなどの詳しい情報が必要です。
 ご質問にはこれらのことが触れられていませんので、一般論としてお答えします。まず最初にType & Screen(T & S)とは、無条件に交差適合試験を省略するための方法ではなく、あくまでも患者に適合血を円滑に供給するための方法であり[1]、無駄な輸血用血液製剤の準備や廃棄血の防止が主な目的であることを理解してください。決して輸血前検査を省略してよいというものではなく、緊急の場合省略しても比較的安全(90%以上の安全確率)に輸血が実施できるというだけです。担当医師からT & Sで輸血の依頼、あるいは必要単位数が記載されて依頼があったときは、あなたの病院のMSBOS(T & Sを導入する前に求めておくことが必要です)に従ってT & Sとしてよいのかどうかを判定しなければいけません。もし、輸血の可能性が高い手術であった時には、T & Sとしないで輸血用血液を準備しておく必要があります。T & Sでよい手術と判定したときには、定型的にABO式血液型、Rh式血液型、不規則性抗体スクリーニング検査を行ない、手術にそなえます。そして、実際に輸血用血液製剤を準備する必要が出来たときには交差適合試験を実施して出庫するのが理想的です。緊急の場合、簡易法として生理食塩水法で交差試験を実施して出庫した場合でも、出庫後に酵素法(ブロメリン法)、理想的にはクームス法まで実施することが必要です。
 簡易法で何単位まで出庫してよいかというお問い合わせに関しては、単位数はその病院で決めればいいので特にきまりはありません。極端な言い方をすれば、その手術に関しては輸血を行なうことになったこと自体が緊急事態ですから、必要単位数であれば何単位でも簡易法で行なって出庫しても問題はありません。ただし、必ず出庫した後にきちんと交差試験を実施することが必要です。
【参考文献】
[1]
河瀬正晴:V.不規則性抗体検査、(輸血検査のすべて) Medical Technology 22(7、臨時増刊号):561-575、1994
(1997年12月18日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244))


(Q)血糖負荷試験で血糖曲線がでこぼこ型や低血糖になるのはなぜですか。

(A)グルコースを経口的に負荷した後の血糖値の変化、すなわち血糖曲線は次の3相から成るといわれています。
第1相:グルコースの消化管からの吸収相
 経口摂取されたグルコースが消化管から吸収され、血糖値は急激に上昇し始める。肝臓や肝臓以外の末梢組織でのグルコースの処理能力が追いつかず、負荷後30〜60分にかけて最高値を示す。
第2相:高血糖に対する反応相
 血糖値が上昇してくるとインスリン分泌が促され、肝臓でのグリコーゲン生成、末梢組織でのグルコース利用が亢進する。グルコース利用の速度が消化管からのグルコースの吸収速度を上回ると、血糖値は下降し始める。
第3相:血糖低下に対する反応相
 グルコース利用の亢進状態は血糖が下降し始めてもすぐには止まらず、反応性の低血糖期が発現するが、やがてグルコース利用の速度が低下するとともに、脳下垂体や副腎などから血糖上昇作用を持つホルモンが分泌され、血糖値はふたたび上昇して前値に復する(counter regulation)。
 負荷後の血糖値の変化をこれらですべて説明するのは不可能でしょうし、経口糖負荷試験の再現性自体、あまり良好ではありません。ほとんどの健常者では30〜60分で最高値に達し、やがて極端な低血糖をきたすことなく、2〜3時間後にかけて低下し、前値に復します。しかし時には、平坦型、低血糖型、急峻高血糖型など、奇異な血糖曲線を呈する例も散見されます。平坦型は甲状腺機能低下症や吸収不良症候群で、急峻高血糖型は胃切除例や甲状腺機能亢進症などでみられることがあります。低血糖型は、胃切除例などで急峻高血糖に引き続いて、あるいは、自律神経障害、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能低下症などでみられますが、健常者でも決して稀ではなく、たとえばCecilの内科学書にはその頻度は10%と記述されています(文献[1])。その機序としては、第2相でのインスリン分泌が過剰であったり、第3相のcounter regulationが低反応であるためと考えられています。
【参考文献】
[1]
F. John Service: Hypoglycemic Disorders. Cecil Textbook of Medicine19th ed. 1310-1317. Saunders.1992
(1997年12月18日 認定臨床検査医 石井周一(No.299))


(Q)水痘帯状ヘルペスのワクチン接種の指標となる臨床検査について教えてください。

(A)水痘は水痘帯状ヘルペスウイルス(varicella zoster virus; VZV)の初感染における発症様式、帯状ヘルペス(帯状疱疹)は初感染後潜伏していたVZVの再活性化(reactivation)による発症様式で、同じウイルスが異なる臨床像を呈することが知られています。水痘は、かつては「一生に一度はかかる病気、二度とかかりっこなしの子供の時にかかる通過儀礼のような病気」というのが一般的考え方でした。しかし現在では医療技術の進歩により、特に免疫不全状態にある患者に対して、ワクチン接種や抗ウイルス剤投与による積極的予防対策を講じ、たとえ発症したとしても症状を著しく軽減することができるようになりました。ただし、これは初感染の場合であって、持続感染の再活性化である帯状ヘルペスは、既に体内に抗原が存在するわけですから、ワクチンでコントロールすることはできません。したがって水痘の既感染者にワクチンを接種することは殆どありません。即ちVZVワクチン接種の対象はVZV抗体陰性者であり、接種の指標はCF(補体結合反応)抗体またはELISA-VZV-IgGの陰性所見ということになります。
(1997年12月5日 認定臨床検査医 中村良子(No.241))


(Q)4ヶ月の男児で心肺停止後に代謝性アシドーシスを認め、尿中NAGが5.1U/l、尿中β2MGが803μg/lでした。腎障害があると考えて良いのでしょうか。(広島県 小児科医)

(A)新生児では腎臓のネフロンが未成熟のため、成人よりもいろいろな蛋白質がはるかに漏出しやすいと考えられており、残念ながら4ヶ月の乳児でどの程度であるかという正確なデータはありません。また、NAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)は水負荷だけでも尿中分泌が増加したり、またβ2MG(β2マイクログロブリン)はウイルス感染などで血中濃度が上昇すると糸球体でのクリアランスが増えるなど、尿細管障害には至らない段階でも機能的変化として尿中濃度が上昇します。したがって尿細管障害の診断においては、感度は良好ですが、特異性はあまり期待できません。なお、糸球体からアルブミンが漏出している場合は、その影響で尿細管が障害されるので、尿中アルブミンを同時に測定し、糸球体障害の有無と合わせて尿中NAGやβ2MGを評価されることをお勧めします。
 あくまで経験的ですが、尿中NAGと尿中β2MGの基準値はそれぞれ4U/l以下、0.1mg/l以下程度と考えられますので、ご質問の症例では、前者がやや上昇、後者が中等度上昇していると考えてよいと思います。したがって少なくともこの時点では高度の尿細管障害は考えにくく、血中β2MGの濃度が上昇している可能性が示唆されます。
(1997年12月5日 認定臨床検査医 伊藤喜久(No.172)、西堀眞弘(No.269))


(Q)ドライケミストリーによるクレアチニンキナーゼ(CK)の測定を検討したところ、UV法の測定値と乖離する検体があり、前者が89U/l、後者が249U/lでした。小規模診療所で単独稼動の予定ですが、原因と今後の対策につきご教示ください。(東京都 臨床検査技師)

(A)ドライケミストリーの場合、免疫グロブリン等の高分子物質が酵素に結合しマクロ酵素を形成していると、スライド上での拡散、浸透が悪くなり、酵素活性が低値に出る可能性があります。したがって、CKのみならず、マクロアミラーゼや免疫グロブリン結合LDHでも低値を示す可能性があります。例えば、アミラーゼで130IU/lが50IU/lとなった例があります。ご質問の症例では、血中のCKが免疫グロブリンなどの高分子と複合体を形成し、代謝が遅れるために血中濃度が持続的に高くなっている可能性があります。
 このような現象が起こった場合、ドライケミストリー機器単独では見逃す恐れがあり、何らかの対策が必要です。ただし、外来診療所でCK活性を測定する場合、通常心疾患または神経筋疾患、内分泌疾患などを想定して検査するわけですから、CK活性値だけにとらわれず、他の周辺の検査項目との乖離の有無をチェックすることが重要だと思います。その上で、必要ならば外注してさらに詳しい分析を行えば良いのではないでしょうか。
 なお、マクロ酵素自体は特定の疾患との関連が明らかでなく、かつ通常は何の障害ももたらさないので、医療上の意義はほとんどありません。
(1997年12月3日 認定臨床検査医 鵜澤龍一(No.239)、西堀眞弘(No.269))


(Q)夜尿症の診断にはいくつもの検査が必要です。外来患者の負担にならない効率的な進め方はないでしょうか。(広島県 小児科医)

(A)夜尿症はしばしば見られる障害ですが、原因を診断するのはかなり難しいため、ある程度時間がかかるのはやむをえないと考えられます。検査の順序は以下のようになさったらよいと思います。

A.外来での検査

1.病歴および家族歴
 一次性の夜尿か、一度は自立したのに再び現われた二次性のものか、家族にも夜尿症があり体質的なものか等を判断する。
2.夜尿の状態を把握する
 2〜4週間にわたり夜尿の回数、時刻と1回毎の尿量、寝たままか自分でトイレに行ったかなどの経過を表にまとめてもらう。
3.尿検査
 尿一般検査(蛋白、糖、沈査)などで炎症や糖尿病の有無を調べる。
4.心理検査
 幼児/児童性格検査と親子関係診断検査を行う。必要ならば専門家に頼む。
5.脳波
 覚醒時脳波および睡眠時脳波でてんかんなどを診断する。
6.覚醒時と睡眠時の尿の比較
 17時頃の尿と明け方5時頃の尿の浸透圧を調べる。明け方の尿の方が浸透圧が低いかまたは起きている時と同じ程度であれば、入院して血液中の抗利尿ホルモンを測定する。
B.入院検査
 必要に応じて入院して以下の検査をする。
1.24時間脳波検査
2.膀胱圧モニター検査
3.抗利尿ホルモンの測定
4.ポリグラフ検査
 これらの検査により、自律神経系等の発達の遅れ、心理的要因、てんかん、内分泌系の障害、糖尿病、炎症他器質的疾患など、夜尿症の原因がある程度判別できると思われます。

(1997年12月3日 認定臨床検査医 小島洋子(No.351))


(Q)遺伝性球状赤血球症の疑われる患者に、赤血球浸透圧抵抗を調べる目的でCPCを行ったところ、HEP 85mOsm、HMP 101mOsm、HSP 111mOsm、HW 26でした。結果の解釈について解説してください。(広島県 小児科医)

(A)赤血球浸透圧抵抗試験は赤血球浸透圧脆弱性試験とも呼ばれ、赤血球が低張食塩水中で水を吸い込んで膨張したとき、どの程度まで破裂せずに耐えられるかを調べる検査です。測定法は古い順に、食塩水を用いるRibiere法(Giffin-Sanford変法)、緩衝液加食塩水を用いるParpart法、特殊なコイルチューブと遠心装置を用いるコイルプラネット遠心法(coil planet centrifuge; CPC法)などがあります[1,2]。
 CPC法は、チューブの中に浸透圧勾配をつけた食塩水を満たしたものをコイル状に巻き、コイルの長軸を中心にしてゆっくり自転させながら、さらにその中心を丁度惑星が太陽の周りを回るように公転させることのできる遠心装置を用います。抗凝固剤などで固まらないようにした血液を高塩濃度端から入れて遠心すると、公転(1,600rpmで回転させる)による遠心力により常に最外側に押し付けられている赤血球は、コイルの自転(16rpm)によってゆっくりと低塩濃度側へ移動して耐え切れなくなったところで溶血し、放出されたヘモグロビンがその位置に留まります。これを走査型自記光電光度計で横軸を浸透圧、縦軸に吸光度すなわち溶血量をプロットしたグラフとして記録し、高塩濃度側から見ていって吸光度が増加し始めた点を溶血開始点(HSP)、吸光度が最も大きい点を最大溶血点(HMP)、吸光度が基線に戻った点を溶血終了点(HEP)とし、専用スケールを用いてそれぞれの塩濃度(mOsm)を読み取ります。さらにHSPとHEPの中央点を基準にし、HMPがHSP側に偏っているか、中央点±2mOsmに入るか、HEP側に偏っているか、あるいは吸光度の頂点が幅広い台形になっているかによって、L、M、RおよびT型に分類します。通常はHSP、HEP、HMP、溶血幅HW(HSPとHEPの差)および型が検査結果として報告されますが、それぞれの判定には主観が入りやすいので、グラフそのものも報告した方がよいとされています。それぞれの正常値は次の通りです[2]。
 HSP  96〜104mOsm 
HEP58〜66mOsm
HMP77〜87mOsm
HW34〜42mOsm
LまたはM型

 ご質問の症例では、CPCの結果HSP、HEPともに高値、すなわち赤血球の浸透圧脆弱性の増加を示しており、遺伝性球状赤血球症(hereditary spherocytosis; HS)に矛盾しません。ただし浸透圧脆弱性の増加は必ずしもHSに特異的ではありません。またもし浸透圧脆弱性が正常であったとしても、HSのheterogeneityのため否定することはできません。したがって、特に自己免疫性溶血性貧血との鑑別診断、および他の所見を含めた総合的な診断が必要なことは言うまでもありません。
 なお、glycerol lysis test[3]は専用装置が不要でCPCと比べ操作も簡単ですが、結果の解釈については、CPCと同様の注意が必要と考えられます。また文献上では、HSに対して感度および特異度が非常に優れていると言われているhypertonic cryohemolysis[4]がありますが、実施経験がないのでご紹介するにとどめます。

【参考文献】
[1]
CPC臨床病理(血液)研究会:血液疾患におけるCPC―CPC臨床病理(血液)研究会記録―付 標準手技・症例集、ダイアヤトロン、1982
[2]
大庭雄三・宮地隆興:溶血に関する検査1 浸透圧脆弱試験、検査と技術、12(5):413-418、1984
[3]
Rutherford CJ, et al.: An evaluation of the acidified glycerol lysis test. Br J Haematol 63:119-121, 1986
[4]
Streichman S, et al.: Hypertonic cryohemolysis: a diagnostic test for hereditary spherocytosis. Am J Hematol 35:104-109, 1990
(1997年11月14日 認定臨床検査医 大庭雄三(No.136))


(Q)最新の血糖定量法について教えてください。(栃木県 医学生)

(A)血液中にはグルコース(ブドウ糖)以外に、果糖、乳糖、ショ糖、ガラクトースなど、種々の糖質が存在しています。したがって、必ずしも 血糖=グルコースとはなりませんが、グルコースが血液中に最も多量に存在し、それ以外は微量ですので、一般的なグルコースの定量法について解説します。
 血糖測定は、かつてはグルコースの還元力を利用した還元法が主でしたが、還元力を有する他の糖質も測り込んでしまうため特異性に問題があり、最近ではグルコースだけを特異的に測定できる酵素法が主体となっています。酵素法には、glucose oxidase(GOD)とhexokinase(HK)を用いる方法があります。現在実用化されている方法は、いずれもこれら酵素法がその原理として用いられており、最近の進歩は測定法の面よりもむしろ測定装置の技術的改良による測定時間の短縮や測定操作の簡易化が主体です。
 参考までに、GOD法を用いた測定法について、簡単に実例を示します。
 D-glucose + O2 + H2O → D-glucuronic acid + H2O2
の反応で peroxidase と H2O2を共投させ、色素などの酸化・呈色を検出・計測して濃度に換算する分析装置や、あるいは電極を用いて酸素消費量や発生した電子量などを検出する測定系を用いた、在宅でも使用できる安価で小型の測定器が開発されています。
 さらに最近注目されている方法として、非観血的(non-invasive)血糖測定法があります。実用化まではもう一息ですが、採血せずに血液中のグルコース濃度を測定するという画期的な方法です。原理的には大きく分けて2つの方法があります。
1)浸出液を用いる方法[1]
 皮膚表面の表皮角質層を非観血的に剥離し(よって、厳密にはnon-invasiveとは言い難いですが)、陰圧で吸引した浸出液を検体とします。間質液中のグルコース濃度は、血糖と良好な相関があるといわれています。
2)近赤外光を用いる方法[2,3]
 手指の透過近赤外光を解析して測定する方法です。適当な参考文献が見当たりませんが、学会報告の抄録を添えておきます。
【参考文献】
[1]
萱嶋信介他、非観血的連続血糖測定装置の現状と将来、Medical Practice、10(1):167-169、1993
[2]
梶原研一郎:赤外分光分析による非侵襲的血糖計測法(第5報)、糖尿病、35(suppl.1):212、1992
[3]
野田光彦他:近赤外光によるヒト血糖値の無侵襲測定、糖尿病、38(suppl.1):274、1995
(1997年11月14日 認定臨床検査医 石井周一(No.299))


