JACLaP WIRE No.7 1999.02.25 



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          JACLaP WIRE No.7 1999年2月25日
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│本メールは日本臨床検査医会の発行する電子メール新聞です。なるべく等|
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============================≪ 目 次 ≫============================

[お知らせ]◆平成11年度第1回常任幹事会・全国幹事会議事録

[ニュース]◆台湾の臨床病理医の現状
[ニュース]◆形態検査インターネットサーベイ研究班が展示会に出展
      −医学会総会(3/30-4/8)・臨床衛生検査学会(5/12-5/14)−
[ニュース]◆第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウムを
       形態検査インターネットサーベイ研究班が共催

[特別寄稿]◆感染症のピットフォール(連載第2回)

[新規収載]◆膣分泌液中ヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)
[新規収載]◆PSA-ACT精密測定
[新規収載]◆HBs抗原精密測定
[新規収載]◆HBc抗体価精密測定
[新規収載]◆子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ
[新規収載]◆ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)
[新規収載]◆尿中BTA
[新規収載]◆大腸菌O157LPS抗体

[Q&A] ◆交差適合試験における副試験と自己対照のみのクームス陽性
[Q&A] ◆高齢者の正常値
[Q&A] ◆LDLコレステロールの測定値と換算値の乖離
[Q&A] ◆食後血糖値による糖尿病の診断
[Q&A] ◆薬剤感受性試験の小児用セットの選び方
[Q&A] ◆血小板の基準値
[Q&A] ◆クームス法陽性患者の交差適合試験
[Q&A] ◆尿浸透圧測定の遠心操作による影響
[Q&A] ◆尿沈渣中の異常細胞出現個数の臨床的意義
[Q&A] ◆糖定量測定用の一般検体の遠心分離
[Q&A] ◆尿沈渣中の良性異型細胞
[Q&A] ◆低血糖発作の機序

[編集後記]◆日本の医療革命
 
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[お知らせ]◆平成11年度第1回常任幹事会・全国幹事会議事録
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日時:平成11年1月23日(土)
   ・常任幹事会 14:15〜15:30
   ・全国幹事会 15:30〜17:30
場所:ホテル国際観光(東京駅八重洲口)
議題:
 1.報告
 ・会計
  1)平成10年度会計報告が会計幹事から報告され、承認された。後日監事の
   監査が行われる。なお、平成10年度の新会員は79名(認定医14名)であ
   った。
 ・各種委員会
  1)情報・出版委員会
   ・会誌(16巻2号)の発行が遅れているが、会報は定時に発行完了して
    いる。
      ・電子メール新聞「JACLap WIRE」は第6号まで発刊済み
   ・R-CPC記事掲載リストの作成がほぼ完了。
  2)教育・研修委員会
   ・「輸血・骨髄・免疫電気泳動の実技講習」の教育セミナーは3月7日
    に日本大学、3月21日に大阪医科大学で実施する。1月15日締め切り
    日に、66名の参加希望者があったが、施設・指導者の関係もあり、日
    本大学で25名、大阪医科大学で22名に絞り、他の希望者には自施設で
    行って頂くこととした。
   ・「精度管理・検査室管理」の教育セミナーは4月17日に昭和大学で行
    う。現在58名の参加希望者があり、全員参加可能である。
   ・「生化学・一般検査・微生物の実技講習」の教育セミナーは6月6日
    に順天堂大学で行う。現在59名の参加希望者があり、全員参加可能で
    ある。
   ・GLMワークショップは5月15、16日に自治医科大学で行う。
  3)資格審査委員会
   ・会則改訂とそれに付随する規定の整備作業は昨年度で一応終了した。
  4)渉外委員会
   ・第17回振興会セミナーは7月9日に東京ガーデンパレスで行われ、特
    別講演1題と学術講演会3題が予定されている。学術講演会は「健康
    増進と臨床検査」であるが、内容について振興会幹事、戸谷幹事と検
    討することになった。

 2.審議事項
  1)「検査の分かるページ」について(事務局)
  ・開業医向けに日衛協が発行している「ラボ」は発行部数が43,000部であ
   り、これに折込で発行することで基本的に承認された。
  ・内容については情報・出版委員会で検討する。
  ・インターネットでの質問に対する応答については、特定の規約や動向に
   ついては答えることは可能であるが、病気・病態個々についての回答は
   不可能である。
  ・形態の詳細については日衛協と相談して早急に結論をだし、4月医学会
   総会に最初のページを掲載するように努力する。
   ・執筆者を含む編集・企画を臨床検査医会、発行者を日衛協とし、版権は
   日衛協に譲与し、年にいくらかの寄付を頂くこととする。
  ・会員、検査医会事務局用に500〜600部を無料提供して頂く。
  2)名誉会員、会員の弔事について(事務局)
  ・名誉会員は会費の納入することを要しない、ことを付記する。
  ・名誉会員の資格については、資格審査委員会で検討する。
  ・弔事については、「名誉会員、全国幹事を歴任した会員が死去した場合
   には、お花と弔電を贈り、随時会誌・会報で知らせる。」とする内規を
   了承した。
  3)臨床検査Q&Aの書籍化、その他について(土屋幹事)
    ・薬事日報社からのCD-ROM化も含めた提案を了承し、情報・出版委員会に
   一任することとした。
  ・検査医会の専用サーバーのレンタルについては「企画屋」に依頼するこ
   ととした。
  ・ホームページのレイアウトデザインについては白バック案を了承した。
    4)振興会員の企業活動の紹介(インターネット)(森幹事)
  ・ホームページへの掲載が承認され、内容については情報・出版委員会、
   渉外委員会で検討することとした。
  5)LabCPの広告掲載について(事務局)
  ・広告依頼を事務局だけでなく、全国幹事にもお願いすることで了承され
   た。
  ・広告依頼書には全幹事名を列記して、依頼することとした。
   6)要覧について(事務局)
  ・新入会員も多いので、従来の隔年からしばらく毎年発刊・送付すること
   で了承された。
  7)選挙管理委員会について(事務局)
  ・選挙管理委員会を組織し、会長、監事選挙に関する詳細を検討すること
   になった。
  ・選挙管理委員会委員には、土屋、戸谷、水口、西堀、高木幹事の5名が
   選出された。
  8)臨床検査関連団体の連絡会議について(事務局)
  ・臨床病理学会長に検査医会も会議員とするよう、大場会長から要望する
   ことにした。
  9)その他
  ・教育セミナーが本年度から関西でも開催されることになり、支出と参加
   費による収入とがよりアンバランスとなるため、参加費を1セミナー
   5,000円から10,000円とすることで了承された。

 3.その他
  1)第9回春季大会
      大会の内容について渡辺清明大会長から説明があり、多数の参加を要望
  された。

[庶務・会計幹事 高木 康]
 
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[ニュース]◆台湾の臨床病理医の現状
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 高知で行われた第5回アジア臨床病理学会の際に、台湾臨床病理医学会の孫
建峰 理事長に台湾の臨床病理医の現状をインタビューしたので報告する。

 台湾には現在9つの医科大学があり毎年約1000名の卒業生がでている。台湾臨
床病理医学会は1988年に台湾厚生省より19の専門学会の1つとして認定された。
1990年1月より臨床病理医(CP)の病院での研修制度が始まった。3年間のスト
レートCP研修コースまたは病理研修コースに2年間のCP研修コースで両方の
資格をとれるものとがある。1998年11月現在86名がCP専門医として認定され
ているが、病理医として働いている医師や定年退職した医師を除外するとわず
か医師40名にしかすぎず、CPの数はまだまだ不足しているとのことである。

 本年はCP認定試験に6名が受験し、4名が合格した。CPの勤務先の60%は
大学病院で残り40%が一般病院である。CPの資格更新は6年間で100時間の研
修が必要である。

 台湾の臨床病理医が最も望んでいるのは、臨床病理医が常勤する病院で検査
をした場合に臨床病理医に対し正当な評価を受けることである。昨年、臨床病
理医が常勤する病院で輸血検査に始めて1400円のお金がついたとのことであっ
た。今後、厚生省に対しこのような要望を続けるとの由であった。

 台湾ではDRG方式が1995年に、正常出産と帝王切開の2疾患が導入された。
さらに1997年に(子宮鏡下)子宮筋腫切除術、子宮外妊娠手術、子宮全摘出術、
子宮亜全摘出術、虫垂切除術、内視鏡的胆嚢摘出術、ヘルニア切除術、痔切除
術、経尿道的前立腺切除術、人工股関節置換、人工膝置換術、卵巣摘出術など
の12疾患が加わり、1998年には尿管結石の砕石術、眼内レンズ挿入術、腹腔鏡
下膣式子宮摘出術、内視鏡下卵巣摘出術、内視鏡下子宮外妊娠手術などの5疾患
が追加され、合計19疾患と徐々に増えてきている。