(Q)血清が分離出来ない程のクリオグロブリン血症の患者に、次の検査所見を認めました。
 ・リウマチ因子陽性(RF:1000IU以上)
 ・血清免疫電気泳動においてIgM型M蛋白陽性(IgM:2000mg/dl以上)
 ・ベンスジョーンズ蛋白陽性
この症例について、(1)どのような病態を考えるべきか、(2)経過観察の指標に適したクリオグロブリンの定量法、(3)クリオグロブリンのType分類について、分かりやすく解説してください。(三重県 臨床検査技師)

(A)日常臨床では原発性非定型性肺炎(異形肺炎またはマイコプラズマ肺炎)やウイルスなどを代表とする各種感染症でクリオグロブリンが出現しますが、通常微量であり、しかも感染症の回復とともに消失する、いわば病的意義の少ない蛋白です。
 最近では、B型あるいはC型肝炎ウイルス持続感染者にこのクリオグロブリンが高率に出現し、しかも採血後低温で補体を活性化することが知られています(cold activation)。これは、ウイルスとそれに対する抗体が免疫複合体を形成して、補体を活性化すると考えられます。
 大量の病的クリオグロブリンが出現する場合の代表としては、寒冷凝集素症や、多発性骨髄腫・原発性マクログロブリン血症を代表とするM蛋白血症、あるいは悪性リンパ種や自己免疫疾患などがあげられます。

(1)考えるべき病態
 臨床所見や画像診断所見、あるいは他の検査データの記載がないので断定は出来ませんが、検査所見および多量のクリオグロブリンを伴っていることから、寒冷凝集素症もしくは原発性マクログロブリン血症の可能性が高いと考えます。IgM型M蛋白の軽鎖のタイプが同定できないようですが、IgMが重合しているためと考えられ、メルカプトエタノール処理をして電気泳動すると同定できる可能性があるので、実施してみて下さい。なおリウマチ反応陽性については、慢性関節リウマチが基礎疾患としてあるためではなく、クリオグロブリンの性質を持つIgM-M蛋白が、変性IgGに対する抗体活性、すなわちリウマチ因子様活性を有するためと推察されます。日常のRAテストでは変性IgGに対するIgM抗体をリウマチ因子として検出しているので、念のためIgMに対するIgG抗体活性を有するリウマチ因子を検出するIgG-RF検出用試薬で確認するとよいでしょう。

(2)クリオグロブリンの定量法
 クリオグロブリンを分離する操作は大変煩雑なため、日常検査として実際的とは言えません。しかも蛋白を定量するとしたら、クリオグロブリンそのものを純粋に分離しなくてはいけませんが、これはさらに困難さを伴います。そこで、正確な方法とは言えませんが、検査法の限界をよく理解したうえで、簡易定量法であるクリオクリット値で代用するのが一番良い方法と考えます。思いのほか治療効果と良く一致するので、経過観察の指標にも適しています。

(3)クリオグロブリンのType分類
 Type Iは1種類のM蛋白のみからなるクリオグロブリン、Type IIはM蛋白と多クローン性の免疫グロブリンからなるクリオグロブリン、Type IIIは複数の多クローン性免疫グロブリンからなるクリオグロブリンです。本症例のクリオグロブリンは、IgM型M蛋白が陽性で、リウマチ因子様活性を有しているので、IgM-IgG型、すなわちType IIのクリオグロブリンと推察されます。ただし正確には、本症例の尿中ベンスジョーンズ蛋白(BJP)がクリオグロブリンの性質を有しているか否かを検索する必要があります。もしBJPにもクリオグロブリン活性があるなら、Type I+Type IIのクリオグロブリン血症と考えられます。ただし、加熱試験のみしか実施していない場合は、偽陽性の可能性もあるので、尿の免疫電気泳動を実施して確認してください。

【参考文献】
[1]
松田重三他:クリオグロブリン、日本臨床53巻・1995年増刊号 広範囲血液・尿化学検査、免疫学的検査(下巻)、31-33、1995
(1997年11月11日 認定臨床検査医 松田重三(No.111))


(Q)アイソザイム検査で陽極側へのテーリングを認めたため、マクロアミラーゼを疑って免疫グロブリンの結合を調べましたが陰性でした。他にはどんな原因が考えられるでしょうか。(東京都 臨床検査技師)

(A)1967年Berkらは多様な性状のマクロアミラーゼが存在することを説明するため、その成因として、(1)アミラーゼの重合、(2)免疫グロブリンを含むタンパクとの結合、(3)非タンパク性の高分子成分(ポリサッカライドなど)との結合を推定しました。ご質問の症例で、アミラーゼが結合している相手が免疫グロブリンでなかったとすると、他に上記のような可能性があります。しかし、現在では免疫グロブリンとの結合が殆どであると考えられています。
 ご質問の内容では、免疫グロブリンとの結合を調べた方法が分かりませんが、電気泳動を応用した方法の場合、泳動中に免疫グロブリンが解離してしまうことが稀ではなく、必ずしも検出できるとは限りません。そのような場合は、免疫沈降法などで再確認されることをお勧めします。
 なお、アミラーゼ結合性免疫グロブリンの症例報告をまとめてみますと、P1バンドから陽極側へのテーリング、S1バンドから陽極側へのテーリングのパターンがそれぞれ55%、25%と約80%を占めています。P1バンドより陰極側へのテーリングがみられる症例は14%にすぎません。したがって今回ご質問の症例の泳動パターンは頻度的には多いものだと思います。
【参考文献】
[1]
戸沢辰雄:臨床病理(特集60号): 98-104, 1984
[2]
前川真人:臨床病理(特集75号): 53-63, 1987
[3]
Tozawa T: J Chromatogr B 569: 347-365, 1991
(1997年11月11日 認定臨床検査医 前川真人(No.312))


(Q)血小板凝集能の検査を行うとき、惹起物質の種類と濃度をどのように選択したらいいか教えてください。(北海道 臨床検査技師)

(A)血小板凝集能は手技や評価法についてまだ十分確立していない部分があるため、回答者の経験を私見としてお答えしますので参考にしてください。

1)血小板凝集能の検査目的
 血小板凝集能検査は、もともとは血小板機能低下症の診断のために開発されました。即ち、ADP・エピネフリン・コラゲン凝集は血小板無力症・無フィブリノゲン血症・コラゲン不応症・エーラスダンロス症候群・放出機構異常症・ストレージプール病・アスピリン様症候群などの診断に用いられます。一方、リストセチン凝集は、ベルナールスーリエ症候群やフォンウイルブランド病の診断に有用です。
 ところが、最近血栓性疾患の頻度が増加するにつれ、血小板機能亢進症の診断に用いる臨床医が増加し、血小板機能抑制物質である抗血小板剤投与のモニタリングに使用されるケースが増えてきました。本来血小板機能低下症の診断用に開発された検査なので、血小板機能亢進症では参考値としての補助的な意義しかありませんが、抗血小板剤の効果の指標としては認められつつあるようです。

2)具体的測定内容
 血小板機能検査の成績は個体差・日内変動・日差変動が著しいので、慎重に解釈する必要があります。血小板機能が顕著に低下している場合には診断的価値がありますが、異常が軽度の場合には何らかの診断に結びつけるのは困難です。このような事情も手伝って、未だに血小板凝集能検査は測定法が標準化されていません。したがって血小板凝集惹起物質の濃度の選択についても一定の基準はなく、回答者の所属する施設で用いている方法をご紹介しますので、参考にしてください。

  • 原則としてどの惹起物質についてもまず2濃度で施行し、亢進または低下傾向が見られたら、凝集の閾値を挟むようにもう1濃度追加します。そのため、常に3〜4種類の濃度を使用します。
  • ADP: 2μMと4μMで観察し、1μMまたは10μMを追加します。
  • エピネフリン: 1μg/mlと10μg/mlで観察し、0.1μg/mlまたは0.01μg/mlを追加します。
  • コラゲン: 1μg/mlと2μg/mlで観察し、0.5μg/mlまたは4μg/mlを追加します。
  • リストセチン: 1.2mg/mlと1.5mg/mlで観察し、0.6mg/mlを追加します。

3)臨床医とのコミュニケーションの重要性
 以上に説明したような事情で、血小板凝集能の検査では、臨床医から検査目的および使用薬剤等の情報を十分提供してもらうことが大切です。できれば検査を依頼する臨床医と相談のうえ、目的に応じた惹起物質と濃度を選択することが望ましいと思います。
 また回答者の施設では、抗血小板剤の一覧表を検査室に掲げておき、測定依頼があったときに服用による検査成績への影響についてアドバイスしています。

4)今後の課題
 重要な課題のひとつは、血小板凝集能の指標となる計測値の選定です。これには凝集の立上りの最初のスロープ(デルタ値)をみる方法、最大凝集率までの時間をみる方法、最大凝集率の比率をみる方法、あるいはそれらを組み合わせる方法などがあり、統一された判定基準がなく、どれがよいかは未だに議論があります。現在ある血小板凝集計メーカーから、血小板の凝集面積を血小板凝集能の指標として用い、ADP凝集とコラゲン凝集を2濃度ずつ測定して血小板機能を9段階で評価する方法が提案されていますが、普及には至っていません。いずれにしても、早急な標準化が待たれます。
 また、PRPの血小板数が30万を満たさない場合の評価も問題となります。患者さんから採血するとき、同時に健常成人のコントロール血液を採血してもらい、血小板数を調製して比較するのもひとつの解決策です。
 最後に、回答者の施設で用いている参考文献を紹介しておきます。

【参考文献】
[1]
渡邊清明編集:慶大病院・血液検査マニュアル、254〜260頁、医学書院、1991
[2]
渡邊清明:血小板凝集能・粘着能、medicina、31: 347〜350、1994
(1997年11月6日 認定臨床検査医 川合陽子(No.316))


(Q)聴性脳幹反応(ABR)の潜時に影響を与える薬物とその機序について教えてください。(東京都 大学生)

(A)聴性脳幹反応(auditory brainstem response: ABR)はクリック音の刺激を与え頭皮上から微弱な電位の変化を検出する誘発反応で、通常は10ms以内に5個の陽性波が出現します。これらは潜時の短い順にI、II、III、IV、V波と呼ばれ、それぞれI波は蝸牛神経、II波は蝸牛神経の頭蓋内部分、III波は蝸牛核群オリーブ核を中心とする橋の脳幹聴覚路、IV〜V波は橋、中脳に及ぶ上位脳幹中継核群の興奮を反映するとされています。潜時は興奮が神経の軸索、神経細胞、シナプスを経てそれぞれの部位に伝わるまでにかかる時間を反映するので、その延長あるいは短縮はそれら神経経路を構成する各要素における伝導速度の変化によって起こると考えられます。ただし、ABRの潜時は個人差が大きく、かつ年令、性別、聴力障害の有無、刺激の強さなどによって変化し、またさまざまな疾患あるいは薬剤により多様な影響を受けることが知られており、単純なモデルでは説明できないと考えられます。
 ABRに影響を与える薬剤としては、麻酔薬ではエンフルレンの他、イソフルレン[1]、セボフルレン[1]、ハロセン[1]、リドカイン[2]等があり、その他抗てんかん薬[3]、ACTHやステロイド剤[4]、性ホルモン[5]、カルシウム拮抗剤[6]などが知られています。このうち麻酔薬の一部では、下部脳幹を反映する波の潜時は影響を受けにくく、上部脳幹を反映する波の潜時が優位に延長することが分かっており、このことからシナプス伝導が主に抑制され、軸索伝導は余り影響を受けないと考えられていますが、いずれにせよまだ推測の段階です[1]。これらを含め、ABRがさまざまな要因により影響を受ける機序については、今後の解明が待たれます。
【参考文献】
[1]
亀山佳之:イソフルレン、セボフルレンの誘発電位、脳波に及ぼす影響に関する臨床的研究.痲酔 43:657-664、1994
[2]
Ueda S. et al.:Changes in auditory evoked responses during intravenous lidocaine. Acta Oto-Laryngologica - Supplement 504:89-93, 1993
[3]
Japaridze G. et al.:Effects of carbamazepine on auditory brainstem response, middle-latency response, and slow cortical potential in epileptic patients. Epilepsia 34:1105-9, 1993
[4]
Born J. et al.:Acute and long-term effects of adrenocorticotropin and dexamethasone on the auditory brainstem response in multiple sclerosis patients. Journal of Neurology 241:75-80, 1993
[5]
Elkind-Hirsch KE. et al.:Sex hormones regulate ABR latency. Otolaryngology - Head & Neck Surgery 110:46-52, 1994
[6]
Ison JR. et al.:Nimodipine at a dose that slows ABR latencies does not protect the ear against noise. Hearing Research 106:179-83, 1997
(1997年11月6日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)フィッシャー症候群に特異的に見られる抗GQ1b抗体について、測定法を含めて教えてください。(宮崎県 臨床検査技師)

(A)フィッシャー症候群(Fisher syndrome)は急性に発症する運動神経優位の多発ニューロパシーの一種で、全外眼筋麻痺、小脳性運動失調、四肢の深部反射消失を3徴とする疾患です。多くは先行感染による上気道炎、発熱などの前駆症状を認め、これに引き続いて一定期間後にこれらの神経症状が現れますが、四肢脱力はあっても通常は軽度です。
 GQ1bは中枢神経節に含まれる糖脂質であるガングリオシドの一種で、神経線維の髄鞘とランブイエの絞輪の境界部位である傍絞輪部に多く含まれています。抗GQ1b抗体は、Fisher症候群あるいは眼筋麻痺の強いギランバレー症候群のほぼ全例で特異的に検出される自己抗体で、免疫染色法では動眼神経・外転神経・滑車神経の傍絞輪部に特異的に親和性を示し、眼筋麻痺を引き起こす原因と考えられています。
 測定法はウエスタンブロッティング、ELISA法、免疫染色法などがあり、またマウスモノクローナル抗GQ1b抗体や精製GQ1bも入手できますが、具体的な方法については測定実績のある研究機関、例えば獨協医科大学神経内科学教室にご相談されることをお勧めします。
【参考文献】
[1]
楠進他:フィッシャー症候群 ―特異的マーカーとしての抗GQ1b抗体―、日本臨床、52:2959-2964、1994
(1997年11月6日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)EDTAによる偽血小板減少症は何らかの疾患と因果関係があるのでしょうか。(大阪府 臨床検査技師)

(A)ご質問の偽血小板減少症は、出血傾向が見られないにもかかわらず血小板の著しい減少を認めることが特徴です。抗凝固剤としてEDTAを用いたときだけに見られるため、血小板凝集を確認した場合は、ヘパリンやクエン酸ナトリウムを用いて改めて採血し、正しい血小板数を求める必要があります。
 EDTAによる偽血小板減少症は、自己免疫疾患、悪性疾患、動脈硬化性疾患あるいは肝疾患の患者に見られることが多く、これらの疾患に伴って血小板に対する自己抗体が産生されることが原因と考えられています。ただし、具体的な因果関係についてはよく分かっていません。
 この現象は採血した後に起こると考えられるので、それ自体には特に対処する必要はありません。むしろ本物の血小板減少症と誤診され、不必要な検査や誤った治療を受ける場合がよく問題となるため、常に注意して見落とさないようにすることが大切です。
【参考文献】
[1]
Berkman N. Michaeli Y. Or R. Eldor A.:EDTA-dependent pseudo-thrombocytopenia, American Journal of Hematology. 36(3):195-201, 1991
(1997年11月5日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)内視鏡検査前検査として行うHBs抗原、HCV抗体、梅毒の検査は常に保険で認められるのでしょうか。

(A)保険適応の可否は各支払い基金の判定基準によりますので、都道府県によって異なる可能性があり、一概には言えません。ただし、ご質問の件に限っては院内感染予防の必要性からほぼ認められる傾向にあります。ただしその場合、レセプトにハッキリと「術前検査」と記載することが求められますのでご注意ください。
(1997年10月21日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)急性腹症の超音波診断について、(1)卵巣嚢腫の茎捻転に特徴的な所見、(2)小腸と大腸の鑑別法、(3)虫垂周囲の膿瘍または腹水の確実な検出法があれば教えてください。 (大阪府 臨床検査技師)