[1998年12月21日 獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[ニュース]◆形態検査インターネットサーベイ研究班が展示会に出展
      −医学会総会(3/30-4/8)・臨床衛生検査学会(5/12-5/14)−
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 文部省科学研究費補助金による「形態検査インターネットサーベイ研究班」
は、従来スライド写真にして配布していたサーベイ用画像を、インターネット
のホームページで配布し、参加者のすそ野を格段に広げることを目指して発足
したが、これまでの研究で、利用者の用いる表示装置の機種が違うと判定に差
が生じるかも知れないという問題点が浮かび上がったため、現在その解決に取
り組んでいる。その活動の一環として、今春次のような展示を計画している。

 ひとつは、本研究班が目標のひとつとしている、デジタル画像用表示機器の
標準化について、この問題が単に臨床検査の領域に留まらず、医療全般にかか
わる社会的問題であることから、問題提起と解決策についての啓蒙を目的とし
て、3月30日(火)から4月8日(木)東京国際展示場で開催される医学展
示・博覧会に出展する。

 もうひとつは、本研究班の出発点である、形態検査のコントロールサーベイ
にインターネットを用いる有効性について、臨床検査技師への啓蒙を目的とし
て、5月12日(水)〜14日(金)に広島で開催される第48回日本臨床衛
生検査学会の展示会場に出展する。

 本研究班は単に新しい知見を確立するだけでなく、それを実現してメリット
を社会に還元することに重点を置いており、今後も社会的コンセンサス形成の
ため、さまざまな啓蒙活動を続ける方針である。

[東京医科歯科大学 西堀眞弘(研究代表者)]

(JACLaP NEWS編集室では、会員による研究班活動の記事を募集しております。
該当される方は [email protected] まで情報をお寄せ下さるようお願いいたしま
す)
 
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[ニュース]◆第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウムを
       形態検査インターネットサーベイ研究班が共催
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 形態検査インターネットサーベイ研究班の共催により、デジタル画像の色の
標準化を目指すシンポジウムが下記要領で開催される。詳細は漸次ホームペー
ジに掲載されるので、興味のある方はご参照いただきたい。

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       第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム
 The 1st Symposium of the 'Color' of Digital Imaging in Medicine

開催主旨:
 医療のマルチメディア化が急速に進展するなか、診療・教育・研究のあらゆ
る場面においてデジタル医用画像の利用が広がりつつあります。しかし現状で
は、表示装置等における色の再現性が標準化されていないため、全く同一の情
報を転送・複製できるというデジタル画像の特長が損なわれ、機種によって診
断が変わる恐れがあるなど、大きな問題が見落とされたままです。今後遠隔医
療や電子カルテの普及が見込まれる今、これらを未然に解決しておくことは、
医療界全体に関わる喫緊の課題です。
 そこで、医学医療の各分野におけるデジタル医用画像の「色」の現状を把握
し、医師・看護婦およびコメディカル、あるいはさらに広く色に関連する様々
な立場の方々による問題意識の共有と、解決に向けたコンセンサスの形成を目
途とし、本シンポジウムを開催いたします。

期日: 1999年5月8日(土)および9日(日)

場所: 東京医科歯科大学 歯学部特別講堂
    (東京都文京区湯島1-5-45)
    (JR中央線お茶の水駅徒歩2分または地下鉄丸ノ内線お茶の水駅上)

主催: 第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム実行委員会

共催: 形態検査インターネットサーベイ研究班
    

実行委員長:東京医科歯科大学 情報医科学センター教授 田中 博

プログラム(案):
●基調講演(5月8日午後)
 「急展開する医療のマルチメディア化と色情報の重み」
                       東京医科歯科大 田中 博

●パネルディスカッション
「デジタル医用画像の色処理の現状と標準化への展望」
 第1部(5月8日午後):パワーユーザーと色処理専門家の連携で拓く新世界
 第2部(5月9日午前):医療の最前線におけるデジタル画像の活用とその色
            処理

●特別講演(5月8日午前)
 「映画制作におけるカラーマッチングの重要性」小中和哉
●Meet the Expert(両日、医用画像のup-to-dateな話題を提供するセミナー)
●チュートリアルセミナー(両日、医用画像処理の基礎から応用まで)
●ランチョンセミナー(両日、昼食付きの企業セミナー)

定員: 170名

参加申込方法:
 下記ホームページから直接お申し込みいただけます。
 または(1)氏名、(2)FAX番号または電子メールアドレスを明記のうえ、
下記事務局宛にご請求ください。プログラムと参加申込要領をお送りいたしま
す。

事務局:
 〒113-8519 文京区湯島1-5-45
 東京医科歯科大学医学部附属病院検査部気付
 FAX: 03-5803-0110(医学部事務)
 E-mail: [email protected]
 ホームページ: http://square.umin.ac.jp/medicolor/
 担当者 西堀 眞弘(宛先に明記をお願いします)

[東京医科歯科大学 西堀眞弘]
 
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[特別寄稿]◆感染症のピットフォール(連載第2回)
                  佐賀医科大学検査部 田島 裕
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4.「グラム染色」は、過去の検査か?

  最近では、医師が「グラム染色」を自分で行うことが、めっきり少なくなっ
た。標本を作っておいても、見にすら来ないのである。「なぜグラム染色をす
るのか?」と(高学年の)医学生諸君に問うても、なかなか正しく答えてくれ
ないので閉口している。言うまでもなく、「グラム染色の最大のメリット」と
は、起炎菌をその場で確認することができるという「迅速性」である。もう1
つのメリットは(以外に知られていないが)、患者の体内で発生している現象
を、比較的正しく捉えている「最初で最後の検査」であるという点で、これ以
降の検査は、1種の「アーチファクト」を見せられていることに注意せねばな
らない。このことは、少しでも「細菌検査」に携わったことのある人間ならば
、誰しも気付いているとは思うが、例えば、患者から得られた検体を寒天培地
に撒くと、翌朝には数え切れないほどのコロニーができている。しかし、この
中で同定検査や感受性検査に回されるのは、せいぜい数コロニーの菌である。
しかも、感受性試験は、実際に炎症が起こっている人体の諸条件を何1つ反映
していない環境のもとで行われているのである。
  この「グラム染色」に忠実であったことが、治療の成功に結び付いた1例を
図1に示し、以下に簡単に紹介しておく [3]。

・溶連菌によると思われる(気管支)肺炎の患者に、ピペラシリン(PIPC
)を1日4g投与したが、一向に改善する兆しが見られない。喀痰をグラム染
色すると、起炎菌は明らかに(ソーセージ状をした)連鎖球菌であり、他の菌
は殆ど認められなかった。
・PIPCのグラム陽性菌に対する「切れ味」は概して鈍いものの、薬剤耐性
のない溶連菌には、(1日4gも投与すれば)少しは効いて然るべきである。
しかし、現実には殆ど無効であった(この矛盾点に、しばし悩む)。
・ところが、グラム染色像をよく観察すると、白血球に貪食されて、本来は破
壊されて見えないハズの菌体が、くっきりと鮮明に染まって観察されたのであ
る。ここから、筆者は、患者の白血球の機能不全を想定し(貪食はするが殺菌
できない?)、治療薬を細胞内への移行に優れる薬剤に変更して(経口剤であ
るにも拘らず)略治を得た。ペニシリン系の薬剤は、概して細胞内へは移行し
難いため、菌が白血球に貪食された後は、薬剤の効果は及ばないのである。こ
のために、患者の治癒が遷延したのではないかと考えた。
・しかし、この時の「喀痰」を検査に回すと、グラム染色上では痕跡量しか認
められなかったグラム陰性菌(=緑膿菌)が「3+(スリー・プラス)」と出
ており、ここでも現実との乖離が、浮き彫りになる(培地上での発育速度の差
でこうなる)。もし、グラム染色をせずに、この検査結果のみを頼りにした場
合には、緑膿菌をターゲットにした(誤った)治療をしてしまったことであろ
う。事実、この患者は、緑膿菌には全く効果の無いリファンピシン(RFP)
+ST合剤で状態が好転している。
 

【図1】ペニシリンが無効であった(気管支)肺炎の1例

文献3より、著者自身が転用した。78才の男性の症例で、脳梗塞の後遺症によ
り、殆ど「寝たきり」の状態であった。これだけの高熱やCRPの上昇を示し
ているのに白血球の増加が著しくなく、これも「白血球の機能不全」を示唆す
る所見である。3月3日の喀痰の検査は、鏡検上では溶連菌が圧倒的に有意で
あったが(=起炎菌)、検査結果では「緑膿菌が優勢」と示されていた。白血
球の機能不全(貪食はするが殺菌できない?)が推定されたため、細胞内への
移行に優れた薬剤(=RFP+ST)に切り替えて略治を得た。最後にエリス
ロマイシン(EM)を選択した理由は、緑膿菌による菌交代を警戒したためで
ある。この患者は、この後3ヶ月ほどは何事も無く経過したが、如何せん、(
恐らく白血球の機能不全が基礎にあるため)ありとあらゆる感染症を併発して
(例;MRSA、セラチア、緑膿菌)、このエピソードの約1年半後に衰弱死
した。尚、「解熱処置」とは、アセトアミノフェン(座薬)の投与の意である
。