(A)急性腹症の鑑別診断は著しく多岐にわたり、内科・外科・産科婦人科・泌尿器科・整形外科の領域のさまざまな疾患と関連します。診断においてもっとも重要なことは、緊急(開腹)手術を必要とする病態か否かを一刻も早く見極めることですが、これは多くの場合基本的な身体所見や一般的な単純X線写真、血球計数、一般検尿、尿妊娠反応等で診断可能で、迅速性という点で超音波診断に優先します。したがって超音波検査は通常これらの所見の土台の上に付加的に行われるという点をまず申し述べておきます。

(1)卵巣嚢腫の茎捻転に特徴的な所見
 卵巣嚢腫を認め、(探触子で圧迫した際に)その部位に疼痛・圧痛を認める、という所見は、救急外来などでは経腹法が用いられることが多いので、複数の成書に記載されているとおり、茎捻転の有用な診断根拠となります。ただし出血性黄体嚢胞による急性腹症は開腹手術を必要としないので、hypoechoicな嚢胞内に、フィブリン析出による多数のhyperechoicな糸状のechoを認めるという所見に注意して鑑別します。但し女性の骨盤内臓器の病巣が疑われる場合、可能ならば経腹法よりも経腟法が優れています。それは膀胱内充満を必要としないうえ、必要時にはそのままダグラス窩を穿刺できるためです、なお性交の経験のない女性の場合は経直腸的に行います。また外科診断学の教科書"Thorek Surgical Diagnosis"によれば、茎捻転を起こすのは卵巣嚢腫とともに子宮線維腫が最も多いとされており、これらの鑑別についても超音波検査が有力な手段となります。

(2)小腸と大腸の鑑別法
 超音波検査において大腸各部は次のように同定されます。
 上行結腸は腹腔内でもっとも右外側かつ背側に存在するハウストラを伴う管腔です。縦断走査の下端は盲端となっており、この部位(約6cm長)が盲腸です。虫垂は盲腸内側に位置して下または横に走行する約8cm長の盲端構造物ですが、長さや走行には変異が多く、後述の如く描出できない場合もあります。またここから骨盤腔内に向かう盲端でない管腔を認めれば、それは回腸末端部です。
 横行結腸は肝彎曲部から内・足方に25〜50cm走行して外・頭方へ向かい脾彎曲部に至ります。超音波診断では正中縦断走査で、胃前庭部の足方に存在する管腔として認められることが多いようです。
 下行結腸は上行結腸の対称と考えれば良いのですが、この部位からS状結腸までは空虚であることが多く、より描出は難しいとされています。S状結腸は走行が複雑で腹側に小腸が入り込んで走行しているため、同定は更に難しくなります。直腸は前立腺または膣を目標に同定します。  一般的に、以上の同定手順に当てはまらない管腔構造物を結腸ループの内側に認め、小腸ケルクリングを有していれば、それは小腸であろうと推測できます。
 急性腹症における腸管の所見では、イレウスの診断が重要です。イレウスでは拡張腸管の追跡によって絞扼部(腸捻転または腫瘍)の観察が可能です。このとき小腸ケルクリングを鍵盤状に描出される所見をkeyboard signと称し、また腸管内容物が停滞して行ったり来たりする所見をto and froと称します。小腸イレウスでは、拡張腸管のケルクリングが保たれていれば循環障害を伴わず比較的軽症と考え、これが消失していれば絞扼性イレウスや上腸間膜動脈の急性閉塞などより重篤な病態を疑います。大腸イレウスでは、ハウストラは消失せず、回盲弁で生理的に狭窄している上行結腸が拡張することが多いとされています。また腹水の存在は腸管壊死の随伴所見として重要です。

(3)虫垂周囲の膿瘍または腹水の検出法
 虫垂炎では必ずしも病変が描出できるとは限らず、虫垂の位置・虫垂の腫大の程度に依存します。虫垂が盲腸の背側にある場合は虫垂の描出は困難であり、炎症が拡大すればそれに伴って虫垂の外径が大きくなり描出率は高くなります。例えばカタル性では20〜40%、蜂窩織炎性・壊疽性では80%以上とされています。但し穿孔破裂に至ると虫垂は収縮し描出困難となります。ご質問のように、虫垂周囲に膿瘍または腹水を認めるのは炎症が比較的強い場合ですので、虫垂が破裂せず通常の位置にあれば、理論的には仔細な観察により描出可能と考えられます。ただし実際には、急性腹症の際にいわゆるgraded compression technique(腹部を探触子で圧迫して腸管ガスの影響を極力排除する手技)が危険な場合もあり、描出困難な場合も多いのではないかと思われます。腹部を軽率に圧迫すると、例えば腹部大動脈瘤の切迫破裂などでは致死的な危険を招く恐れがあります。

 最後に、関連する局所解剖と臨床的知見について分かりやすく書かれた教科書を参考文献としてあげておきますので、ご参照ください。

【参考文献】
[1]
L.Perlemuter,J.Waligora/佐藤達夫監訳:臨床解剖学ノート 腹部編(II) 初版、1981、中央洋書
[2]
富田周介:急性腹症の超音波診断、第1版、1989、金芳堂
[3]
消化器の超音波診断、臨床消化器内科増刊号、1996 Vol.11 No.7、日本メディカルセンター
(1997年10月21日 認定臨床検査医 堀岡理(No.291))


(Q)臨床検査技師を志望していますが、進路として専門学校と大学の違いについて教えて下さい。(高校生)

(A)臨床検査技師になるには、専門学校、短大および4年制大学の3種類のコースがあります。いずれにせよ、所定のカリキュラムを履修し、国家試験に合格する必要があります。現在、「21世紀の医学・医療に関する懇談会」の第一回答申で示されたように、21世紀にむけて、看護婦や臨床検査技師を含むいわゆるコメディカルスタッフの教育の充実が強く叫ばれています。近年、国立の医療短期大学の衛生技術科も次第に4年制大学の医学部保健衛生学科あるいは保健学科として再編成されつつあリます。これまで平成元年以来、東京医科歯科大学、大阪大学、神戸大学、金沢大学、群馬大学、名古屋大学が大学となり、近く岡山大学の短大も昇格が予定されてます。当面は毎年1校づつ昇格するのではないかと思われます。私立大学では北里大学、杏林大学、麻布大学などがあります。また薬学部、理学部(東邦大学)、栄養学部そして工学部でも資格がとれるコースを設けているところもあります。4年制大学で所定のカリキュラムを終了したものには、衛生検査技師の資格が申請で与えられます。これは検体検査のみが出来る資格ですが、これから検査室で本格的に働くつもりなら是非、臨床検査技師の資格をとったほうがいいでしょう。
 専修学校と4年制大学の差は教育理念が異なり、前者は3年間で臨床検査技師の資格を取るところ、後者は4年間で将来の検査技師の指導者、研究者あるいは教育者を育成することろであり、より高い教養教育や研究能力の付加あるいは広く関連の領域への進出をも考慮した教育が行われます。また大学院(博士前期課程、後期課程)も誕生し、検査技術学が新しい学問分野としてもようやく認められる時代となりました。
 4年制大学に直接入学する途のほか、短期大学を卒業し、4年制大学の3年編入(各大学で定員5〜10名)する途も開かれていますので、場合によってはこれを利用することもできます。専修学校の卒業生には、現時点では4年制大学への編入が全く認められていませんが、近い将来その途が出来る可能性があります。また短期大学を卒業後、放送大学などで、所定の単位を取得し、学位授与機構にレポートを提出し、試験に合格すれば、学位(学士)を取得することもできます。この資格を得れば、大学院に進学することも出来ます。
 臨床検査技師の国家試験は合格率からいえば、専修学校が最もよく、ついで短大、4年制大学の順となっています。この試験は医療職の資格試験の中で合格率から見れば最も難しく、かなり広い範囲のハードな勉強を要求されます。一方、臨床検査領域も高度成長の時代は終わり、諸般の事情から検査室の合理化、省人化が進められ、また歴史の浅い職種だけにしばらくは定年退職する人も少なく、当面就職難の時代であることも事実です。しかし臨床検査の重要性はますます高まり、これを担当する臨床検査技師の資質もより一層の向上が求められています。これからはより高い能力と志を持った人材が選抜される時代になったといえましょう。以上のことを参考に進路を選択して下さい。
(1997年10月14日 認定臨床検査医 保崎清人(No.214))


(Q)脳出血急性期の患者では腎疾患がなくても尿沈査中に尿細管上皮細胞がよく認められるのですが、何故でしょうか。(臨床検査技師)

(A)尿沈渣中に見られる尿細管上皮細胞は、少数の場合は必ずしも病的とは言えず、多数出現している場合に尿細管障害を疑います。また逆に、尿細管障害には尿細管性アシドーシス、間質性腎炎による濃縮力低下、急性尿細管壊死による急性腎不全等の種類があり、それぞれ尿沈渣にどの程度の所見が見られるかははっきりしていません。したがって脳出血と尿細管上皮細胞の出現を直接関係づけるのは難しいので、ここでは脳出血と腎障害との関連について説明します。
 脳出血患者に何らかの腎障害が認められた場合、次の機序が考えられます。
  • 高血圧や糖尿病、高脂血症などの基礎疾患を背景として全身に動脈硬化が起こり、脳出血や腎動脈硬化を同時にひき起こした。
  • 何らかの腎疾患による慢性腎不全があり、それに伴う高血圧が原因となって脳出血が起こった。
  • 脳出血発作に伴う血圧の異常により腎への血流が不十分となり、腎前性の急性腎不全を起こした。
 したがって、脳出血の患者の尿沈査に尿細管上皮細胞がよく見られるという可能性は十分に考えられます。腎疾患が本当にないかどうかを含め、できれば臨床側と協力してデータを集めてみてはいかがでしょうか。まだ知られていない新しい知見が得られるかも知れません。
(1997年10月12日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)健康診断で毎年尿検査が陽性なのに、精密検査では異常の見られない方がいます。どうしてでしょうか。(臨床検査技師)

(A)検診の尿検査が陽性であっても精密検査で異常がない場合、考えられる原因を項目ごとに説明します。
(1)尿蛋白
 軽い運動や入浴後に一過性に出現する生理的蛋白尿、薬剤の影響、試験紙の性能による偽陽性、精液が混入した場合などが考えられます。
a)生理的蛋白尿
1)体位性蛋白尿 起立性蛋白尿、前彎性蛋白尿
2)運動性蛋白尿
3)熱性蛋白尿  急性熱性疾患にみられるもの
4)その他
精神的ストレス、てんかん発作、脳出血後、寒冷暴露、入浴後、月経後、蛋白質の大量摂取後
b)薬剤の影響
 試験紙による蛋白の検出は多くの場合蛋白誤差を原理としています。すなわちアルブミンによって生じるpH指示薬の発色誤差を判定します。ただし、アルブミン以外にも尿中でコロイドを形成する高分子物質はpH指示薬に対し同じ作用をもつため、偽陽性の原因となります。
c)試験紙の性能による偽陽性
 蛋白誤差を原理とする尿蛋白試験紙には、尿そのもののpHの影響を防ぐため緩衝液が含まれています。ところがpH8を超えるアルカリ尿では十分緩衝しきれないため、蛋白の有無に関係なくpH指示薬の色調が変化し、陽性と判定されてしまいます。尿は放置されるとアルカリ性に傾く傾向があるので、これを防ぐには新鮮尿で検査する必要があります。
(2)尿潜血
a)一過性の血尿
 健常者でも、激しい運動や長時間の寒冷暴露、腎臓付近の打撲などにより、一過性の潜血を認めることがあります。
b)試験紙法陽性、尿沈渣赤血球陰性の場合
 試験紙による尿潜血検査は、ヘモグロビンのペルオキシダーゼ作用により生じる過酸化水素を発色反応により検出します。したがって、高度のアルカリ尿、低張尿、血管内溶血によるヘモグロビン尿、ミオグロビン尿、高度の細菌尿、高度の白血球尿、精液の混入、過酸化水素や次亜塩素酸等の酸化剤混入などの場合、尿に赤血球が混入しなくても試験紙法では潜血陽性になります。
(3)尿ウロビリノーゲン
a)検出原理による偽陽性
 尿ウロビリノーゲンの検出は、アルデヒド反応を原理とするものと、ジアゾカップリング反応を原理とするものがあります。アルデヒド反応は、p-ジメチルアルデヒドのピロール核と活性メチレンによる反応で紫赤色を呈するもので、カルバゾクロムやPAS、サルファ剤などの物質により偽陽性を示すことがあります。ジアゾカップリング反応は4-ベンゼンのジアゾニウム塩を使用し、フェナゾピリジンや尿中ビリルビンにより偽陽性を示すことがあります。
b)放置尿
 放置されるとウロビリノーゲンが酸化され、ジアゾ反応では検出できなくなる場合があります。
c)腸内細菌叢の変化
 尿中のウロビリノーゲンは、ビリルビンが腸内の細菌によりウロビリン体に変えられ、これがふたたび腸壁から再吸収され、尿中に排泄されたものです。抗生物質の投与などにより腸内細菌叢が変化すると、ウロビリン体の生成に影響し、肝機能に異常がなくても尿中排泄量が増減する可能性があります。
(4)尿糖
a)一過性の尿糖
 健常者でも過度の摂食、ストレス、薬剤の影響で耐糖能が障害され、一過性に血糖値が上昇して尿糖が検出されることがあります。
b)高血糖を伴わない尿糖
 腎性糖尿、妊娠時、ステロイドホルモンなどの服用、Fanconi症候群などの尿細管障害では、血糖値が正常でも尿に糖が排泄されることがあります。
c)測定原理による偽陽性
 試験紙法による尿糖の検出は、尿中のブドウ糖をブドウ糖酸化酵素で酸化し、発生する過酸化水素で色原体を発色させる方法で行われ、酸化還元反応の一種です。したがって尿中に過酸化水素、次亜塩素酸等の酸化剤が混入したり、細菌尿では偽陽性を示すことがあります。
(1997年10月7日 認定臨床検査医 布施川久恵(No.366))


(Q)超音波検査におけるナットクラッカー症候群の判定基準について教えてください。(大阪府 臨床検査技師)

(A)ナットクラッカー症候群とは、左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈に挟まれることで還流障害が起き、左腎内圧が上昇して腹痛や血尿の原因となる状態をいい、痩せた人によく見られます。
 ただし、左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈の間で圧迫され、右腎静脈との比較においてやや拡張している所見は、健常者でもしばしば認められるので、これだけで病的とは言えません。また左腎内圧がどの程度上昇しているかは超音波検査ではよくわかりませんし、被検者の姿勢やどのくらいローブを押し付けるかによっても変化します。
 判定基準としては、狭窄部位の径を左腎静脈の径で割った値が0.30〜0.35以下を陽性とするもの、あるいは、心臓の収縮期拡張期共に左腎静脈の内腔が消失するものを陽性とするものがこれまでに提案されています[1]。
 ただし、超音波検査では左腎静脈の描出が困難な例があるので、その場合にはCT検査、あるいは場合により血管造影や静脈内圧の測定が必要になります。
【参考文献】
[1]
菅谷公男、他:血尿の原因となる左腎静脈圧迫の非侵襲的画像診断 第一報 超音波検査による検討、泌尿器科紀要、37:481-484、1991
(1997年10月3日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)肝線維化の臨床検査について教えて下さい。

(A)肝線維化の指標と言われる検査には次のような項目があります。
  • III型プロコラーゲンN末端ペプチド(PIIIP):線維組織の線維束を構成するIII型コラーゲンが、プロコラーゲンから合成される際に切り離されるN末端ペプチドである。一時は線維化の指標と言われたが、肝臓の炎症や壊死との相関が強く、肝硬変でも目立った変化はないので、線維化との関連は低いと考えられる。
  • IV型コラーゲン:基底膜の主要構成蛋白で、膜型コラーゲンと呼ばれる。肝臓の線維化に伴って進展する類洞の毛細血管化により、Disse腔の基底膜様構造が出現するので、間接的に線維化の進展を反映する。血中濃度は門脈や中心静脈周囲の線維化とよく相関し、慢性非活動性肝炎、慢性活動性肝炎、肝硬変と進むにつれ値が高くなる。なお、肝細胞癌や転移性肝癌でも著しく高値となる。2種類の測定キットがあるり、抗体の認識部位が異なるが、指標としての意義に差はない。
  • ヒアルロン酸:細胞間マトリックス成分として水分や電解質を保持しているムコ多糖(グリコサミノグリカン)のひとつである。肝臓の線維化に伴って伊東細胞などによる産生が亢進し、血中濃度も上昇するので、慢性肝炎の経過観察に有用である。肝硬変では慢性活動性肝炎より高値をとるので、両者の鑑別にも用いられる。
  • ラミニン:基底膜を構成する糖蛋白で、透明層に存在する。同じく基底膜を構成するIV型コラーゲンと同様に、慢性肝炎、肝硬変と肝臓の線維化の進展に伴って血中濃度が上昇し、肝癌でも高値を示す。
 この他にも、フィブリノネクチンレセプター、プロリルヒドロキシレース、ヒドロキシプロリンなどの測定が試みられています。なお、肝臓の線維化の確定診断は肝生検による組織所見により行われ、これらの指標はその参考所見として、慢性肝炎の経過観察や肝生検の適応判断に用いられます。
【参考文献】
[1]
日本臨床53巻・1995年増刊号 広範囲血液・尿化学検査、免疫学的検査、日本臨床社
[2]
池田有成:臨床検査 II.各論 内科医として知っておくべき新しい検査 2.新しい検査法(肝・胆・膵)、日本内科学会雑誌、82:518-522、1993.
[3]
藤沢 洌:肝硬変:診断と治療の進歩 6.肝硬変の病態診断−臨床症状、検査所見の読み方−、日本内科学会雑誌、80:1958-1604、1991.
(1997年10月3日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)老人で軽度の貧血があり、他の血球異常や消化管出血等の基礎疾患が認められない場合、加齢による骨髄造血能の低下と考え経過を見てよいでしょうか。(開業医)

(A)一般に老年期の赤血球数は成人期に比べやや低下傾向を示します。この原因はご質問にある通り、加齢による造血能低下との考え方が有力です。軽度の貧血を認めるだけで、他の基礎疾患を疑うような所見がない場合、そのような範疇に入ると考えられます。
 ただし、このような例の一部に骨髄異形成症候群(MDS)が隠れている可能性は否定できません。末梢血液像の検査で異常がない場合でも、自動血球計数装置で測定している場合には、塗抹染色標本で異型細胞がないかどうか確認した方が安全です。ご承知のようにMDSの診断は専門医でも容易でない場合があるので、ある時点で異常がなくてもすぐにMDSを否定せずに、少し時間をおいて再検査するといった慎重さが必要です。その結果、貧血の進行、他の血球系の減少等、少しでも疑わしい点があれば骨髄穿刺が欠かせませんから、専門病院に紹介した方がよいでしょう。
 MDSについてはオリジナル文献および総説をあげておきますので、ご参照ください。
【参考文献】
[1]
Bennett JM et al. The French-American-British(FAB) co-operative group: Proposal for the classification of the myelodysplastic syndrome. Brit J Haematol 51:189-199, 1982
[2]
吉田彌太郎:平成7年度日本内科学会生涯教育講演会 IV.血液 2.骨髄異形成症候群の診断の進め方と治療、日本内科学会雑誌、85:459-463、1996
(1997年10月3日 認定臨床検査医 新谷和夫(No.107))


(Q)赤痢アメ−バの抗体検査が陰性なら赤痢アメ−バ症を否定できるでしょうか。(愛知県 臨床検査技師)

(A)赤痢アメーバ症には、典型的な下痢や粘血便を呈する腸アメーバ症の他に、肝膿瘍などの腸管外アメーバ症、および感染源として重要な無症候性嚢子排出者があります。診断には便、生検検体や膿からの虫体や嚢子の検出、大腸内視鏡やCTなどの画像診断、血中の特異抗体の検出が行われます。抗体検査は簡便で信頼性も高いことから広く普及していますが、陽性率は病型によってかなり差があり、ウエルカム社の間接蛍光抗体法(IFA)を例にとると、アメーバ赤痢で59〜75%、アメーバ性肝膿瘍で91〜98%、無症候性嚢子排出者で15〜23%となっており、必ずしも陽性になるとは限りません。肝膿瘍や慢性に経過した腸アメーバ症では高抗体価を示しますが、感染後すぐに急性発症した場合にはまだ抗体ができておらず、陽性になりにくいと言われています。
 便の検査は繰り返し行っても虫体や嚢子を見逃すことが少なくないので、検出されない場合でも、症状や画像診断から赤痢アメーバ症が疑われるときには、抗体検査を行うべきです。特に肝膿瘍では便の検査は信頼できず、抗体検査と画像診断が決め手となります。しかし、以上に説明したとおり、腸アメーバ症、特に急性例や劇症例では、抗体陰性でも赤痢アメーバ症を否定することはできません。
【参考文献】
[1]
日本臨床53巻・1995年増刊号 広範囲血液・尿化学検査、免疫学的検査、186-188(赤痢アメーバ)、日本臨床社
(1997年9月17日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)現在数多くの膵関連検査がありますが、1)膵炎の検索にはどれを使うべきでしょうか、2)それらは保険で通るでしょうか。(開業医)

(A)ご質問の1)、2)の順に説明します。
1)膵酵素による膵炎診断
 まず、現在膵疾患の診断に利用されている膵酵素の概略と、急性膵炎、慢性膵炎、膵腫瘍による続発性膵炎および膵疾患のスクリーニングを目的とした場合の検査方法について述べます。
 膵は種々の消化酵素を膵管を介して十二指腸に分泌しています。正常でも膵酵素の一部は血中に逸脱していますが、その量は膵の炎症、膵管の閉塞、膵液の貯留などで増加し、膵切除、膵組織の荒廃など残存膵機能の喪失により減少します。そこで血中や尿中の膵酵素の濃度は、逸脱酵素の増減、膵の炎症の程度、膵管閉塞や膵実質の残存量などを推測する指標となり、膵炎、膵癌などの膵疾患の診断や経過観察に用いられています。
 膵疾患の診断に用いられる膵酵素には、総アミラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼA2(PLA2)、トリプシン、エラスターゼ1、キモトリプシン、エステラーゼなどがあります。また膵酵素ではありませんが、トリプシンインヒビター(PSTI)も膵炎の診断に利用されます。それぞれの酵素は半減期、膵特異性、インヒビターとの結合状態、血中存在様式、代謝経路などに相違があり臨床的意義も異なります。
 総アミラーゼは膵特異性の点では他の酵素に劣りますが、活性が安定し測定法も簡便なため、血中や尿中の濃度の測定が普及しています。アミラーゼには膵に特異的に存在する膵(P)アミラーゼ(40%を占める)と、唾液腺、卵巣、肺、肝などに由来する唾液腺(S)アミラーゼがあり、電気泳動法を用いたアイソザイム分析法によって区別できます。また特異抗体でどちからか一方のアイソザイム活性を阻害し、残存活性を測定する免疫阻害法を用いるとより短時間で測定できます。膵炎の診断ではPアミラーゼは総アミラーゼに比べて感度、特異度ともにより優れています。また高アミラーゼ血症を見たらアイソザイム分析を行い、Pアミラーゼの増加や他の膵酵素の増加があれば膵疾患を疑います。トリプシン、リパーゼ、PLA2は膵特異性の高い酵素で、血中濃度の上昇は膵実質の障害を示し、低下は膵組織の荒廃を示唆します。特にPLA2と膵炎の重症度との間には正の相関があるとされています。エラスターゼ1は最も鋭敏に増加し、主に網内系で代謝されるため、膵酵素の中では高い値が最も遷延する酵素として知られています。PSTIは膵液中に分泌されるトリプシンに特異的な阻害物質で、膵炎以外の疾患でも増加しますが、重症膵炎では著しく高値となって遷延し、CRPとよく似た経過を示します。
 なお、膵臓に異常がないのに各種膵酵素の血中濃度の上昇が持続する場合には腎不全を(但しエラスターゼ1を除く)、総アミラーゼ、Pアミラーゼの上昇が持続する場合にはマクロアミラーゼ血症を除外する必要があります。
 酵素の濃度は酵素活性あるいは抗原量として測定され、総アミラーゼ、リパーゼ、PLA2は両方の測定が可能ですが、トリプシン、エラズターゼ1は抗原量のみ測定可能で、PLA2、トリプシン、エラズターゼ1は迅速性に欠けます。測定値を見るときは、測定方法による感度差や、PLA2のように酵素活性と抗原量が解離する場合があることを念頭におく必要があります。膵酵素は、検体採取後に血清分離して-20℃で保存すれば数か月間安定ですが、早く測定するに越したことはありません。
 さて、膵炎の検索にどの膵酵素を測定するかについては、膵炎の病型、時期、検査目的などによって選択します。
 急性膵炎ではいずれの血中膵酵素ともほぼ全例高値を示します。ただしできるだけ早く診断をつけて治療を開始したいので、まず短時間で測定できる総アミラーゼとリパーゼを組み合わせて測定します。これらは互いの欠点を補い合うので、組み合わせることにより膵特異性が高まります。またPアミラーゼの測定も短時間で出来るようになったので、可能なら最初に測定します。各々の膵酵素の消長には差があり、アミラーゼの半減期は2〜4時間と短いため発症後3〜4日めから低下し始めます。したがって膵炎の回復期ではアミラーゼの異常高値率は低くなり、また日差変動があるので連日繰り返し測定する必要があります。そこで、高値が遷延する傾向のあるトリプシン、エラスターゼ1を利用すると異常高値の出現率が上昇します。急性膵炎発症後2週間の血中酵素の異常率は、低い方から総アミラーゼ、膵アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、エラスターゼ1の順になり、エラスターゼ1の異常高値が最も長く残ります。膵炎の重症度と膵酵素の上昇度とは一般に比例しないと言われていますが、血中PSTIは病勢をよく反映して敏感に反応するので、重症度や進行度の判定に有用です。
 慢性膵炎では病期により血中膵酵素の挙動が異なります。膵外分泌機能障害が軽度の場合には活動期に高値となり、発作間欠期は正常値を示します。膵外分泌機能障害が中等度以上になると発作時の増加も軽度となり、間欠期には低値をとるようになります。Pアミラーゼ、トリプシン、リパーゼなど膵特異性の高い酵素は残存膵機能の減少と相関して低値となりますが、エラスターゼ1の異常低値は稀です。慢性膵炎の急性増悪期は急性膵炎に準じて、迅速性を重んじ総アミラーゼ(Pアミラーゼ)、リパーゼを測定し、間欠期はPアミラーゼ、トリプシン、PLA2などを測定し、残存膵機能を評価します。便中キモトリプシン活性の測定による異常検出率は高度障害例で70%、中等度障害例で40%とされ、非膵性下痢疾患患者や低栄養患者は偽陽性となることがあります。  膵癌では、腫瘍による膵管閉塞が起こると尾側膵からの膵酵素の逸脱により血中濃度が上昇します。腫瘍の部位、病期などにより異なり、一般に膵頭部癌と体尾部癌では高値例は頭部癌に多く、低値例は体尾部癌に多くなります。癌の早期から中期では高値例が多く、末期では膵実質の荒廃により低値例が多くなる傾向がありますが、血中酵素の中では膵特異性が高く、測定感度も高いエラスターゼ1、トリプシン、リパーゼなどが高い異常値出現率を示します。このうちエラスターゼ1の異常値出現率が最も高く、CA19-9との同時測定により膵癌の検出率を高めるのに適しています。特に膵頭部癌においてエラスターゼ1の異常高値例が多くなります(87%)。体尾部癌では腫瘍がある程度増殖するまで膵管の閉塞が起こりにくく、膵酵素よりもCA19-9の異常が多くなります。
 膵疾患のスクリーニングは従来血清総アミラーゼの測定が行われてきました。尿中アミラーゼの測定とともに、酵素が安定していて安価かつ迅速に測定できる点や、膵以外の唾液腺疾患などの検出ができる点が優れています。腹部エコー検査を併用すればさらに膵炎診断の感度を高めることができます。この場合、膵疾患(膵癌のスクリーニングを含む)のみを対象とするのは費用対効果の面から難しく、何らかの条件で選んだ高危険率群を対象とするか、他の臓器(肝・胆道)を含めたスクリーニングの一環として実施するのが現実的です。その場合はトリプシン、エラスターゼ1、耐糖能、CA19-9、肝機能、胆道系酵素測定、腹部単純X腺検査などを同時に組み込むとよいでしょう。エラスターゼ1は膵癌のみを対象とした場合には効率的とは言えませんが、他の膵疾患の検出、鑑別にも役立つので、これらを総合的にスクリーニングするにはよい検査です。
 以上の様に、各々の膵酵素の特徴をよく理解し、膵炎のタイプや病態、時期によって適宜選択すること、さらに他の検査法と効率よく組み合わせ、最終診断に到達できるようにすることが大切です。

2)膵酵素の保険適用
 平成9年4月に出版された診療報酬医科点数表の解釈(通称グリーンブック)によると、アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、PSTIおよびPLA2は生化学Iに含まれ、アミラーゼのみ包括項目となっています。ただしアミラーゼアイソザイム分画測定は包括項目に入っていません。またトリプシン(300点、精密測定395点)とPSTI(175点)を同時に測定した場合には、そのうちのひとつのみしか請求できません。エラスターゼ1は生化学II(腫瘍マーカー)として分類されており、他の腫瘍マーカーと同様に請求できます。悪性腫瘍が確定している場合であっても、急性および慢性膵炎の診断および経過観察のためにエラスターゼ1測定を行った場合は、悪性腫瘍特異物質治療管理料とは別に腫瘍マーカーの検査料を算定できます。なお、キモトリプシンは糞便で測定した場合に保険請求できます。
 膵炎の診断に際して、膵酵素測定に腫瘍マーカーのような検査項目数の制限は設けられていません。したがって、今のところ医学的に必要と判断した項目が制限される心配はないと思われます。もちろん、保険請求可能な検査を全て実施するのではなく、臨床的意義の重複する検査を控えることは言うまでもありません。最新の医学的知識に基づく検査効率を考えた項目の選択、そして患者にとって身体的、精神的、経済的に負担の少ない検査が求められる傾向は今後ますます強まると思われます。

【参考文献】
[1]
膵疾患検査法の進歩と臨床的評価、臨床病理臨時増刊 第89号、1995
[2]
小山岩雄、他:アイソザイム検査の実際とその解釈−第3回アミラーゼアイソザイム、Medical Technology 25:323-328、1997
[3]
早川哲夫、他:酵素逸脱からみた急性膵炎の経過、肝胆膵 20:181-186、1990
[4]
伊佐地秀司、他:特集膵疾患:生化学診断の再評価、総合臨床 43:285-289、1994
[5]
小川道雄:膵外分泌性トリプシン・インヒビター(PSTI)、日本臨床 53:317-322、1995
(1997年9月8日 認定臨床検査医 石原明徳、松阪中央総合病院医事課 寺田元紀、三重大学医学部第一外科 伊佐地秀司)


(Q)DICを疑ったとき、FDPおよびDダイマーを同時測定する臨床的な必要性はあるのでしょうか。(内科医師)