【参考文献】

[3] 田島 裕:古くて新しい検査  −グラム染色−. 臨床検査のピットフォ−
ル(只野 壽太郎 編), 医歯薬出版, 東京, pp.16-26, 1996

(編集部より:この記事に関するご意見は電子メールでアドレス
 [email protected] までお寄せ下さい。必ず著者にお届けします。)
 
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[新規収載]◆膣分泌液中ヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)
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膣分泌液中ヒトインスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)(準用先区分D007
-42)(区分D-2)
平成10年12月1日より適用の血液化学検査
保険点数:270点
基準範囲:25μg/L以上陽性
製品名:アムニテスト「明乳」
製造元:Oy Medix Biochemica Ab, Kauniainen, Finland
輸入・発売元:明治乳業(株) TEL 03-3633-1557
測定法:免疫クロマト法 10テスト/キット(シングル測定)
結果の出るまでの時間:約5分  自動化:不可
検体:頸管膣分泌液
【特徴】 本試薬は免疫クロマト法による検出試薬であり、ブルーラテックス
コロイド標識抗IGFBP-1モノクローナル抗体とメンブレン上に固相化した抗IGF
BP-1モノクローナル抗体がIGFBP-1を介してサンドイッチ型の免疫複合物を生成
することによりIGFBP-1の検出を行う。
 IGFBP-1は、羊水中に胎盤基底脱落膜および胎児の肝臓で産生され、妊娠10週
位から羊水中に蓄積し、妊娠週数の増加に伴って急激に上昇する。このため破
水して羊水が膣内に漏れ出てきた場合には膣内にIGFBP-1が存在することとなり
、頸管膣内のIGFBP-1を検出することは破水診断の指標となる。本試薬はモノク
ローナル抗体を使用しているため特異性が高く、操作も簡便で約5分で結果が得
られる。妊婦48症例を対象とした検討において、本法と他法(ロムチェック)を
比較すると、有病正診率はそれぞれ94.7%(18/19例)と84.2%(16/19例)、無病
正診率は93.1%(27/29例)と82.8%(24/29例)と本法が優れていた。
【保険請求上の注意】 ただし、膣分泌液中ヒトインスリン様成長因子結合蛋
白1型(IGFBP-1)と同区分「42」の頸管膣分泌液中癌胎児性フィブロネクチンを
併せて算定した場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】 久保田 武美、他:Insulin-like growth factor binding protein-
1(IGFBP-1)検出試薬の破水診断における臨床的検討、産婦人科の世界、50(8):
633-636、1998

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆PSA-ACT精密測定
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PSA-ACT精密測定(準用先区分D009-9)(区分D-1)
平成10年12月1日より適用の腫瘍マーカー
保険点数:240点
基準範囲:5.5ng/mL以下
直線性:0.1〜100ng/mL
製品名:マーキットM PSA-ACT
製造・発売元:大日本製薬(株) TEL 06-386-2164
測定法:ELISA法 96テスト/キット(84検体/シングル測定)
結果が出るまでの時間:4時間20分  自動化:不可
同時再現性:1.9〜2.7% 日差再現性:4.0〜5.5%
検体:血清、血漿(ヘパリン、EDTA、クエン酸ナトリウム)
【特徴】 抗PSAモノクローナル抗体を結合したウェルを固相とし、検体中 PS
A-ACTを介して結合した抗α-1アンチキモトリプシン結合β-ガラクトシダーゼ
の活性を蛍光基質を用いて反応し、蛍光強度を計測し作成した標準曲線よりPS
A-ACT濃度を求める。2ステップサンドイッチELISA法に基づく。
 前立腺癌患者数は1995年では約1万人と推定されているが、近年増加傾向にあ
り、2005年には約1.7倍、2015年には約2.6倍に増加すると考えられている。こ
れら前立腺患者の診断や治療および前立腺肥大症患者(50万人)との鑑別が必要
となっている。
 前立腺癌のマーカーとしてはACP(酸性フォスファターゼ) 、PAP(前立腺酸性
フォスファターゼ)、γ−Sm(γ−セミノプロティン)、PSA(前立腺特異抗原)な
どが用いられている。現在までのところ前立腺癌に対する有病正診率が高く、
前立腺癌の病勢、治療経過をよく反映するとの理由で、PSAが最もよく用いられ
ている。
 PSA(前立腺特異抗原)の多くは、α-1アンチキモトリプシンと結合した複
合体(PSA-ACT)であり、その他、遊離型PSAの形で存在する。血中PSA-ACTは前
立腺癌の鑑別診断と病勢・治療経過判定の指標として有用である。
 PSA-ACTとPSAの前立腺癌に対する有病正診率は、82.0%(251/306例)/74.8%
(229/306例)、前立腺癌の初期病期に対する有病正診率は、病期Aでは36.0%
/24.0%、病期Bでは72.3%/53.0%とPSA−ACTが良好な結果を示した。前立
腺癌の病期と血中濃度に関しては、PSA-ACTとPSAはそれぞれ病期の進行に比例
し、血中濃度が高くなる。
 前立腺肥大症と前立腺癌の各病期との間での濃度には有意差があった。前立
腺肥大症に対する無病正診率は、PSA-ACTとPSAはが79.9%(159/199例)/84.4%
(168/199例)とPSAがやや良好であったが、診断効率は81.2%(410/505例)と78.
6%(397/505例)とPSA-ACTが良好であった。さらにPSA-ACTとPSAについて非泌
尿器系良性疾患の無病誤診率は0%/2.1%、非泌尿器系悪性腫瘍の無病誤診率
は4.2%/3.2%であった。
【保険請求上の注意】 ただし、PSA-ACT精密測定と同区分の「9」のPA精密
測定に併せて実施した場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】 栗山 学ら:前立腺癌におけるPSA-α(subscript:1)
antichymotrypsin複合体測定の臨床的意義.泌尿器外科、8:951-958、1995

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆HBs抗原精密測定
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HBs抗原精密測定(準用先区分D013-5)(区分D-2)
平成10年12月1日より適用の肝炎ウイルス関連検査(1)
保険点数:150点
判定:0.25以上を陽性
製品名:LPIA-F・HBs抗原テスト
製造元:三菱化学(株) TEL 03-5463-0719
発売元:(株)ダイアヤトロン TEL 03-3863-6241
測定法:時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA法) 100テスト/キット(シングル測
定)
結果がでるまでの時間:35分  自動化:可
同時再現性:1.75〜6.52% 日差再現性:2.56〜7.22%
検体:血清、血漿(EDTA)
【特徴】 ラテックス凝集反応を利用した時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA)に
より、検体(血清又は血漿)中のHBs抗原を検出する。
 本法とRIA法(122例)やEIA法(122例)との陽性および陰性検査の一致率は、そ
れぞれ100%、100%と良好であった。本キットの同時・日差再現性も良好で共
存物質の影響も認められない。
【保険請求上の注意】 特になし
【文献】 島 英明、他:全自動免疫血清検査システム「LPIA-A700」を利用し
てのHBs抗原測定の基礎的検討.医学と薬学、40:495-502、1998

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆HBc抗体価精密測定
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HBc抗体価精密測定(準用先区分D013-9)(区分D-2)
平成10年12月1日より適用の肝炎ウイルス関連検査(2)
保険点数:240点
製品名:エクルーシス Anti-HBc
基準範囲:カットオフインデックス:COI 1.0以上
製造元:Roche Diagnostics GmbH, Mannheim Germany
輸入・発売元:ロシュ・ダイアグノスティックス(株) TEL 03−5443−5278
測定法:電気化学発光免疫測定法(ECLIA法) 100テスト/キット(シングル
測定)
結果が出るまでの時間:27分  自動化:可
検体:血清または血漿(EDTA、ヘパリン)
【特徴】 ストレプトアビジンコーティング磁性マイクロパーティクルと、HB
c抗原・2種のモノクローナル抗体(ビオチン化抗体、ルテニウム標識抗体)の
、ストレプトアビジン−ビオチン系を用いた競合法と、電気化学的な発光反応
による電気化学発光免疫測定法により測定する。
 HBVマーカーの一つであるHBc抗体は、HBVのコア粒子部分に対する感染抗体で
感染初期より産生され、肝炎治癒後も長期にわたり、低力価を示す。HBc抗原保
有者並びに慢性肝炎などの持続感染ではHBc抗体は高力価を示し、急性肝炎など
の一過性感染ではHBc抗体価は低力価を示す。本キットはB肝炎ウイルスの感染
の有無、既住、経過観察、病態把握に有用である。本キットとCLIA法アマライ
トHBc抗体との相関は100%と良好であった。
【保険請求上の注意】 特になし
【文献】 高梨 美穂、他:ECL-IA法によるHBcAb測定の基礎的・臨床的研究・
医学と薬学、40:111-122、1998