(A)FDPとDダイマーの臨床的意義を知るには、まずこれらが血液凝固の流れの中で生じる過程を理解する必要があります。
 フィブリノゲンは分子量32万、Aα,Bβ,γの3つのポリペプチド鎖から成る分子がS-S結合により2量体(Aα,Bβ,γ)2となった糖蛋白です。血液凝固の最終段階において血中トロンビンがフィブリノゲンに作用し、Aα鎖とBβ鎖からそれぞれ活性化ペプチド(フィブリノペプチドAとB)を遊離してフィブリンモノマー(α,β,γ)2を生成し、非酵素的に重合してフィブリンポリマー〔(α,β,γ)2〕nとなります。さらに活性化された第XIII因子によって、隣接するフィブリン分子のγ鎖間でγ-dimer crosslinkを、α鎖間でα-polymer crosslinkを起こし、水不溶性の安定化フィブリン塊を生じます。こうして生成されたγ-dimer crosslinkは、線溶現象によっては解離しません。したがって安定化フィブリンにプラスミンが作用した場合(二次線溶)、最終的には隣接するフィブリンのDドメインがγ-dimer crosslinkで結合したDダイマーとE分画に分解されます。
 ただし、線溶機構の作用を受けるのは安定化フィブリンだけではなく、γ-dimer crosslinkを伴わない不安定フィブリンやフィブリノゲンも分解されます。したがってFDP(fibrinogen and fibrin degradation products)とは線溶現象により生じたこれらの分解産物(X分画、Y分画、D分画、E分画、Dダイマー)の総称で、このうちDダイマーが二次線溶によってのみ生じることからその指標となります。
 DICという病態では基礎疾患によって異なる様々な発現機序により、血液凝固機転が血管内で作動してしまい、トロンビン−フィブリノゲンの反応が進行して血管内血液凝固を引き起こし、それによって活性化された線溶系が優先的に安定化フィブリンを分解します。すなわち二次線溶の亢進により、Dダイマー優位の血中FDPの増加を招きます。血管内に生じたフィブリンを直接測定することはできませんが、DICによって生じたフィブリンは比較的プラスミンによって分解されやすいため、Dダイマーの増加により間接的にそのことが分かるわけです。
 一方、フィブリノゲンが直接分解される一次線溶は、多量のプラスミンの存在下で起ります。すなわち手術などの侵襲により、プラスミンを活性化するプラスミノゲンアクチベーターを多く含む血管内皮や組織の損傷があれば、DICに至らなくても、凝固系の亢進とは関係なく一次線溶による血中FDPの増加を認めることがあります。この場合Dダイマーはあまり増加せず、FDPの増加と解離します。この他にも解離する例として、α2プラスミンインヒビターが極度に減少したために線溶優位となった症例や、顆粒球エラスターゼによる線溶現象などの症例報告もあります。また線溶系の問題だけではなく、肝機能障害のため非凝固性のフィブリノゲンが増加したことによる血中FDPの増加や、第XIII因子が減少したために安定化フィブリンの産生が障害され、Dダイマーが相対的に減少した例などの報告があります。
 確かに多くの症例では血中FDPとDダイマーはよく相関することが知られており、必ずしも両方測る必要はないかも知れません。しかし、以上に説明したように凝固線溶系の異常では複雑な病態を鑑別しなくてはならない場合もあるので、まずはじめの時点で血中FDPとDダイマーを同時に見ておくことには意味があると考えます。またDICであっても、線溶系が優位になるほど、安定化フィブリンの産生よりもプラスミンの働きが強くなるので、その結果Dダイマー/FDPの比は低くなる傾向を示します。この比により凝固系優位か線溶系優位かを知ることは、抗凝固療法の薬剤の選択や抗線溶療法の併用を考えていくポイントにもなります。なお、PIC(plasmin-α2-plasmin inhibitor complex)とTAT(thrombin-antithrombin III complex)の比を調べても、凝固系優位か線溶系優位かを知ることができます。
 このように、常に血中FDPとDダイマーの両方を調べる必要はありませんが、病態によっては、両者の同時測定は大変有意義な情報を提供してくれると思います。
【参考文献】
[1]
VanDeWater L, et al.:Analysis of elevated fibrinogen degradation product levels in patients with liver disease. Blood 67:1468-1473, 1986
[2]
日水光子、他:FDPのE分画およびDダイマー測定値の解離症例の検討.臨床病理 39:302-309,1991
[3]
Okajima K, et al.:Direct evidence for systemic fibrinogenolysis in patients. Hematol 45:16-24,1994
(1997年9月4日 認定臨床検査医 腰原公人(No.338))


(Q)肘部管症候群および手根管症候群における神経伝導速度の測定および評価のしかたを教えください。

(A)肘部管症候群(cubital tunnel syndrome)は尺骨神経が肘関節通過部位で圧迫されることによる神経障害です。したがって尺骨神経の運動神経伝導速度を肘部管の中枢側、末梢側および手関節部の3刺激点で測定し、肘部管をはさむ領域だけに伝導遅延または伝導ブロックを認めることを示して診断します。
 手根管症候群(carpal tunnel syndrome)は正中神経が手根管で圧迫されることによる神経障害です。したがって正中神経の運動神経伝導速度を肘窩、手首および手掌の3刺激点で測定し、手根管をはさむ領域だけに伝導遅延または伝導ブロックを認めることを示して診断します。ただし手掌の刺激はやや難しいので、手首で正中神経を刺激したときの遠位潜時(distal latency)が正常より長くなることで診断する方法もあります。また正中神経の感覚神経伝導速度も低下します。なお、診断の確定には、手首を通過するときに手根管を通らない尺骨神経に異常がないことを示す必要があります。
 各々の刺激部位、記録電極の位置等については細かくなりますので、下記の教科書等をご覧ください。
【参考文献】
[1]
廣瀬和彦:筋電図判読テキスト、文光堂
[2]
Shin J. Oh:Clinical Electromyography: Nerve Conduction Studies, Second Edition, Williams & Wilkins
(1997年9月3日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269)、東京医科歯科大学医学部附属病院検査部 稲葉彰)


(Q)HBs抗原、HBs抗体がどちらも陽性を示した場合どう解釈すればいいのでしょうか。(愛知県 臨床検査技師)

(A)1人の患者からHBs抗原とHBs抗体が同時に検出されることは稀ではなく、RIA法で10〜15%、PHA法とRPHA法で1%とのデータもあります[1]。これはB型肝炎ウイルスのキャリアーまたはB型慢性肝炎の患者に見られ、B型肝炎ウイルスの持続感染中にサブタイプの異なるウイルスに重複感染し、異なる抗原に対してのみ抗体が産生されたために起こる現象です。例えば、サブタイプadrに感染している患者に抗w抗体が、あるいはサブタイプadwに感染している患者に抗r抗体が検出された例が報告されています[1]。
 HBs抗原には共通抗原aと対立抗原dとy、rとwがあるため、adr、adw、ayr、aywの4つのサブタイプがありますが、抗体産性刺激能はaが最も強いので、通常はサブタイプの違いは臨床検査上あまり問題になりません。ところが、報告例の前者では、抗原a、d、rに対して免疫的に寛容になっているところへサブタイプadwが感染したため、新たな抗原wに対してのみ抗体が作られ、たまたま抗w抗体も検出できるHBs抗体測定試薬で陽性になったと考えられます。したがってこの場合はw抗原を含まないHBs抗体測定試薬では陰性となります。
 臨床的には、B型肝炎ウイルスの持続感染者の中で、HBs抗体が共存している患者は慢性肝炎になりやすいとの可能性が指摘されています[2]。また院内感染予防の観点では、他のHBs抗原陽性者と何ら変わることはありません。通常HBs抗体は感染に対する抵抗力を表わす指標ですが、この場合は全く当てはまらないので注意してください。
【参考文献】
[1]
鈴木宏:HBs抗体.肝胆膵、2(3):382-383, 1981
[2]
高木均ほか:HBs抗原、HBs抗体共存例における臨床免疫学的検討.日本消化器病学会学会雑誌、85(2):186-192, 1988
(1997年8月20日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)ウィルス抗体の種類と見方、特に小児期に感染したかどうかの見方について分かりやすく教えてください。(愛知県 臨床検査技師)

(A) ウイルス感染の指標には、それぞれのウイルスに特異的な抗体を用います。いろいろな種類がありますが、主なものは次の通りです。
  • CF(complement fixation、補体結合反応): すべてのウイルスについて測定できる基本的検査法です。抗体価の推移はCF活性をもつIgG抗体に類似します。CF反応は比較的低感度であるため、感染後比較的早期に検出されなくなるので、最近の感染の指標となります。
  • HI(hemagglutination inhibition、赤血球凝集抑制反応): 感染して一定時間後に著しく増加し、徐々に低下しつつ長く持続するので、一生を通じて既感染の指標となります。
  • NT(neutralization、中和反応): 特異性と感度が極めて高く、感染後長く持続しますが、培養細胞と遊離ウイルスを用いるため、測定操作が繁雑で結果が出るまでに時間がかかります。
  • PHA(passive hemaglutination、受身赤血球凝集反応): 凝集活性はIgM抗体が最も強く、IgGやIgAにも弱い活性があります。血球の変わりにゼラチン粒子を用いれるPA(particle agglutination)法も原理は同じです。
  • IgG: EIA法(酵素免疫測定法)やIFA法(間接蛍光抗体法)などで測定します。感染して一定時間後にゆっくりと増加し、長期間持続します。そのため発症直後と1〜2か月後のペア血清で上昇を認めれば初感染の証拠となり、あるいは1回測定で抗体価が高ければ既感染の指標となります。
  • IgM: EIA法やIFA法などで測定します。感染して一定時間後にIgG抗体に先立って増加し、2か月程度で消失します。そのため発症直後の抗体価が高ければ初感染の指標となりますが、持続感染の活動期でも増加する場合があります。
 以上から、成人における小児期のウィルス感染既往の指標としては、HI抗体あるいはIgG抗体がよく用いられ、場合によりPHA抗体も用いられます。ただし、ウイルスの種類によってそれぞれ適切な抗体の種類や抗体価の解釈に差があるので、具体的には下記文献などの成書を参照してください。
【参考文献】
[1]
日本臨床53巻・1995年増刊号 広範囲血液・尿化学検査、免疫学的検査、238-371(VII E.ウイルス感染症関連検査)、日本臨床社
(1997年8月20日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)シスチン尿症疑いの乳児の尿沈渣が提出されましたが、シスチン結晶が見つかりませんでした。小児では見つかりにくいのでしょうか。(島根県 臨床検査技師)

(A)シスチン尿症は腎尿細管と腸管での2塩基性アミノ酸の転送が障害される常染色体劣性遺伝性疾患で、シスチン以外にもリジン、アルギニン、オルニチンの尿中排泄が増加します。尿のニトロプルシド反応、尿中シスチン結晶の証明、尿中アミノ酸定量などにより診断は比較的容易です。尿路結石がシスチン尿症の唯一の症状で、乳児から90歳代まであらゆる年代に見られ、中心を占めるのは20〜30歳代です。またシスチン尿症は全尿路結石患者の1〜2%、小児尿路結石患者の6〜8%を占め、再発を繰り返す患者ではより割合が高くなります。なお、尿中シスチン結晶は患者の19〜26%にしか認められず、診断に必須の所見ではありません。
【参考文献】
[1]
Milliner DS.:Cystinuria. [Review] endocrinology & Metabolism Clinics of North America. 19(4):889-907, 1990.
(1997年8月18日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)シリコン樹脂でできた人工乳腺の破損を、血中のシリコン濃度または抗シリコン抗体を測定して診断することは可能でしょうか。(大阪府 臨床検査技師)

(A)残念ながら、調べた範囲ではシリコン樹脂の血中濃度の測定に関する情報は得られませんでした。実験的にシリコン樹脂を注射して測定を試みた動物実験でも、シリコン樹脂は粘性が高く、血液中にほとんど拡散しないため難しいようです。またわずかでも血中に遊離したとしても、白血球に捕えられてリンパ組織で処理されると考えられています。一般的にシリコン樹脂は生体との親和性が極めて高いと考えら、胃腸薬の成分として用いたり、注射器等の医療器具や人工臓器などのシーリングに多用されています。したがって抗体が検出されたとしても、それが人工乳腺から漏れたシリコン樹脂によって産生されたのかどうかを確かめることは困難です。
 人工乳腺が挿入されると、正常な治癒過程によって周囲に瘢痕被膜が形成され、しっかりと包まれます。もし人工乳腺が破れても、この被膜が無傷であればシリコン樹脂が漏れることはほとんどありません。被膜も裂けてしまった場合には、シリコン樹脂が外へ漏れて広がり、取り除けなくなってしまうこともあります。シリコン樹脂はレントゲン写真によく写るので、このような場合には適切な条件で撮影すれば診断できることが多いようです。
 以上から、シリコン樹脂でできた人工乳腺の破損を疑った場合、血中シリコン樹脂濃度や特異抗体を測定することはあまり適切ではなく、むしろ画像診断など他の方法を検討された方がよいと考えます。なお、シリコン樹脂を用いた人工乳腺には、乳癌検診への支障や膠原病誘発の疑いがかけられたため、現在では殆ど用いられていません。
(1997年8月6日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)血液、尿、乳汁などに含まれているダイオキシンの濃度を、一般の検査室で測定することは可能でしょうか。(大阪府 臨床検査技師)

(A)ダイオキシンの測定は質量分析計によって行われており、ごみ処理施設からの排出物などには高濃度に含まれているため、汎用の機種で測定できます。しかしご質問にある生体内にはごく微量しか含まれていないため、高分解能の質量分析計が不可欠です。これは大変高額な機器ですので、一般の検査室で備えることは困難と思われます。国内で測定可能な施設のうち2ヵ所をご紹介しますので、詳細は適宜お問い合わせください。

  • 摂南大学衛生薬学科 宮田秀明教授
  • 日本食品分析センター(0423-72-6711、有料で測定を受託)
 
(1997年8月6日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)腹部エコーで診断されるナット・クラッカー症候群について分かりやすく説明してください。(臨床検査技師)

(A)ナット・クラッカー症候群とは、左腎静脈が腹部大動脈と上腸間膜動脈に挟まれることで還流障害が起き、左腎内圧が上昇して血尿の原因となる状態をいい、痩せた人によく見られます。このあたりの解剖学的関係は、佐藤達夫教授監訳による「臨床解剖学ノート 腹部編(II)中央洋書」に詳しい説明があります。血尿がひどいような場合を除き、基本的には治療不要で、その意味では病気とは言えないかも知れません。泌尿器科では、逆行性に内視鏡を入れて観察したり、硝酸銀や電気焼灼により止血することもあるようです。また、根本的治療法は血管造影下での左腎静脈狭窄部内へのstent挿入ということになりますが、この現象はその原因から考えても、「太れば治る」として経過を見る泌尿器科医も多いようです。
 腹部エコーの際には、左腎静脈・左卵巣静脈・左副腎をよく観察し、それぞれの拡張や、左腎静脈の周囲の脈管系による圧迫・狭窄所見がないかどうかに注意します。これらの所見があれば、典型例は腹部エコー(color doppler)だけで診断が可能です。最も確実なのは血管造影ですが、必ずしもそこまで大がかりな検査をする必要はありません。

(1997年7月28日 認定臨床検査医 堀岡理(No.291))


(Q)生後4ヶ月の乳児の便から蝿の幼虫が検出されました。体内に寄生する こともあるのでしょうか。(神奈川県 臨床検査技師)

(A) 便中に蝿の幼虫が検出されることは決してまれではありません。ただし、体内に寄生するということではなく、次のように考えられています。
 銀蝿や黒蝿は卵を生みますが、肉蝿は食物や便に直接幼虫を生み付けます。そのような食物を気付かずに食べてしまった場合、幼虫は消化管の中では死なずに生きたまま便と共に排泄されます。このとき幼虫は単に通過するだけで特に症状はなく、特別な処置は不要です。また、おむつなどで便を取った場合、目を離した隙に肉蝿が便に幼虫を生み付けることもあります。このような例は近年老人ホームでよく見られるようです。
 生後4ヶ月の乳児の例があるかどうかについては情報がありませんが、いずれの場合にしても経過を見ているだけでよいと考えられます。

(1997年8月1日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)凝固検査のINR表示について、(1)まだあまり普及していないが、導入すべきかどうか、(2)ISIはメーカー設定値と自施設で求めた値のどちらを用いるべきか、(3)INR表示を用いる場合の問題点、注意点等につき、ご教示ください。(臨床検査技師)

(A)まず、INR表記法を導入した方がよいかというご質問ですが、プロトロンビン時間(PT)、トロンボテスト(TB)のINR表記法は、欧米では既に普及しており、本邦でも普及しつつあるので、そうすべきであることは言うまでもありません。ただし、INR表記法はあくまで経口抗凝固療法の治療指標を国際的に標準化するために定められたものなので、凝固因子欠乏症などの場合には、従来通り秒表示や%表示が必要です。したがってINR表示はこれらの表示法に取って代わるのではなく、これらに追加して報告することになります。
 次にISIについてですが、現状では各試薬メーカーが設定した値を用いる以外に現実的な方法はないと思います。ロット毎に変わるISIをそのつど各施設で求めることは困難であり、メーカー表示値をそのまま用いても大きな問題はありません。ただしその場合は、自分の施設と同じ機種を用いてISIが設定されている試薬を用いたほうがよいでしょう。
 最後に、INR表示を用いる際の問題点や注意点ですが、実際にはまだ多くのことがあります。即ち、検体の調整法の問題、ISIが極端に大きくないか、メーカー表示のISIは適正か、対照血漿をどう選択するか、測定原理や測定装置による影響の問題などです。詳細は下記の文献を参考にしてください。
【参考文献】
[1]
福武勝幸:プロトロンビン時間とInternational Normalized Ratio (INR).日本臨床検査自動化学会会誌、20:105〜111、1995
[2]
福江英尚:プロトロンビン時間とINR.Vita、13(3):23〜27、1996
(1997年7月16日 認定臨床検査医 福江英尚(No.310))