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ
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子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ(準用先区分D004-5)(区分D-2)
平成11年1月1日より適用の穿刺液・採取液検査
保険点数:200点
基準範囲:カットオフ値  1.6μg/mL
直線性:0.05〜10.0μg/mL
製品名:イノテック・エラスターゼ
製造元:(株)シマ研究所 TEL 03-3967-7277
発売元:(株)三和化学研究所 TEL 052-951-8130
測定法:LA(ラテックス凝集)法 263テスト/キット(シングル測定)
結果がでるまでの時間:10分  自動化:可
同時再現性:C.V.(濃度) 0.50〜2.12%
日差再現性:C.V.(濃度) 0.21〜3.55%
検体:子宮頸管粘液
【特徴】 子宮頸管粘液中の遊離顆粒球エラスターゼ及びα1-プロテアーゼイ
ンヒビターと結合し複合体を形成している顆粒球エラスターゼの両者を、ラテ
ックス凝集反応(LA法)により自動分析装置を用いて定量する。
 本キットによる測定は、切迫早産妊婦において炎症の有無を診断し、抗生物
質などの抗菌的治療の指標として用いる。すなわち本検査で陽性と判明した場
合は、広域スペクトラムで羊水移行率がよく、母児に副作用の少ないセフェム
系かペニシリン系、β-ラクタム系などを選択し、治療する。特には早産の防止
または胎児の在胎期間の延長による低出生体重児(2500g以下)の出生の防止に活
用することができる。
 従来法から子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ測定試薬である「エラスペッ
クmono」はEIA法を原理とした用手法であるため、操作が煩雑で結果がでるまで
に時間がかかった。本品はラテックス法を測定原理としており、汎用の自動分
析装置や専用測定装置によって簡便で迅速に結果が得られる。本法と他法(E
IA法「エラスペックmono」)とを比較すると、回帰式 y=0.950x+0.328、
相関係数 γ=0.970と良好であった。
【保険請求上の注意】 子宮頸管粘膜中顆粒球エラスターゼは、絨毛羊膜炎の
診断のために妊娠満22週以上満37週未満の妊婦で切迫早産の疑いがある者に対
し、EIA法又はラテックス凝集法(測定機器を用いるもの)による定量を行
なった場合に算定する。
【文献】 北村  光、他:新しい子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ測定試薬
「イノテックエラスターゼ」の基礎評価、臨床検査機器・試薬、21:357-361、
1998

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)
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ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)(準用先区分D007-41)(区分D-1)
平成11年1月1日より適用の血液化学検査
保険点数:260点
基準範囲:6.2ng/mL以下  直線性:250ng/mLまで
製品名:マーキットM  H-FABP
製造・発売元:大日本製薬(株)  TEL 06-6386-2164
測定法:酵素免疫測定法(ELISA法) 96テスト/キット(シングル測定)
結果がでるまでの時間:1時間30分  自動化:不可
同時再現性:2.7〜3.4% 日差再現性:3.1〜7.8%
検体:血清
【特徴】 2種の抗ヒトH-FABPモノクローナル抗体を用いる2ステップサンドイ
ッチELISAを測定原理とする。検体中のH-FABPをウェルに固相化したマウス抗ヒ
トH-FABPモノクロ抗体で捕捉した後、ペルオキシダーゼ(HRP)標識したマウス抗
ヒトH-FABPモノクロ抗体を加えると、H-FABPを介して両モノクロ抗体が結合し
たサンドイッチ状の免疫複合体が形成させる。この免疫複合体にHRPの基質を加
えて酵素反応し吸光度を測定する。標準溶液について同様に操作して作成した
標準曲線より検体中のH-FABP濃度を求める。
 現在、急性心筋梗塞(AMI)の生化学的診断の指標としては、CK-MB、ミ
オグロビン、心筋トロポニンT、ミオシン軽鎖T、LDH1、AST、ALT
、CRP、白血球数などが用いられている。ヒト心臓脂肪酸結合蛋白(H-FA
BP)は心筋細胞の細胞質に多量に存在する低分子心筋障害マーカーで、心筋虚
血障害を受けると血液中に逸脱し、3〜6時間以内に上昇する新しいマーカーで
ある。本キットはモノクローナル抗体を用いるELISA法である。
 AMIでは発症後早期の確定診断が必要で、その後再灌流療法などの早期治
療開始し、心筋障害を最小限にくいとめることが予後の良否を決める。これら
の生化学的心筋障害マーカーのうちミオグロビンがAMI発症後1〜3時間以内
と最も早期に異常を示し、次いでH-FABPが3〜6時間後に異常を示すのに対
し、CK-MBと心筋トロポニンTなどは発症後6時間以降でないと異常を示さ
ない。胸痛発症後6時間以内(12時間以内)のAMIが疑われる疾患群について
H-FABP、ミオグロビン、CK-MB、について有病正診率、無病正診率、
診断効率を求めたところ、それぞれ93.6/88.8/14.4%(92.9/88.6/18.6%)、69
.2/61.5/97.4%(67.3/57.1/98.0%)、診断効率87.8/82.3/34.1%(86.2/80.4/39
.2%)とH-FABPで良好な結果が得られた。さらにROC曲線解析によるH
-FABP、ミオグロビン、CK-MBの診断正確度をAUC(曲線下面積)で表
すとそれぞれ0.918、0.859、0.605となり本検査が優れていた。
【保険請求上の注意】 ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)は、急性心筋梗
塞の診断に用いた場合のみ、区分「D007」血液化学検査の「41」に準じて算定
する。ただし、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)と同区分の「41」のミオ
グロビン精密測定を併せて実施した場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】 田中孝生、他:ヒト心臓脂肪酸結合蛋白(H-FABP)測定の臨床的意義
、医学と薬学、37:1367-1383、1997

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆尿中BTA
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尿中BTA(準用先区分D009-3)(区分D-1)
平成11年1月1日より適用の腫瘍マーカー
保険点数:85点
製品名:バード BTA
製造元:米国・Polymedco Inc.  Cortlandt Manor, NY 10567
輸入・発売元:(株)メディコン TEL 06-203-6546
測定法:ラテックス凝集法(定性検査)
15テスト/キット( 15測定 ) 6テスト/キット( 6測定 )
結果がでるまでの時間:10分  自動化: 不可
検体: 尿
【特徴】 尿試料をBTA試薬 (ヒトIgGでコーティングしたラテックス粒子)と混
合させると基底膜断片複合体よりなるBTAと結合して凝集反応が起る。これ
に試験紙を浸すことにより、色調の変化から陽性/陰性を判定できる。試験紙
上のパッドの上方が黄色で下方が青色を示せば陽性、黄色がみられず緑色なら
ば陰性と判定する。
 ラテックス凝集反応により、尿中の膀胱腫瘍に関連したBTAを検出する。膀胱
腫瘍は基底膜をその基本成分(IV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン
及びプロテオグリカン)の断片に分解し、これらの成分が尿中に放出されて独
特の基底膜断片複合体を形成する。この基底膜断片複合体より構成されたBTAは
分子量16〜165kdの特異的ポリペプチドであり、膀胱癌患者の尿より分離される
。再発膀胱癌患者の膀胱癌検出において、本法と尿細胞診を比較すると有病正
診率が57.6%/37.9%と本法で良好であった。また測定法は簡単で、測定時間
が5〜10分以内と短いため膀胱鏡検査前にこの結果を医師が利用できる。
【保険請求上の注意】 尿中BTAは膀胱癌であると既に確定診断された患者につ
いて、膀胱癌再発の診断のために当該検査を行ない、当該検査の結果に基づい
て計画的な治療管理を行なった場合に限り、区分「D009」腫瘍マーカーの「3」
を測定した場合に準じて、区分「B001」特定疾患治療管理料の「3」の悪性腫瘍
特異物質治療管理料「イ」を算定する。
【文献】 Hideyuki Akaza, et al.: Significance of the BTA test in
bladder cancer; A Multicenter Trial. Int  J Urol, 557-560, 1997

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆大腸菌O157LPS抗体
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大腸菌O157LPS抗体(準用先区分D012-14)(区分D-1)
平成11年1月1日より適用の感染症血清反応
保険点数:190点
製品名:O157チェック「LPS抗体」
製造元:(株)ユカ・メディアス TEL 0298-87-0426
発売元:三菱化学(株) TEL 03-5463-0751
測定法:ラテックス凝集法(定性検査)  25テスト/キット(シングル測定)
結果が出るまでの時間:3分  自動化:不可
検体:血清
【特徴】 血清中の大腸菌O157LPS抗体とラテックス粒子上の大腸菌O157LPS(
大腸菌O157:H7由来LPS抗原)との抗原抗体反応によるラテックス凝集反応を判
定用スライドで上で行い、肉眼で凝集の有無を観察して検体中の大腸菌O157LP
S抗体を検出する。本キットは血清中の大腸菌O157LPS抗体とラテックス粒子上
の大腸菌O157LPSとの抗原抗体反応によるラテックス凝集反応を用い、スライド
上で肉眼的に凝集の有無を観察して、検体中の大腸菌O157LPS抗体を検出するも
のである。大腸菌O-157に感染した患者の6〜7%では初発症状発現後5〜7
日間後に尿毒症症候群(HUS)や脳症などの重症合併症を併発する。従来の便培養
及び菌の血清型判別検査は便採取の遅延、抗生物質の投与などの理由により腸
内細菌数が減少すると検出率が悪くなるという点で問題があった。すなわち第
3病日以内に細菌培養しても約60%の陽性率、第11〜13病日になると20%以下
の陽性率にしかならないと報告されている。本キットは早い症例では第3病日の
血清中に大腸菌O157LPS抗体が検出でき、6日目以降には全例で陽性になると報
告されている。本キットの使用により従来の便培養法で大腸菌O157感染を確定
できない患者に対し、患者血清中の抗体を調べることにより早期診断(発症第3
〜第6病日)が可能である。本キットは特別な機器設備が不要で3分間の免疫反
応により迅速・簡便に結果が得られるのが特徴である。
【保険請求上の注意】 O157LPS抗原検出検査、大腸菌O157LPS抗体及び区分「
D018」細菌培養同定検査の「2」の消化管からの検体による細菌培養同定検査の
うち、いずれかを複数測定した場合は主たるもののみ算定する。
【文献】 竹田多恵ら:ラテックス・スライド凝集法による大腸菌O157LPS抗体
検出キットの臨床的有用性、医学と薬学、38:989-995、1997

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[Q&A] ◆交差適合試験における副試験と自己対照のみのクームス陽性
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(Q)交差適合試験で副試験と自己対照だけがクームス(抗グロブリン)法で陽
性となりました。どのように報告したらよいでしょうか。(広島県 臨床検査
技師)

(A)ご質問にあるような結果は、血液内科や膠原病科などの患者さんでは珍し
くありません。基本的には、直接クームス試験陽性、間接クームス試験陰性の
患者さんでみられる結果です。確認してみて下さい。

 副試験は「供血者の血清」と「受血者の赤血球」の間の検査です。供血者は
この例では日赤から供給される洗浄赤血球ですので、不規則抗体はすでに調べ
られており「「陰性」です。副試験と自己対照がクームス法で陽性ですから、
受血者の赤血球にすでにIgG抗体がくっついていると考えられます。用いる製剤
は洗浄赤血球であり、供血者の血清は輸注されませんので、副試験の凝集が自
己対照と同等(以下)の強さであれば、「適合」として差し支えありません。

 このような場合、赤血球に結合しているIgG抗体は、自己抗体であることが多
いのです。しかし、輸血などが原因で感作され、不規則抗体が結合した供血者
の赤血球(この数日以内の輸血が原因となっている)が多量に存在している可
能性が否定できなければ、抗体の解離・同定試験を実施してみる価値があると
思います。仮に自己抗体ではなく、不規則抗体であったとしても、この例では
主試験が陰性ですので、抗原は回避されていると予想され、輸血しても大丈夫
です。

 また、余談ですが、自己免疫性溶血性貧血の患者さんに輸血する際に「洗浄
赤血球」がオーダーされることがままあります。当然のことながら自己免疫性
溶血性貧血では、問題があるのは受血者の赤血球ですので、供血者は通常の赤
血球MAPでかまいません。

回答日:1998年12月21日
回答者:認定臨床検査医 村上純子(No.370)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(免疫学的検査/血清検査/輸血検査 )]
 
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[Q&A] ◆高齢者の正常値
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(Q)高齢者の正常値について、現在の考え方を説明してください。(栃木県
臨床検査技師)

(A)以下に総説としてまとめましたので、ご参照ください。
1.厚生省「老人の臨床検査の正常値に関する調査研究」班の経過
 厚生省老人保健事業推進費等補助金に基づく「老人の臨床検査の正常値に関
する調査研究」班(主任研究員:河合 忠自治医科大学臨床病理学教授)が平
成2〜4年度の3年間にわたって活動した。その活動のまとめとして、平成5
年3月27日に調査研究班主催による公開フォーラムが開催された。その記録
が、平成5年9月30日、薬業時報社(東京)から「老人臨床検査値の考え方
(基準範囲)」(監修:厚生省老人保健福祉局老人保健課、編著:河合 忠、
著者:藤井 潤・金澤康徳・中村治雄・秦 葭哉;定価1900円)として発
行されているので、ご参照頂きたい。

2.調査研究班全体としての結論
(1)正常値、正常範囲という名称は適切か
 第1回会議の冒頭で、「老人の正常値というのはあるのか?」について大議
論が戦わされた。結論として、世界的な動向にハーモナイズする意味でも、正
常値・正常範囲(normal values, normal ranges)という言葉は止めて、基準
値・基準範囲(reference values, reference intervals)にすべきである。こ
の考え方を、公開フォーラムでの意見聴取を踏まえ、臨床検査関連学会・団体
の会合で数回にわたって討論を重ね、おおかたの賛同を得た。さらに、多くの
臨床医の理解も得られ、平成8年に出版された平成9年度厚生省医師国家試験
出題基準の中に初めて基準値・基準範囲が盛り込まれ、正常値・正常範囲とい
う言葉が姿を消した。

(2)老人の基準値とは何か
 高齢者では個体差が大きいので、一概に横断的な"集団正常値"を求めるのは
困難であるし、それが個々の高齢者の診療に当たって必ずしも十分に役立つと
は言えない。個々の高齢者のADL(ability of daily living)を考慮して判
断しなければならない。
 今後は、長期間経年的に検査値の推移を研究する必要がある。もちろん前向
き(prospective)調査は必要であるが、さし当たって後ろ向き(retrospecti
ve)調査をすべきである。

3.各小委員会の結論
 本調査研究班は、4つの小委員会に分けて活動した。すなわち、血圧小委員
会(藤井潤委員長)、血糖小委員会(金澤康徳委員長)、血清脂質小委員会(
中村治雄委員長)及び一般血液検査小委員会(秦 葭哉委員長)である。それ
ぞれの小委員会の結論を要約すると以下の通りである。

(1)老人の血圧
 正常老年者を設定し、各施設で2回測定した血圧の低い方を採用した平均値
では、収縮期血圧は男女とも133〜134mmHgぐらいであった。若い人
は120mmHgぐらいなので、多少は高いが、老人でも元気な人では以外に低い
のではないか。標準偏差を加えると、収縮期血圧の上限は160mmHg、拡張期
血圧の上限は90mmHgぐらいである。
 血圧レベル別に追跡調査した研究から、収縮期血圧で140〜160mmHgぐ
らい、拡張期血圧では80〜90mmHgぐらいにリスクが高くなる境がある。
 治療すると、脳卒中や心疾患が減ることは明らかで、老年者の血圧が高い状
態は好ましくない。

(2)老人の血糖
 健常者の血糖値の変動幅は年齢によって大きく変化しない。しかし、高齢者
では、「疑い糖尿病」という範囲(空腹時≧120mg/dl、糖負荷試験2時間値
≧200mg/dl)を設定し、直ちに積極的治療を必要とする糖尿病基準値(空腹
時血糖>140mg/dl、糖負荷試験2時間値>240mg/dl)とは区別し、繰り
返し血糖検査を行って慎重に判断する。
 血糖値の合併症出現に与える影響は、若年者と高齢者で変わらない。しかし
、高齢者は低血糖に対する抵抗性が低く、治療により低血糖に成りやすいので
十分に注意する必要がある。今後、境界域設定の妥当性を細小血管症、大血管
症の予防および生命予後と日常生活の活動性の維持の面から検証する必要があ
る。

(3)老人の血清脂質
 日本人の血清脂質研究班、などの調査結果から以下のように結論された。
 血清総コレステロールは、女性の値が45歳ぐらいから急速に増えていく。
トリグリセライドは、全体的に男性の方が高いが、女性では年齢とともに増加
し、高齢者になると女性平均値が男性のそれを上回る。HDLコレステロール
は、終始女性が高く、50〜60mg/dlを維持し、加齢による変化は明らかでな
い。
 冠状動脈造影術による3年間の経過観察結果から、高脂血症(総コレステロ
ールが220mg/dl以上)が続くと動脈狭窄が進展する人が多い。総コレステロ
ール値のみならず、トリグリセライド、HDLコレステロールへの配慮も必要
である。
 治療目標値としては、日本動脈硬化学会コンセンサスカンファレンスの提案
する総コレステロール≧220mg/dlは妥当であろう。討論の中で、この治療目
標値をそのまま"正常範囲上限値"として受け取られたところに大きな混乱が生
じたことが指摘された。

(4)一般検査値の加齢変動
 加齢変化を示す検査項目の生理的変動域を決めるための接近法として、増山
により展開された「個体変動」の概念を応用し、全国8地区の医師会健診セン
ターでの健診受診者(1987年、1990年)合計約5万人の検査結果を参
考にして、個体変動幅(σx)を算定した。σxは対象の例数や、測定方法、
平均値の大小にあまり影響を受けないが特徴であるが、平均値に大きく影響を
受ける。したがって、普遍性の高い基準範囲を設定するためには平均値の施設
間差をいかに小さくするかが課題としてあげられた。

回答日:1998年12月31日
回答者:認定臨床検査医 河合 忠(No.22)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(その他)]
 
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[Q&A] ◆LDLコレステロールの測定値と換算値の乖離
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(Q)LDLコレステロールの直接法による測定値とFriedewaldの換算式で得られ
る値とが一致しません。どう考えればよいでしょうか。(内科医)