(Q)肝硬変症例でGOT>GPTとなるメカニズムを教えて下さい。

(A)血清中のGOT(AST)およびGPT(ALT)の濃度は、細胞より血中への逸脱量と、血中からの酵素の消失速度によって決まります。
 通常細胞内にある酵素はまず組織間液中に漏出し、その一部が毛細血管やリンパ流を介して血中に流入します。酵素は分子量が大きいので、通常は組織間液と血漿の間では殆ど移行しません。肝臓のわずかな障害でGOTおよびGPTが上昇するのは、肝細胞を取り巻くDisse腔と類洞構造をした特殊な毛細血管の間では酵素が自由に出入りできるためです。血中に逸脱したGOTおよびGPTは、失活することなく網内系細胞や肝細胞に取り込まれて消失すると考えられています。
 細胞内から組織間液への酵素の漏出量は、細胞内での存在状態と細胞内含量に依存します。前者については、分子量の大きいもの、ミトコンドリアなどの細胞内小器官に含まれるもの、例えばGOTm(ミトコンドリアに局在するGOTアイソザイム)はGOTs(細胞質に局在するGOTアイソザイム)やGPTに比べ漏出しにくく、より強い組織障害により逸脱すると考えられています。またGOTmおよびGOTsについては、補酵素であるピリドキサルリン酸と結合したホロ酵素が未結合のアポ酵素よりも逸脱が約1日遅れることが分かっています。ただし、GOT値はこれらをまるごと測定しているため、これらがGOT/GPT比に与える影響ははっきりせず、主として次に述べる要因が考えられています。
 細胞内含量のGOT/GPT比は、肝臓:3、腎臓:4.8、その他:10以上で、GOTs/GPT比は肝臓:1.3、腎臓:1.9、その他:3以上です。急性の強い障害直後の一時期を除くと、血清中のGOTの大部分はGOTsなので、通常は後に列記した方の比が反映されると考えられます。一方血中からの酵素の消失速度は、見かけ上の半減期でGOTmは11時間、GOTsは14時間であるのに対し、GPTは41時間と長いため、血中のGOT/GPT比は逸脱量の比より低くなります。このため健常者のGOT/GPT比は1より少し大きいところで安定していますが、肝障害の場合には大量に逸脱する酵素のGOT/GPT比が他臓器より1に近いため、消失速度の差によりGOT/GPT比が1より小さくなります。
 ところが、肝臓は血流障害、アルコール負荷、胆汁うっ滞、癌などにより、細胞内のGOT/GPT比が増大します。ご質問の肝硬変では、血流障害や肝癌の合併により細胞内のGOT/GPT比が増大し、そのため逸脱酵素のGOT/GPT比が大きくなり、血清GOT/GPT比が1より大きくなると考えられています。
【参考文献】
[1]
大久保昭行:血清酵素活性測定法と臨床的意義 GOT,GPT.臨床病理特集第55号、115-133、1983
(1997年7月7日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)タイプ&スクリーンで問題のない場合、1)ラベルの貼り間違いを考慮すると、やはり日赤血の型確認は省略できないのでしょうか、また2)凍結血漿でも汎凝集反応を考慮すると交差適合試験は省略できないのでしょうか。(秋田県 臨床検査技師)

(A)患者の血液型検査と抗体スクリーニングが完全に実施され、不規則抗体が全く検出されなかったと仮定してお答えします。

 1)日赤血のラベルの貼り間違いの可能性について
 日赤血のラベルの貼り間違いの頻度は明らかにされていません。1988年からの自験例は、1993年および1994年に1件ずつで、それを機に作業手順を改善してからは貼り間違いは見つかっていません。年間採血本数は約10万本ですから、頻度は10万分の1から50万分の1以下と言えます。
 輸血療法の適正化に関するガイドライン(平成元年9月19日 健政発第502号 各都道府県知事あて 厚生省健康政策局長通知)によれば、タイプ・アンド・スクリーンとは「術中輸血の可能性が30%以下と予想される待機的手術では、受血者のABO式血液型、Rho(D)因子、不規則性抗体の有無をあらかじめ調べ、Rh陽性で不規則性抗体がない場合は、術前に交差適合試験を行わない。緊急に輸血療法が必要になった場合には血液をとりよせ、オモテ検査によりABO式血液型のみを確認するか、あるいは交差適合試験(主試験)を生理食塩液法(迅速法)により行い、適合血を輸血すること」とあります。
 したがって、患者の血液型検査と抗体スクリーニングが完全に実施されていれば、37℃反応性抗体を検出する交差試験は不要ですが、輸血用血液のABO型をいずれかの方法で確認する必要があるということになります。患者の抗A、抗B抗体価が低い場合、食塩水法による交差試験ではABO型違いを見逃すことがあるので、オモテ検査による日赤血の型確認の方がより確実です。

 2)汎凝集反応と交差試験について
 汎凝集反応は重篤な感染症を伴った患者、あるいはHEMPAS(hereditary erythroblastic multinuclearity accociated with a positive acidified serum test)などの溶血に伴って起こるとされていますから、輸血部であれば患者情報を入手できるので、可能性のある患者に対して、まずレクチンによる反応を見て、必要な場合のみFFPの交差試験を実施すればよいと思います。
 汎凝集反応を示す患者は病院輸血部に勤務していた十数年間に1例見ただけですが、レクチンやモノクローナル抗体による反応が同定には有効であり、in vivo と in vitro では血漿に対する反応が異なっていたと記憶しています。
 滅多にないことのために多大な労力を使うより、患者情報を入手できる輸血申込書を作成し、臨床との情報交換を密にすることで、安全を確保できるのではないでしょうか。

(1997年6月13日 認定臨床検査医 竹中道子(No.235))


(Q)O157の産生するVero毒素について、毒素の検出量と臨床症状とは関連性があるのでしょうか。(宮崎県 臨床検査技師)

(A)Vero毒素の検出にはいくつか方法があります。
 デンカ生研のラテックス法はコロニーからの凝集法であり、一回増菌の操作が入っているため、凝集価が患者の体内における菌の毒素産生量を直接反映していない可能性を考えておく必要があります。文献的に調べた範囲では、この方法によって検出される毒素の力価と臨床症状との関連について、特に情報は得られませんでした。
 バイオラッドのキットは直接便からVero毒素を検出しますが、検出された毒素の量と臨床症状とは関連がないと添付文書に記載されています。なお、同じキットを販売しているオルソ社からは、この件に関して特に情報は得られませんでした。ただし、デンカ生研のラテックス法の凝集価とオルソ社のEIAキットの吸光度との間には相関関係があるようです。またオルソ社のEIAキットの吸光度から便中の毒素量を定量できる可能性があり、一部の施設でその検討が行われているようです。
 以上のように、毒素の検出量と臨床症状との相関については未だ確定的な情報はありません。当面は少なくともそのような検討の動向に注意していれば十分と思われますが、むしろ今後の検討課題として自ら取り組んでみてはいかがでしょうか。
(1997年5月29日 認定臨床検査医 藤田直久(No.326))


(Q)MCTD小児患者の胸水中のアデノシンデアミナーゼ(ADA)が55U/l(IU/l)を示しましたが、胸水の好酸菌培養及びツ反は陰性でした。自己免疫疾患による胸水ADA活性の増加と考えてよいでしょうか。(広島県 小児科医)

(A)胸水中のADA活性値は結核性胸膜炎では著しく上昇するため、癌性胸膜炎や細菌性胸膜炎との鑑別に用いられています(結核性胸膜炎では65.5±17.9U/l、非結核性胸膜炎では17.7±11.46U/l、SRL社による)。但し、ADAは赤血球中に高濃度に存在するため、胸水中に血液が混入し溶血しているような検体は避ける必要があります。
 ご質問の症例では胸水の好酸菌培養及びツ反が陰性とのことですが、これだけではやはり結核性胸膜炎を否定できません。したがって結核菌の塗抹培養だけでなく、PCR法を加え、検査を繰り返す必要があります。また、最近では気管支肺胞洗浄液のADA活性測定の診断学的有用性が検討されており、粟粒結核における増加が早期診断の補助として有効であることが指摘されています。
 なお、自己免疫疾患における血清ADA活性の増加は報告されていますが、胸水についての報告はないようです。ただし、血清ADA活性は、肝臓やリンパ球、なかでもT細胞系に由来すると言われているので、Tリンパ球の浸潤を伴う胸膜炎では、胸水ADA活性が増加する可能性は考えられます。
【参考文献】
[1]
カレッド・レシャートほか:各種胸膜炎における胸水中腫瘍マーカー(CEA、TPA、ADA、ferritin、β2マイクログロブリン、sialic acid)の臨床的意義、日胸疾会誌 25:1174-1180、1987
[2]
佐々木晶子:自己免疫疾患におけるアデノシンデアミナーゼの病態論的意義、日整会誌 58:219-230、1984
[3]
大畑雅彦ほか:血液悪性腫瘍におけるIAPとADAの同時測定、臨床病理 38:703-709、1990
[4]
倉田矩正:Adenosine deaminase−その基礎と臨床−、千臨技会誌 34:19-27、1985
[5]
久保田勝ほか:粟粒結核における気管支肺胞洗浄液Adenosine deaminase(ADA)活性測定の診断学的有用性、日胸疾会誌 34:139-143、1996
(1997年5月19日 認定臨床検査医 〆谷直人(No.352))


(Q)甲状腺機能を調べる場合、FT3・FT4濃度ではなく、あえて総T3・総T4濃度を測定する意味はあるのでしょうか。(神奈川県 臨床検査技師)

(A)T3、T4は大部分が血中でサイロキシン結合グロブリン(TBG)をはじめとするサイロキシン結合蛋白(TBP)と結合しており、その濃度変化による影響を受けやすいため、甲状腺機能を調べる目的では、生理的に活性を持つFT3・FT4濃度を測定すれば十分であり、総T3・総T4濃度を測定する必要はありません。
 ただし、総T3・総T4濃度の異常により、結合蛋白であるサイロキシン結合グロブリン(TBG)の病的な増加または減少が発見されるきっかけとなることが少なくないので、そのような場合には意味があります。TBGが異常高値となるのは妊娠や経口避妊薬の服用によることが多く、また異常低値を示す先天性疾患として減少症や欠損症があります。
(1997年5月8日 認定臨床検査医 内村英正(No.300))


(Q)入院時のスクリーニング検査として行うHBs抗原、HCV抗体、梅毒の検査は常に保険で認められるのでしょうか。(臨床検査技師)

(A)入院時のスクリーニング検査として、ご質問にあるこれらの検査を一律に実施すれば、その内の何割かは保険審査で削られると思います。一般的にいえば、個々の患者の病気(病態)に対し、これらの検査が必要な場合は保険で認められますが、必要がないと判断されれば認められないことになります。
 保険の査定法は、都道府県により、病気との関係により、また、査定する医師の見解により異なります。いずれにしても、実際にレセプトを出してみないと、どの程度の割合で削除されるかはわかりません。
(1997年5月7日 認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45))


(Q)CK活性がゼロ(0IU/L)を示す症例が見つかりました。他に異常は見られませんが、何が原因でしょうか。

(A)原因としてもっとも考えやすいのは、macro CKにおける免疫グロブリンのように、何らかの物質がcatalytic site を覆ってしまっている可能性です。免疫グロブリンが結合しているmacro CKであれば、臨床的に問題になることはありません。
 理論的には、遺伝子の変異により酵素活性のない異常CKが産生されており、ミトコンドリア内に別のリン酸化経路のshuntのようなものができて代償している可能性もありますが、この考え方は一般的ではありません。
 精査のためには、western blot法またはELISA法によるCK蛋白の存在を確認する必要があります。またCKにIgなどの蛋白が結合していることを証明するためには、Western blotの際、非変性条件でPAGEを行います。
(1997年5月7日 認定臨床検査医 鵜澤龍一(No.239))

(追加)この質疑応答に関して、ヘパリンを持続投与されている患者において、試薬中のMgとヘパリンおよびLDLが反応し沈澱してしまうことにより、CK活性が極端な低値あるいはマイナス値を示す例を経験したとのコメントが寄せられました。
 LDLやVLDLはポリアニオン(ヘパリン、デキストラン硫酸、リンタングステン酸、ポリエチレングリコール6000)と、二価の陽イオン(Mn2+、Mg2+、Ca2+)の組み合わせで不溶性の沈澱を形成します。実際のHDL-Chol測定に用いられるヘパリン-CaCl2-NiCl2沈澱試薬の濃度は、ヘパリンNa塩(150U/mg以上のもの)1.64g、CaCl260mmolおよびNiCl21.51mmolを精製水1リットルに溶解したものです。仮に、患者の血中ヘパリン濃度が先の沈澱試薬に近い濃度で、使用しているCK測定キットがJSCC準拠のものであるとすれば、その試薬に添加されているマグネシウム濃度は10mmolであり、先程の試薬のCaCl2濃度よりも低くなりますが、ある程度条件が整う可能性はあります。その場合にはCKの活性化に必要なMgが形成された沈澱物の中に取り込まれ、かつ反応液の混濁により340nmにおけるNADPHのイニシャルODが上昇し、異常に低いあるいはマイナスの測定値が得られることは十分に考えられます。

(1998年10月13日 認定臨床検査医 鵜澤龍一(No.239))


(Q)ラムダ鎖型のベンス・ジョーンズ蛋白が検出された血清の蛋白分画にMピークが認められません。なぜでしょうか。

(A)ベンス・ジョーンズ蛋白(BJP)はモノクローナルな免疫グロブリンL鎖で、ラムダ鎖型は通常二量体構造をとり、分子量は約4万余りです。
 BJPは分子量が小さいために、産生後恐らく数時間以内に腎臓から排泄されてしまうと考えられ、糸球体における濾過機能の著しい低下、あるいは腎臓からの排泄を上回る産生がない限り、血中濃度はあまり上昇しません。またラムダ鎖型では、「βシート構造」と呼ばれる構造特性によりアミロイドが全身に沈着し、ネフローゼ症候群を合併しやすく、この場合には分子量の大きな蛋白まで大量に尿中に漏出するため、BJPも血中には殆ど見られません。BJPの検出に尿を検体として免疫電気泳動を行うのはこれらの理由によります。
 また、BJPの等電点は症例によって異なるため、蛋白分画に認められるモノクローナルなピークの出現位置は一定せず、α2位からmid-γ位に分布します。
 以上から、血清蛋白分画でBJPによるMピークが認められない原因として、次の2つが考えられます。
(1)BJPの血中濃度が低すぎる: 蛋白の電気泳動法による検出感度限界は約100mg/dlなので、ベンスジョーンズ蛋白に限らず、これ以下の濃度では全てのMピークの検出は不可能です。なお、免疫電気泳動法による検出感度限界はおおよそ20-40mg/dlなので、BJPの血中濃度によってはこちらだけに陽性所見が認められる可能性もあります。
(2)α2分画からγ分画までのいずれかのピークに重なり、分離できない: デンシトグラムでは分離できなくても、セルロースアセテート膜を観察するとMバンドが見えることがあるので、確認してみて下さい。また血清蛋白の免疫電気泳動法でBJPが認められる場合には、その移動度を目安にして下さい。
(1997年5月7日 認定臨床検査医 伊藤喜久(No.172))


(Q)ABO血液型のウラ試験に自家製の血球を用いる場合の注意事項について教えてください。(神奈川県 臨床検査技師)

(A)ABO血液型のウラ試験に用いる血球に必要な条件は次の通りです。

(1)保存中や被験検体と混ぜたときに溶血しないこと

  • 被験検体が血清の場合もあるので、EDTA入りとする。
  • 血球を安定に保存するため、Alsever液に浮遊させる。
(2)ABO抗体以外の不規則抗体に反応しないこと
  • A、B、O血球それぞれM(-)、P1(-)であること。できればLe(a-b-)であればなおよい。
  • 抗A1との反応を避けるため、A血球としてA2血球を用いている血液センターもあるが、病院の輸血検査室では必須ではない。
  • 市販血球には、新生児溶血性疾患等を考慮してD(-)を用いているものもあるが、日本では必須ではない。
(3)被凝集価が256倍以上あること
  • 市販の抗A、抗B血清を用いてきちんと凝集する血球を選べば、通常は被凝集価が256倍以上あるので問題ない。
 以上の条件を満たせば、自家製の血球を用いてウラ試験を行っても問題ありません。ただし、(2)の条件を満たす血球を選ぶためには、適当な抗血清を用意し、少なくとも10検体以上の血球を調べる必要が生じます。したがって、この作業にかかる費用と時間を考慮に入れ、市販品を購入す べきかどうかを判断する必要があります。