(A)LDLコレステロールを直接測定した値(直接法)とフリーデワルド式で計
算した値(計算法)が乖離する要因はほぼ二つです。まず第一に、計算法では
VLDL、IDL、Lp(a)などのリポ蛋白中のコレステロールが含まれてきますので、
コレステロール値は高めとなります。中性脂肪値が高い場合にこのような要因
が特に考えられます。第二に、重症な肝機能障害がありますとLDLの性状が極端
に変化しますので、いかなる方法をもっても正しい値を得ることができず、し
たがって乖離も起こってきます。

  そこで、中性脂肪とHDLコレステロールの値をよく見てください。もし中性脂
肪が正常範囲内であれば、第一の要因はほぼ否定できます。そしてもし、HDLコ
レステロールも正常であれば、重症な肝機能障害はないと考えられますので、
第二の要因も否定できることになります。総コレステロールを含めた三者がお
よそ正常範囲にある場合は、直接法でも計算法でも極めて正確な値が得られま
すので、乖離は起きません。この場合、両者の乖離が15%以上あれば、検体
の取り違えも考えられます。

回答日:1998年12月31日
回答者:日本臨床検査医会 岡田正彦(新潟大学医学部検査診断学講座)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(生化学検査)]
 
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[Q&A] ◆食後血糖値による糖尿病の診断
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(Q)食後血糖値の正常範囲あるいは糖尿病の診断基準がありましたら教えてく
ださい。

(A)食後の随時血糖は、空腹時血糖とは異なり、食事の内容やその日の身体状
況(消化管の状態など)に依存し、再現性に乏しいので、他の値との比較が困
難です。したがって、客観的、意図的、実験的な診断ないしは判定には不向き
です。

 一般的に、健康人の血糖の日内変動は、約90mg/dl(5mmol/l)から約160mg/d
l(9mmol/l)の範囲に限定されており、また従来の知見からも、食後200mg/dl以
上なら、糖尿病の可能性が非常に高いものになります(もちろんmg/dl以上であ
り、かつ糖尿病の症状があれば、経口糖負荷試験をしてはなりません)。しか
し、食後随時血糖の値を、経口糖負荷試験で客観的、意図的に決められた糖尿
病の診断基準に対応づけるのは、根本的に無理があります。

 従いまして、随時血糖がどの位の値のとき二次健診(経口糖負荷試験を含む
)の対象とするかは、その健診をされる組織が、どの程度の二次健診が可能か
、予算と人的資源等、何より対象集団の特徴をご考慮の上で決められることで
しょう。

 なお、わが国の糖尿病学会においても、「糖尿病の分類と診断」に関する見
直しが行われており、その経過が糖尿病第41巻臨時増刊号2(平成10年12月14発
行)に掲載されておりますので、ご一読をお勧めします。

回答日:1999年1月11日
回答者:認定臨床検査医 熊坂一成(No.236)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(生化学検査)]
 
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[Q&A] ◆薬剤感受性試験の小児用セットの選び方
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(Q)薬剤感受性試験において、小児用のセットを組む場合の注意点を教えてく
ださい。

(A)薬剤感受性試験において通常使用される、代表的な薬剤(即ちNCCLSのガ
イドラインあるいは日本の自動機器に採用されているもの)についてお答えし
ます。小児といっても年齢によって様々ですが、使用に適さない薬剤としては
、代表的なものにテトラサイクリン系(TC、MINO)があります。これはCaイオ
ンと結合して歯、骨に沈着するために、歯牙の着色、エナメル質発育不全、骨
発育不全を起こす可能性があるので、特に8才未満の小児には投与しないことが
勧められています。

 特に未熟児、新生児で問題を起こす可能性があるものとして、CP(血中濃度
が増加して循環虚脱の下に死亡した例がGray baby syndromeとして報告されて
いる)、STおよびCTRX(アルブミンと競合的に結合し間接ビリルビン濃度を上
昇させ、核黄疸を引き起こす可能性がある)などがあります。キノロン系の多
くでは、幼弱動物で実験的に関節障害や軟骨障害が起きる可能性が指摘されて
います。

 その他にも、使用経験が少ないため等の理由で、小児への安全性が未確認と
されている薬剤があります。日本医薬品集98-99では、CVA/TIPC、CETB、CFMT、
CZOP、キノロン系の多く、MEPM、TEIC等です。また未熟児、新生児に対する安
全性が未確認とするものは数多くあります。

 一方、小児に適しているものとして、小児用の剤形(小児用細粒、小児用細
粒、ドライシロップ)が用意されている経口剤には、CVA/AMPC、CCL、CPDX、C
DTR、CFDN、KM、CAM、NFLX、FOM等があります。

【参考文献】
1)日本医薬品集98-99、薬業時報社
2)新小児薬用量、診断と治療社(H7)
3)小児科診療61、補冊、1998年

回答日:1999年1月11日
回答者:認定臨床検査医 今福裕司(No.377)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(微生物検査)]
 
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[Q&A] ◆血小板の基準値
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(Q)血小板の基準値は施設によって少し異なりますが、公的機関等で認定され
たものはないのですか。

(A)現在のところ、血小板数の基準値について、臨床病理学会あるいは臨床化
学会などからの提言等はないようです。基準値の設定は、以前は各施設で健常
成人の血小板数を測定し、95%の健常人が入る値を設定していました(N数は
まちまちですが、50〜300名位)。しかし最近では、健常成人の定義があいまい
である等の問題提起がなされたため、参考書の基準値を導入する施設も少なく
ありません。施設によって基準値が異なるのはこのためです。

 血小板減少症の定義は、一般的に教科書的には、10万(100 x 10^9/L)以下
と記されてます。また、血小板数を自動分析装置で測定するときの精度は機種
によって異なりますが、異なる機種による機種間誤差は10%程度と考えておい
た方が良いと思います。

 参考として、文献に記載されている基準値を下に示します。

○血小板数の基準値(単位:SI; x 10^9 /L, conventional units; x 10^3 /m
l)

1)日本臨床衛生検査技師会血液正常値設定委員会編  130〜369
2)米国:Wintrobe's Clinical Hematology  男女共に 150〜440
           (Coulter S)          147〜412
           (Tschnicon H1)        147〜422
3)臨床検査法提要   直接法           140〜340
           Brecher-Cronkite法      160〜430
4)臨床検査ガイド '98       男性      131〜362
                  女性      130〜369
5)慶應義塾大学病院                150〜350

 以上のように本邦では13万〜37万としている施設と15万〜35万としている施
設が多いようです。米国とは上限が大きく異なりますが、その理由は不明です
。

回答日:1999年1月15日
回答者:認定臨床検査医 川合陽子(No.316)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(血液検査)]
 
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[Q&A] ◆クームス法陽性患者の交差適合試験
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(Q)交差適合試験のクームス法にて、主試験、副試験、自己対照全てで陽性、
不規則抗体も全てで凝集が見られ判定不能でした。どのように対処すればよい
でしょうか。(臨床検査技師)

(A)ABO式の表・うら検査とRh(D)の判定には問題がなかったとしてお答えしま
す。

 交差適合試験のクームス法陽性(副試験:患者赤血球+日赤血血清、主試験
:患者血清+日赤血赤血球)、自己対照陽性(患者赤血球+患者血清)、しか
も不規則抗体が全てで凝集が見られ判定不能(患者血清中に存在する抗体が型
特異性を示していない)ということから、おそらく患者さんは直接クームス試
験、間接クームス試験両方陽性の溶血機転を有しているものと推察されます。
網赤血球、ハプトグロビン、間接ビリルビン等の検査データを確認してみて下
さい。

 もし、自己免疫性溶血性貧血のような疾患が強く疑われるのであれば、輸血
を行っても効果が限られますので、循環機能に異常が出ない程度を目標に、必
要最低限の輸血に止めた方が宜しいでしょう。この場合、交差適合試験が自己
対照に比較して同等以下であれば、輸血「可」と判断します。輸血に用いる製
剤は、少しでも凝集が弱いものから選択して下さい。

 自己免疫性溶血性貧血かどうかはっきりしないという時は、患者さんの赤血
球を用いた抗体解離試験を行い、型同定を試みるのも一法です(もちろん自己
免疫性溶血性貧血であっても、念のための施行は可)。解離液でも型特異性が
見られないのであれば、自己抗体である可能性が非常に高いと思います。まれ
に、複数の不規則抗体を有している場合もありますが、その場合には、検査法
ごとの反応の態度に何らかの型特異性が見られるはずです。

 この患者さんに妊娠・分娩歴や輸血歴があって、自己抗体とともに不規則抗
体が存在している可能性が否定しきれない場合には、抗体解離した自己赤血球
で、血清の自己抗体を吸着した上で、あらためて血清中の抗体同定を行うこと
も考えられますが、煩雑ですし、必ずしも理論通りにはいきません。

 いずれにしろ、交差適合試験は自己対照に比較して判定します。凝集が自己
対照と比較し同等かそれ以下であることが重要です。

回答日:1999年1月28日
回答者:認定臨床検査医 村上純子(No.370)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(免疫学的検査/血清検査/輸血検査)]
 
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[Q&A] ◆尿浸透圧測定の遠心操作による影響
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(Q)尿の浸透圧を測定する際、遠心後でないと測れない検体がありますが、遠
心操作によるデータへの影響はないでしょうか。(島根県 臨床検査技師)

(A)浸透圧の測定は氷点降下法による測定が一般的であり、測定セルの内壁に
汚れがなければ、浮遊物を含む尿とそれを遠心して取り除いた尿の測定結果に
は殆ど差は認められません。しかし、塩類が大量に存在する尿を測定すると、
測定セルの汚れが進むに従い、流路系の詰まりによって氷晶形成ポイントが不
安定になり、測定値のバラツキの原因となることがあります。検体尿の温度が
下がると塩類が析出する場合があり、浮遊物の多い尿はできるだけ遠心後、そ
の上清を測定するようにしてください。

 ちなみに、ヘモグロビン尿は理論的に考えた場合、溶血した血球中の電解質
の影響を受けることになりますが、実際には1%の溶血を想定しても3mOsm/kg程
度のプラス誤差に留まり、臨床的に無視できる範囲となります。

回答日:1999年2月6日
回答者:認定臨床検査医  伊藤 機一(No.60)
             布施 川久恵(No.366)
 東海大学医学部付属病院
  中央臨床検査センター 野崎 司

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[Q&A] ◆尿沈渣中の異常細胞出現個数の臨床的意義
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(Q)尿細管上皮等、わずかな数でも異常とされる尿沈渣所見は、標準法の強拡
大1視野当たり(HPF)ではなく、弱拡大1視野当たり(LPF)で表現した方が
臨床的に有用ではないでしょうか。(島根県 臨床検査技師)

(A)上皮細胞は正常でも生理的な剥離によって1日約100万個の細胞が尿中に排
泄されています。これを尿沈渣にしてみると強拡大(400倍)で5〜10視野に1個
程度は認めます。したがって、扁平上皮細胞(とくに女性の場合、外陰部から
の混入があるため)を除いては、これ以上の排出は、まず異常剥離によるもの
と考えられます。一般的には強拡大で各視野に1個以上(1〜/HPF)ある場合を
病的意義があると判断します。

 表現方法については、LPFとHPFを混在して用いると臨床での結果の解釈に混
乱を招く可能性がありますので、標準法に従いHPFで統一されることをお勧めし
ます。

回答日:1999年2月6日
回答者:認定臨床検査医  伊藤 機一(No.60)
             布施 川久恵(No.366)
 東海大学医学部付属病院
  中央臨床検査センター 野崎 司

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[Q&A] ◆糖定量測定用の一般検体の遠心分離
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(Q)尿、脳脊髄液および穿刺液の糖の定量測定において、検体の遠心分離は避
けるべきでしょうか。(島根県 臨床検査技師)

(A)髄液中の糖は、細胞数や細菌数の多い検体では解糖作用により著しい減少
を示します。したがって、検体は速やかに遠心し上清を用いて検査をします。
また、最近ではこれらの生化学的検査(蛋白や糖の分析)は、自動分析器を用
いることが多く、有形成分が多いとサンプリングノズルの詰まりを引き起こす
原因にもなります。検査には遠心後の上清を用いることをお勧めします。

回答日:1999年2月6日
回答者:認定臨床検査医  伊藤 機一(No.60)
             布施 川久恵(No.366)
 東海大学医学部付属病院
  中央臨床検査センター 野崎 司

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[Q&A] ◆尿沈渣中の良性異型細胞
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(Q)糖尿病患者等の尿沈渣には悪性細胞に似た異型細胞を認めることがありま
すが、出現の機序と悪性細胞との見分け方を教えてください。(兵庫県 臨床
検査技師)

(A)ご質問のように、炎症(大食細胞など)、結石症(多核細胞など)、ウイ
ルス感染(封入体細胞、多核細胞、ポリオーマウイルス感染を示唆する細胞な
ど)、放射線治療(相互封入像、多核細胞)などの物理的・化学的作用により
、尿沈渣中の非腫瘍性の細胞が異型性を示すことがあり、これを良性異型細胞
といいます。

 糖尿病やHIV患者、白血病、骨髄移植後患者など、免疫力が低下している患者
に見られるのは、移行上皮細胞や尿細管上皮細胞が、ヒトポリオーマウイルス
の感染によって異型細胞となったものが多いようです。ただし、必ずしもこれ
らの患者に特異的ではありません。形態的には、1)膨化した核、2)変性の著
しい細胞質を特徴とし、N/C(核/細胞質)比が大きくなるために、癌細胞と類
似する場合があります。そのため細胞診ではデコイ細胞(癌細胞と間違いやす
い「おとり」細胞の意味)といわれています。

 悪性異型細胞(癌細胞)との鑑別は、核内構造をよく観察することにより可
能です。悪性異型細胞(移行上皮癌)では大部分の細胞で核異型(クロマチン
の増量、核小体の肥大や数の増加、核形の不整、N/C比の増大など)を認める場
合が多いのに対し、ウイルス感染細胞はクロマチンの増量などは認めません。
またSternheimer染色を施すと、ウイルス感染細胞の核は膨化しているため内容
物が青白く(いわゆるすりガラス状に)見えるので、一層鑑別しやすくなりま
す。

回答日:1999年2月12日
回答者:認定臨床検査医  伊藤 機一(No.60)
             布施 川久恵(No.366)
 東海大学医学部付属病院
  中央臨床検査センター 野崎 司

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[Q&A] ◆低血糖発作の機序
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(Q)低血糖発作について、(1)血糖の低下スピードと意識障害発生のタイミ
ング、(2)低血糖による脳細胞の障害機序について教えてください。(大阪
府 臨床検査技師)

(A)健常人では血糖値が低下してくると、低血糖が進行して重症にならないよ
うに特徴的な”防御反応”が段階的にみられます。血糖値が70 mg/dl 以下にな
ると、まずグルカゴンとエピネフリンが分泌され、次いで成長ホルモンさらに
コルチゾールの順に分泌の増加が起こって、血糖を維持しようとします。さら
に、血糖値が 60mg/dl 以下になると頻脈、動悸、発汗、振戦などの交感神経系
の刺激症状が出現し始め、さらに、50 mg/dl 以下になると中枢神経系の症状と
して、もうろう状態、行動異常、記銘力の低下、などの意識障害、けいれん発
作も起こり始めます(”neuroglycopenia”という)。

 このように、血糖値の低下と臨床症状との対応が画然としているのは、一重
にヒトの大脳においては、エネルギー供給源としての、アミノ酸からの糖新生
や脂肪酸の酸化などのメカニズムがなく、血中からのグルコース供給に100%依
存していることに由来するためです。従って、理論的にはグルコースの供給が
なく血糖値が 60 mg/dl 以下になれば、神経活動(意識など)は数分以内に、
つまり、神経細胞内に貯蔵されているATPが減少する時間内で速やかに低下しま
す。

 急激な血糖降下は中枢で認識されて、副腎髄質からのエピネフリン分泌が亢
進して、交感神経系の症状が発現し、肝臓からのグリコーゲンの分解と糖新生
が起こり血糖が上昇しやすいのですが、このような交感神経系症状は緩徐な血
糖降下では起こりにくく、いきなり中枢神経症状を来すことになります。

 また、糖尿病患者などでは低血糖「症状」を起こす血糖値が糖尿病のコント
ロール状況によっても異なることがあります。すなわちコントロール不良例で
は比較的高めの血糖でも低血糖をきたし、低めにコントロールされていて、し
ばしば低血糖を起こしている場合は、かなり低い血糖でも症状が起こしません
。それは、視床下部での血糖低下に対する認識が鈍化していることによるのか
も知れません。さらに、血糖が常時低めで、しばしば低血糖をくり返している
と、中枢神経(血液-脳関門の中枢側)において糖輸送担体(Glut 2)の発現が
増加して、乏しいグルコースを優先的に取り込もうとする、一種の”適応現象
”が、低血糖の感知を遅らせている可能性も指摘されています。 皮肉にもこの
生命維持のための”適応現象”が、前述の”防御反応”を伴わない、いわゆる
「無自覚性低血糖」という、生命を危機に陥れる現象を引き起こす原因にもな
っています。「無自覚性低血糖」は、糖尿病性神経障害による自律神経障害が
あって、交感神経系症状が起こりにくい症例においては、容易に起こることに
なります。

(1)血糖降下速度や、それによる症状の出方には、個々の症例で大いに異な
り、定量化して数式で表すことは出来ません。血糖降下速度を決定するのは、
インスリン量(内因性または、インスリン注射量)、インスリン注射の場合は
、その種類(速攻型か、中間型か)、注射ルート(皮下、筋肉、静脈)、タイ
ミング(食事との関連)や皮下での吸収速度、末梢組織でのインスリン感受性
、肝のグリコーゲン含量、交感神経機能、グルカゴン、エピネフリン、成長ホ
ルモン、コルチゾールなどの分泌能、消化管の吸収能、さらにはその日の運動
量、気温、前後の食事摂取量などの多くの因子が個々の場合で異なるからです
。