(1997年4月23日 認定臨床検査医 竹中道子(No.235))


(Q)現在血液塗抹標本の染色に広く用いられている染色液について、組成の違いおよびメーカー間差と、染まり方の差との関係について教えて下さい。(臨床検査技師)

(A)現在最も広く行われている染色法は、May-Giemusa染色およびWright-Giemusa 染色です。文献[1]によると、ライト液の組成は、ライト粉末(メチレン青に炭酸水素ナトリウムを加えて熱し、これにエオジンを加えたもの)0.3g、グリセリン3.0ml、 および純メタノール97.0mlです。その他、ギムザ液等、さらにその染色法などについては文献[1]を参照してください。
 メーカーによって組成が多少異なるのは、各々がよりよい方法を求めて原法に少しずつ工夫を加えてきたためで、原料は同じですが、その構成割合が多少異なるようです。
 May-Giemusa染色とWright-Giemusa染色ではほぼ同じ色合いに染まりますが、実際に標本を染めてみると、色合いの違いに気付くことが少なくありません。これは染色法やメーカーによる違いであることはむしろ少なく、染色液を薄める緩衝液や洗いに用いる水道水のpHの違いによることがほとんどです。また、同じ染色液をあまり多くの標本の染色に用いると、色が充分に出なくなってしまいます。
【参考文献】
[1]
金井正光編著:臨床検査法提要、改訂第30版、p281-283、金原出版、1993
(1997年4月23日 認定臨床検査医 北村 聖(No.363))

(追記)これについては下記文献にもよく書かれているので、参考にしてください。
[2]
原島三郎:Giemsa, May-Gr毆ald-Giemsa およびWright染色法の歴史的考察、日本臨床細胞学雑誌 25:602-609、1986
(1997年8月13日 認定臨床検査医 熊坂一成(No.236))


(Q)18歳男性の集団健診で午前10時頃採血した検体の血清鉄の半分近くが異常高値を示したので、数日後午前11時頃再び採血したところ測定値が半分以下になりました。原因として何が考えられるでしょうか。

(A)被験者が均質な健常者集団であることから、原因としては測定誤差と生理的変動の2つの可能性を検討する必要があります。
(1)測定誤差
 本来正常であるはずの被験者の多くが異常高値を示していることから、偶発誤差ではなく、系統誤差が考えられます。血清鉄の測定では、採血に使う注射器や検体容器、測定に使う器具や試薬のわずかな鉄汚染、あるいは溶血により血清中に漏れ出たわずかなヘモグロビン鉄が測定値に大きく影響します。キャリブレーションや試薬調整に問題がなかったかどうか、コントロールの値はどうだったかなど基本的事項の確認に加え、採血から測定までの間に鉄汚染の可能性がなかったか、血清分離前に不適切な取り扱いによる溶血がなかったかどうかを注意深く再検討する必要があります。
(2)生理的変動
 健常者の血清鉄は朝高く夕方低い日内変動を示すことが知られており、朝の値は夕方の2倍近くにも及ぶことがあります。しかし、ご質問にあるような1時間程度の差で、測定値が半分になる程の差が生じることは考えにくく、生理的変動だけで説明することは困難です。
 可能であれば、異常高値を示した最初の検体と2回目に採血した検体を同時に測定し、両者で近い値が得られれば分析過程における鉄汚染あるいは通常の測定誤差、両者の差が縮まらなければ採血や検体保管の際の鉄汚染あるいは溶血が疑われます。

(1997年4月18日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)便中の赤痢アメーバを顕微鏡で見つける方法を教えてください。(大阪府 臨床検査技師)

(A)赤痢アメーバ症は、熱帯地方を中心に世界的な分布を示す原虫性疾患です。わが国では環境衛生の改善により、感染者数も激減したかのように思われていました。しかし近年、海外旅行者数の増加や、男性同性愛者や精神薄弱者などの特定集団内で赤痢アメーバ症が増加していることが明らかになっています。
1.栄養型検出法
 赤痢アメーバの栄養型を生きたまま観察するには、患者の排出直後の糞便の粘液血性部分をスライドグラスに少量採り、鏡検します。栄養型赤痢アメーバは義足を出して活動しています。この時温度が低下すると活動が弱くな るので注意が必要です。
2.嚢子検出法
 嚢子は主として有形便中に存在しています。
 1)生鮮標本作成法
 スライドグラスに生理食塩水を1滴載せ、これに糞便をごく少量採り、よく混和します。糞便の量は、液がやや白濁する程度で、多すぎてはいけません。これにカバーグラスをかけて弱拡大(100倍)で観察します。嚢子は円形をした明瞭な無色の微小な油滴のように見えます。強拡大(400倍)にするとある程度確信が持てますが、嚢子の内部構造は殆ど分かりません。そこで、次のヨード染色を行います。
 2)ヨード染色標本作成法
 スライドグラスにヨード液を1滴載せ、これに糞便を1)の要領で懸濁し、カバーグラスをかけて鏡検します。嚢子は濃黄色ないし褐色に染まり、核や仁も判別できます。
3.集嚢子法
 糞便から嚢子を集める方法として次の2つの方法が用いられます。
 1)硫酸亜鉛遠心浮遊法
 糞便0.5gに5〜10mlの水を加えて十分撹拌混和後、ガーゼ1枚で濾過して2,000rpmで2分間遠心し上清を捨てます。硫酸亜鉛33gを蒸留水100mlに溶かし比重1.18とした硫酸亜鉛浮遊液を遠心管の八分目まで加え、よく振盪混和して1,500rpmで1分間遠心します。
 細い針金で径3〜4mmのループを作り(白金耳でもよい)、ループを柄と直角になるように曲げ、ループを液面に上から静かに接触させて、浮かんでいる嚢子を表面張力によりループに捕捉してスライドグラス上に移し、ヨード液を1滴加えてからカバーグラスをかけて鏡検します。
 2)ホルマリン・エーテル法(M.G.L.法)
 糞便0.5gに15mlの水を加えて十分撹拌混和後、ガーゼ1枚で濾過して2,000rpmで5分間遠心し上清を捨てます。沈渣に10%ホルマリン7mlを加え、よく撹拌して30分放置します。次いで3〜5mlのエーテルを加え、管口を指で押さえて約30秒間強く振盪し、2,500rpmで2分間遠心後上清を捨て、沈渣にヨード液を1滴加えて鏡検します。

(1997年4月14日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院 野崎 司(中央臨床検査センター))


(Q)尿沈渣中の尿細管上皮細胞はどのくらい出ていたら病的なのでしょうか。基準値はあるのでしょうか。(福井県 臨床検査技師)

(A)腎・尿路系に分布する上皮細胞は、生理的な剥離により1日約100万個の割合で尿中に排泄されています。これを尿沈渣にしてみると強拡大(400倍)で5〜10視野に1個程度認められることになります。したがって、尿細管上皮細胞が強拡大で各視野に1個以上認められるような場合には、何らかの細胞障害による病的な剥離亢進を疑ってよいと考えられます。なお、扁平上皮細胞は臨床的意義に乏しく、特に女性では外陰部などからの混入がよく見られるので、多数認められても問題にはなりません。
 ところで、尿細管上皮の細胞障害を知るより定量的な検査として、尿中NAG(β-N-アセチルグルコサミニダーゼ)活性値があります。NAGは腎臓の近位尿細管上皮のライソゾームに多く存在する酵素のひとつで、尿細管上皮細胞が障害を受けると尿中に逸脱し、活性値が上昇します。尿細管の機能障害を反映するといわれるβ2ミクログロブリン、尿蛋白、尿糖や、クレアチニンクリアランスとはあまり相関しないので、細胞障害を示す独立した指標と考えられています。各種腎疾患、腎移植後の拒絶反応、薬物による腎障害、糖尿病等など、尿細管の細胞障害を伴う疾患では、これらの定量的検査を組み合わせて総合的に判断することが多いので、尿沈渣の所見は大まかな指標としての役割が主となり、あまり厳密な基準値は定められていません。

(1997年4月14日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院 野崎 司(中央臨床検査センター))


(Q)便のビリルビンとウロビリンの検査で、シュミット法は試薬に塩化第二水銀を含むため環境汚染の心配があります。これに代わるよい方法はないでしょうか。(大阪府 臨床検査技師)

(A)胆汁に含まれるビリルビンは腸管内に入った後腸内細菌によって還元され、ウロビリン体(ステルコビリン)となって糞便に黄褐色の色調を与えます。そこで糞便中ウロビリン体の検査は、黄疸の原因の判別やその経過観察に用いられます。特に閉塞性黄疸では糞便中のウロビリン体は殆ど消失し、その再出現は閉塞部位の再通過を示します。また、溶血性黄疸などビリルビンが過剰に生成される場合には、糞便中のウロビリン体が増加します。一方正常糞便中には通常ビリルビンは認められず、大腸および小腸の慢性炎症、潰瘍などによる下痢の際に出現します。なお、乳児では正常でも糞便中にビリルビンを認めます。
 糞便は生理的に排泄量や性状がさまざまに変化するため、糞便中のビリルビンおよびウロビリンの含有量は著しくばらつきます。したがって、これらは比較的大まかな指標として診断に用いられます。また、このような病態の診断には、血清中のビリルビン濃度など他に精度の高い定量検査がたくさん用意されています。そこで、あまり厳密とは言えませんが、シュミット法の代用法として次のような方法を用いても臨床的には問題ありません。即ち、糞便に少量の水を加えてよく混和後遠心し、その上清に尿定性検査用の試験紙を入れ、ビリルビンとウロビ リノーゲンを判定します。

(1997年4月14日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院 野崎 司(中央臨床検査センター))


(Q)尿沈渣でレシチン顆粒の判断に迷うことが多く困っています。確実な判定法があれば教えてください。(大阪府 臨床検査技師)

(A)レシチン顆粒はリポイド小体ともいわれるように、尿沈渣中で円形や類円形のリポイド様構造を示し、類デンプン小体同様、前立腺由来の分泌物です。したがって前立腺マッサージ後尿の場合や、背景に性腺分泌物など他の精液成分を認める場合比較的容易に鑑別できます。またこれら尿沈渣中の精液成分は臨床的意義に乏しく、定量的観察は必要ありません。このような背景から、今のところレシチン顆粒に特異的な証明法は確立されておらず、通常はご質問にあるように類似成分との比較による消去法で判断します。
  • 赤血球は淡黄色で細胞内部に透明感があるのに対し、レシチン顆粒はざらざらした不透明感があることから鑑別します。
  • 白血球は、90%以上が好中球なので分葉核を認めることや、核が不明瞭な場合でもPrescott-Brodie染色で紫色に染まることから鑑別します。
  • 酵母様真菌は青みを帯びた楕円形で、鎖状につながったり枝分かれしていることから鑑別します。
  • 脂肪球は大小不同で光沢があり、偏光顕微鏡で重屈折脂肪体(マルタ十字)が見られることがあったり、Sudan III染色で橙色〜赤色に染まることから鑑別します。
 ただし、これらによってもなお鑑別が難しい場合もあるので、常日頃から臨床側とのコンタクトを密にし、必要に応じて他の臨床所見の提供や採尿のやり直しを依頼することもやむを得ないと思います。

(1997年4月14日 認定臨床検査医 伊藤機一(No.60)、布施川久恵(No.366)、東海大学医学部付属病院 野崎 司(中央臨床検査センター))


(Q)最小検出濃度の求め方について教えて下さい。(三重県 臨床検査技師)

(A)最小検出濃度は検出限界あるいは最小検出感度とも呼ばれ、ゼロ濃度から区別できる検出可能な濃度の最低限界を意味します。ただしあくまで「区別できる」濃度であり、信頼できる測定値の得られる濃度の最低限界という意味ではありません。求め方はいくつか知られていますが、いずれも定められた名称はありません。
  1. ゼロ濃度の検体を複数回測定し、その測定値の 平均+2SD、あるいは吸光度等の 平均+2SD を標準曲線から測定値に換算した値
  2. 既知濃度検体の希釈系列を複数回測定し、その測定値の 平均−2SD>0 となる希釈系列の最小濃度
  3. ゼロ濃度と既知濃度検体の希釈系列を複数回測定し、前者の測定値あるいは吸光度等の 平均+2SD が後者の測定値あるいは吸光度等の 平均−2SD と重ならない希釈系列の最小濃度
  4. ゼロ濃度と吸光度等がそれに近い値を示す低濃度検体を複数回測定し、測定値の平均が 前者=後者 を帰無仮説、前者<後者 を対立仮説とする片側t検定を行い、有意水準0.01で差が認められたときの測定値の平均値(IFCCが推奨している方法、文献[1]参照)
  5. 既知濃度検体の希釈系列を複数回測定し、測定値あるいは吸光度等のCVが10%以下となる最小濃度(他と区別して実効感度と呼ばれることがある)
 以上の方法はいずれも用いるデータが正規分布に従うことが前提条件なので、計算の前にヒストグラムを書いて分布の形を確認することが大切です。余りにも歪んでいる場合には、これらの計算は意味がありません。
 信頼区間はすべて2SD(片側危険率 2.3%)としていますが、絶対的なものでなく、要求される危険率に応じて変更します。また複数測定の回数も決められたものはなく、通常5回〜20回程度です。
 A・C・Dでゼロ濃度の検体が得られない場合には、測定系に応じて、反応過程の一部を省く、反応に必須の成分を省く、検体にゼロ濃度標準液や生理食塩水を用いるなどの工夫をします。
 A・C・Eで測定値あるいは吸光度等のどちらを統計計算に用いるかについては、分析装置のデータ出力機能や標準曲線の形を考慮の上決定します。

 これらの方法によって求められた最小検出濃度は、厳密に言うとそれぞれ意味や特徴が異なります。特に、その値が測定値を意味するA・Dと、真の濃度を意味するB・C・Eの区別に注意して下さい。

  1. この濃度以上の測定値が得られた場合、測定対象物質が検体中に存在していると言える。ただし非特異反応は別途否定しておく必要がある。
  2. ゼロ以下の測定値が得られた場合、測定対象物質が検体中にこの濃度以上存在する可能性はないと言える。
  3. 測定対象物質が検体中にこの濃度以上含まれているとき、その測定値は常にゼロ濃度の検体の測定値より大きくなる。
  4. 何回か測定した平均値がこの濃度と同じかそれ以上になる検体は、この測定法により統計的にゼロ濃度の検体と区別できる。ただし、各々の測定値の分布の重なりが大きければ、1回の測定値だけで区別できるとは限らない。
  5. 通常は濃度が高くなるほどCVが小さくなるので、この濃度以上の測定値はCVが10%のレベルで信頼できると言える。ただし、この濃度における直線性や正確度は分からない。
 どの方法が最適か一概には言えないので、実際にはまずこの中から複数選択してそれぞれの値を求めます。AやBだけでは不安があるので、グラフに表わすと視覚的に納得しやすいCを中心に、DやEを組み合わせて、これらのうち最も高い濃度を採用することが多いようです。
 このようにして求めた最小検出濃度の評価は、それが臨床的に問題となる濃度を十分下回っているかどうかで優劣を判断します。特に、これらの値が近接している次のような検査項目で注意が必要です。
 内分泌検査における低値領域の測定では、正常より低いかどうかの判定が重要になることが多く、例えばTSHの場合は甲状腺機能亢進症の重要な指標になっています。したがって、正常下限を十分下回っていることが必要です。
 病原体の抗原検査では、臨床的にはその定量値よりも、むしろ定められたカットオフ値に基づく陽性か陰性かの判定が重要となります。カットオフ値は患者と健康人の測定データを基に、偽陰性と偽陽性ができるだけ少なくなるように決めますが、その値を十分下回っていることが必要です。
 薬物濃度の測定では、臨床的には治療至適濃度範囲にはいっているかどうかが重要で、それより低値の領域が問題になることは殆どありません。したがって治療至適濃度の下限値と比較し判断します。
 腫瘍マーカーは正常以下の値が臨床的に問題にされることは殆どありません。したがって正常上限値と比較し判断します。

 このように、最小検出濃度は画一的に求められるものではありません。以上の説明を参考に、そのつど適切な求め方と評価基準を取捨選択してください。

【参考文献】
[1]
中甫:測定法の検出限界の求め方、Medical Technology、18:1041-1045、1990
(1997年4月3日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)GOTとGPTのアイソザイムの種類と測定法、又その臨床的意義を教えて下さい。

(A)AST (GOT)には細胞上清分画にある ASTs (s-GOT) と、ミトコンドリア内部に存在するASTm (m-GOT) の2つが知られています。LDやCKなどとは異なり、臓器、組織による特異性はありません。ミトコンドリアの存在しない赤血球は別にして、どの臓器にも共通な2つのアイソザイムが存在します。
 血清で測定されるのは組織から逸脱したASTであるため、健常人のASTsの活性は、ミトコンドリアの中に閉じ込められているASTmより高値を示します。しかし、急性肝炎の極期や心筋梗塞などの急性循環障害の際に見られる強い組織障害では、ミトコンドリアも破壊されてASTmも逸脱を始め、血清中の活性が上昇してきます。血中半減期がASTsの4.7時間にくらべてASTmは約42分と短いことも手伝って、これらのアイソザイム測定は肝細胞壊死の早期発見や組織 崩壊が峠を越したか否かの推定に役立つといわれています。
 分析方法には免疫化学的分画法、電気泳動法、ミニカラム法、プロテアーゼ法などがあります。セルロース・アセテート膜の電気泳動では、ASTsはα2分画に、ASTmはγ分画に泳動されます。
 このほか、特殊なものとして免疫グロブリン結合型ASTがあります。出現頻度は森山らによれば、2万例中16例といわれていますが、その臨床的意義については現在研究が進められています。
 なお、ALT (GPT)のアイソザイムについては、現在ほとんど検討されておりません。
【参考文献】
[1]
亀井幸子:トランスアミナーゼ、臨床検査Mook 31:8-17、1988
[2]
森山隆則ほか:高AST/ALT比症例におけるAST結合性免疫グロブリンの頻度、生物物理化学 31:361、1987
(1997年4月3日 認定臨床検査医 木村 聡(No.302))


(Q)糖尿病性腎症の早期発見に欠かせない尿中微量アルブミンですが、他にはどんなときに見られるのでしょうか。(神奈川県 臨床検査技師)

(A)尿中微量アルブミンが正常上限をはるかに越える場合は、
  1. 生理的状態では高齢者、運動、高蛋白食、遊走腎など
  2. 病的状態では各種腎疾患、高血圧、心不全、感染症、細菌尿、糖尿病(低血糖時,高血糖時,重症網膜症の存在)など
があげられます。なお、糖尿病で微量アルブミン尿が重要とされるのは
  1. 糖尿病性腎症の早期発見に有用であること
  2. 早期腎症(微量アルブミン尿)の時期は、血糖、血圧のコントロールで改善すること
  3. 放置すると進行し、腎不全に至ること
がその理由です。

(1997年4月3日 香川医科大学臨床検査医学 河西浩一(日本臨床検査医会会員))


(Q)レジオネラ菌の染色に用いるヒメネス染色について、試薬の調整法を含めて具体的に教えてください。(広島県 臨床検査技師)

(A)培地上に発育したレジオネラ菌はグラム染色でも染まり、多形性のグラム陰性桿菌として観察することができます。しかし、痰や組織などの検体中ではグラム染色には染まりにくいので、Gimenez(ヒメネス)染色が用いられます。ただし、この染色法はレジオネラ菌に特異的なものではないので、染まったからといってその細菌がレジオネラ菌であるとは限りません。
 さて、ご質問のGimenez染色の方法は次のとおりです。
 1.石炭酸フクシン保存液の作成
  a)10%塩基性フクシン95%エタノール溶液:10ml
  b)4%石炭酸水(1.0mlフェノールを24mlの蒸留水に溶解):25ml
  c)蒸留水:65ml
  a、b、cを十分混和し、室温保存しておく

 2.使用時にまず0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液を作成
  a)0.2M NaH2PO4(2.84g/蒸留水100ml):3.5ml
  b)0.2M Na2HPO4(2.76g/蒸留水100ml):15.5ml
  c)蒸留水:19.0ml
  a、b、cを混和(pH 7.45)

 3.染色液を調整
  a)1.の石炭酸フクシン保存液:4ml
  b)2.の0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液:10ml
  混和後直ちに濾紙で濾過、48時間以内に使用する

 4.マラカイトグリーン液の作成
  マラカイトグリーンオキサレイトを蒸留水で溶解し0.8%溶液とする

 5.染色の手順
  1)塗抹標本を熱固定
  2)3.の染色液をスライドガラスの上に満載し1〜2分間放置
  3)水洗
  4)4.のマラカイトグリーン液で6〜9秒染色
  5)水洗
  6)再び4.のマラカイトグリーン液で6〜9秒染色
  7)水洗、乾燥、鏡検

 6.所見
 背景の青に対比して菌体は赤く鮮やかに染め出される。
(1997年3月27日 認定臨床検査医 猪狩 淳(No.30))


(Q)シンチグラムの後で検査用に採血する場合、どのくらい時間をおくべきか、骨シンチ(99mTc-リン酸化合物)、Gaシンチ(67Ga-citrate)、副腎シンチ(131I-adsterol)について相談を受けました。どのように考えればよいでしょうか。(兵庫県 臨床検査医)

(A)通常の核医学検査の目的で放射性同位元素を投与された患者から、検査用検体として血液を採取する場合、2つの問題点を考える必要があります。即ち(1)放射能を帯びた検体を扱う医療従事者の被爆、および(2)検体中の残存放射性同位元素によるラジオイムノアッセイへの干渉です。
 骨シンチグラムに用いられる99mTc-リン酸化合物は、静注後2〜3時間後に約50%が腎臓から排泄され、また99mTcの物理学的半減期は6時間と比較的短く、シンチグラムの計測は投与後3時間で行います。したがって投与後24時間以降に採血すれば残存放射能はごくわずかとなり、通常の採血量では上記(1)・(2)のいずれについても問題ないと考えられます。
 悪性腫瘍の描出に用いられる67Ga-クエン酸は、静注後24時間後以内に約20〜30%が尿中に、約10%が腸管内に排泄され、また67Gaの物理学的半減期は78時間です。ただし細胞分裂の活発な臓器に集積する性質があり、血中に残存する量はわずかです。シンチグラムの計測はバックグラウンドの減衰を待って通常投与後48時間で行いますので、投与後3日以降の採血であれば問題ないと考えられます。
 131Iの物理学的半減期は8日と長く、シンチグラムの計測は投与後7日めに行います。ただし副腎の造影に用いられる131I-adsterol投与後の血中残存量は、1日めで投与量の0.85%、3日めに0.25%、1週間後には0.07%ですので、投与後3日以降の採血であれば問題ないと考えられます。
【参考文献】
[1]
佐々木康人、永井輝夫編:最新臨床核医学、朝倉書店、1986.
[2]
鳥塚莞爾監修、小西淳二編集:核医学ハンドブック、金芳堂、1996.
(1997年3月19日 認定臨床検査医 内村英正(No.300))


(Q)胸痛の患者さんで、CKは200から500IU/l程度まで、CK-MBは10から25 IU/l まで上昇しましたが、心電図、RIでは所見がありませんでした。ただ、心筋に特異的といわれる心筋トロポニンTも <0.1から0.78ng/mlまで上昇したのですが、どう解釈すれば良いのでしょうか。(臨床検査技師)

(A)心筋トロポニンTは心筋に特異的に存在する構成成分であり、血中に認められた時には心筋障害を考えるのが妥当です。通常の心筋梗塞では総CK活性が1,000〜3,000IU/l、CKーMB活性が100〜300IU/lであり、この時にトロポニンTは10〜30ng/ml程度に上昇します。総CK活性やCKーMB活性が発症後20時間前後にピークがあるのに対し、トロポニンTは15時間前後と35時間前後の2つにピークがあります。ご質問の内容だけでは各測定値の経時的な推移は分かりませんが、通常の経過をとったと仮定すると次の2つが考えられます。
1.微小梗塞:
 極めて小さな梗塞が起こった場合には、殆ど心電図変化が認められないことがあります。心筋トロポニンT測定の意義のひとつに、このような微小梗塞の検出があります。本症例のトロポニンTの上昇は通常の15から40分の1であり、これから推測すると極めて小さな梗塞を発症した可能性が疑われます[1]。
2.不安定狭心症:
 原則として狭心症では心筋の不可逆的な障害を起こさないとされていますが、不安定狭心症では心筋トロポニンTが上昇する場合があり、微小心筋障害(minor myocardial damage)が原因である考えられています。このような症例では急性心筋梗塞や心臓突然死などの心事故を発症する危険性が高いことが確認されており[2]、また不安定狭心症における心事故早期予知に対する感度は、トロポニンT=ミオグロビン>CKーMB>ミオシン軽鎖>CKの順との報告[3]もあります。したがってもしこの症例が不安定狭心症の場合は、心筋トロポニンTの上昇は今後の心事故発生の危険性が高いことを意味します。
 以上のように、わずかであっても心筋トロポニンTの上昇が通常の時間経過で認められた場合には、心筋障害の存在を考えて十分な経過観察が必要と考えられます。
【参考文献】
[1]
高木 康:心筋梗塞の生化学的マーカー−心筋構成(構造)蛋白の考え方−、臨床検査、40:550-554、1996.
[2]
Hamm CW, et al.: The prognostic value of serum troponin T in unstable angina. N Eng J Med, 327:136-150, 1992.
[3]
Seino Y, et al.: Early identification of cardiac events with serum troponin T in patients with unstable angina, Lancet, 342:1236-1237, 1993.
(1997年2月21日 認定臨床検査医 高木 康(No.217))


(Q)アンチトロンビンIIIの測定は活性値とタンパク量についてそれぞれ行われていますが、臨床上どちらが有用なのでしょうか。またこれらの測定値が解離するような症例もあるのでしょうか。(臨床検査技師)

(A)ご質問の通り、アンチトロンビンIIIの測定法には抗トロンビン活性を測定する合成基質法と、抗アンチトロンビンIII抗体と反応する抗原量を測定する免疫学的方法があります。共に定量測定が可能で自動化されているので、検査を実施する上での優劣はつけがたいと思われます。
 臨床的には、スクリーニング検査としての有用性を考えた場合、活性値の低下が直接血栓症の引き金になり、それがDICにおける治療方針に直接影響するので、そちらがより有用であると考えられます。ただし、頻度はそれほど多くありませんが、先天性アンチトロンビンIII欠乏症の場合は、抗原量が減少して活性値も低下するType I(欠乏症)と、抗原量は正常であるが機能異常のために活性値の低下を認めるType II(分子異常症)が存在します。したがってこれらの疾患を疑う場合は、必ず抗原量と活性値を同時に調べなければならないので、抗原量の測定も必要となります。
 なお、先天性アンチトロンビンIII欠乏症は、これまでに人口2000〜5000人に1人の頻度で認められていますが、イギリスの健常者の最近の調査で、250人に1人(0.4%)という高い頻度で見られるとの報告もあります。本疾患は多彩な表現型を示すので、Type IとType IIに明確に分類できない場合もありますが、遺伝子データベースへの現時点での登録数を見ますと、Type Iが113症例、Type IIが143症例となっています。
 また、本症は常染色体優性の遺伝形式をとる疾患ですので、後天的にType IIになることはありませんが、Type Iは通常10〜20歳で発症するのに対して、Type IIは20歳以前に何らかの症状が見られるのは稀で、50歳以後に発症することが多いと報告されています。
(1997年2月13日 認定臨床検査医 腰原公人(No.338)、福武勝幸(No.255)、東京医科大学臨床病理 永泉圭子)


(Q)HBs抗原が陽性であるにもかかわらずHBc抗体が陰性の場合、どのように対処すべきでしょうか。

(A)HBs抗原が陽性でHBc抗体が陰性となるのは、次の場合が考えられます。
  1. B型急性肝炎の初期でHBc抗体の出現前
  2. B型肝炎ウイルスのキャリアでときに見られるHBc抗体陰性者
    • HBc抗体は肝細胞の破壊の結果として産生されるため、今まで全く肝炎を経験していないキャリアでは陰性またはごく低値のことがある
    • ウイルスの突然変異により通常のHBc抗原が出現せず、そのためにHBc抗体が産生されない場合
    • 家族性にHBc抗体の産生が見られない場合
  3. 免疫抑制剤の投与などによる免疫不全状態
 このうち、(1)と(3)は臨床経過を見れば判断に困ることは少ないと思われます。また、(2)についても、HBc抗体が陰性となっている原因を追求する臨床的意義は余りありません。やはり通常の場合と同じように、肝機能、HBV-DNA、HBV-DNAポリメラーゼ、HBe抗原、HBe抗体などの検査によりウイルス感染の確認、および活動性、感染力または治療への反応性などの把握を行い、必要な対策をとることが大切であると考えます。
【参考文献】
[1]
飯野四郎:慢性肝炎: 診断と治療の進歩 I.成因と病態をめぐって 2.B型肝炎ウイルスマーカー、日本内科学会雑誌、83:186-191、1994.
(1997年1月24日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)HIVの検査結果の報告を検査室から主治医に行う場合、特に注意すべき点を教えてください。(京都府 臨床検査技師)

(A)一般的に言えば、検査室から主治医に検査結果を報告する場合には、項目にかかわりなく次のような配慮が不可欠です。
(1)事務的ミスによる誤報告や報告洩れの排除
(2)患者のプライバシー保護
(3)結果に関する問い合わせへの対応
 HIVは社会問題になっているため特に慎重な扱いが必要ですが、本質的に異なることはありません。ただし、エイズ診療拠点病院の整備が急がれるなか、各々の検査室でも十分な対応が求められるようになっていることも事実です。実際にはスクリーニング検査では避けられない偽陽性が臨床側の混乱を招くことがあり、臨床検査医が確認検査の必要性を主治医に直接説明したうえで陽性結果を報告している施設もあります[1]。また検査室で報告書を封筒に入れ、主治医が患者の前で開封するなどの配慮がなされる場合もあります。
 HIVに関してオーソライズされた資料[2]もインターネットで公開されていますので、これらを考慮したうえで各病院の状況に沿って対応していただけばよいと思います。

【参考文献】
[1]
土屋達行ほか:HIV抗体スクリーニング検査における結果報告改善の試み、臨床病理、44補冊:299、1996.
[2]
厚生省保健医療局疾病対策課 結核・感染症対策室長通知:HIV医療機関内感染予防対策指針、平成元年4月11日衛生部長宛(平成6年12月改訂)
(1997年1月24日 認定臨床検査医 土屋達行(No.244)、熊坂一成(No.236))


(Q)肝臓は悪くないのに総胆汁酸の測定値がときどき高くなることがあります。どんな原因で上昇するのでしょうか。また身体に悪い影響があるでしょうか。(富山県 短大勤務)

(A)胆汁酸は肝臓から胆汁の成分として分泌され、胆嚢や胆管を通って消化液として十二指腸の中に排出されます。そのあと腸から再吸収され、門脈を通って肝臓に戻るという、「腸肝循環」を繰り返しています。したがって通常採血に使う体表の血管にはごくわずかしか流れてきません。もし肝臓の機能が障害されたり、胆汁の通り道が詰まったりすれば、この循環が乱れて体表の血管にも漏れ出て来るようになるので、そのようなことが起きる病気の診断に使われます。
 しかし、病気でなくても影響を受ける場合があり、例えば食事をするとしばらくの間測定値は高くなります。したがって採血は12時間絶食した後早朝空腹時に行うことになっていますが、これが十分守られていないとご質問のようなことが起こります。また、胆汁酸の濃度が一時的に高くなったからといって、身体に悪影響があるということは知られていません。
 なお、肝臓が健康かどうかは、診察の所見やGOT・GPTをはじめとする数多くの検査結果を総合的に判断する必要があります。したがってこれ以上具体的な内容については、信頼できる医療機関にご相談になることをお勧めします。
(1997年1月24日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))


(Q)腎臓の腫瘍マーカーの種類と特異性について教えてください。(病院検査科職員)

(A)結論から言いますと、残念ながら腎臓の悪性腫瘍に特異的なマーカーで確立されたものはまだありません。腎臓には腎細胞癌(成人)、ウイルムス腫瘍(小児)、稀に肉腫などの悪性腫瘍ができます。なお、腎盂には移行上皮癌や扁平上皮癌ができますが、通常これらは区別して考えます。
 腎細胞癌ではまれにエリスロポイエチンなどのホルモンを産生するものがあり、またウイルムス腫瘍では血漿レニンや血中のhyarulonic acid stimulating activity (HASA)が特異的に増加するとの報告もあるようですが、いずれもマーカーとしては一般的ではなく、今後の研究が待たれます。
 なお、腎臓にできる悪性腫瘍は、非特異的にさまざまな腫瘍マーカーが陽性になることが少なくないので、その定量値が治療効果の目安として利用されることがあります。
(1997年1月16日 認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269))

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