 ただし、健常人において早朝、空腹時に速効型インスリン 0.1 U/Kg を静注
し、15分間血糖をモニターした場合(短時間インスリン耐性試験)には、血糖
値の降下率(K ITT)は4〜5 mg/分 とされています。

(2)低血糖、とくに血糖値が50 mg/dl 以下になると、脳(中枢神経)が障害
され、30 mg/dl 以下では昏睡に至ります。この状態が続くと、24時間後にはC
T 検査で、大脳皮質の広範なlow density area が認められ、一見多発性脳梗塞
に類似した像を呈します。この状態は、4日後まで拡大し、16日目になってよう
やく消失します。MRI では、23〜82日頃まで広範な大脳皮質の萎縮が、とくに
側頭葉、頭頂葉に認められます。

 大脳皮質のこのような変化は、神経樹状突起などの選択的な神経細胞死によ
って起こり、神経細胞死はapoptosisではなく、necrosisであるとされています
。そのメカニズムとして、グルコースの供給がないことに由来する、細胞内酸
化還元電位の酸化へのシフト、鉄代謝の低下、カルシウムイオンの細胞内への
流入、細胞内アルカローシス、などから神経細胞から惹起される、興奮性アミ
ノ酸(exitatory amino acids;アスパラギン酸、グルタミン酸など)の放出に
よるという、いわゆる”exitotoxic”説が提唱されています。放出された興奮
性アミノ酸は、細胞間液に浸透して、前述の神経細胞の、NMDA(N-Methyl D-A
sopartate)受容体との結合を介して、それを興奮させ、ついには死に至らしめ
る、というストーリーです。また、低血糖による脳(中枢神経)障害は、脳血
流がむしろ増加すること、ダメージの速度が虚血の場合よりも速く進行するこ
となどの点で、脳梗塞などの虚血性の病変とは異なります。

回答日:1999年2月12日
回答者:田港朝彦(香川医科大学臨床検査医学講座)

[ホームページ/臨床検査Q&A;(生化学検査)]
 
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[編集後記]◆日本の医療革命
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 空前の高成長を謳歌した医療業界も、度重なる健保改定の圧力を受け、今や
他の産業同様厳しいリストラ時代に突入しつつあります。しかしこれは来るべ
きビッグバン、即ち言わずと知れたDRG/PPS(diagnosis-related groups /
prospective payment system)導入の序章に過ぎません。我が臨床検査業界も
ご他聞に洩れず、寄ると触るとこの話題で持切りです。多くの医療関係者が抱
く不安に対して、この制度によって医療費の無駄遣いがなくなり、適正なコス
トで良質な医療が提供されるようになる、という説明がなされているようです
が、果たして本当でしょうか。

 周知の通り、この制度は米国で15年程前に入院診療に導入された制度がお
手本ですが、その本家の米国では、なるべく早く患者を病棟から追い出した方
が病院の得になるため、不十分な治療のまま退院させられるなど医療の質は著
しく低下し、政府は国民から激しい非難を浴びることになりました。また以前
は入院のうえ手厚く行っていた手術や検査が、どんどん簡素化されて外来でや
られるようになり、結局費用のかかる場所がシフトしただけで、医療費全体の
増加には何の抑制効果もなかったのです。

 幸い米国では、低所得者に対して公費で医療を提供するMedicadeと、公費に
よる老人医療のMadicareだけにこの制度が導入されたため、より大きな部分を
占める私的な健康保険の加入者にそれほど大きな被害はありませんでした。と
ころが日本では、幸か不幸か国民皆保険の状態にあるため、全国民に対して一
挙に導入されることになり、被害の広がりはケタ違いに大きくなることが予想
されます。

 また米国でこの制度が導入された時には、GDPに占める医療費の割合は9%程
度でしたが、日本ではまだ7%をようやく越えたところです。さらに米国の経
験では、これまでに最も医療費の膨張の抑制に効果のあった制度は、HMO
(health maintenance organizations)あるいはPPO(preferred-provider
organizations)と呼ばれる、診療内容に制限のついた保険制度の一種であるこ
とが明らかになっています。そのような中で、失敗し非難を浴びることが確実
なDRG/PPSを、我が国の行政は何故にそれ程までに急いで導入しようとしている
のでしょうか。厚生省はきちんとした調査もせずに、財政当局のいいなりに
なって、何の見通しもなくひたすら突っ走っているのでしょうか。

 そんな筈はありません。信頼が地に落ちたといわれる官僚も、その実は律令
政治以来千数百年の歴史に裏付けられたノウハウを駆使する超一流の能吏集団
なのです。実は、彼らは米国など足下にも及ばないほどの先駆的医療政策を密
かに練り上げ、着々と実行に移しているのです。

 我が国のトップメンバーによる極秘の調査研究によると、一定の効果をあげ
ているHMO/PPOにしろ他の制度にしろ、急速な老齢人口の増加と医療技術の進歩
による医療費増大の圧力には、到底太刀打ちできません。今のままではどうあ
がいても、いずれは破産するか、あるいは病人だらけの国になるかのどちらか
を選ばざるを得ません。ただひとつ逃れる道は、実効ある予防医学の網羅的な
実践により、治療対象となる患者の発生数を激減させることしかない、という
のがその結論でした。

 それでは、どうして直ちにその結果を国民の前に公表し、予防医学の必要性
を啓蒙して、必要な予算的あるいは法的措置を講じないのか、と疑問を持つ方
もおられるでしょう。世界一の受検率を誇る新生児マススクリーニングの輝か
しい成果を根拠にすれば、十分説得力もあるはずです。ところがどっこい、我
が国民はそのようなことで生活や仕事のパターンを変えるほど純真ではありま
せん。世界一の官僚支配の下で、その思惑に嵌められないよう、あの手この手
で利益を誘導し、負担を逃れる術を磨いてきた、世界一したたかな国民なので
す。「病気は予防が肝腎」などとスローガンを叫ぼうものなら、「それを口実
に保険料の値上げなど、どうせ何か魂胆があるに違いない」と疑いの目で見ら
れ、却って受診の意欲を削ぐことになりかねません。

 ましてはことは「予防」という、我が国にとって最も苦手とする範疇に属す
る問題なのです。負けることが分かっていながら原爆を落とされるまで戦争を
続け、破綻することが分かっていながら腐った金融機関の延命のために公金を
投じ、交通事故による死者が毎年1万人を越えているのに、無批判に十年一日
の安全対策を続け、ごく一部の事故のためにインフルエンザワクチンを随意接
種とし、多くの老人や小児の犠牲者を出し続けているような社会で、将来予想
される重大な事態に対し、未然に防ぐための科学的な対策を立て、それに基づ
いてまだ何の被害も被っていない人々に何らかの負担を強いることは、いかに
優秀な官僚をもってしても、到底不可能だと我が国のトップメンバーは考えた
のです。

 そこで彼らは、半世紀にわたる皆保険制度のもとで「医療はただ」という認
識が染み渡ってしまった国民に対し、保険医療が音を立てて崩壊していく姿を
見せつけ、「もう健康保険はあてにできない」という意識を植え付けると同時
に、予防医学を保険適応からはずして自由に競争させるという、画期的な政策
を他国に先駆けて採用しました。こうしておけば、勤勉で平均的にインテリジ
ェンスの高い我が国民は、やがて自分で自分の健康を守る方策を必死に探るよ
うになり、その結果自由な発想で提供されるさまざまな予防的医療サービスの
うち、選び抜かれたものだけが生き残り、やがて世界的な競争力を備えた新産
業が育つに違いないと考えたのです。

 さて、このような政策が進行する中で、がぜん脚光を浴びるであろう医療分
野は何でしょうか。他でもありません、我が臨床検査医学です。どんな名医が
いくら診察をしても、検査をせずに病気の発症を予測することはできません。
また、どんなに画期的な治療法でも、発症するまで出番はありません。翻って
風前の灯火と言われている我々臨床検査医の前には、予防医学に有効な臨床検
査、すなわち予防検査の開発と治験、予防検査の解釈と受診者へのカウンセリ
ングという、全く新しい無限のフロンティアが広がっているのです。

 誰でも病気になってから医者にかかるより、病気になる前に見つけて予防し
てもらう方がいいに決まっています。ところが今ある診療科は、すべて発症し
た病気の種類によって守備範囲が分かれているので、発症前の受診希望者は行
き場がありません。とすると臨床検査医は、病気になりたくないと思っている
すべての健常人を顧客にできることになります。そして臨床検査医が発症前に
予防措置の必要性を判断し、最適の診療科へ送るという流れができてしまえば
、患者紹介の依頼が臨床検査医のもとに殺到し、我々は名実ともに確固たる社
会的認知を得ることになるでしょう。臨床検査医の皆さん、今少し冬の時代を
耐え抜くことができれば、我が世の春はもうすぐです。

 なお、文中の一部に大いなる勘違いに基づく誤った記述があったとしても、
一切責任は負いませんので悪しからず。

[編集担当 西堀眞弘]

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JACLaP WIRE No.7 1999年2月25日
■発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
■編集:JACLaP WIRE編集室■編集主幹:西堀眞弘
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